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砂田喜昭 2008年5月23日更新  
花椿不当解雇裁判 和解
浅谷さん、名誉を回復
施設運営 改善にはなお内外の努力が


 知的障害者の更正施設「花椿」(南砺市)の支援職員だった浅谷敬太さんと妻友里江さんが、設置法人「渓明会」の行った敬太さん解雇(02年5月21日)の無効と、二人への差別的不法行為に損害賠償を求めている裁判の控訴審(名古屋高裁金沢支部)でこのほど「和解」が成立し、浅谷さんは“セクハラ”の汚名をはね退けました。

 原告敗訴で迎えた控訴審では、裁判所は、一転、「供述」よりも「客観的事実」を重視し、施設側の懲戒解雇処分とセクハラ被害≠認識した時間的関係を解明するように、施設側に繰り返し求めました。しかし施設側はついにつじつまの合う説明ができず、裁判官合議で『利用者Sのセクハラ被害°沛qについては認定できない』と判断され、『解雇撤回・自主退職、慰謝料支払いによる和解』が勧告されていました(週刊「明るい小矢部」2月3日付で報道)。

 その後3回の和解協議が行われ、5月14日の第4回協議で、双方が裁判所の示した和解案に合意しました。

 それにより、施設側は「浅谷さんは利用者に対してセクハラをしておらず、懲戒解雇は無効」と認めました。浅谷さんは今年4月末日で退職することに合意しました。また、浅谷さん夫妻には、その間の賃金未払い分(ただし、この間アルバイトで得た賃金を差し引く)や慰謝料などが和解金として支払われます。
 
 浅谷さん、記者会見

 裁判終了後浅谷さんは記者会見をして、
 (1)この結果は、勇気を持って陳述書などを書いてくださった施設利用者・保護者をはじめとする全国の皆さんの支援のおかげであり、深く感謝する。
 (2)この事件は、浅谷さんが「花椿」開設当時あまりにひどい利用者の人権無視を告発したことを施設側が嫌って、敬太さんを解雇し、妻友里江さんを退職に追い込んだ、というのが骨格である。その際、セクハラをでっち上げるために利用者の供述が利用されたが、これは障害者の人権を、再度、傷つけたものである。
 (3)この間、保護者から「子どもを『人質』にされているようで、不満は言えない」という声を多数聞いた。また裁判に協力していただいた保護者にさまざまな攻撃がかけられた。これでは、安心して子どもを預けられる施設とは言えない。
 施設が住民や利用者から付託された使命を果たすためには、内部からチェックできる機能が不可欠であり、とりわけ職員組合や保護者会の自主的活動が重要である。浅谷夫妻は職場を去ることになるが、地域から利用者本位のチェック機能増進を見守りたい、などと表明しました。
 
 一方、一部の新聞に「障害者の供述を容れなかったのは、障害者の人権無視だ」とする施設側のコメントが報道されました。しかし受け入れられなかったのは「障害者の」供述ではなく、「事実に裏付けられていない、ウソの」供述であったことは、裁判を傍聴した人には明白でした。
 裁判所が施設に決定的なダメージを与えるのを避けて、和解という軟着陸を準備したと推測されるのに、残念なコメントといわねばなりません。
 施設運営の改善にはなおさまざまな内外の運動が必要ということでしょうか。

解説
「花椿」不当解雇事件とは

【「国民救援会砺波支部」発行(2007年9月)のチラシより】

@ 問答無用の解雇

 2002年〔平成14年〕5月21日、知的障害者の更生施設「花椿」(南砺市井口)の支援職員だった浅谷敬太さんは、設置者の社会福祉法人「渓明会」から突然「解雇通知」を交付されました。その1週間後に「通知書」なるものが郵送され、「(施設の)名誉・信用を失墜し、規律を乱したから、『懲戒』解雇とする」と追加訂正されました。そしてその理由に、突然、利用者Sや女性職員に対するセクハラを指摘してきたのです。


A 浅谷さん、
   利用者に対する施設側のあり方を告発


 この前年(2001年)8月、浅谷さんは「職員の品位を著しくそこなう行為をした」として、2週間の懲戒処分を受けました。懲戒の理由は、癲癇(てんかん)の発作で苦しむ利用者を病院へ連れて行ったこと、および、保護者会で、それまでもあった施設側のズサンな処置を告発したことでした。これが「品位をそこなう」行為でしょうか。
 浅谷さんは、それまでも、「『花椿』では、間違った薬を与えたり、資格もないのに導尿処置をしています。こんな危険な利用者の扱い方を改めさせてください」と、県庁などへ申し入れていました。また、利用者を大事にする立場の労働組合を作ろうとしました。設立当初(2001年4月開所)の「花椿」の運営は多くの問題をはらんでいました。


B 富山地裁高岡支部で

 浅谷さんは2004年、名誉回復と解雇無効を訴える民事訴訟に踏み切りました。民事訴訟では原告側に「セクハラ」がなかったことの立証責任があります
 06年5月、富山地裁高岡支部は、浅谷さんの立証をすべて退け、障害者Sの言い分を、多くの矛盾や反証を無視して、「大筋で信用性を認めることができる」とし、原告敗訴としました。

 一審判決の問題点

私たちは一審の裁判の経過に照らし、次の点が判決の問題点だと感じています。

1、判決は、「花椿」・「渓明会」側の供述、特に、 
 被害者と称するSさんの供述に偏っていて、客観的
 事実との照合がなされていないこと。


 例えば、セクハラの日時が特定できていません。原告側はSの供述に登場する人物がすべて出勤している日時で浅谷さんがセクハラすることができないことを施設側の記録に基づいて逐一証明しました。しかし、時間外勤務などが「なかった」とはいえないから、逆に「5月ごろに」セクハラは「あった」と判決は強弁しています。弁護団は「『可能性』を根拠とする判決は受け入れられない」と強く批判しました。
 「実際にはないことを事実のように生き生きと語るのが、統合失調症の特徴だ」との精神科医の意見書を無視し、逆に、(Sの供述は)「具体的・特徴的な内容を含んでいる」(から信用できる)と受け入れてしまいます。このような場合、供述の正しさは、更衣室やシャワー室などセクハラ現場とされるものの客観的事実と合っているかどうかで判断されるべきではないでしょうか。

2、浅谷さんの「花椿」運営改革の要求行動を、根拠を
 示すことなく、不当なものとしていること。


 浅谷さんが利用者の処遇改善を求めた諸活動の趣旨を認定せず、逆に「問題行動」と(何の理由も示さないまま「花椿」側の言葉で)認定し、2週間の停職処分を正当化しました。

3、「花椿」側の、本人事情聴取もしていない、乱暴な
 解雇手法について、不問にしていること。


 とにかく浅谷さんを解雇しようとして、ありもしない1年も前のことを「セクハラ」にでっち上げたから、こんな常識はずれの解雇が起こったのではありませんか。


C 二審名古屋高裁金沢支部 
               私たちと同じような疑問か


 高等裁判所も、私たちと似たような疑問を持ったようです。これまでの6回の口頭弁論で次の4点について「花椿」側に説明するよう求めました。「花椿」・「渓明会」側の釈明は次のようでした。(ゴジックにして示します)。

@ 利用者Sに対するセクハラを知ったのはいつか。

 2002年1月、本人の話で知り、2月に保護者から事情聴取した。

A セクハラの事実を知っていたとすれば、その直 
 後、平成14年(2002年)4月1日付でなぜ解  
 雇せず、「原職復帰」の辞令を出したのか。


 解雇しようと思っていた。しかし、保護者会や理事の一部から抵抗があり、聴聞会(事情聴取のことか)を開けなかった」ので解雇できなかった。

B セクハラに対する本人からの聞き取りをしたの
 か。


 平成14年(2002年)5月21日の解雇通知の場でSに対するセクハラについて聞き取りをした。女性職員に対するセクハラについては、聞き取りをしていない。事実確認ができていなかったといえば、そういうことになる」

C Sは着用していたタンクトップを破られたという
 が、その現物が残っているのか。


 〔仮処分裁判のとき、証拠写真を提出しています。セクハラの有力な物的証拠のはずですが、それ以来、一度も「花椿」・「渓明会」側は言及していません〕「現物は破棄されている」「現物の写真も、今は、ない」として、仮処分裁判に出したとされる写真のコピーを提出しました。

 これらの釈明は、少なくとも「花椿」・「渓明会」側が、解雇に必要な手続きをきちんと踏んでいなかったことを示しています。

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