今こそ事業継続計画(BCP)の策定を!
   〜その時、あなたは会社を守れますか〜

<東日本大震災の教訓に学べ>
 3月11日に発生した東日本大震災は、東北から関東にかけて広い範囲で甚大な被害をもたらしました。今まで経験したことのない津波被害や原発被害が起き、連日、衝撃的な映像がマスコミで報道されています。東海・東南海地震のお膝元で事業を行なっている私たちにとって、今回の震災は決して他人事ではなく、目の前にあるリスクに改めて気付かされました。
 今回の大震災は、5つの震源域が連続して破壊するという1千年に1度というまれな巨大地震でした。よく「想定外」という言葉が使われましたが、これは、この地域でいくつもの震源域が同時に破壊するような地震は想定されていなかったからです。
 東海地震も、東南海地震、南海地震と連動して発生することが予想されており、今回の東日本大震災とよく似た災害が起きることが予想されています。
 ところが、東海地震が東日本大震災と決定的に違う点があります。それは、東海地震の場合は、「想定外ではない」ということです。
 東海、東南海、南海地震が連動して発生しやすいことが過去の記録から分かっており、次も連動型になるだろうと以前から指摘されてきました。その時、どのような地震が発生するのかという予測データはたくさん出ています。どこが震源域になるのか、どのぐらいの規模の地震になるのか、各地の震度はどのぐらいになるのか、津波や液状化の被害はどの程度になるのか、などなど。起きる前からこれほどの情報が分かっている地震は他にはありません。このような状況で、「まさかホントに地震が来るなんて思いませんでした」という言い訳は通用しないでしょう。
 今回の大震災は、来るべき連動型東海地震のモデルケースになります。東日本で起きたことが、今度は西日本で再現される可能性が高いのです。その意味でも、今回の大震災から私たちが学ぶべきことはたくさんあります。

<マスコミ報道で災害イメージを作るな>
 今回の大震災でBCPに関心を寄せる人が増えた一方で、逆に、あきらめ感を抱いてしまっている人がいます。「こんなひどい状況になってしまうのでは、どんな対策をしていても無駄ではないか」と無力感に襲われてしまっているのです。
 確かに津波で壊滅した地域の映像を見ると、どんな対策をしていても無駄のように見えます。BCPがあるかないかということなどどうでもいいように思えてしまいます。
 しかし、マスコミ報道を見て、災害イメージを作ると、対応を間違ってしまします。マスコミは、常に衝撃的な映像を求めたがります。常に感動的なドラマを作りたがります。どうしても、被害の大きい地域に集中した報道に偏向しがちになります。ですから、マスコミ報道を見ていると、まるで東北全体が壊滅し、再起不能に陥ったかのような印象を受けてしまうのです。
 しかし、実態は全然違います。もちろん、津波被害で本当に壊滅的な状況に陥った気の毒な地域はありますが、それらは沿岸部の一部地域に限られています。
 今回の地震で最大震度7を記録したのは宮城県栗原市でした。ところが、この地名はマスコミ報道ではほとんど出てきません。なぜかというと、栗原市では死者行方不明者はゼロ、建物被害も一部にとどまっており、インパクトのある情報が何もなかったからです。このように多くの地域は、地震被害を受けてはいるものの、早期に復旧可能な状況だったのです。
 たとえば、光学部品メーカーのR社の復旧事例を見てみましょう。この企業は岩手県花巻市にあります。

3/11 震度6弱の揺れ 電力水道止まる 工場生産停止
3/12 水道復旧
3/13 100V電力復旧
3/15 200V電力復旧
3/20 契約分の電力使用可能に
3/28 重油の供給開始 生産一部再開
4/4  全面的に生産再開
4/7  余震で県内停電
4/11 通常通りの量産体制に復帰

 水道や電力は数日のうちに回復しており、この企業はただちに復旧活動に取り掛かることができました。重油が入り次第、一部再開にこぎつけることができたのは、復旧活動が順調に進んだ結果でしょう。途中、余震の影響があったりしましたが、1か月で完全復旧に至りました。このように事前の対策が行なわれていた企業は、早期に立ちあがっているのです。BCPはあってもなくても同じどころか、むしろ、BCPの重要性が再確認されたと言っていいでしょう。テレビに映る悲惨な光景だけを見て、「これじゃぁ、何をやっても無駄だ」と対策を諦めてしまったら、それは間違いだと言えます。

<情報発信の重要性>
 BCPの視点で見た時、今回の震災で改めて確認された重要ポイントがあります。それは、情報発信の重要性でした。
 ある企業は、全社を挙げて復旧活動に取り組み、早急に復旧を果たしました。ところが、その時、思わぬ事態に気付きました。仕事が戻ってこなかったのです。マスコミ報道で壊滅的な映像ばかり見せつけられた取引先は、「もう東北はダメだろう」と勝手に思い込み、早々に取引先を他へ切り替えてしまっていたのでした。これも、マスコミの偏向した報道がもたらした風評被害の一種かもしれません。
 この企業は、取引先に迷惑をかけてはいけないと、工場や事業所の早期復旧に全力を挙げましたが、情報発信を忘れていました。というのは、マスコミでどのような報道が連日行われているか、よく分かっていなかったからです。それどころか、マスコミが報道してくれているから、取引先はこちらの事情を理解して待ってくれるものと思っていたのです。
 被災時は、情報発信しない企業は、死んでいるのと同じとみなされます。電話も通じないウェブサイトも更新されていないとなると、取引先としては相手の存在を確認しようがなくなってしまうからです。被災企業は、早期復旧に取り掛かると同時に、我が社が生きていることを関係者に知らせなければいけません。そして、復旧の過程で随時、「復旧状況はどうなっているか」「再開はいつになりそうか」などの情報を発信し続ける必要があります。その情報発信を誰がどのような方法で行うのか、というところが一番むずかしいところで、これを考えて準備しておくのがBCPなのです。

<BCPの誤解を取り除く>
 ここで、BCPの取り組みを阻害する誤解を紹介しておきましょう。
 1つは、「BCPは地震が起きた時のため作るもの」という誤解です。地震対策と関連させてBCPが語られることが多いので、「地震対策のためのBCP」という認識を持ってしまいがちです。このために、後ろ向きの発想になり、どうしても腰が重くなります。
 しかし、BCPの最終目的は地震対策ではなく、我が社の価値を向上させることにあることを忘れてはなりません。
 たとえば、ここで2つの企業、A社とB社を想定しましょう。A社は「我が社はBCPに取り組み、もしもの時にもお客様への影響が最小限ですむように全力で取り組みます」と言っている企業。B社は、「地震対策なんかやってる余裕はうちにはありません。地震が起きたら、なるようにしかなりませんよ」と言っている企業。
 さて、あなたが大事な業務を依頼するとしたら、どちらの会社を選ぶでしょうか。
 A社なら、依頼した業務を約束通りきっちりこなしてくれそうです。少々のトラブルがあったとしても、責任を持って最後まで対処してくれそうです。
 しかし、B社では、たとえ地震が起きなかったとしても、通常業務の中でちょっとしたトラブルが起きただけで簡単に納期遅れが起きそうではありませんか。そして、そのようなトラブルが簡単に発生しそうではありませんか。このように、BCPに取り組んでいるという経営姿勢が、我が社の信用を高めることにつながるのです。
 BCPはいつくるか分からない地震のために仕方なく作るものではなく、現在の企業価値を高めるために戦略的に作るものです。

もう1つは、「BCPなんて、大企業の取り組むべきもので、中小企業には必要ないのでは?」という誤解です。BCPという言葉の響きから、専門的で大それた取り組みというイメージを持ってしまう人がいます。しかし、BCPは中小企業には関係ないどころか、むしろ、中小企業こそBCPが必要なのです。
 大企業だったら、本社が停止しても、別の事業所で補完できます。協力企業がたくさんあるので、代替生産も可能です。納期が遅れたとしても、取引先は辛抱強く待ってくれるでしょう。
 しかし、中小企業の場合は、1か所しかない事業所が停止したら、そのまま再起不能になってしまうかもしれません。いきなり他の業者に代替生産を頼んでも、簡単には応じてもらえません。取引先は、我が社が被災したことに同情はしてくれても、納期遅れを待ってはくれません。
 私たち中小企業は、日頃から無駄をそぎ落としてギリギリの経営をしているのですから、ちょっとしたことでたちまち行き詰まってしまいます。だからこそ、事前の備えが重要なのです。

<いまがBCPに取り組む最大のチャンス>
 今回の震災で、海外の企業に「日本企業は災害リスクが高い」ということを再認識させることになりました。今後、海外からのBCPの要求圧力が高まるのは間違いありません。直接、海外との取引がなかったとしても、サプライチェーンの中で、取引先からBCPの要求が高まってくることでしょう。既に「BCPに取り組むかどうか」という段階は終わり、「いつ取り組むか」という段階に入ったと言えるかもしれません。今後、取引先からBCPの協力を求められたら、断る理由はありません。

 中小企業がBCPに取り組むには、今が絶好のチャンスです。大震災が起きた直後であり、誰もが地震リスクに敏感になっています。社員も意識が高まっているので、社内で話し合いをしようとすれば、すぐにでも始められるでしょう。取引先に緊急時の連携を相談しようとすれば、いまならこちらの意図をすぐに理解してもらえるでしょう。みんなの意識が高まっているということは、それだけ合意形成がしやすい環境にあるということです。このようなチャンスはめったにありません。もしかしたら、今回が、私たちが被災する前にBCPに取り組める最後のチャンスかもしれないのです。

 BCPというものが気になっていながら、なかなか行動に移せなかった会社は、これを機に、ぜひ前向きにBCPに取り組まれることをおすすめします。






東海地震が切迫している理由
中日新聞「備える」
2012.1.16
「BCP―識者に聞く」
上級リスクコンサルタント
平野喜久さん
「会社信用度」の物差しに
電子ブック版「BCPって何?」AppStoreからリリース(2011年8月)
地震シミュレーション訓練プログラム完成(2011年5月)
東日本大震災に学ぶ東海地震への備え:BCPセミナー
電子ブック版「天使と悪魔のビジネス用語辞典」AppStoreからリリース(2011年3月)
天使と悪魔のビジネス雑記帳
中小企業こそBCPを
どうして日本人はリスクマネジメントが苦手か
BCPを経営改善のツールに
BCPが防災対策レベルにとどまってしまう理由
新型インフルエンザの驚異
生命保険を使った節税のまやかし
社長の生命保険は必要か
生命保険による節税対策
保険はコストが高いことに気づいているか
問題あり:生命保険を使った資金バッファ
要注意:生命保険による税金対策
コムスン謝罪会見:失敗事例
コースター事故の真の原因は?
リスク分散でリスクが減らせるという誤解
不二家:不祥事対応の不手際
『論文捏造』
社員の副業禁止規定はなぜ存在するのか

リスクマネジメントの法則
リスクマネジメントには、失敗事例はあっても、成功事例はない。
 食品偽装、再生紙偽装、毒ギョーザ。
 最近、世間を騒がす企業不祥事は、すべてリスクマネジメントの失敗事例だ。
 それぞれをケーススタディとして研究すれば、格好の教材になる。
 リスクマネジメントで登場するのは、たいてい失敗事例ばかり。
 「失敗事例はいいから、成功事例を教えてほしい」
 という質問を受けることがある。
 この時が一番困る。
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間違いを隠すための努力量は、間違いをしないための努力量を上回る。

他人の失敗はばかげて見える。

結果を見てからなら、誰もがみんな賢者になれる。

あなたが傘を忘れたときに限って雨が降る。しかし、雨を降らせようとして、傘を置いて出かけても、あなたにその力はない。

「わが社にリスクなし」と言う者がいたら、その存在が最大のリスクである。

自分が責任を負わなくてもいいことについては、大胆になれる。

「リスクマネジメントのできていないベンチャーは5年でつぶれるというのは本当ですか」
「もちろん本当だ」
「じゃぁ、リスクマネジメントのできているベンチャーなら?」
「初めからベンチャーなど始めないだろう」

宝くじで3億円が当たったらどうしよう、と考える人はいるが、宝くじを買いに行く途中で交通事故にあったらどうしよう、と考える人はいない。

平野喜久(ひらの・よしひさ)
中小企業診断士
ひらきプランニング株式会社
代表取締役

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