日本における、デュシャン本のスタンダードと言っていいと思います。
ずっとデュシャンが好きだったにもかかわらず、総合的美術書(画集)と
ダダイスム作家としての平坦な作品解説にしかお目にかかっていなかった私は、
これを読んだとき、あまりに解説内容が面白くて凄くて眠れませんでした。
東野芳明の提唱する 「デュシャン作品の考察」 のキーワードは
「考えすぎ」
様々な角度や情報や推論や、はては「なんとなく連想される」というだけの理由から、
立体の嵌め絵のように、作品のバックボーンを整理しながら組み立てていく著者の、
推理の華やかさが素晴らしい。
中身は 「余談」 と 「邪推」 と 「オタクな深読み」 の山ですが、
それこそが 「デュシャン」 なんだ! −−という著者の姿勢にまったく賛成です。
レーモン・ルッセルの「アフリカの印象」(いつも首が下半身と同じ大きさの小人とか
シタールを奏でるミミズだとか、むちゃくちゃなものが出てくるとんでもない芝居です)
の話や錬金術、写真やさまざまなメモについての考察など、微に入り細にわたって
出てくる、様々な 「デュシャンを取り巻くもの」 の羅列は壮観で、デュシャンの
作品を見たときに受ける印象を、頭にフィードバックさせるような効果があります。
なお、多少デュシャンの作品を知っていると、この本はより楽しく読めます。
「−−−なぜなら ”ローズセラヴィよなぜくしゃみをしない” の、大理石の角砂糖
1つ1つに ”MADE IN FRANCE”と刻印してあるではないか」 と言われた時
「うわーっ、そんなところにつなげるかキミはっ!」 と叫べるからです。
( ”ウルフ・リンデのFleshWindowについての考察” の引用より)
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