雑記07:非常に気になるお店<2>(1998.09.19)


これは、私がある田舎町に仕事の都合で行っていた時のことである。

私は自転車で通勤していた。片道6kmぐらいの道のりで、近くて良かったなぁと思っていたのだが、ここの人達には信じられない距離(遠いってことね)だそうだ。
なんせ、ここの人達は数百メートル先のお店に行くにも”自動車”を使うのである。そういえば町中(”まちなか”ですよ。”まちじゅう”じゃないからね)を歩いてる人をほとんど見たこと無いなぁ。

いきなり脱線した。で、自転車で通勤しているため、比較的小さなお店でも目に付くのである。
その中に非常に気になる名前の店があった。
スミス時計店”
”スミス”である。中学1年の時の英語の教科書に出てきて、当時”アメリカ人=スミス”という図式を全国のいたいけな中学生に植え付けた、あの”スミス”である。
私は非常に気になったので、もう少し詳しく確認しようと思ったのだが、なんせ出勤時にたまたま発見したという状況だったので、後ろ髪を引かれる思いのままその場を後にして会社に向かった。

しかし、気になるものは気になるものだ。気になって仕事が手に付かない。だって、どう見ても”スミス”なんて名前が似合うような外観の店ではないのだから。

どういう外観かっていうと、店のテントは白とオレンジ(しかも焼けて色褪せてしまってオレンジか茶色かわからんようなオレンジ)の縞縞で、そこに大きく”スミス時計店”の文字。角張ったゴシック体のような字体で、元々は黒かったんだろうけど、色褪せてしまってムラムラのグレーになっている。
で、そのテントに気を取られていてあんまりはっきり見なかったけど、店自体は木造戦争体験有りって感じである。
また、その店の周りも良く言えば歴史が有りそうな、普通に言えばボロ家である。

う〜ん、どう考えても”スミス”とこの店を関連付けることができない。
”スミス”の文字と店の外観の映像が頭の中を行ったり来たりしている。何か適当なものでこの2つを関連付けてやらないと仕事にならん

そこで、ちょっと自分なりに”なぜスミスなのか”を考えてみることにした。(おいおい、仕事しろって←手に付かないんだからい〜じゃんということにしよう)

1.店の主が外国人で、もちろんスミスという名前だから
2.昔店の主が困っている外国人(もちろん名前はスミス)を助けた時にお礼としてもらった時計を元に店を起こしたから
3.2の逆で、昔店の主が困っている時に「この時計を売ればいい」と親切な外国人(もちろん名前はスミス)が助けてくれたので、その外国人の名前を店名にしたから
4.店の主が時計を発明したのは”スミス”だと信じて疑わないから
5.以前書いたが、ここの人達は店の名前にその店を連想させるには程遠いカタカナ名を付ける風習があり、店の主が”カタカナ→英語→アメリカ→アメリカ人→スミスと連想したから

ダメだ。どれもいまいちインパクトが無い。これだっ!というインパクトが無いのだ。まぁ、この中で一番納得できそうなのが5番なのだが。
えっ?1番じゃ無いのかって?この街に住んだことのある人じゃないとわかんないだろうなぁ。とにかく私の中で一番納得できるのが5番なのである。”常識というのは環境に大きく依存する”ということがわかる瞬間である。

とりあえず強引に自分を納得させて仕事をすることにした。


さて、終業時間が近づいてきた。いつもなら外が真っ暗になるまでは確実に残業しているので終業時間なんて気にしたことがないのだが、今日は違う。暗くなる前に”スミス時計店”の前を通らなければならないのだ。
少々仕事が残っていたって、そんなのは明日やれば済むことである。それより、”スミス”の正体を暴く方がはるかに重要なのだ。

というのも、私は自分のミスで不特定多数の人が死ぬような仕事(ちょっと大袈裟か?)をしているので、気になって仕事が手に付かないような事項は即刻解決しなければならないのだ(う〜ん、カッコイイ)。
だから、本来なら業務時間中に”スミス”の正体を暴くために調査に出かけても良いぐらいなところを、規定の就業時間が終わるまで待ったのだ。

と、言い訳しながら18:00前に会社を後にした。


問題の”スミス時計店”の前に到着した。やっぱりどう見ても”スミス”などではない。”古井(ふるい)時計店”とか”北根(きたね〜)時計店”(当該姓の方々、失礼m(__)m)なら納得がいく。
よし、早速突入だ!と思って近づいてみると、木枠の引き戸にいかにも古そうなガラスがはめ込んである入り口に何やら書いてある。
隈州時計店」......
しばらく気を失っていた。そして、「うぉ〜っっっっ!なんという結末なんじゃぁぁぁぁぁぁっ!」と心の中で叫んでしまった。

”スミス=隈州”という、実にあっけない幕切れ。こんなことに仕事が手に付かないほど頭をフル回転させていたなんて。朝、この店の存在に気づいた時にもっと近づいて確認しとけば余計なエネルギーを使わなくて済んだのである。


この事件(どこが事件じゃ)における、未確認情報を元に死ぬほど考え込むという私の状況を簡単に分かりやすく説明すると、
”身に覚えのある女性からの「大事な話が有るんだけど、明日会った時に話すから」という電話を切ってから、実際「大事な話」を聞くまでの状況”
というところか。う〜ん、女性にはわからんだろうなぁ。


しかし、なぜこの街はむやみにカタカナを使うのだろう?また新たな疑問が湧くのであった。