「炎の彩り」
Divine Arf
− 神聖闘機 L−seed −
第三十二話 「青白き戦場にて」
「ユノ・・・待ってろよ。カムイとの約束を果たして、必ず平和な世界を手に入れてみせるぜ。」
プラスはようやく近づいてきた目的地をマップで確認して言う。
フレイヤに上手く乗せられてしまったプラスには、
早く闘いたくてうずうずしていた。
聞けば第9EPM基地はφの兵士とPowersが配備されている所。
自分が最初に行ったところとは歯ごたえも手応えもかなり違うことだろう。
「腕が鳴るぜぇ!!」
ポキポキと指を鳴らすプラス。
しかし、相変わらずプラスのLINK%は低く、
Kaizerionはその手の動きをトレースすることは無い。
まあ、この場合それは逆に良かったと言えるのだが・・・
喜色が浮かんだ顔でいつもの帽子を被り直すと、
レヴァーを掴む手にグッと力を込める。
マップに浮かぶ目的地を示す光点と、
Kaizerionの位置を示す光点が次第次第に近づいていく。
もうマップ上ではあと2cmも無いところで、
プラスは異常にようやく気付く。
Kaizerionと目的地が近づいたために、
マップが拡大されてより細かい熱源反応が見られるようになったからだ。
そして、そこではたくさんの光点がまるでおたまじゃくしのように動き回っている。
時折、大きくなって消えていくモノも多い。
人ではない。
このマップで示される程の光点は戦車クラス、戦闘機クラスのモノが必要、
そして、もちろんArfも。
『ここはEPMと言っても『φ』の基地よ。用心をする事ね。』
頭の中で濃厚な薔薇の香りが漂う色っぽい声が木霊する。
それはこの基地に大量のArfが配備されていることを意味していた。
φの基地ともなれば、最新鋭のArf「Powers」の常備が充分に考えられる。
Wachstumとは確実に手応えが違う機体だけに充分な手応えが期待された。
「誰かいやがる!?」
プラスの脳裏に蒼と白の影がよぎる。
光点が消えるのは間違いなく、その機能を止めたと言うこと、いや止められたと言うこと。
それは戦闘以外に無い。
「くそお!!折角の獲物をぉおおおお!!!!」
まるで目の前で自分の好物を食べられている怒りがこみ上げる。
「Kaizerion!!!加速だ!!全開で吹き上げろ!!」
相変わらず音声入力モードは健在らしく、プラスの声にKaizerionの瞳が輝きを放つ。
Kaizerionの脚から吹き出す青白い炎。
それはこれから起きる戦闘の熱の色。
**********
「おかしいな・・・」
薄暗いコクピットの中でマナブは呟く。
βの壁が破れないマナブは意識して、L−seedの瞳から辺りを見回す。
人と変わらない滑らかさでL−seedが左右を見る。
何体かのArfが建物の影からこちらを伺っているのが分かる。
片側の視線の先には青い海がここで起きている戦闘に関せずと言った感じで、
波を湛え、生物の母であることを止める気配はない。
「おかしいな。」
今度ははっきりとマナブは言う。
世界は変わらずマナブの呼びかけに応えることもなく銃弾で始まった戦闘。
足下に倒れているWachstumの数は、既にこの基地の半数には達しているように思われた。
しかし、戦闘を始めた時間を考えるとき、
マナブは言わずには居られなかった。
いつもとは手応えが違う。
確実にL−seedを敵は研究し始めている。
もっともそれがいつの日か実を結ぶと思っている事自体が、
ヨハネに言わせれば馬鹿げたことなのだが、
それでも彼らはL−seedから生き残る可能性を上げつつあった。
L−seed自身にはあまり被害がない、それは変わらない。
ただ、一時間で倒すArfの数は確実に以前の戦闘よりも少ない。
それはあまりに多少な為にマナブの意識が認識をすることは出来なかったが、
カスガの血か?無意識にその多少の変化を読み取っている。
それが先ほどの一言に現れていた。
レヴァンティーンからデッドオアアライヴに持ち替えたも、
攻撃範囲を広げようとしているマナブの無意識がさせたものだ。
後ろの白い手に剣を渡すと、
マナブはいつになく油断のない構えで辺りをうかがった。
意識もまたL−seedに確実にLINKする。
この「いつにない」行動がマナブに最初の一撃をかわさせる幸運をもたらす。
「!!!」
レーダーよりも早い、戦場の空気の流れをL−seedの肌から感じるマナブ。
咄嗟に前転をするような勢いでその場から脱出する。
ガガガアーーーーーーーーーーーン!!!!
それとほぼ同時に、その地点が凄まじいエネルギーに包まれる。
立ちこめる煙の中、マナブが振り返るとそこには巨大なクレーターが出現していた。
基地のアスファルトを削り、
地下施設の部分まで達したそれはまるで古の巨人ギガンテスにえぐり取られたようだ。
素早く視線を上に向ける。
レーダーに反応は見られないが、確実に起きた事実からそうする以外に無かったから。
だが、L−seedのレーダーにも映らない素晴らしいステルス機能を持っているArfなど、
そう何機もない。
「L−seedぉおおお!!!」
赤い風が戦場に豪快に降り立つ。
燃えさかる炎が基地の地面を溶かす。
そう、そう何機もいないのだ。
**********
視線の先、そこにある存在を認めて、マナブはゆっくりと手を伸ばす。
カチッ
熱センサーのスィッチをマナブはようやく入れた。
「チっ・・・また、忘れてた。」
**********
ゆっくりと立ち上がるL−seed。
二度目の出会いもまた、鮮烈。
φの兵士達は恐怖する。
現れたのはあの赤い風、T−Kaizerion。
テレビで流れたL−seedとのタッグは、
一般の人間には一種スポーツを見ているような気分にさせる爽快で豪快な戦いであったが、
それと戦う可能性がある人間にとっては、畏怖に彩られた映像でしかない。
思い出せば、その前哨戦として多くのArfがこの二人に破壊されてしまっていた。
それが今まさに再現されようとしていることに、
Arfの各パイロット達は心臓が柔らかい手で、
ゆっくりと苦しめられながら締められていくような苦痛を感じていた。
しかし、その苦痛は直ぐに解き放たれることになる。
「L−seed!!!!!よくも、よくも俺の獲物を!!!」
回線を開き、コクピットの中でプラスが吼える。
閉じこめられていたストレスと友人達を救うためと言う想いが、
プラスにL−seedへの攻撃へと走らせる。
最もそれは憎しみではなく単純な怒りなのだが、
やはりというかプラスは多少気が短い。
前回の戦闘での終わりを覚えていないわけではないが、
今のプラスにはそれを思い出す余裕はなかった。
単純に獲物を横取りされたような怒りがプラスを支配している。
言ってみれば、お腹がすいた猫のエサを横取りした状態。
「何?!」
いきなり開かれた回線にマナブは驚く。
そこには以前会ったプラスが映し出されていたが、
その形相は明らかに違っていた。
だが、その前に、コクピットの調整の時にずらしたのだろうか?
カメラはシートに座るプラスの顔を右半分消していた。
(気付よ。)
マナブがそう即座に思ったとき、L−seedの瞳から見た景色がマナブの脳裏に浮かび上がる。
Kaizerionのガイア・グスタフが構えられ、
エネルギーを発射する時の青い光が見える。
「不味い!!!」
カメラの事はさておき、
マナブは兎に角L−seedの体を寝かせる。
それと同時に自分の上に凄まじいエネルギーの塊が通過するのを感じる。
「く!!」
背中にいきなりライターの火をつけられたみたいな熱を感じる。
素早く開いていた翼を背中で交差させる。
背中の女と共に剣が隠れていく。
「これ以上!!俺の獲物はやらねぇ!」
モニターの中ではプラスが相変わらず右半分で吼えている。
その怒りを現す形相も半分になってしまっている。
その叫んだ内容にマナブは心のどこかでクエスチョンマークを浮かべる。
「獲物?」
マナブの脳裏にプラスの言葉だけが残る。
全ての状況を考えるとき、その対象として上げられるのは、
L−seedの足下、自分の足下に累々と並ぶ、「敵のArf」だけである。
「許さねぇ!!」
何を一体許さないと言うのだろう。
L−seedから戦闘をふっかける前までは、
曲がりなりにも同じ敵を倒すモノとして仮初めの同盟を結んでいた二人である。
L−seedが倒したArfの恨みと考えることは難しかった。
第一に、
「俺の獲物」
この言葉の理由には全くならない。
「くぅ!!」
コクピットの中で唇を噛みしめてマナブは呻く。
(まさか・・・)
手に伝わるデッドオアアライヴの感触が妙に冷たい。
人間、怒りかけるとき、体温が一瞬冷たくなってから上昇する。
L−seedが音もなく立ち上がる。
翼が一度だけ大きく羽ばたいて、辺りにシオンの音楽を聴かせる。
その音楽をも飲み込む声がL−seedの前方で発せられる。
「くらえぇ!!」
プラスの掛け声にも似た怒号はKaizerionに正しくLINKして伝わる。
拳を握りしめたKaizerionが凄まじいスピードで倒れているL−seedに向かっていく。
腰に付けたビームサーベルは抜かない。
間合いを詰め一気に勝負を賭ける。
その時、ようやく、マナブに一つの結論が導き出される。
しかし、それはあまりにも理不尽で、それはあまりにも戦場では不条理で・・・・
ある理不尽な理由で何かされているとき、
特に攻撃をされているときなど人間は自分でも思いも掛けない行動を取ってしまうモノ。
俗に言う「逆ギレ」と言うモノであるが、
この戦場という人間が本来の人間の姿に戻る特異な場所ではそれが顕著に見られる。
マナブにも、そんな時がある。
目の前のプラスもそれに近い状態なのだから。
熱が伝染したのかも知れない。
暑苦しいまでに熱い、「熱」が。
「何を?!いけません!!!」
サライが止める間もなく、マナブは回線を開いてしまう。
サライの声など、マナブの耳には届いていなかったに違いない。
Kaizerionのガイアグスタフが、
エネルギーが完全に満ちていることを思わせる光を漏らしていた。
砲身の一部がゆっくりと回転して、まるで呼吸をしているかのような水蒸気を吐き出す。
「ふう・・・」
サライのため息がそれに重なった。
**********
「待てよ!!!」
先ほどまで何も映らない画面であったのが、
いきなり言葉と共に光が映る。
さすがのプラスも驚いて一瞬ではあるが、怒りを忘れる。
肌色の帽子がちょっとずれた。
そこに現れたのは、自分と同じように制服ではなく、
ジーンズのジャケットと青系のシャツを着ている男。
歳は自分と同じくらいには見えるがもしかしたら上かも知れない。
やぼったいパイロットスーツを着ていないところと同じ黒髪が、
プラスに幾分かの親近感を持たせる。
「おまえが・・・」
何か言おうとしたプラスを遮り画面の中でマナブが叫ぶ。
「さっきから、獲物を盗ったとか言っているが、ここは戦場だ!戦うのは当たり前じゃないのか?!
まして、一応共通の敵のはず?!なに言ってるんだよ!!!」
いきなり逆ギレをされて、さすがのプラスも一瞬言葉を飲み込む。
そんなプラスにマナブはずっと気になっている事を言う。
「それと!
カメラ直せよ!!」
プラスはマナブの後半の言葉の意味を理解していたのだろうか?
それとも前半の言葉だけしか聞いていなかったのだろうか?
マナブの言葉に運動不足のストレスを思いだし、
見事にプラスらしい言葉で言い返す。
「じゃ、闘わせろ!!!」
何が「じゃ」なのだろうか?
プラスの訳の分からない言葉に、
マナブの熱くなった頭は冷や水を被せられたように一気に冷める。
「お、おまえ・・・ホントに分からないな・・」
出会いから今までの彼の言動を考えれば考えるほどに理解が不能になっていく。
実際の所、プラスの思考は非常に単純で非常に明快なのだが、
それがあまりにもそうであるために、通常の人間が理解する為にはそれ相応の時間を強いる。
あの女整備工ユノ=ウェイでさえも、
慣れるまでに結構な時間が掛かっている。
ちなみに未だに理解はしていない。
マナブの中の思考を無視して、
欲求不満が高まったプラスはコクピットのレヴァーを思い切り引く。
「行け!!ガイア・グスタフ!!!!」
ズギュウウウウウウウウウウン!!!!!
光を糸のようにまとめ上げて造った帯。
それがガイア・グスタフが世界にもたらす物。
凄まじい量の光がL−seedの真っ正面を捉える。
しかし、
一瞬早く、L−seedは思いっきり横に飛び抜ける。
光の帯はそのまま、それに捕らえた物を燃やしながら、
L−seedの後を追うようにして動く。
けれども、その軌跡は充分に予想できる動きしか見せれない。
L−seedは軽く、逃げる。
最初から完全に外れたところに逃れたから。
ひとえにそれは最初のプラスの言葉、
『行け!!ガイア・グスタフ!!!!』のおかげ。
L−seedを軌跡に重ならないように動かしていくマナブ。
そして唐突に光は集束し、消える。
残ったのは破壊され尽くした基地。
修理も出来ないほどに溶かされたArf。
原型を止めていない施設。
第9EPM基地の破壊
プラスの任務は見事に彼の手によって果たされた。
「ふぅ。」
何となくマナブはため息をもらした。
**********
マナブとプラスの闘いがまさに始まろうとしたとき、
第9EPM基地から幾分離れた地点でその会話は行われていた。
「隊長。第9EPM基地からの連絡が絶えてから30分経ちました。」
幾度ものコールを送ったが、それに対する返事は無い。
「ああ、そうか。」
「最後の連絡では、既に壊滅状態にあると言うことでした。」
緊張は隠せないが努めて冷静な声で隊員の一人が報告する。
「やはりか・・・最近のArfテロリストは格が違う。」
φのマークが鮮やかな戦闘服を着た隊長は眉を顰めて言う。
独り言のような声音に隊員の誰もそれに対しての意志表示は無かったが、
それはこの隊全員の意志でもあった。
ただ彼らは幸運でもあった、
戦場に於いての幸運を「生存」、不運を「死亡」とするならば。
正確に言えば、幸運を選べる選択肢が与えられていた。
彼ら「第9EPM基地所属φ正規軍Powers部隊」は、
演習のためにほんの半日ほど基地を離れた。
L−seedが倒したWachstumたちは、この基地を守るものではなく。
新規投入されたPowersの調整も兼ねたこの演習が終われば、
別の基地へ移送される筈のものだった。
彼らPowers部隊が演習を終えて基地へ戻ろうとした時、
「L−seed襲撃」の報を受け取った。
L−seed、T−Kaizerionに襲撃された基地が、
選択肢がほとんど無かった事を考えるならば、
間違いなく彼らは幸運を言える。
だが、結局の所、彼らは「不運」になることを選ぶ。
「逃げる」と言う勇気を持ち合わせていないために。
「隊長。このままの速度ですと、あと37分後には肉眼でも確認できる距離に接近します。」
「このまま進路を変えるな。新型Powersの力を見せてやる。」
拳を握りしめて隊長は強く言う。
Powersの拳がそれにあわせるかのようにゆっくりと握りしめられた。
**********
デッドオアアライヴを持つ手に知らずに力が入る。
先ほどの砕けた雰囲気は既にそこにはない。
あるのは照りつける夏の太陽のようなチリチリとした熱い緊張感。
しかし、二人の心はその緊張感と対照的にまるで雪も降らない静かな冬の夜の如き冷たさ。
Kaizerionのガイア・グスタフは光を失い。
その最期のエネルギーをもう早使い果たしてしまったことを知らせていた。
だが、それは、そこにあるだけで威圧感を持つ。
紅い巨大な砲身は、それだけで凶器なのだから。
緊張感が徐々に高まっていく、頂点を目指して。
何故こうなってしまったのだろうか?
ただ敵か味方かの曖昧な線引きが二人をこうして対峙させている。
そして、曖昧な理由と状況が。
二人ともそれを望んではいなかったはずなのに。
それを悩む二人ではなかった。
少なくともマナブにとっては、
そうでもしなければこのKaizerionを駆る男の事を理解できないように思えたのだ。
それはマナブの中に流れる血の予感でもあったのだろう。
何故ならプラスの中に流れる血も、マナブとの清廉な闘いを望んでいたのだから。
まだ、その意味は二人には分からないだろうけれども。
モニターの中でプラスが少しばかり微笑んだ。
そこには「獲物」を盗られて激怒する姿はない。
むしろこれから起きる闘いを喜んでいるようだった。
ただ、それはあまりにも無邪気で、生きるか死ぬかの戦闘をすると言うよりも、
何かのスポーツの試合をするとでも言うような感じに見えた。
「俺は
プラス=アキアース。
おまえの名前は?」
ずれていたカメラをくぃっと手で直して、プラスは尋ねた。
「マナブ、
マナブ=カスガ。」
シオンの羽根が奏でるシンフォニーと大火力のブースターが吼える音が、
まるで賛美歌の始まりのように聞こえる。
**********
作戦室に響く二人の名前。
メルとヨウが不安そうに少し後ろを振り返る。
サライはその表情を崩さぬまま、まるで音楽を聴くように目を閉じて聞いていた。
もうサライは止めようとしてはいなかった。
マナブに全てを任せるつもりだった。
それはヴァスの意志と言うことでもある。
例えこの事実がこれから不利に働いてしまったとしても。
Justiceはこの邂逅を許した。
「ふぅ。」
サライは目を閉じたまま、困った物だと可愛らしいため息をついた。
**********
それは青よりも「蒼」い。
周りの青の中で、「蒼」はただ直立不動のままでいた。
両肩から伸びる鎖の先は土に埋まり、
その「蒼」は海草のようにゆらゆらと前後左右に揺れている。
戦場でさえ異質であるはずのそれは、
この時はまるで青の中を泳ぐ一匹の魚の如き自然さと弱さを見せていた。
それがこの蒼の本質、
そして、その中にいる一人の青年の本当の姿なのかも知れない。
そう思えた。
ピーーーー!
この音が彼を引きずり出すまでは。
彼の心の一番底をうっすらと覆っている本質を。
「現在、第9EPM基地で交戦中のT−Kaizerionの援護。」
そこにはその一文と共に、
一機の紅いArfの姿が映し出されていた。
青が支配するコクピットの中で青年の黒い瞳はその中に紅を宿す。
それは、Kaizerionの紅なのか?
それとも・・・・・・
青い髪の隙間から黒の中に紅が燃える。
**********
ヒュン!
空気を裂いて、漆黒の棒が振り下ろされる。
紅い風は、その風という名が示すとおりに、
その棒の横をすり抜けていく。
今まで幾体もの兵器を破壊してきた「デッドオアアライヴ」を、
Kaizerionは容易くかわした。
しかし、L−seedの方もそれは予想できたことだったのだろう。
地面に着くか着かないかの所で、それは一気に横に凪ぎ払われる。
グオオオオン!!
唸りを上げ右側から迫る凶器に、プラスは少しばかり笑みを浮かべる。
「ミョルニル!!」
既に振りかぶっていた左手からミョルニルを投げると、
つま先を地面にトンっと着いて、後ろに蹴り下がる。
その瞬間、Kaizerionがいた場所に漆黒の風が吹き抜けた。
何トンものの重量をまるで感じさせない驚異的な身のこなしだった。
チチチチチチチッ!!!
Kaizerionのボディをデッドオアアライヴが掠る。
青い火花がその軌跡を見せる。
「ギリギリか・・・」
プラスがモニターに映し出されたKaizerionの外装ダメージを見て呟く。
二人の間の回線は繋がったままなので、
その声はマナブに届く。
「ミョルニルが無ければ、直ぐ突きに変えていたのに。」
マナブは少し目を見張りながら言った。
カシッ!
回転して戻ってきたミョルニルをKaizerionが受け止める。
「何か楽しいなあ、マナブ。」
プラスが本当に楽しいと言うような笑みを零して言う。
「そうかもな。」
マナブは口元を引き締めてそう言う。
「今日は手加減無しで頼むぜ。」
ミョルニルを閉まって、左手をゆっくりと握りしめながら頼む。
「・・・・・した覚えないけど。」
マナブも右手をギュッと握りしめながら返事をする。
その瞳は嘘を付いているとは思えない。
最初に動いたのはKaizerion。
踵からつま先へと順番に体重を移動して、
つま先に乗った瞬間、それを大地に力としてぶつける。
大地はその身をえぐらせながらも、Kaizerionに同じ力を返す。
それは前進する力となり、Kaizerionは一気にL−seedに突進する。
重いガイア・グスタフは肘を折り曲げて右肩に乗せられている。
左手を腰に当てた状態で間合いがどんどんと縮まっていく。
L−seedもそれに答えるべく、
左手のデッドオアアライブを胸の前に水平に差し出して、
その右手を腰に当てて力を溜めている。
あと数十メートルで両者の拳の間合いに入ると言う時。
L−seedの左手首がくぃっと回されて、手のひらの方が上に向く。
そして、持っていたデッドオアアライヴも横から縦に変わる。
つまりつまり先端がKaizerionの方に向くようになった。
しかし、それはプラスの前ではあまりにも児戯である。
「甘すぎるぜ!!緊急制動準備!!!」
そう言うとプラスはスピードを落とさずに、
デッドオアアライヴの先端を自分の腹部に当たるように進む。
トンとそんな音がする感じで、
デッドオアアライヴの先端がちょうど腹部にさわった所で急激に停止する。
その瞬間、、デッドオアアライヴのその先端の一点から青白い刃が現れる。
「!!」
マナブは目を見開く。
青白い刃は確かに現れている、現れているのだが、
それはKaizerionの体を貫くことが出来ず、
デッドオアアライヴの先端からまるで花火のような綺麗な火花が散っている。
シオンの火花。
**********
「ほほう。オリオンの強度極まれり・・・じゃな。」
ヨハネが感嘆の声を上げる。
生半可な、いや、それなりの純度のシオン鋼でも、
容易く貫くことが出来るはずのデッドオアアライヴの高温の刃。
それをこの紅いArf、T−Kaizerionは受け止めきっている。
「でも・・・・痛くないのか?」
ヨウが率直な感想を漏らす。
火花が散っていると言うことは多少でも削ってはいる筈である。
「感じてないでしょうね。」
サライがあっさりと言った。
「え?」
今度は同じ感想を持っていたメルが声を漏らす。
サライは答えることなく、モニターを指さす。
そこにはプラスのコクピットの中の様子が映し出されていた。
少しその中の様子を見た二人は、直ぐに言う。
「ああ、そうなんだ・・・・」
それは感心とも、呆れとも取れる声だった。
少し残念な感じでもあった。
「はっくしょん!!!」
盛大なヨハネのくしゃみがそれに続いた。
**********
「行くぜ!!下ろせぇええええええええ!!」
プラスはそう叫ぶと、右肩に乗せていたガイア・グスタフを振り下ろす。
ギィイイイイイン!!!
巨大な銃身は、そのまま巨大なハンマーとなり、L−seedの肩を叩く。
折角溜めていた力も、
肩を上から叩かれたために抜けてしまう。
「くぅう!!」
マナブが肩に掛かる重みに思わず呻く。
それに対して、未だ青い火花を腹部で散らしているプラスは、
何の痛みも感じていない。
「そんなんじゃ、俺には勝てないぜ!」
プラスは笑いながら言う。
しかし、突然。
「あちぃ!!!」
デッドオアアライヴが装甲を貫き始めたのだ。
思わず腹部を押さえるプラス。
LINK%が低いのが幸いした。
中のプラスの動きをKaizerionは少しもトレースしようとしない。
「ちぃ!!」
プラスは左手で下から上へとデッドオアアライヴを叩き外す。
その際、当然の事ながら左手首に青白い刃が現れる。
腹部よりも装甲は薄いのだろう。
「アチチチ!!」
今度は直ぐにプラスも熱さを感じる。
最も普通のArfに乗るArf乗りであれば、死に至る程の激痛の伴うものではあったが・・・
この時、Kaizerionは体をがら空きにしてしまっていた。
L−seedはそこを見逃さない。
腰の回転で力を倍加することは出来なかったが、
一撃を完全に無防備の腹部に叩き込む。
それと同時に、乗せられているガイア・グスタフを横に滑らせて、
その場から離れる事に成功する。
ゴン
ガイア・グスタフが地面に落ち、
Kaizerionは少し前のめりになった。
「間合いを切られた・・」
プラスは唇を噛んで呻く。
「プラス・・・何かの拳法をやっていたみたいだな。」
マナブが少し息を荒くして尋ねる。
対照的にプラスは息一つ切らしていない。
「ああ!多分、おまえが知らないほど強い奴を。」
プラスが親指を立てて答える。
(・・・俺も・・・)
マナブは心の中でそう呟くと、ゆっくりと息を吸い込んで止める。
デッドオアアライヴを後ろにやる。
白い手が現れ、それを受け取ると直ぐにレヴァンティーンを差し出す。
それはまるで洗練された動きで無駄がない、
このL−seedと後ろの女は決して短くない時を一緒に過ごしている男女のようだ。
「全く二人掛かりは卑怯だぜ。」
少しもそんなことを思っていない顔して、
プラスはマナブに嫌味を言った。
マナブはその言葉に返事は返さず代わりに言う。
「おまえ・・・・
もの凄いマニュアル操作だな。」
それはからかいとか嘲笑とかを完全に通り越した感嘆。
先ほどの操作をプラスは、
凄まじい動きでレヴァーを引いたり押したり、
ボタンを押したり、何かを引っ張ったり、声に出して認識させたりで行っていた。
対するマナブがほとんど動いていないにも関わらず・・・・
最もそれでなお、二人の息の上がり方があのようであったのは、
やはりプラスの凄さを物語ってはいた。
あまり自慢にならない物語だけれども・・・・・
**********
「先ほど、Kaizerionのパイロットはアキアースと言いましたよね?」
サライが横に立つヨハネに尋ねる。
しかし、その視線は肌色の帽子を被った青年に釘付けのまま。
「ああ、確かそんな風に言っていたなぁ。」
あまり緊張感が感じられない声でヨハネが答えた。
多分、風邪で眠いのだろう。
「アキアース・・・」
サライはそう呟いたっきり黙り込む。
「どうした?」
ヨハネの問に答えることも無く。
**********
「隊長!!見えました!」
L−seedとKaizerionが闘っている場所より、ほど近くで一人の兵士が声を出す。
φの紋章が綺麗に制服に刺繍されているのが、薄暗いコクピットの中でも分かる。
「どうだ?!!やはり・・・」
それを受けてこの部隊の隊長は、先行するその兵士に何か言おうとするが、
その言葉を継ぐようにして、彼は隊長の望まぬ答えを言う。。
「やはり、L−seedと紅いArfです!!
あの巨大な銃で攻撃されたのでしょうか?
基地施設のほとんどが破壊されています!!!」
その声の後半は叫びにも近い。
「くそ!!連絡が絶たれてから、まだ一時間と七分!!なんてやつらだ!!」
ガン!とモニターを叩く。
Arfの視点から隊長の脳裏にもその様子は浮かぶ。
つい一時間前、自分たちが出てきた基地は、
その面影を完全に失っていた。
銀色に輝いていた基地、
そして、そこにいたであろう仲間達の元気な姿を。
「全員、潜行しろ!海中よりの奇襲を行う。遅れるな!!!
これは演習じゃない!気を引き締めて行け!!!」
隊長が檄を飛ばすと、
彼らは一斉に海に潜っていった。
海の中から半分顔を出した状態で基地に近づいて行く。
さすがはφ正規軍と言ったところだろうか?
彼らの駆るPowersにはステルス加工がされていた。
ただ、動力部の熱だけは抑えることが出来ない。
だから、彼らは海中に潜りながら、その体温を抑えつつ、
L−seedとKaizerion、両者への接近を試みる。
**********
(飛び道具が使えないって言うのがきついな・・・)
マナブは唇を少し噛む。
握りしめたレヴァンティーンの感触がL−seedから伝わってくる。
けれども、武器を持った安心感はあまり無い。
「これが闘い。」
マナブはモニターをつなげたまま呟いてしまう。
あの檻を使われたレルネとの戦いを思いだし、
その背中は冷たい汗で濡れる。
あれが初めての「戦闘」であったことをマナブはいまさらながら知る。
かつてヨハネが自分に言った台詞。
「おまえはまだ、自分の命を賭けておらん。」
だが、直ぐにマナブはその前に言われた台詞を思いだした。
「おまえは今、弱いモノをいじめた・・・・そんな後味の悪さを感じているんじゃ。」
「ヨハネ。この相手には感じない。」
マナブの瞳に罪悪感は無かった。
それが正しい事、良い事なのかは別にしても。
**********
「なんじゃ?」
マナブの言葉に、ヨハネが首を傾げる。
**********
ヴァサアアアアアアアア!!!
L−seedの翼が開く。
それと共に、あのいつものシオンがお互いを触れ合う綺麗な音楽が流れる。
「来るか?!」
プラスがモニターの中で喜色が混じりながらも顔を引き締める。
真紅の剣を持つ青白き堕天使は、正に死を呼ぶ存在に見える。
プラスにもらしからぬ、恐怖が少し芽生えていた。
だが、彼はそれを抑え込む。
スピードに乗ったL−seedが接近する中、
左手でビームサーベルを抜きながら言う。
「やっぱ、実剣は格好良いよなぁ。」
ぎぃん!!!
そんな感じに熱で空間が歪む。
二つの剣が真っ正面からぶつかり合う。
いや、真っ正面ではない。
寸前、プラスが手首を返す。
レヴァンティーンが縦の動きなのに対して、
ビームサーベルは突きの動き。
レヴァンティーンがビームサーベルの光の刃を真っ二つにして行く。
まるでバターを熱したナイフで切るように。
ギィンンンンンンンン!!!
「ぐぅうううううううう!!!!」
凄まじい音とプラスの呻きが合わさる。
ギィン!!
一際金属と金属が触れ合う音がして、レヴァンティーンの動きが止まる。
レヴァンティーンはビームサーベルの柄の部分で受け止められていた。
「あぶねぇ・・・」
プラスは引き締めた口からそう漏らす。
「く!!」
マナブの手にL−seedから伝わる痺れが生じる。
だが、それは右手だけだ。
右手で剣を持ったことに意味はないのだろう。
マナブはL−seed最大の武器を使えずにいた。
だが、ただ考え無しでいた訳ではない。
右手に痺れが来るよりも前に、
その左手は既に背中に向けられていた。
白い手が繊細な仕草でデッドオアアライヴを渡す。
ヒュウン!!!
それは白い手から離れるか離れないかの内に、
真っ直ぐ振り下ろされた。
そこには無防備なKaizerionの本体がある。
「なる・・・ほどね!!」
プラスはそう言ったかと思うと、
Kaizerionはビームサーベルの柄の部分でレヴァンティーンをくっと抑えながら、
そこを支点にしてくるりと後ろに回転する。
一瞬の出来事に見えた。
デッドオアアライヴが振り下ろされようとした時、
そこには既にKaizerionはいない。
グサ!!!
デッドオアアライブが地面に刺さるのと、
L−seedの右横からKaizerionの円運動で力を得た空のガイア・グスタフが、
遅れながらも空気をうち破りながら、
巨大なハンマーとして突っ込んでくるのが同時だった。
グオオオオオオオオオン!!!!
「ぐうう!」
さすがのL−seedも平気では居られない、当然中のマナブも。
横殴りされたそれは、L−seedの脇腹より少し上を直撃、
広げていた翼も幾分か折れてしまっている。
L−seedは、マナブの呻きと共に吹き飛ぶ。
デッドオアアライヴが地面に刺さりながらであった為に、
地面にはまるで地震であったかのような地割れが出来る。
「ミョルニル!!」
プラスが叫ぶ。
本来であればガイア・グスタフで止めを刺すところだが、
いつものようにそれら貴重な三発は既に使用済み。
弾数を覚えていただけプラスを褒めてやっても良いだろう。
「!!」
モニターから聞こえた予告に、マナブはL−seedの飛翔を思う。
ドーーーン!!
そんな音がするような勢いで、(実際にはそんな音はしないが)、
L−seedは倒れかけていた体勢から空中に舞う。
「その体勢から、飛ぶのか?!」
プラスはさすがに驚いていた。
下から金属の鈍い光を発して、巨大なハンマーが追いかけてくるが、
L−seedはレヴァンティーンを落として空になっていた右手でキャッチした。
少し暴れる素振りを見せたが、L−seedの手の中で直ぐに大人しくなる。
「盗られたか。」
プラスはそう言いながら、足下に転がるレヴァンティーンを拾う。
「やっぱ、これ格好良いぜ。」
紅く光る剣を高々と天に掲げるとプラスはそう言う。
その顔はまるで子供みたいに嘘がない笑顔に見えた。
**********
「やりますね・・・あのパイロット。」
ヨウの目は大きく開いていた。
「前回、戦ったときより強くない?」
メルもヨウと同じ目をしながら、スクリーンから目を離せずにいる。
「あやつ・・・闘いの中で輝きおるなぁ・・・」
ヨハネはまるで興味深い実験をするとき見たいな好奇心の塊のような瞳で言う。
「・・・・・・・」
サライは、三者の言葉をまるで意に介さず、
そして、作戦室でのざわめきすらも聞こえていないような顔、
非常に落ち着いた顔でスクリーンを見ていた。
「・・・・・・ん・・・・・」
何事か言おうとしたが、その言葉は紅い唇の門を出ることは無かった。
**********
「つ・・」
マナブは右脇から来る痛みに幾分顔をしかめる。
L−seedの強固なボディをもってしても、かなりな一撃。
マナブの右脇はおそらく青あざが出来ていることだろう。
そこは奇しくも、あの「月読」のホウショウ=アマツカが付けた傷の上でもあった。
「あ、あの子・・・元気かな。」
マナブは場違いな心配をすると、それに伴う思い出を記憶に沈める。
淡い緑の思い出、エメラルド色の思い出を。
マナブは頭を振ると前を見た。
Kaizerionはブースターを吹かして既に飛び上がり、
L−seedに一撃を加えんと振りかぶっている。
「Kaizerionって、言ったな。それ。」
モニター越しに指さして、マナブは尋ねる。
「ああ、T−Kaizerion。俺の相棒だ。」
プラスがマナブの問に明るく答える。
「良いArfだ。」
マナブがそう言ったと同時に二体はぶつかり合う。
ガキイィイイイイン!!!
ミョルニルとレヴァンティーンが激しい音を響かせてまみえる。
マナブの手に初めての感覚が宿る。
レヴァンティーンの硬さ。
そして、瞳に鮮やかに映る真紅。
いつもと違いそれは、自分の命を脅かす存在であり、
その事はレヴァンティーンをマナブに武器としてはっきりと認識させる。
武器が一番美しく見える時だ、
いつもよりもマナブには美しく、恐ろしく見えていた。
「・・・・良い武器だ。」
マナブはミョルニルを両手で支えて、レヴァンティーンの一撃を受け止めながら言った。
生半可の武器であったならば、
レヴァンティーンによってL−seedは武器ごと切り裂かれていたことだろう。
ミョルニルの強さが幸いした。
「だろう?」
プラスが唇に笑みを浮かべて言う。
それはお互いに違った物を指した言葉だったが、
二人はそれに気付くことは無かった。
**********
「レヴァンティーンにもあのミョルニルみたいな、遠隔装置を付けておくべきだったのう。」
ヨハネが苦笑いしながら言うと、
直ぐにサライが答える。
「中を空洞にするのは賛成できないわ。柄も剣も。」
「まあな・・・装置を付けるとなるとそう言うことになりおるな。無理か・・・・」
鼻をぐしゅぐしゅ言わせながらヨハネが一人ごちる。
「ええ。」
サライはティッシュを差し出して答えた。
**********
二人がゆっくりと次の攻撃の機会を伺っていたとき、
唐突にそれは起きた。
ドシャーーーーーーン!!!
凄まじい水しぶきがあがる。
「鯨にしては大きいなぁ。」
プラスが基地から少し離れた海に出来たそれを見て呟く。
次の瞬間、水中から何機もPowersが飛び出してくる。
その様子はまるで鮫に追い立てられる魚だ。
「潜んでいたのか?!!」
マナブは慌ててレーダーを確認する。
そこには先ほどまでは無かった筈の光点が幾つも浮かんでいる。
彼らはどうもある一点を中心にして逃げているようだったが、
その中心には何の反応も無い。
マナブは不思議に思いながらも、
L−seedの持ったミョルニルで彼らを指して言う。
「プラス!!獲物じゃないか?」
ザッシュウ!!
マナブが言うか言わないかの内に、
プラスはレヴァンティーンをL−seedの足下に投げるとそちらに向けて発進していた。
「マナブ!ミョルニルを投げてくれ!!!」
彼の頭の中には、既に
マナブ=ライバル、
L−seed=味方。
の構図が出来ていた。
「・・・」
マナブは自分らしくない行動を取っていると思いながらも、
ミョルニルを飛んでいくKaizerionに向かって投げる。
(・・まあ・・こんな日があっても良い)
フィーアのおかげであることを理解していないだろう、マナブは。
彼の心に余裕を産み出し、
生と死の狭間でいつも苦しんでいた彼を、
幾分
優しくさせたのが、
誰なのか。
**********
「T−Kaizerionの援護開始します。」
海の中の孤独に我慢できないように、トルスは言葉に出して作戦の開始を告げる。
既に発射されたミサイルはφのPowersに激突している。
両肩の滑車に付けられた扇風機のような羽根の奥からそれは出ていた。
連続的に続けられるミサイル発射は、
相手の反撃を許さない。
第一に彼らにはトルスの、70−Coverの居る場所を正確には知ることは出来ないだろう。
「そこら辺にいる。」
それぐらいでしか。
だが、トルスには彼らの動きが手に取るように分かっていた。
水の中にいる限り、70−Coverの瞳、ソナーから逃げることは出来ない。
「随分と簡単な事だな・・・」
トルスがあまりの手応えの無さに呟く。
最も敵が弱いのは大歓迎だったが。
第9EPM基地がほとんど破壊されていることは、
70−Coverのレーダーから十分知っていた。
残念ながら、70−Coverのレーダーを持ってしても、
Kaizerionの正確な動きを見ることは出来なかったが・・・・・
・・・自分と同じタイプのArfであればそれも当然と思っていた。
自分はそこにいるであろうKaizerionの前に姿を見せずとも、
ここで来るであろう増援を撃てば良い。
アーク・プロジェクト用に創られたArf。
トルスは自分の以外にもそれがいることに驚きは見せない。
以前に会った黄金のArfの時と同様に冷静であった。
もっともその時はL−seedの「変化」を目の当たりにしてしまって、
それどころではなかったのだが・・・・
実際、トルスは他に同じ目的のArfがいることは大歓迎。
自分が戦わなくてすむから、
それだけの理由で。
青が支配するコクピットでトルスは髪を掻き上げて、レヴァーを握る。
トルスは第9EPM基地で先ほどまで演じられていた、
蒼と白の堕天使対真紅の風の闘いを知らないでいた。
「行くぞ。ルサールカ射出。」
ルサールカが海中から逃げ出したPowersの後を追って発射される。
(・・勝てる・・)
トルスは安堵の笑みを微かに浮かべる。
**********
「待て待てぇ!!!」
プラスが雄叫びを上げて突き進む。
海面がその風圧で真っ二つに割れて行く。
海中の何かに追われてまた二体逃げ出してくるのが分かる。
ヒュンヒュン!!
Kaizerionの後ろから回転しながら迫るミョルニルをプラスは確認するまでもなく、
絶妙なタイミングで横にかわすとそのまま回し蹴りを放つ。
「行けぇ!!ミョルニル!!!!」
ミョルニルの頭をスピードを殺さずに増すようにして蹴り出す。
L−seedの投げた力にそれが加わり、回転ではなく直線の動きで突き進む。
ガーーーン!!!
海中から出た瞬間に、
一体のPowersはそれの直撃を受け、
その腹を巨大な何か食い破られたような穴を空けて爆発する。
呆気ない、あまりに呆気ない。
「ひぃ!紅い・・・」
もう一体のパイロットも死が3秒くらい違っただけだった。
海中から出たとき、
真紅の巨人は既に二度目の回し蹴りのモーションに入っていた。
上から下へと突き刺さるような正確な回し蹴りが、
Powersの頭部へと決まる。
頭が凹み、それに釣られて両手が一瞬ぶらりと上がったが、
その様子は直ぐに海の中へ入ってしまって見えなくなった。
沈んで直ぐに水しぶきが起きる。
**********
(モグラ叩きみたいだったな・・・)
マナブは基地に立ってKaizerionの戦いにそう感想を持つ。
「マナブ様、お怪我はございませんか?」
さすがにサライもマナブに戦いに行けと言う命令を出さず、
戦闘中にしては珍しく気遣いの言葉を掛ける。
「ああ、大丈夫。・・・・・・・・・・・あいつ、強い。」
最後の方は誰に言ったわけでもなかった。
「ええ。」
サライは答えをマナブが望んでいないとは分かっていたが、そう答えた。
**********
バッッシャーーー!!!
「危ねぇ!!」
プラスはそう叫んで、Kaizerionの体を捻らせる。
Powersが先ほど沈んだ場所から、何か鎖につながれた物が現れた。
「あれは!」
マナブがモニターの中で驚きの声を上げる。
「知っているのか?!」
プラスは鎖をガシィっと掴むと尋ねる。
「おまえと初めて闘った後に会ったArfだ。黄金のArfも一緒にいた。」
プラスに問われるままに言う。
「黄金の?!Dragonknightのことか?」
出撃する前に出会ったArfとセインと名乗るサングラスの男を思いだす。
「ドラゴンナイト?!!」
マナブがその名前に少しひく。
あの格好良い容姿からは、ちょっと想像したくない名前。
「そんな顔をするなよ。・・・・でも確かにそう言っていたぜ。」
プラスは気持ちは分かるがと言った感じでフォローする。
ふ〜んと海中の中をプラスが覗く。
その瞬間、
「うわ!!」
がくんとKaizerionが傾く。
ぐぐ・・と鎖に力が入る。
どうやら戻しているらしい。
その力は強く、Kaizerionも徐々に海中に引きずり込まれてしまう。
最初、抵抗していたKaizerionであったが、唐突に力を抜いて海中に没する。
モニターの中でプラスは親指をびしっと立てると、マナブに言うのだった。
「ちょうど良い!!Dragonknightの仲間なら、こいつも俺の仲間だ!
マナブ、おまえの仲間だよ!!」
Kaizerionが引かれるままに海中に沈んでいく。
(一緒にいただけで仲間とは限らないんじゃ。)
マナブはプラスの言葉に疑問を感じつつも、
プラスの様子を見守ることにする。
幸運な第9EPM基地の正規軍は、この気に乗じて戦域を離脱していった。
もっとも隊長機を含めた半数以上は、謎の海中からの攻撃で失われていたのだが・・・・
**********
(ルサールカの先に何か付いている?)
トルスは巻き戻すルサールカの先端に違和感を感じる。
Powersを追いかけた筈のルサールカからは何の手応えも無かった。
ただ、爆発の熱を感じていた。
(残骸でも引っかかっているのか?)
ぐるりと回したルサールカ中心の「瞳」から見えた物。
「うわ!!!」
トルスらしからぬ声をあげる。
真紅の巨人、Kaizerionが覗き込んで居るではないか。
援護する立場にいる者が、何故ここにいるのか?
トルスは理解できないで居た。
ピーー!
特殊な周波数の回線公開許可を求めるものが来る。
それは間違いなくKaizerionから発せられている物だった。
「おい!顔ぐらい見せろよ!!」
戦闘に似つかわしくない脳天気な声が、70−Coverのコクピットに響いたのは、
その直ぐ後のこと。
青しか無かったコクピットに、熱い光が射し込む。
蒼と紅が出会う。
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