雑記05:非常に気になるお店<1>(1998.09.11)
これは、私がある田舎町に仕事の都合で行っていた時のことである。
外から見ると1間ほどの引き戸分しかない(実際引き戸しかないのだが)、どう贔屓目に見ても奇麗とは言い難い店の前に、
雰囲気にぴったりの赤い提灯がぶら下がっている。
そう、どう見てもその店には
”赤提灯”しか似合わないのである。
そして、その赤提灯には、これまた
雰囲気にぴったりの言葉が書いてある。
”ラーメン”
実にその店の代表メニューにふさわしい言葉である。
ところがである。その
ラーメンのちょうど裏側には、にわかには信じ難い言葉が書いてあるのである。
”カクテル”
???!カクテルって、
トムクルーズが映画の中でシャカシャカと振っていたあの
カクテル?(って、振ってたのはカクテルじゃなくてシェーカーだけど)
究極の
ミスマッチである。
非常に気になる。入ってみた。
すると、やはりそこはどう見てもただの、いや、
場末の一杯飲み屋である。カウンターでちょっと一杯やってると、
「おやじ、じゃまするぜっ」と石○裕次郎みたいなのが入ってきて、
「へいっ!こんにゃく田楽お待ちっ!」という店の主の声に一瞬(0.86秒ぐらい)目をそらしたすきに
理由も無くさっき入ってきた石原○次郎みたいなやつと他の客との喧嘩が始まってそうな、そんな店である。
この店のどこに
”カクテル”を連想させるものが有るというのか
?
しかし、世の中
何が正しくて何が正しくないのかなんて誰にも断言できない(本当か?)のである。
また、その土地によって
常識というのも様々である。もしかしたら、この地方の人達の中には
”カクテル=アルコール=酒=芋焼酎とおんなじ→一杯飲み屋で飲むもんだ”
という図式が、
何の疑いもなく成立しているのかもしれない。郷に入っては郷に従えである。
注文することにした。
しかし、やっぱり私の
”常識”とは余りにもかけ離れている。ここは一応メニュー(壁に張ってあるだけで、スタンドアロンのメニューなんてどこにも無い)で確認しておこう。
.......<確認中>.......
...無い。テキーラサンライズ(私は
イーグルスが好きである。←関係ない?わかる人には分かると思う)とかマティーニとかモスコミュールなんて言葉はどこにも無いのである。
「やっぱり違うのか?」
「いや、待てよ。カクテルだけじゃなくて他の酒だってどこにも書いてないけどみんな飲んでるじゃないか!」
「でも、カクテル飲んでる客なんて居ないぞ」
「それは今いる客がみんな”おやじ”だからだろう」
「あっ、そうか。でも、”おやじ”以外にこんな店にくる客がいるか?」
「いるさ!だってここは赤提灯にカクテルが常識の街だぞ。」
「なるほど」(妙に納得)
と、わけの分からん会話が頭の中で一頻り続いた後で、思い切って店の主に聞いてみた。
私:「すいません、表にカクテルって書いてあったんですけど」
主:「ああ、あれ?うちの名前だよ」
私:「えっ?ここ、カクテルって名前なんですか?」
主:「そう」
私:「なんだ、てっきりカクテルが飲める店かと思った」
主:「お客さん、そんな分けないでしょ。うちみたいな店でそんな洒落たもん出すわけないじゃない」
主:「そんなこと常識で考えてもわかりそうなもんでしょ」
私:「そうですよね〜」
私はここの人達の常識もやっぱり
自分の常識と同じなんだと、妙な安心感とともに店を後にした。
が、その時ふと一つの疑問(というか、怒り)が湧いてきた。
「一杯飲み屋の名前に”カクテル”なんて付けるおやじに”常識でしょ”なんて言われる覚えは無いぞ!」
今度は、やはり
私の常識とここの人の常識は違うんだという安心感に包まれて、ちょっとだけ幸せになったのであった。
でも、一般常識としては
”一杯飲み屋”の名前ってどんな感じのものが一般的なんだろう
?