トヨタ 新型プリウス Hybrid System の衝撃

新型プリウス(ハイブリッド車)を購入しました。 このページでは トヨタの世界戦略を 新型プリウスの
ハイブリッドシステムという観点から 考察します。

1.新型プリウスを購入した動機

世界初の量産ハイブリッドカーとして プリウスが華々しく登場したのは 平成9年10月でした。 
今回 平成15年9月に発売された新型プリウスは 6年振りのフルモデルチェンジとなります。

何となく気分転換したいと思っていた時に トヨタの新型プリウスの流麗なボディースタイルを見て これだ!
と 慎重な私には珍しく 衝動買いしました。 旧型の4ドアセダンが新型では5ドアハッチバックとなり 
後ろに向かって流れるような形状の外観は アッピール度の高い洗練されたものとなりました。 
(財)日本産業デザイン振興会のグッドデザイン金賞受賞を知ったのは購入後でしたが・・・・。

4年半乗ったカリーナに少し飽き 2回目の車検が間近で 磨耗したタイヤの交換が必要だったこと
新型プリウス装着のDVDカーナビ(7インチ液晶モニター VICS内蔵) CVT(無段変速機)なども 購入動機
となりました。

ハイブリッド車は ガソリンエンジンと電気モーターの二つを動力源とし それぞれの長所を生かすことで 
燃費とパワーを飛躍的に向上させます。 問題は ガソリン車より価格が割高なことと 複雑なメカニズムに
よるトラブル(故障)を生じ易いことです。

ハイブリッド車とガソリン車の販売価格差は44万円です(注:1500ccプリウスと1500ccプレミオの価格差
から計算)。 ハイブリッド車はガソリン車には無い諸装置を載せているので 高くて当然ですが 自動車
メーカでの原価差は販売価格差44万円より大きい額と言われています。 また ガソリン車と電気自動車の
機能を備えたハイブリッド車は  発電機 電気モーター ニッケル水素電池 動力分割機構 回生ブレーキ
インバーターなどに ガソリン車にはないハイブリッドカー特有の故障が生じても当然です。
 
こうしたことを考え ハイブリッドカーを購入すべきか少し躊躇しましたが  6年振り にフルモデルチェンジ
した新型は 旧型に比べ 信頼性(耐久性) 燃費(廃棄ガスのクりーン度) 走行性能 使い勝手 
外観など 大幅に改善されたので 買って後悔することはないと判断しました。 私は勤務先で
旧型プリウスを運転していますが 故障は全くなく 改良を6年間重ね新開発された新型プリウスの信頼度
は高いものです。 ハイブリッド車には 運転してみて ガソリン車にはない楽しさがあり 環境へに優しさ
(エコロジー) 経済性(燃費) 走行性能などを総合的に考慮すると 21世紀の本命はガソリン車に代わり
ハイブリッド車になると思います。

ハイブリッド車の下取り価格が将来どうなるか 心配ですが 新型プリウスが人気車となれば杞憂に過ぎ
ませんし どんな車でも5〜6年運転すれば下取り価格はほぼゼロとなるので 購入を妨げるものとなりま
せん。 

尚 個人が買うハイブリッド車には行政補助金(新型プリウスには19万円)の制度があります。 代替車の
前年走行距離が6000km以上などの条件を満たすことが必要ですが 従来の条件よりかなり緩和され
ました。 詳しくは(財)日本自動車研究所の電動車両普及センター 03-3503-3783 に聞いてください。 
また グリーン税制の恩典により 自動車税が1年間のみ50%  自動車取得税が2.2%軽減されます。

2.新型プリウスで大幅改善された内容

6年振りのフルモデルチェンジにより 旧型に比べ新型で大幅に改善された点は以下です。

    1 ボディーサイズをカムリ並みに大型化し 5ドア・ハッチバックを採用
    2 新開発のハイブリッドシステムTHS2採用で 燃費向上と動力性能向上の両方を達成
    3 インテリジェント・パーキング・アシストなどの新機軸を多く採用

旧型のヴィッツ/カローラ用に代え 新型ではプレミオ/アリオン用のプラットフォームを採用し ボディー
サイズは全長で135mm 全幅で30mm増加(全高は同じ) ホイールベースも150mm延びています。 
ナンバープレートは カムリと同じ3ナンバーとなり モノフォルムラインと呼ぶスタイリングは 空力性能
Cd値を0.30から0.26に改善しています。 

エコ(燃費)とパワー(動力性能)は相反する関係で 一般的に両立させるのは困難ですが 大型化された
ボディーで新型プリウスは 軽量化 空力性能向上 エンジン出力向上 電気モーターと発電機の
出力向上 回生ブレーキ機構の性能向上などにより 両立させています。 電気モーターは 電圧を177
から最大500ボルトに上げたことで 最高出力を50%アップしています。 この結果 新型プリウスは 世界で
トップレベルの燃費を達成すると共に エンジン排気量1500ccながら2000cc並の走行性能(発進・加速
性能)を実現しました。  

エコとパワーの両方を向上させた結果 旧型のエコカーというイメージから 新型プリウスでは 燃費と
加速力の両面で十分評価できる車となっています。

新機軸として インテリジェント・パーキング・アシスト EVドライブモード スマートエントリー&スタート 
エレクトロシフトマチック 電動インバータ・オートエアコン プッシュボタンスタート等があります。 
詳細説明は省略しますので 興味あればカタログ等で調べてください。 新機軸の中には 話題性は
高くても 英語のgimmicksに近い 余り実用性のないものもあります。

米国の自動車専門誌「モーター・トレンド」及びデトロイトでの国際モーターショウ(1月)は 新型プリウスを
2004年のカー・オブ・ザ・イヤーに選びました。 ハイブリッド車が同賞を受けるのは初めてで 受賞理由を
「低燃費と超低公害という特徴が 優れた動力性能と共存するという 未来の姿を示した」 としています。

3.ハイブリッドシステムの特長
 
ハイブリッド車の特長を簡単にまとめると以下です。

    1) ガソリンエンジンと電気モーターの2動力を持つ。
    2) 2動力故に ガソリンエンジンだけの車より加速性能が高い。
    3) 減速・制動時のエネルギーを電気として回収し バッテリーに充電し 加速時に電気モーターを
       駆動させることで燃費向上。
    4) エンジン・アイドリングを自動停止。
    5) 2動力車に必要な諸機能を持ち ガソリン車より価格が割高。

ハイブリッドシステムの基本原理は 車の走行モードに応じてエンジンとモーターを使い分けたり協調させ
ることです。 エンジン効率の低い走行条件では電気モーターのみで走行し エンジン効率の高い条件で
発電させるなど 走行のトータル効率が最も高くなるよう制御されています。 減速・制動時に回生ブレーキ
機能で運動エネルギーを電気エネルギー変換し バッテリーに回収されます。 

少し技術的な説明となりますが ハイブリッドシステムには 「シリーズ方式」 「パラレル方式」 
「シリーズ・パラレル併用方式」 の3方式があり 新型プリウスは併用方式を採用しています。 エンジンで
発電機を駆動し 発電した電力を使い電気モーターのみで走行させるのが「シリーズ方式」 エンジンと
モーターの両方を状況に応じて使い分けるのが「パラレル方式」です。

シリーズ方式ではエンジンとモーターを利用する割合が半々なのに対し パラレル方式では エンジンを
主に使い モーターは補助的に加速時のみに利用されます。 シリーズ・パラレル併用方式(プリウスが
採用)は エンジン動力を動力分割機構により分割し 一方で直接車輪を駆動 他方は発電に使用 
その分割割合を自在に制御するもので 電気モーターの使用割合はパラレル方式に比べ多くなります。
パラレル方式では電気モーターが減速時に発電機として機能しますが シリーズ方式とシリーズ・パラレル
併用方式では 電気モーターと発電機が別になっています。

パラレル方式は マイルドハイブリッドとか「簡易型」ハイブリッドと呼ばれこともあります。 「簡易型」に対し
シリーズ・パラレル併用方式を「完全型」と呼ぶこともあります。 シリーズとパラレル両方式の長所を
最大限に引き出す併用方式(新型プリウスで採用)が 燃費と走行性能の両面で最も優れています。

トヨタは ガソリンエンジンと電気モーターの2動力を利用した相乗効果でエコとパワーを両立させ車の性能
に革新をもたらした 新型プリウスの併用方式THS2を Hybrid Synergy Driveと呼んでいます。 

新型プリウスでは旧型に比べ 電気モーターの最高出力を50% 燃費を15% 改善すると共に 同排気量
(1500cc)のガソリン車に比べ 同等の性能を確保したうえで 2倍向上した低燃費と約1/2のCO2排出量
を実現 さらに有害排出ガス量も規制値の約1/10に抑えています。

私のプリウス仕様
車型:Sグレード・ツーリングセレクション
DVDカーナビ  スペアタイヤセット
(標準装備のパンク修理セットを廃棄)
フロアマット  ボディーカラー白


購入価格
車両本体価格        \2,310,000
DVDカーナビ           \230,000
販売店オプション        \49,000
Sパスポート           \31,500
自動車取得税など諸費用  \356,033
(車両価格総額       \2,976,533)
下取車価格と値引き    ▲\486,533

現金支払い額         \2,490,000

4.トヨタのハイブリッド世界戦略

燃料電池車は電気モーターという1動力で走行します。 減速時の回生エネルギーをニッケル水素2次
電池に蓄え 加速時に燃料電池の出力不足を補う ハイブリッドシステムを採用するFCHV(Fuel Cell Hybrid
Vehicle)が燃料電池車の主流となっています。 FCHVがハイブリッドなのは 燃料電池(Fuel Cell)と
ニッケル2次電池の2電池を使うからです。 ニッケル水素2次電池(バッテリー)に代わり キャパシターと
呼ばれる 電気を電気のまま蓄える蓄電方式ECS(Energy Capacitor System)を採用したものも
同じくハイブリッドです。

燃料電池車FCHVの実用化には 水素の供給拠点整備やコストの問題に加え 総合熱効率がガソリン
エンジンのハイブリッド車より劣る という本質的な問題もあります。 このため 燃料電池車の普及は
相当先となりそうであり 次世代動力源の主流は 当分の間 ガソリンエンジンのハイブリッドになると
いうのが 今や常識です。 

トヨタの試算によると 化石燃料(石油、石炭、天然ガスなど地中に埋蔵されている燃料資源)を掘り出して
から自動車に積んで走行するまでのトータルのエネルギー効率(総合熱効率)において 燃料電池の
ハイブリッド車より ガソリンエンジンのハイブリッド車であるトヨタの新型プリウスの方が 現段階で優れて
います。 総合熱効率=(燃料効率)X(車両効率) という公式があり トータルのエネルギー効率
(総合熱効率)は 原油(or天然ガス)を掘り出してガソリン(or水素)に精製するまでの効率(燃料効率)と
タンク内の燃料を運動エネルギーに変換させる効率(車両効率)を掛け合わせたものです。 
FCHVは新型プリウスに比べ 車両効率で優れているものの 燃料効率で劣り 総合熱効率(FCHVの29%
新型プリウス33%)で劣る結果となっています。

これまでハイブリッド市場を独力で切り開いたトヨタは ハイブリッドカーの技術や量販規模で他社の追随を
許さない状態にあります。 課題だったコスト削減にも目処をつけ 「儲からない車」という弱点を
新型プリウスではほぼ克服しています。 ハイブリッド技術の多くは その制御技術を含め トヨタが特許を
取得しており ハイブリッド車の関心と需要が世界で高まれば 相対的にトヨタが優位な立場になります。
特に米国市場では「CAFE」という企業平均の燃費規制が 今後厳しくなる見込みであり ハイブリッド車を
持たないとシェアを拡大できない事態になりそうです。 フォードがトヨタからハイブリッド技術の供与を
受けることになったのは その現れです。 日産はトヨタからハイブリッドシステムTHS2の供給を受けことに
なっています。

トヨタは2006年までに世界で30万台のハイブリッド車販売を目指し 新型プリウスはハイブリッド車の
デファクトスタンダード(事実上の業界標準)となる可能性を秘めています。 旧型がトヨタの環境イメージを
牽引したのに対し 新型プリウスが狙うのは ハイブリッド車の本格普及です。  トヨタは2006年に
フルモデルチェンジされるカムリにハイブリッド車を加える計画であり 米国を中心にトヨタのハイブリッド車
の普及は一挙に加速されます。 これに対し 米国メーカーによる完全型ハイブリッド車の開発は 技術上
の理由から遅れており GMは完全型ハイブリッド車の発売を2年間遅らせ2007年まで延期すると発表して
います。

トヨタの世界戦略は トヨタ・ハイブリッドシステムを 次世代動力源のディファクト・スタンダードにすることで
あり トヨタが本気であることは新型プリウスに乗ってみればすぐ分かります。 トヨタが2動力で業界標準
となり 自動車メーカ各社にモジュールや技術を販売する独占企業となれば トヨタを軸に今後の業界再編
は進むことになります。

米国の自動車ジャーナリストであるミシェリン・メイナードは近著「デトロイトの終焉」(平成15年刊)の中で
2010年に米国市場でトヨタがGMを抜くと述べています。 トヨタは2003年の8月に単月とは言え
クライスラーを抜き 乗用車だけなら 同年の7月から3月連続でフォードを抜いています。 メイナード女史
の予測どうりになるかは 分かりませんが 高級車「レクサス」に代表される「高品質」イメージを米国人に
埋め込むことに成功したトヨタは 次の戦略として ハイブリッド車・新型プリウスに代表される「トヨタ=
最先端のエコロジー技術」イメージを米国人に定着させることができれば 近い将来 米国市場でGMを抜け
ると思います。 日米の貿易・経済摩擦が再燃する恐れもあり 手放しでは喜べないでしょうが・・・。

5.まとめ

新型プリウスは 自動車という成熟商品の中で 超ハイテク商品と見なされ勝ちですが 限られた人
が技術的な興味で買うのではなく 一般大衆が実利で買う条件(エコ・パワー・fun to drive)
を全て備えています。 

ハイブリッド車を普及させるには 従来のエコカーというイメージから脱却し パワー(走り)も重視した
「本物の車」であることを一般大衆に認識させることが必要で マーケティング活動が重要となります。 
ハイブリッド車の中長期的な世界需要を見通すのは困難ですが 新型プリウスに代表されるハイブリッド車
は その優位性が多くの人に理解されるにつれ 普通の人が普通に購入する車として 世界中で急速に
普及すると思います。 

ガソリン車に比べ割高(新型プリウスは1500ccプレミオに比べ44万円割高)ということは 普及の障害と
なりますが 今後の量販効果でコスト削減できるでしょうし 2動力のメリットを考えると 若干の割高さは
容認できます。

ハイブリッド車は ガソリン車が燃料電池車に切り替わるまでの「つなぎ役」という考え方がありますが
克服すべき多くの課題を抱える燃料電池車の普及は相当先となりそうです。 ということは ガソリン
エンジンに代わる次世代型動力源の主流は 当分の間 2動力を持つハイブリッド車となります。 
そうした中で トヨタが業界でどんなポジションを占めるのか 興味深いです。 

最後に 今回 久しぶりに新車を買ってみて 感じたことを記します。

従来 プリウスはトヨタのトヨタ店にて販売されていましたが 新型からはトヨペット店でも併売されることに
なりました。 双子車ではない全く同じ車を 異なるディーラーチャンネルで併売することは 今まで
無かったことであり トヨタは 近い内に レクサスだけでなく 国内販売チャンネル制度の総見直しをする
のではないでしょうか。

トヨタ店とトヨペット店で新型プリウスを併売するということは 両方の店から見積り価格を取れるので 
顧客にとって有利ですが 販売店は困る筈です。

私の別ページ「自動車のBuild To Order ネット販売革命」の中でも述べましたが 新型プリウスなどの
新車を買う場合に 自分の好む仕様を自由に選べないのは 困ったことです。 注文方式をBTO
(受注生産方式)に改め ベースモデルから好きな仕様を自由に選べるようにすべきと思いました。

例えば 私は新型プリウスのSツーリングセレクションを選びましたが 標準設定のパンク修理キット
(\12000)を廃棄し オプション設定のスペアタイアセット(\20000)を購入しました。 パンク修理キットを
オプション設定にすれば 顧客は好きな方を選べるので 廃棄する無駄がなく合理的です。 
また オプション設定されているDVDカーナビ(\23万)を選ぶと 余り実用的とは言えず私には必要ない
インテリジェントパーキングアシスト機能(米国向けには無い機能)が付きますが 機能無しを選べるよう
にし その分の値段を下げるべきです。

追記: このページを見た米国のテレビ局CNN東京から取材依頼を受け協力しました。 平成16年9月に
放送されましたが 私の英語がorthodoxなBloody Japanese Englishであり 実物よりテレビ写りが悪い
ということを認識しました.

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