1999年11月下旬の日記

学期末でなにかとあわただしい毎日でした。楽しかったのは27日(土)のロフトプラスワンでのトーク・ライヴ。お友だちと一緒に久々にロック系のイベントに参加して、とても楽しい時間が過ごせました。(1999年12月3日記)

11月21日(日) 職場でのトランスを完全なものにするために。
[日記]来年度から職場で使う名前を変更しようと思っている。1週間以内に変更届けを提出する予定。外見が女性化しているのに相変わらず戸籍名(まるっきり男の名前だ)を使っていたのでは、どう考えてもちぐはぐ。新学期や講習会のときに初めて銀河の授業をとった生徒たちも、不思議そうな顔をしているしね。それに、近い将来の戸籍名変更に向けて実績を作っておきたいってこともある。いろいろ考えて、戸籍名を一字だけ変えて女性にも男性にもとれる名前にした。予備校は本名ではなくペンネーム(芸名)を使っている講師も多いので、変更自体は簡単だしね。
97年4月から職場でも「なしくずし」的にトランス(用語についてを参照)してきたけど、3年目が終わろうとしている現在、「なしくずし」でいくにはそろそろ限界。昨日の「TSとTGを支える人々の会(TNJ)」の催しの帰りがけに、TNJ代表の森野ほのほさん、運営委員の森本エムさん、野宮亜紀さんにもアドバイスしていただき、正攻法で正面突破する作戦に切り替えた。名前の変更はその第一弾だ。
この話題はいずれまた、くわしく述べることにしよう。
[BGM]雪村いづみ『スーパー・ジェネレイション』。74年に発表された日本歌謡史に残る名盤。雪村いづみが服部良一の曲をキャラメル・ママ(細野晴臣、鈴木茂、松任谷正隆、林立夫)の演奏でうたう。管弦アレンジは服部克久(服部良一の長男)。「銀座カンカン娘」「東京ブギウギ」「一杯のコーヒーから」「蘇州夜曲」「東京の屋根の下」など曲は名曲ぞろいだし、キャラメル・ママの演奏は最高にファンキー(リトル・フィートあたりを連想)。もともとジャズ寄りの音楽を得意としてきた雪村いづみのクールな歌唱(英語風の日本語がカッコイイ)が、この環境では本当に映える。3世代のコラボレーションの幸福な果実。

11月22日(月) 自分がTSであることで、別に何も悩んではいないのだ。
[日記]「性同一性障害(用語についてを参照)はオモシロ」くないと題した10月24日の日記を読んで心配してくださった方々から、メールを何通かいただいた。ご心配いただいたことはありがたいのだけど、別に銀河は悩んでいるわけではない。だって確信犯だからね。
SRS(用語についてを参照)を終えて「女性」として社会に受け入れてもらうというゴール(本当はそれがスタート地点なんだけどね)は見えているんだから、あとは壁をひとつひとつ自分のペースで乗り越えながら、進んでいくだけだ。先日の「TSとTGを支える人々の会(TNJ)」の催しで一緒になったMTFTS(用語についてを参照)のお友だちとも意見が一致したんだけど、たぶん、性別違和(用語についてを参照)を抱えホルモン療法(用語についてを参照)を受けているけどSRSまでは望まない、つまり狭義のTG(用語についてを参照)の人が、いちばんつらいんじゃないかな。明確なゴールがあるわけではないし、お手本もない。揺れる気持ちのバランスをうまくとりながら生きていかなければならないのだから。銀河の場合、そういう人たちのような心の内面の苦悩はない。あるのは外側にある壁を乗り越える際の困難と、「面倒なことだな」という時折の愚痴だけだ。
[BGM]AMANA『AMANA』。女性ロック・バンド「ZELDA」のベーシストとして活躍し現在は沖縄に居住する小嶋さちほ、アフリカ音楽演奏家の近藤ヒロミ、インド音楽演奏家の根間洋子の3人によるユニット。全体にインド風旋律をインドとアフリカの楽器で演奏するという趣で、実験的色彩が強く、必ずしも成功しているとは言いがたい曲もあるが、ジンバブエのショナ人のンビーラ(親指ピアノ)を演奏する近藤の「おひっこし」など秀逸な作品もいくつかある。
[読書記録]北川純子編『鳴り響く性 日本のポピュラー音楽とジェンダー』(勁草書房)。日本のポピュラー音楽(およびそれをとりまく状況)をジェンダーという視点から解析しようとする試み。10本の論文を所収。抜群におもしろいのが、インド音楽研究家として活躍される井上貴子さんの論文。女の子ロック・バンドの一員として活動した経験を持つ自分自身をインフォーマントにして「女性のロックとのかかわり方」を分析する。女性がロック・バンドに参加しようとするとヴォーカルかキーボードしか選択の余地がなかった現実。男性性の強いロックを演奏することによってジェンダーを越境しようとする女の子ロック・バンドが、逆に男女二分法に基づくジェンダー・パフォーマンスの枠内に閉じこめられてしまうジレンマなど。自己体験の客体化がみごとだ。その他、旧制高校の寮歌の持つ同性社会性(ホモソーシャリティー)を論じる細川周平論文、テレビマンガ主題歌とジェンダーの関係を譜例を用いて緻密に分析する北川純子論文、流行歌のクロスジェンダード・パフォーマンス(男が女歌をうたい、女が男歌をうたうということ)についての中河伸俊(ブラック・ミュージックの研究家としても知られる)論文が興味深い。玉石混淆の感は否めないが、フェミニズムやジェンダー・ポリティクス的視点から自由なのが評価できる。「ポピュラー音楽」と「ジェンダー」の両方に関心がある人にとっては、触発される部分も多いはずだ。

11月23日(火) 学期末なので少々忙しい。
[日記]今日は一日中、授業準備。学期末はいつも、テキストの進度調整などの理由で生徒に配布すべき補充教材の準備が大変(例えば進度が遅れ気味になっているテキストを最後まで終わらせるために、説明用のプリントを作成しなければならない)。今日から3日間ほどはあまり睡眠時間もとれないだろう。と言いつつも、午後3時間ほど長*さん(銀河の彼氏)と会って、食事をする。
21日の日記に書いた名前の変更届を、今日郵送で提出した。年明けには職場でのトランス(用語についてを参照)正面突破作戦の第2弾を予定。
[BGM]椎名林檎『本能』。10月27日発売のマキシシングル。「本能」「あおぞら」「輪廻ハイライト」の3曲入り。「本能」が抜群にいい。まず感心したのがヴォーカルをオフ気味にした録音。日本の流行りもののロック系の音ってヴォーカルがオン過ぎるのがイヤだなと思っていたので(ヴォーカルがオン過ぎるとロックっぽくないでしょ)、この音づくりは全面的に支持する。ノイジーなバックの演奏に埋没気味のヴォーカルが逆に要所要所で存在感を主張する。英語風イントネーションの日本語(従来よくあった巻き舌日本語ともちょっと違う)が実に音楽的だし、ふと耳に飛び込んでくる、軽い違和感を抱かせるようなざらつく言葉遣いが刺激的。前衛と大衆性との絶妙のバランス。いま日本で最高のロック・シンガーと言ってもよいのではないか。ジャズ風の「輪廻ハイライト」もおもしろい。

11月24日(水) 新宿西口「思い出横丁」で火事。
[日記]午前中の授業が終わり校舎近くの喫茶店でくつろいでいると、「新宿西口で火事」を伝えるラジオの臨時ニュースが耳に飛び込んでくる。ビックリして長*さんに電話をかける(長*さんの事務所も新宿西口にあるのだ)。ところが何回電話しても留守電。妙に胸騒ぎがする。長*さんは大丈夫だろうか。不安で不安でがまんができなくなって、夜の授業までの空き時間を利用して新宿まで行ってみることにした。
新宿駅に着くと、駅の中にも煙が充満しているのに驚く。焦げたような臭いもする。まるで駅が火事になっているような感じだ。構内アナウンスが、線路に隣接した地域が燃えているものの列車の運行には影響がないことを伝えている。線路に隣接した地域だというなら、とりあえず長*さんの事務所は無事だ。ここで長*さんにやっと電話が通じる。取引先の人との商談中で忙しそう。会う時間はなさそうだけど、無事だったので安心した。体中から急に力が抜けていく。せっかく新宿まで出てきたんだから、一件だけ用事を済ませる。火事現場には交通規制がひかれていて、近づけない模様。空には報道機関のヘリコプターが舞う。帰りの電車の窓からみると、新宿西口の線路脇の「思い出横丁」(もっと下品な通称もついているけどね)から大量の煙が。まだ火が残っている店舗もある。あそこらへんは、長*さんともよく食事に行くあたり。行きつけのお店は大丈夫かなあと思いながら校舎に戻る。
夜、家に戻ってからテレビで確かめると、火元は大ガード側の入り口から3件目のラーメン屋さんだという。長*さんと一緒に何回か行ったことのある店だ。ご夫婦でやっていらっしゃる店なんだけど、奥さんの方はケガをなされたみたい。心配だ。
明日の授業準備が追いつかなくて、朝までほぼ徹夜状態。
[BGM]Beck,"Midnite Vultures." ベックの最新作。たぶんこれまでの最高作だろう。ロックをリアルタイムで追いかけなくなって久しいが、ベックだけは例外。ここ数日、このCDばかり聞いている。ひとことで評せばこれまでになくカラフルで、わかりやすい1枚。ベースは前々作『オディレイ』、前作『ミューテイションズ』の路線の延長線上にあるのだが、さらに60年代、70年代のR&Bの持つ肉体性を強化した感じ。そこに20世紀アメリカ大衆音楽のありとあらゆる要素が自然に溶け込んでいる。聴き手側の音楽体験が豊かであればあるほど発見も多いけれど、何も知らなくても十分に楽しめるという点で、大衆音楽としては理想的だ。

11月25日(木) 新宿西口「思い出横丁」で火事(続編)。
[日記]朝までほぼ徹夜だったせいか、午前中の授業では妙にハイな気分。訳の分からないジョークが次から次へと口から飛び出す。仕事が終わった後は速攻で新宿へ(一度自宅に戻るとそのまま眠ってしまいそうだったので)。
新宿では長*さんと一緒に、昨日の「思い出横丁」の火事現場を見に行く。現場一帯にはロープが張られていて近づけない。報道では「思い出横丁」の約3分の1が焼けたということだったが、延焼を免れたお店も消火活動で水浸しになったり、窓ガラスが割れたりして惨憺たる様子。辛うじて無事だった大通り沿いのお店も営業ができずにシャッターが降りている。ここはお店が長屋状態でつながっているから、全部を取り壊すしかないのかもしれない。大学生の頃はコンパとかでよく来たところだし、その後ずっと遠ざかっていたものの、長*さんと付き合うようになってから、またときどき立ち寄るようになっていたから、すごく寂しい気分だ。この手の焼け跡闇市風の街でいまでも残っているのは、あとは吉祥寺駅北口の「ハモニカ横丁」(ここも突然異次元の世界に迷い込んだみたいで頭がクラクラする)くらいかな。
夕方5時頃まで長*さんと過ごし(といっても歌舞伎町の「ルノアール」で2人して眠っていたんだけど)、帰宅。すぐに睡眠。
[BGM]山下達郎『オン・ザ・ストリート・コーナー3』。自分の声だけを多重録音して作り上げたアカペラ(楽器伴奏のないコーラス)のアルバム、13年ぶりの第3弾。コーラス好きにはこたえられない魅力にあふれる1枚。緻密な作業で作り上げたにもかかわらず、それを感じさせない耳触りのよさは見事(ホンモノの職人の仕事だ)。完成度の高さもさることながら、影響を受けたアメリカのポピュラー音楽に対する最大限の敬意が感じ取れる点にも感心する。山下達郎って、音楽に対してとっても謙虚な人だと思うよ。

11月26日(金) 銀河向きではない講演会の講師の仕事(笑)。
[日記]学校側の依頼により、現役高3生(特にうちの予備校に通っていない生徒たち)を対象に「早慶合格のための英語」と題した講演会の講師を務めることになり、その簡単な打ち合わせをした。この手の講演会って、生徒募集のためのサンプル授業のようなもの。高校へと出向いておこなう(高校側から招待される)受験講演会も含め(2年前は、沖縄の高校にも呼ばれて行ったけど、また呼んでほしいな)、毎年何回かは依頼されて客寄せのための宣伝塔の役割をこなしている。生徒向けの講演会の講師をさせてもらえるのは、集客力があると評価されているからだから、そのことはプロの予備校講師としてはうれしいんだけど、精神的にはかなりきつい仕事なんだよね。デパートで万能包丁とかを実演販売している人なんかと同じようなノリが必要だから。
ところで、これまで講師役をやらせてもらったことのない講演会が2種類ある。父母を対象にした「受験事情の説明会」と、高校の先生を対象にする「最新の入試問題傾向の分析結果の報告会」だ。このことについて少し前に教務の責任のある立場の職員に尋ねてみた。そしたら「えっ、やってみたいんですか(困惑の表情)。先生の場合キャラクター的に、父母や高校の先生よりも生徒相手の方が向いていらっしゃるから」だって(笑)。なるほど。でも一回くらい、父母や高校の先生の前で講演してみたいよね。
[BGM]崔健『紅旗下的蛋(Balls Under the Red Flag)』。中国ロックの第一人者、崔健(ツイジェン)の94年発表のサード・アルバム。強烈な表現衝動。はじめて耳にしたときの衝撃が忘れない。パンク寄りのロックだけど、フリー・ジャズ色の強いサックスが印象的。崔健(ツイジェン)のヴォーカルはときにラップ風。歌詞はプロテスト色が強いが、二重、三重の意味が読みとれる巧妙な仕掛け。ところで中国のロックは本当に玉石混淆なんだけど、中国語の方が日本語よりもロックのリズムとの親和性が高いことはたしかだ。
[読書記録]西成彦『クレオール事始』(紀伊国屋書店)。日本に帰化し小泉八雲を名乗る前に、カリブ海のマルチニーク(フランス領)に滞在して現地の言語文化を収集し、名著『クレオール物語』を残したラフカディオ・ハーン(レヴィ・ストロースがマルチニークでフィールド・ワークにたずさわる50年前のことだ)。そのハーンの業績を手がかりにフレンチ・クレオール文化(カリブ海のフランス植民地の混血文化)の研究を続けてきた著者の最新作。フレンチ・クレオール語(フランス語と現地語との混血言語)の初級文法の手ほどきと、マラヴォアやカリやカッサヴといったフレンチ・クレオールのポピュラー音楽の旗手たちの歌詞の分析が、言語学徒かつ音楽ファンとしては特に興味深い。

11月27日(土) オフ会を兼ねて新宿ロフトプラスワンのイベントに参加。
[日記]午後から都内某所の校舎で90分授業を2コマ(気管支炎で休んだときの補講だ)。5時過ぎに校舎を出て新宿へと向かう。
新宿のロフトプラスワンで開催される「20世紀ロックの大忘年会」というタイトルのトークライヴに、銀河のページの掲示板に出入りする音楽好きの仲間5人で参加することにしたのだ。待ち合わせ時間の5時半に集合したメンバーは、窪田理恵子さん艶玲(いぇんりん)さん、タクさん(理恵子さんの大学時代のお友だち)と銀河。ぽんぽんさんが後から会場に直接駆けつけてくれることになっている。みんなとは初対面の艶玲さん以外の4人は、9月5日の東京タワー蝋人形館オフの参加メンバーだ(9月5日の日記を参照)。理恵子さんは妹さんにヘアカットをしてもらったばかりということで、長かった髪の毛が肩までの長さになっていた(でも、完全に女の子カットだったから、今までよりも女の子度は上がったみたい)。開場の6時半まで歌舞伎町の「上高地」(長*さんと銀河の行きつけの喫茶店)で音楽の話をして時間をつぶす。
6時半過ぎに会場のロフトプラスワンへ。早めに入場したのでステージ前のよい席を確保できた。開演の7時半までまたまた音楽の話。というのも、お客さん全員にアンケート用紙が配られて、自分にとっての20世紀ロックのベストテン・アルバムを記入して提出するように求められたからだ(これがトーク・ライヴの第2部で発表されることになる)。ザ・スミスやマイ・ブラッディー・ヴァレンタインやセックス・ピストルズのような80年代のパンク/ニューウェイヴを中心に選出した理恵子さん。アモン・デュールとかマグマとかマニアックなプログレばかりでまとめた艶玲さん。今日のスペシャル・ゲストの中村とうようさんが嫌いなミュージシャン(タンジェリン・ドリームとかマハヴィシュヌ・オーケストラね)を敢えて記入した(笑)悪戯心あふれるタクさん。それぞれの個性がよく出たベストテンだった。ちなみに銀河が選んだのは、次の10枚。
1.ザ・バンド『ザ・バンド』。
2.SANDII『ドリーム・キャッチャー』。
3.フランク・ザッパ『ホット・ラッツ』。
4.リトル・フィート『ディキシー・チキン』。
5.パティ・スミス『ホーシズ』。
6.ジェシ・デイヴィス『ULULU』。
7.スティーヴ・ファーガスン『スティーヴ・ファーガスン』。
8.トーキング・ヘッズ『リメイン・イン・ライト』。
9.暗黒大陸じゃがたら『南蛮渡来』。
10.遠藤賢司『東京ワッショイ』。
まあ、その場のノリで選んだんで、特に深い意味はないんだけどね。
7時半に開演。今日のトークライヴはCRT(Country-Rockin' Trust)というカントリー・ロックのマニアのグループと『レコード・コレクターズ』誌の共催で、司会進行は萩原健太さん(音楽評論家)。ゲストが寺田正典さん(『レコード・コレクターズ』誌編集長)。そしてスペシャル・ゲストが中村とうようさん(音楽評論家)というメンバー。銀河的には中村とうようさんの辛口のトークがお目当て。とうようさんが30年前に『ニュー・ミュージック・マガジン』(今の『ミュージック・マガジン』の前身)を創刊して以来ずっと、とうようさんの文章の愛読者だったし、大学時代にとある音楽グループに関係していたとき、とうようさんに親しくしていただいたこともあったからだ(とうようさんが六本木に住んでいらっしゃったときに、ご自宅に遊びに行ったこともあるんだよ)。第1部はロック誕生以前がテーマで、アメリカには最初から純粋な白人音楽も純粋な黒人音楽もなく、両者が互いに深い影響を与え合っていたことを実証するような貴重な音源を聴かせていただいた。これは非常に勉強になった。
第2部が始まる直前の休憩時間中に(9時ごろ)、ぽんぽんさんが登場。性同一性障害(用語についてを参照)をテーマにして開催された埼玉医科大学医学会総会に顔を出してきたのだそうだ。
第2部はお客さんが書いたアンケートのベストテンを1枚1枚発表しながら、とうようさん、健太さん、寺田さんがコメントをつけていく形で進む。アメリカン・ロック寄りの客層だったから、さすがに艶玲さんやタクさんのベストテンは異彩を放っていた(笑)。ドイツのプログレには批判的なとうようさんだけど、「キング・クリムゾンやソフト・マシーンは好きだ」とおっしゃって、キング・クリムゾンのファースト・アルバム(『クリムゾン・キングの宮殿』)が初めて輸入盤で日本に入ってきたときに、最初に「これはいい」って騒ぎ始めたのが内田裕也さん(!)だったという裏話も披露してくださった。銀河のベストテンには「この人は筋が通っているね」というありがたいひとこと。フランク・ザッパを選出していたのが銀河だけだったこともあって、フランク・ザッパの話題で盛り上がる。客層が客層だから(カントリー・ロックのファンが大多数)、昔のアメリカン・ロックを中心に選出してるお客さんが大多数だったんだけど、ビーチボーイズだとかバーズだとかイーグルズだとかに混じって、プログレでは唯一キング・クリムゾンの、今のミュージシャンではベックの、そして日本のミュージシャンでは椎名林檎の人気が高かったのが印象的だった(もちろん全体として最も票を集めたのは、ビートルズとローリング・ストーンズとボブ・ディランだったんだけどね)。
11時でトークライヴは終了。終電の時間の関係もあって、今日はこれでお開きにすることになる。みんなで新宿駅に向かって歩いていったんだけど、理恵子さんのことが心配で(鬱病でお仕事をお休み中。トークライヴのあいだもあまり調子がよくないように見受けられた)、ずっと理恵子さんとおしゃべりしながら歩いていたら、他の人たちとはぐれてしまった。ご挨拶もしないで、最後がちょっと尻切れトンボになってしまったのが残念だ。特にこのためにわざわざ東京に出てこられた艶玲さんには申し訳ないことをしてしまった。
理恵子さんと別れた後、長*さんの待つ「ジュネ」(いわゆる女装スナック)へ。高校の同窓会帰りでかなり酔いのまわっている長*さんと2人、すぐにいつものように睡眠モード。ふと目覚めると、三橋順子さん、吉岡純子さん、あきひさんが、GID(用語についてを参照)関連の話題で議論をなさっていた。寝ぼけていて頭がよく回転していなかったので、議論に参加できなくて残念。でも、参考になる話をいろいろ拝聴できた。次の機会があるといいんだけど。閉店後はみんなでそのまま屋台村に移動する。

11月28日(日) 仕事をボイコットしていたつけがまわってきて、大忙し。
[日記]来年度の教材作成の仕事のことで腹を立てて、授業以外の仕事をずっとサボタージュしていたんだけど(11月2日、3日の日記を参照)、事務局の直接の担当者に泣きつかれて、締め切りをとうに過ぎている冬期講習の教材の講師用マニュアル執筆に着手(印刷日程から考えて、このままでは冬期講習の初日に間に合わないらしいんだ)。やらずに放っておいた分量が多大なので、ほぼ徹夜状態(それでも終わらない)。抗議のつもりで仕事をボイコットしても、結局は自分に跳ね返ってくるだけ。バカみたいだ。
[BGM]Little Feet,"Dixie Chicken." 昨日のベストテンに選んだアルバムのうちの1枚。リトル・フィートの73年発表のサード・アルバム。セカンド・アルバム(『セイリン・シューズ』)もすばらしいアメリカン・ロック・アルバムなんだけど、リズム隊(ベース・ギターとコンガ)にニュー・オーリンズのミュージシャンを加え6人編成となったこのアルバムは、アメリカ南部風の粘り気のある重たいサウンドが見事だ。切れ味の鋭いローウェル・ジョージのスライド・ギターも凄みがある。とてもカリフォルニアのロック・グループとは思えない。今でこそロック史に残る名盤扱いされているけど、発表当時は一部のマニアのあいだでしか評判にならなかった(リトル・フィートが本当に売れたのは78年のライヴ・アルバム『ウェイティング・フォー・コロンブス』からだ)。ちなみにローウェル・ジョージは一時期、マザーズ・オヴ・インヴェンション(フランク・ザッパのグループ)のメンバーだったんだよ(アルバムで言えば『いたち野郎』のころだ)。
[読書記録]大西泰斗/ポール・マクベイ『ネイティブスピーカーの単語力 2.動詞トップギア』(研究社出版)。シリーズものの最新刊。一般向けの英語学習書って粗製濫造気味で、信用のおけないいい加減な内容のものが多いんだけど、英語教師の目からみて、このシリーズは本当にすばらしい。最新の英語学の研究成果に基づき、英語上達のためのポイントがわかりやすく説明されている。既刊の『ネイティブスピーカーの英文法』『ネイティブスピーカーの前置詞』『ネイティブスピーカーの英語感覚』『ネイティブスピーカーの英会話』『ネイティブスピーカーの単語力 1.基本動詞』(いずれも研究社出版)ともども、強くお勧めします。

11月29日(月) 職場での名前の変更が認められた。
[日記]職場に提出した名前の変更届が無事受理された。届け出用紙にフリガナをふっていなかったので、教務の担当職員の方に読み方を訊かれる。字面だけなら男女どちらにでもとれるんだけど、読みは少々強引に男にはあり得ないようなものに決めた。
名前を変更することにしたのは11月21日(日)の日記にも書いたように、職場でのトランス(用語についてを参照)を「なしくずし」的なものから正攻法での正面突破へと切り替えることにしたからでもあるんだけれど、もちろん、近い将来の戸籍名変更も視野に入れている。通称名での生活実績をきちんと作っておくためだ。
さて、正面突破作戦第2弾は近日中に。
[BGM]The Band,"Cahoots." ザ・バンドの最高作ということになれば、68年の衝撃のデビュー作『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』、名曲がそろった69年のセカンド・アルバム『ザ・バンド』、あるいは末期の円熟の傑作『南十字星』(75年)のどれかというところが妥当な線だ。でも個人的に思い入れがあるのは71年発表のこのサード・アルバム。というのも、初めて買ったザ・バンドのアルバムだからだ。『ニュー・ミュージック・マガジン』(現在の『ミュージック・マガジン』の前身)のレコード評で高く評価されていた(100点満点で99点だった)から買ったんだけど、ツェッペリンやディープ・パープルが好きだった当時(中3だった)は全然よさがわからず、一度聞いたきり放り出してしまった。お気に入りの1枚になったのは、その2年後にブルースに興味を持ちはじめニュー・オーリンズ系のR&Bが好きになってから。本アルバムのアレンジを担当しているアラン・トゥーサンがニュー・オーリンズR&Bの重要人物だということを知ってもう1度聞き直してからだ。2年前にはわけがわからなかった音楽が、今度はものすごく味わい深いものに思えたのでビックリする。それ以来、超愛超盤の1枚。ヴァン・モリスン(うち1曲にゲストとして参加しリード・ヴォーカルを担当している)のことが好きになったのもこの盤がきっかけ。耳が肥えるっていうのはどういうことかを身をもって知らされた1枚だ。

11月30日(火) 月末なので長*さんの仕事を手伝う。
[日記]午後から新宿の長*さんの事務所へ。月末でなにかと忙しい時期なので、長*さんの仕事を手伝う展開に。主婦願望なんてまったく持っていなかったはずなのに、今の仕事をやめて、こうやって長*さんの仕事を手伝いながら、一緒に暮らして長*さんのためにごはんを作ったり身のまわりの世話を焼いたりできればいいなあと、ふと思う。そして、そんなことを考える自分にビックリする(まあ、主婦願望というよりはお母さん願望だね、実際のところは)。
[BGM]Jeff Beck Group,"Jeff Beck Group." ジャケットのオレンジの写真が印象的な72年発表のこのアルバムは、前作『ラフ・アンド・レディ』に続く第2期ジェフ・ベック・グループとしての2枚目。コージー・パウエル(ルックスはジェフ・ベックそっくり)の力強いドラムスもいいけど、音楽的なリーダーはキーボードのマックス・ミドルトン。ロッド・ステュアート(ヴォーカル)、ロン・ウッド(ギター)、ニッキー・ホプキンス(キーボード)という黄金メンバーをそろえた第1期ジェフ・ベック・グループが典型的なブリティッシュ・ロック・バンドだったのに対し、第2期はR&B的な粘りのあるサウンドが特徴で、バンドとしての緻密なアンサンブルが魅力的。個人的にはこのラインナップのジェフ・ベック・グループがいちばん好きだ。なお、グループ解散後、ジェフ・ベック以外のメンバーで結成したハミングバードっていうグループもファンキーで大好きなんだけど、アルバムはまだCD化されていない模様。


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I'm so lonesome I could cry.