2000年3月上旬の日記

通称での口座開設を認めてくれない銀行に腹を立てたり、長*さん(銀河の彼氏)の事務所に設置したiMac DV Special Editionで遊んだりしているうちに、養父の容態が悪化。8日(水)に死去。通夜と告別式に喪主として臨むために、数日間、九州に帰ることになりました。戸籍名の変更と性別再判定手術に関して、両親の同意が得られたことが最大の収穫。(2000年3月12日記)

3月1日(水) 富士銀行はまるっきり話にならない。
[更新情報]トランスセクシュアル関連のページへのリンクES-T東北を追加した。
[日記]昨日、富士銀行初台支店で、通称での口座開設を断られた(2月29日の日記を参照)のを受け、今日は高田馬場支店へ。昨日と今日で本部の判断が変わるわけはないだろうから、半分は嫌がらせのつもりだ(笑)。
窓口で申し出ると、フロアでいちばん偉そうな行員が出てくる。で、昨日と同じリスト(住民票だとか運転免許証だとか保険証だとかが挙げられている)を見せられ、昨日と同じ(このうちのどれかで確認できる名前でなければ口座開設はできないという)説明。そこで「その規則に法的根拠はあるんですか」と訊いてみる。本部との相談の電話の末、「麻薬等の不正取引を防止するための組織犯罪防止法と、それに関する大蔵省の通達によって、戸籍名以外は認めないことになっています」という答え。「特別の事情があって、日常生活では戸籍名が使えないのですが、それでも通称での口座開設はダメなんですか」と尋ねると、ここでも(初台支店のときと同じように)「特別な事情というのをお話しいただけますか」と言われる(「特別な事情」の説明を求められるってことは、事情次第では抜け道があるはずなんだよね、きっと)。「話せば口座を開設していただけるのですか」と言うと、「確約はできません」と慎重な返答(でも、事情次第で開設できることもあるという含みが感じられた)。とにかく性同一性障害(用語についてを参照)の診断書を見せて、事情を説明する。また、本部と電話で相談。「うちでは先例のないことですから、戸籍名での口座開設をお願いします」というのがその答え。「では、先例があれば認められるのですね」と訊くと(我ながら揚げ足取りだ)、またまた本部と相談して「どういう場合でも、大蔵省の通達で決まっていることですから」という返答。先ほどのリストのなかに社員証と書いてあるのを見つけ、「では、うちの職場で、これこれこういう戸籍名だが、日常的にはこういう通称で勤務しているという証明書を書いてもらいますから、それで口座を開設していただけますか」と尋ねると、「この社員証というのは、当行と取り引きのある企業の便宜をはかるためなんです」と言う。あんまりヘンなので「取り引きのある企業の人なら、抜け道があるんですね」と突っ込むと、また本部と電話で相談。「とにかく大蔵省で決まったことです」とくり返す。ここで課長と名乗る人と交代。
課長も同じ説明をくり返すので、「そちらの原簿には戸籍名を記載して、通帳やカードなど人目につくものには通称を書くというやり方なら、大蔵省の通達に違反しないんじゃないですか」と訊いてみる。「それは、こちらのコンピューター・システムが対応できないので、ムリなんです」と答えるので、「じゃあ、法律や通達の問題ではなくて、おたくのシステム上の都合に過ぎないわけですね」と言い返す。「とにかく初めてのケースですから」とごまかされる。押し問答の末、本部と話し合うので、後ほど改めて連絡しますからということに(ここまでの所要時間は1時間弱)。
2時間後、携帯に連絡が入る。結論は「戸籍名で口座を作っていただくしかない」というもの。「どうしてもダメなんですか」と念押しすると、「なにぶんうちでも初めてのケースなもので」と言う(印象としては、初めてのケースだからやりたくないという雰囲気)。「例外は一切ないのですね」と確かめると、「一切という言い方は、ちょっと」だって(つまりどこかに抜け道があるけど、その抜け道は普通の利用者には使えないってわけだ)。「では、やはり、法律や通達の問題ではなく、おたくの都合なんですね」と尋ねると、「通達に基づいた当行の規則です」という答え。「今後同じ理由で通称での口座開設を求める人が何人も出てくると思うのですが」と言ったときの答えが笑えた。「2、3年して社会情勢が変わったら、ぜひ当行での口座開設をお待ち申し上げております」だって。2、3年後にできることなら、いまだってできるはずじゃない。まあ、2、3年後には富士銀行なんて、跡形もなくなっているだろうけどね(笑)。
というわけで、富士銀行はまったく話にならない。こうなったら、都市銀行を総当たりだ(富士銀行も本部とやらに乗り込んでみようかな)。結果は逐一、この日記で報告します。なんか、どっかのクレーマーのホームページみたいになってきたな(笑)。
[BGM]Siti Nurhaliza,"Sahmura." このコラムでも何回か取り上げたマレイシアの若手ナンバーワン歌手、シティ・ヌールハリザ(ルックスは永作博美に似ている)。人気アイドル歌手として活躍していた18歳のとき(97年)に、伝統歌謡を現代的な感覚でとりあげたサード・アルバム『チンダイ』が大ヒットし、マレイシアのポップ音楽界を制覇した彼女。99年7月には『パンチャワルナ』(伝統的要素と現代的感覚のバランスが絶妙な傑作アルバム)を、今年初頭にはライヴ・アルバムをリリースしたばかりだというのに、もうニュー・アルバム『シャムラ』が発表された。今回は全曲が伝統派の巨匠たちによる新作伝統歌謡という意欲作。わずか2年前の『チンダイ』と比べても、歌唱力の成長が著しい。迫力のあるリズム・ナンバーも表情豊かなコブシを披露するスロー・テンポの曲も、自由自在にこなす。テレサ・テン、ヘティー・クース・エンダン(インドネシア)、サローマ(マレイシア)、若い頃の美空ひばり(日本)といったアジアの大歌手たちと間違いなく肩を並べる勢いだ。この盤も、今年の個人的なアルバム・ベストテンの有力候補。
[読書記録]平田由美『女性表現の明治史―樋口一葉以前―』(岩波書店)。明治時代の女性が本を読んだり文章を書いたりする上で、どのような束縛を受けていたのかということをテーマに、当時の新聞や雑誌を丹念に調査した力作。女は女らしい文章を書けとか、女は小説を読んではいけないとかいう風潮のなかで、女性の文章表現がどう変化していったのかを調べ上げている。随所に興味深い事実の指摘もあり、貴重な基礎研究だと思う。

3月2日(木) 林檎マークのかじり跡。
[日記]『Mac Fan』の連載エッセイをまとめた、牧野武文『Macの知恵の実』(毎日コミュニケーションズ)という新刊本を買った。気軽な読み物のつもりで読み始めたのだが、これがなかなかの拾いもの。ひどく面白い。特に感心したのが、「アップルのロゴをかじった犯人は誰なのか?」というタイトルのエッセイ。アップルのロゴの林檎マークは右側が(ちょうどかじったように)欠けている。で、これは、「byte(情報単位のバイト)」と「bite(噛む)」の洒落だというのが「定説」になっていて、いろんな雑誌や本で紹介されている。この「定説」のもとになったのは、"Little Kingdom"(1985年)というインタビュー本に掲載された、ロブ・ジャノフ(ロゴ・デザインの担当アート・ディレクター)の発言だという。「チェリー・トマトのように見えるのを防ぐために、かじり跡をつけた。biteはbyteに通じるから」という趣旨の発言だ。
ところが、牧野さんはこの「定説」を疑う。本人の記憶違いというのはよくあることだし、なによりもつじつまが合わないとして、具体的に検証してみせる。このロゴが初めて使われたAppleIIというパーソナル・コンピューターをよく見てみると、林檎マークに重なるようにappleという文字が入っている。そして、appleのaという文字の左側の曲線の部分がちょうど林檎マークにかぶさっている。林檎マークだけが単体で使われた最初の製品は、diskIIというフロッピーディスク・ドライヴ。ここではappleの文字が消えて、ちょうどappleのaの左側の曲線がかぶさっていた部分が、まるで「かじり跡」のように欠けているのだ。
この事実をもとに、牧野さんは、林檎マークの右側が欠けているのは、あらかじめそうデザインしたからではなく、林檎マークとセットでデザインされていたappleの文字が消えたために「かじり跡」がついた。つまり、林檎マークをかじったのは、appleのaの文字だという仮説を立てている。
この推論の過程はスリリングだし、なによりも情報社会に生きる我々に貴重な教訓を与えてくれる。「定説」だとか本や雑誌に書いてあることを鵜呑みにせず、気になることは自分で調べて、自分の頭で考えてみる。もちろん、立ててみた仮説は間違っていてもいい。間違いはきっとまた誰かが訂正してくれる。牧野武文さんという方については、フリーライターという以外のことはまったくわからないけど(ご自身のホームページには多少の情報がある)、この本全体を貫く彼の姿勢には感服する。こういう出会いがあるから、読書は楽しいのだ。
[BGM]Etzakit,"Triki Elkarlanean." 心の底からハッピーな気分になれる音楽が聴きたいのなら、バスク(フランスとスペインにまたがるビスケー湾沿いのバスク語が話されている地域)のトリキ・ポップ(トリキティシャと呼ばれるアコーディオンとバンデロアと呼ばれるタンバリンを軸にする現代ポップ音楽)がいちばんだ。バスク版パフィーとでも言うべきアライツ・エタ・マイデルは、このコラムでもすでに紹介した。今回は、男の子たち4人組のバンド、エツァキット。今バスクでいちばん人気のあるライヴ・バンドだという。バスクの伝統的ダンス音楽を見事にロック化したサウンドに、女の子と聞き間違えてしまうハイ・トーンのヴォーカル。ロック色の強い4拍子の曲もあれば、心が浮き立つようなハチロク(8分の6拍子)のリズムも。理屈抜きに楽しいよね。
[読書記録]牧野武文『Macの知恵の実』(毎日コミュニケーションズ)。林檎マークのかじり跡の話以外にも、コンピューター内蔵の時計が遅れやすい理由だとか、タンジェリンってどういう果物かだとか、コンピューターが「コンピュータ」っていう表記になった経緯とか、全部で27の興味深い話題を取り上げている。とにかく面白い。"Adam's Apple in Macintosh"っていう英題もしゃれていて気に入った。

3月3日(金) 重篤な病気ではなかった。一応、安心。
[日記]先日おこなった血液検査(2月7日の日記を参照)の結果、白血球の数が基準値を大きく上まわっていることがわかった。ホルモン投与との因果関係はないらしいが、白血病にかかっている可能性が高いということで、さらにくわしい検査のために採血をした(2月21日の日記を参照)。検査結果を待っている間はちょっと気分が落ち込み気味だったのだが、昨日、「白血球の細胞には異常がない」という結果がEメールで送られてきた。一応、安心。今後は経過観察をしていくことになる。心配してくださったみなさま、どうもありがとうございました。
[BGM]James Blood Ulmer,"Odyssey." オーネット・コールマンの強い影響を受けて音楽活動を始めたジャズ/ファンク系のギタリスト、ジェイムズ・ブラッド・ウルマー。パンク/ニューウェイヴを経由したフリージャズの新しい形を創出し続けていたが、83年の『オデッセイ』はさらに一歩進んで、「ヴァーチャル民俗音楽」とでも言うべき不思議な味わいのサウンドを提示している(エフェクターのかかったアラブ音楽風のギターの音色が、その味わいに一役買っている)。正直言って、発表当時はピンとこなかったのだが、いま聴き直してみるとエクサイティング。形式ではなく、精神としてのジャズだ。

3月4日(土) 長*さんの事務所に、グラファイト・カラーのiMacを導入。
[日記]長*さん(銀河の彼氏)と一緒に銀座の「かごしま遊楽館」(鹿児島県直営のお店)にお買い物に行った帰りがけの地下鉄のなかで、どうしたわけか2人とも急にコンピューターが欲しくなってしまった(何がきっかけだったのかは忘れてしまった)。夏までには事務所にコンピューターを導入しようと考えていた長*さんと、旧型のストロベリーのiMac(266MHz)から新型のiMac(iMac DV)に乗り換えたいと思っていた銀河。地下鉄のなかで相談した結果、銀河が購入して長*さんの会社にレンタルするということになる。
新宿西口のヨドバシカメラで実物を触りながら、事務所に置いても違和感のないグラファイト・カラーのiMac DV Special Editionに決定。いったん荷物を置いて身軽になるために、長*さんの事務所に戻る。気の短い長*さんが今日すぐに使ってみたいと言うので、在庫がありしかも事務所から至近距離のキャノン・ゼロワンショップへ。何冊かの解説書とともに、事務所まで5分の距離を(雨のなか)2人で担いで帰る。すぐに事務所の机に設置し、プロバイダーとの契約もオンラインで済ませ、インターネットに接続してしばらく遊ぶ(子供のようにはしゃぐ長*さん)。
その後、南麻衣子さんと緑川りのちゃんが新宿に出てきているというので、新宿3丁目の最近行きつけのスナック(普通のスナックね)で待ち合わせ。4人でカラオケ大会となる。ついでに焼き肉まで食べに行った(上機嫌の長*さんはかなり酔っぱらう)。今夜は帰宅するのをやめ、長*さんと2人で事務所に戻り、朝までインターネットで遊ぶ。旧型よりも操作性は向上しているし、なによりも音がいいのに感激。
というわけで、長*さんもEメールの送受信ができるようになりました。お知り合いの方、よろしかったら長*さん(gajutsu@msj.biglobe.ne.jp)にメールを送ってあげてくださいね。とても喜ぶと思います。
[BGM]The Lounge Lizards,"The Lounge Lizards." ジャズでパンクな音楽と言えば、絶対にこれ。ニューヨークのアヴァンギャルド・シーンの白人ミュージシャンたちによるラウンジ・リザーズの81年のデビュー盤(日本盤タイトルは『ハーレム・ノクターン』)。ジョン(サックス)とエヴァンス(ピアノ)のルーリー兄弟を中心に、ギターのアート・リンゼイ、ドラムスのアントン・フィアー等。混沌としたノイジーな演奏がかえって美しい。

3月5日(日) コンピューター漬けの一日。
[日記]埼玉県の某所で長*さんの営業活動に付き合った後、昼過ぎから夜遅くまで、長*さんの事務所でコンピューター漬け。長*さんにMacの基本的な操作方法を教えてあげながら、ゲームやインターネットで遊ぶ。銀河が帰った後も、長*さんは朝までコンピューターおたくに化していたみたい(笑)。
[BGM]k.d.lang,"Ingenue." 92年発表の大ヒット作『アンジェニュウ』。内省的な歌詞(恋愛を題材にしたものがほとんど)を凛とした声でうたい上げる。ちょうどこの頃、自分がレズビアンであることをカムアウトしたのだが(ジャケットは「男装」写真)、音の方も、カントリー色の強かった以前の作品に比べて、どのジャンルにも分けられない新鮮なサウンド。固有名詞(人名)なのにk.d.langと小文字で表記するのもカッコイイ。

3月6日(月) 川越市の赤心堂病院でホルモン注射。
[日記]赤心堂病院(川越市)の泌尿器科(内島豊先生)でホルモン注射。ガイドライン(性同一性障害に関する提言と答申)に沿った性同一性障害(GID)(用語についてを参照)の精神療法を受けていることを考慮していただき、内島先生(埼玉医大のジェンダークリニックのメンバー)の管理下で(埼玉医大のジェンダークリニックでの正規のホルモン療法に準じた形で)ホルモン投与をしてもらえることになったのだが(2月21日の日記を参照)、今回がその2回目(ペラニンデポー10mgを2週に1本というペース)。
料金について、前回書いたこと(2月21日の日記を参照)を補足しておく。ホルモン注射には保険は効かないが、1本410円。それとは別に診察料。これには保険が効いて200円(1010円なのだが、銀河の加入している私立学校教職員共済は自己負担が2割なので、200円になる)。合計で610円。ホルモン投与をおこなっている他の病院では1本2000円から3000円が普通なので、格安だ。池袋・川越間はから東武東上線で往復900円。この交通費を加えてもまだ安い。お得でしかも安全だ。
帰途、赤心堂から至近距離(歩いて15秒)にある銀河の勤務している予備校の校舎で休憩して(お茶を飲んで)から帰宅。
夜は、関あゆみちゃんのお誘いで、あゆみちゃんのお友だちおふたりと長*さんをまじえ、新宿西口の『嵯峨野』(行きつけの居酒屋さん)でお食事。その後、4日(土)にも行ったばかりの新宿3丁目のスナック(普通のスナックね)に移動するが、実家から親族関係の深刻な用件の電話が入ったので、みんなを残して急いで帰宅。

3月7日(火) 両親の全面的な同意が得られた。
[日記]深夜から明け方にかけて長時間、母と電話で話をした。きっかけは親族関係の深刻な用件だったのだが、話しているうちに今がいちばんよいチャンスだと感じ、自分の現在の状況を打ち明けることにした。この2年ほど、実家に帰省するときもお化粧をして中性的な衣服に身をくるんでいたので、当然、両親もある程度のことはわかっているはずだった。でも、おそらくゲイとトランスセクシュアル(用語についてを参照)の区別もついていないだろうし、ひょっとしたらヴィジュアル系と勘違いしているのかもしれない。両親が高齢(今年でふたりとも75歳)だということもあり、どう切り出そうか躊躇していたら、母の方が意外な言葉を投げかけてくれた。
母「あなたが話したいことって、性の問題にかかわることよね?」。
銀河「うん、そうなんだけど」。
母「それは、あなたの気持ちが男ではなくて女だってことなの?」。
母にはすべてお見通しだったのだ。急に話しやすくなって、自分がトランスセクシュアルであること、これまでの経緯、ホルモン療法(用語についてを参照)のこと、性別再判定手術(SRS)(用語についてを参照)を希望してガイドライン(性同一性障害に関する提言と答申)に沿った性同一性障害(GID)(用語についてを参照)の精神療法を受けていることなど、すべてを打ち明けた。
母はまったく動じることなく、銀河の話に冷静に耳を傾けてくれた。「小さい頃からあなたといちばん身近で接していたのは私たち(母と父のこと)だから、あなたがどういう子かはわかっていたし、ここ数年のあなたの様子からだいたいのことは予測がついていたのよ」。銀河がすでに性別再判定手術(SRS)を済ませているのではないかとも思っていたそうだ。「あなたの人生だから、あなたが生きやすいように生きればいい。小さい頃からのあなたの苦しみをちゃんとわかってあげられなかった分、これからは、いざというときには私たち家族があなたを守ってあげるから」。母が「女として生まれたんだものね、あなたは」と言ってくれたときは、思わず涙がこぼれてしまった。
母が気にしていたのは2点。ひとつは、信頼のできるお医者さんのもとできちんとした医療を受けているのかどうかということ。これについてはガイドラインに沿った医療のことを説明し、できるだけ早くしかるべき資料を取りそろえて両親宛てに送ることを約束した(正規医療を受けていてよかった)。
もうひとつは、(それが男性であれ女性であれ)ともに支え合って生きていけるパートナーがいるのかどうかということ。長*さんの存在を話すと、とても喜んでくれた。いずれ両親と長*さんの顔合わせが実現すると思う。
昼過ぎに母からもう一度電話があり、父と弟も了解してくれたとのこと。戸籍の名の変更の申請と性別再判定手術(SRS)に際しては、両親が同意書を書いてくれることになった。
間近に迫った財産相続がからむ「男性」としての最後の務め(母にも「つらいとは思うし申し訳ないけれど、最後の務めだと思って立派に『男性』を演じてちょうだい」と頼まれた)が終われば、世界中のだれにも遠慮する必要のない新たな人生の始まりだ。

3月8日(水) 親族の事情。明日から数日間、九州へ帰ることに。
[日記]午前中はいつ東京を留守にしても大丈夫なように、締め切りが迫っている仕事をおおむね片づける。午後から長*さんに付き合ってもらって、ワイシャツ、ネクタイ、革靴、コート、男性用の下着などを買うために新宿中をあちこち歩きまわる。コートとネクタイは銀河が着用した後、長*さんに譲ることができるけど、あとのものは一回しか使わないだろうから安物で十分だ。
夕方、母親から携帯に連絡が入る。ここ半月ほど危篤に近い状態が続いていたうちの一族の本家(戦前からの地主で資産家)の当主(銀河にとって養父にあたる)が最期を迎えるに至ったとのこと。今日はもうムリなので、明日の朝いちばんで美容院で髪を黒く染めた後、そのまま羽田から九州の某市(本家の所在地)へ飛ぶ予定。
本家には子供がいないので銀河が養子に入っており、財産の一部を相続することになっている。その財産相続に関しては親戚筋の一部で深刻な争いが生じている。当事者があまり現場に居座りつづけていて無用のトラブルに巻き込まれてもいけないという実の父母の判断で、養父の通夜と告別式を済ませたら、あとは実の父母や弁護士さんに任せて、速攻で東京に戻ってくることになるかもしれない。
長*さんの事務所で冠婚葬祭用の黒いスーツを借り、今日買った衣類とともに試着してみる。不謹慎な喩えかもしれないが、コスプレでもしているような妙な感じだ(現実感がない)。おそらく「男性」を演じるのはこれが最後。明日からの数日間に備えて、十分に睡眠をとるために帰宅。

3月9日(木) 九州へ帰る。通夜。
[日記]午前中に美容院に行き、髪の毛をスプレーで黒く染めてもらう。飛行機は午後2時過ぎの便。羽田まで長*さんに見送ってもらう。
通夜の開始時間少し前に斎場に到着。長*さんに借りた冠婚葬祭用の黒いスーツに身を固め、髪の毛はまとめて後ろでしばり、ばっちり「男装」してきたつもりだったのだが、「**ちゃん(銀河の戸籍名)がお嬢さんになって戻ってきた」という噂があっという間に会場中に広がる(苦笑)。しかしながら、戸籍上は男だったはずの喪主(現場で初めて知ったのだが、銀河が喪主だった)が女になろうと、あるいは女から男になろうと、そんなのは些細なことになってしまうくらい(そんなことを問題視している余裕などないほど)、親族間の対立が深刻。親族が2つに割れているものだから(お互いに近寄ることも口をきくこともない。いったん口を開けばののしり合いになってしまうかららしい)、会場の関係者や式の進行係の方は両方を行ったり来たりしながら、意見調整に懸命。弟から説明してもらった人間関係を大急ぎで頭に入れ、弔問客に対応する(神経がすり減ってしまった)。市長や市議会議長まで来ていたのにはビックリした。
通夜って、本当に朝までずっと起きていなければならないものだとは知らなかった。お酒が一滴も飲めない銀河にとって、朝までの時間がやけに長く感じられた。

3月10日(金) 告別式。
[日記]少しうとうとしただけで、告別式に突入。臨済宗のお坊さん3人による読経が非常に音楽的で、聴き入ってしまった(心が安まったのは読経の間だけだった)。喪主(銀河のことだ)のあいさつも無事済ませ、火葬場へ。2つに割れた親族グループは、同じ場にいるにもかかわらず相変わらず別行動。自分の知らないうちに派閥対立の片側のグループに組み入れられているのはつらい。自分の側のグループの気むずかしい親族をなだめつつ、相手側のグループのイヤミを聞き流し、気を遣いまくる。中立的な立場の親族が何人か来てくれたことが救いだった。お寺へのお礼参りを済ませ、一日が終わる頃には、身も心も疲れ切ってしまっていた。
あまり長居しない方がよいという弟のアドバイスに従い、後のことは弟に任せ、明日の夜には帰京することに決める。黒く染めた髪の毛は、いつの間にかずいぶん茶色に戻ってしまっていた。


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