「偽りの命令は優しさの証」
Divine Arf
− 神聖闘機 L−seed −
第二十二話 「One for Six」
「こいつは・・・・・」
レイアルンは、そこにある光景の全てを理解して呟いた。
燃え上がる炎。
それは通常の火ではない、
Arfが燃えるときにのみ現れる煌びやかな炎の宴。
『Arfは散り際も美しい・・・・・まるで天使が産まれる瞬間のように。』
これは現φ総帥ルシターン=シャトの言葉である。
そしてその炎の宴の中心にそれは立っていた。
「うわぁ!格好良い!!」
ホウショウのはしゃいだ声が、レイアルンのコクピットに・・・・・
そしてそこにいる全てのEPMのArfに響く。
「ホウショウ!!」
慌てたようなカイの声が後から続いた。
だが、レイアルンはホウショウの言うことも最もだと思う。
そこにいた敵は、事実・・・・・・・・格好良かった。
昼間にも関わらず、燃える炎によって照らし出されたArf。
その表面は高いシオン含有率を持っていることを示す、素晴らしい光沢がある。
到着時には開いていたであろう飛行翼は、
既に背から胸の正面に折り曲げられ幾重にも重ねて畳まれていた。
これもレイアルンは初めて目にする収納方法である。
だが、それ以上に彼の目を引いたのは、
巨大な肩のパッド・・・・金色に輝くそれはレイアルンに中世の騎士を思わせる。
今、そのArfは炎の中、一本の槍を持ち立っている。
まるで戦闘していたこともまやかしであったでは?と思わせる程に静かに。
「ホウショウ。」
静かにレイアルンが、月読だけの回線を開いてホウショウを呼んだ。
「たいちょー・・・・怒ってるの?」
ホウショウのおずおずとした声が聞こえてくる。
どうやらレイアルンの静かな声を怒りの為だと思っているらしい。
だが、それは違う。
「ホウショウ、LINKアップを頼む。」
レイアルンの駆るSusanowoのモニターにホウショウの驚く顔が浮かぶ。
LINKアップ。
それはおそらくこの世でホウショウ=アマツカだけが出来る能力。
ホウショウの知る者が駆るArf、
もしくは知るArfのLINK%を上昇させることが出来るのである。
Arf、いやシオン鉱石の原則は、
人の手が加わったとき「人型」でしか安定せず、
なおかつ最も近い位置にいた人間の行動をトレースする。
これは現在のArf界の不文律であり、絶対である。
だが、それがまだ絶対的な事と信じられていなかったとき。
当然の事だが、
人が乗らずともArfを稼働させることが出来るのではないか?
と考える者たちがいた。
それこそが
LINKフリーシステム計画
通称「エメス」
忌まわしき実験、悲しき結果を産み出した計画。
レイアルンが月読の部隊へ招くまで、
ホウショウ=アマツカは、そこで生まれ、生きた。
彼女は唯一の成功例・・・では無い。
唯一の生存例。
「分かったけど・・・・それなら『兵装解除』した方が力出せるよ?」
ホウショウが了解しながらも、不思議そうに尋ねる。
彼女には戦闘の緊張感という物は無いのだろうか?
その様子は、まるで「算数の宿題を計算機でやったらダメ?」と先生に聞いている生徒。
だが、『兵装解除』とは何であろうか?
ただでさえ武器が少ないPowers改が、
これ以上兵装を解除してどんなメリットがあるのだろうか?
強いて言えば、Arfのスピードがアップすると言うことだが、
先ほども言ったとおり、
最初からほとんど無い物を落としてもその影響は微々たるモノのはずである。
では、何故?
ホウショウの問いに対して、レイアルンの代わりにカイが答える。
「ホウショウ、戦闘中は隊長の指示は絶対よ!
今、回りにEPMのArfがいるでしょう?『兵装解除』は出来ないわ。」
アミご謹製の月読用守秘回線を使いながらも、
カイは辺りを気にしながらホウショウをたしなめる。
「は、はぁい!」
カイの声に、ホウショウは慌てて元気良く答えると、
Arfに集中し始める。
それと同時に、レイアルンとカイのLINK%が上昇していく。
それは大幅な上昇では無いが、
レイアルン、カイクラスの人間にとっては確実に戦闘の勝率を上げるサポートとなる。
「今日もみんな調子が良いみたいだよ。」
ホウショウの明るめな声が、レイアルンの耳に聞こえたとき、
目の前の敵が動き出した。
それに釣られるように回りのEPMのArfも攻撃を再開する。
レイアルンのLINK率は、βの上限に近づいていた。
「カイもバックアップに回ってくれ、但し俺が言う前に攻撃はするんじゃないぞ。」
「分かりました。」
カイは簡潔に答えると、ビームガンのエネルギーを横目で確かめる。
**********
「こんな!こんなことがあるか!!
我がEPM軍がたった一機のArfなんぞに!!」
映し出された白と黄色のArfを目にして、
この基地の司令官が唾を飛ばして、イスを蹴り上げながら叫ぶ。
Dragonknightがこの基地に唐突に現れて数刻、
既に被害は全Arfの3/5に達していた。
φの部隊がこの基地に存在しないことも、壊滅を早める遠因となっているのだろう。
司令官の背中に、嫌な汗がベットリとへばりつく。
入念に捏ねた粘土のように、死が絡みつく。
(基地を捨てて退却?)
そんな絶望的な命令を、喉の奥の方に追いやる。
そんなとき、オペレーターの一人が、戦地に識別コードが違うArfを発見する。
「司令!戦闘地域に慰問部隊のArfが出現しています。如何致しますか?」
「な、何だと?!直ぐにモニターに映せ!」
「ハイ!」
司令官の激昂に怯えるようにオペレーターは画面を変える。
そこに映し出されたのは、月読の護衛Arf。
「一体何をやっているのだ!この忙しいときに、あのお遊戯隊があ!!
直ぐに隊長を呼び出せ!!早くしろ!!」
自分の戦況の悪さを転化した怒りが月読にぶつけられる。
「何でしょうか?司令官殿。」
この戦況を理解しているのかいないのか?非常に冷静な声が返ってくる。
それが彼の苛立ちを沸騰させる。
「何でしょうかではないわ!!!
何故、そんなところにいるんだ!そこは貴様らがいるような場所ではない!!!」
「私達がいる場所ではない?ここは戦場ですよ。」
レイアルンは司令官の激昂を軽く流し、努めて明るく答える。
「分かっているなら、そこから早く立ち去れ!!作戦の邪魔だ!!」
視線で殺せるならば殺しているであろう殺気だった司令官の瞳。
「俺達は、これでも軍人です。軍人は戦場に出てこそ軍人でしょう?」
「ちゃらちゃら踊るだけしか脳のない女どもを引率するだけのおまえに何が出来る!
おまえの武器が役に立つのはベッドの中でぐらいなものだろう?」
鼻で笑う司令官の口元がいやらしく曲がった。
レイアルンは、その言葉に少しも表情を変えなかった。
だが、これがレイアルンの最大の怒りであることを司令官は知らない。
「言葉を気を付けなさい!!今の発言は、私達に対する侮辱と取れます。」
カイが横から現れて口を挟む。
実際は侮辱以外の何者でもないのだが、
そこは彼女の精神力の強さで言葉を抑え込んだ。
「フン!慰問部隊の人間に何が出来る!!
早く作戦地域から脱出していろ!まったく・・・」
自分の部下達の不甲斐なさに対する憤りを晴らすべく、
カイに向かっても彼の暴言は収まらない。
だが・・・・
「俺達は、法皇庁直属の部隊だ。あなたの指図は受けない。」
先ほどとは違う、恐ろしいほどに澄んだ声が司令官の言葉を凍り付かせる。
「な!なん・・」
「異論があるならば、法皇庁を通して貰いたい。
その時はきちんと俺も話し合おう。
スプリード卿としてな。」
レイアルン=スプリード、
彼は月読の隊長にして、現法皇ヨナ18世を補佐する枢機卿会の中の一人。
司令官はその言葉に黙るしかなかった。
だが決してその地位の高さに怯えたのではない。
レイアルンの瞳に、彼の心臓はまるで冷たい手で握りつぶされたように収縮していたのだ。
凄まじい殺気を含んだ、その瞳に。
彼は彼の隊員の誰一人でも傷つけるモノを許すことはない。
**********
Dragonknightの右手には白銀で長身の銃が握られ、
もう一方には黒い槍がしっかりと装備されている。
槍は新たに補充されたのか?それとも最初から数本合ったのか?
L−seedを貫いた物とは違うが、その姿形は同じ。
それは魔槍「ゲイ・ボルグ」。
「現時点における攻撃対象優先順位・・・・・・
・・・・EPM軍Arf、EPM軍事施設・・・・」
モニターに映し出されていく名前。
それはセインの死亡予定名簿。
かなり上の方には、ルシターン、ゴート等のそうそうたる名前が書き連ねられている。
そして、もちろん上から三番目に『L−seed』の名前が書き記されていた。
彼をDragonknightのパイロットにスカウトした組織から送られてくるデータに合わせて、
セインは破壊を繰り返す。
ルナがバインの支配から逃れるためには、EPMの力を削がなければならない。
それはルナの者なら誰でも知っている事実、
だがそれを表だって実行に移せない空(ソラ)の人間達。
だから、セインは戦うのだ。
何も思わない≪はず≫のテロリストとして、血も涙も無い≪はず≫のテロリストとして。
チラリと先ほど現れたArfに目を向ける。
月読と登録されているArfの名前は名簿の何処を探しても存在しない。
つまりは敢えて破壊する必要のない程に、無意味な存在として扱われている。
「予定通り、優先順位の上位から破壊する。」
静かだがしっかりとした口調で、セインは自分に言った。
サングラスにEPMのWachstumが、まるで既に破壊されたように歪んで映っている。
Dragonknightが、セインが動きを止めたのには理由がある。
極細で、エネルギーを集中させたビームガン
「ドラゴニック・ブレイズ」のエネルギーの充填の為だったのだ。
急に動きを止めた敵に、
EPMのArfは何の手出しもしてこなかった。
作戦行動の回数も少ない新兵でも無いだろうに・・・・・
彼らは既に「恐怖に喰われていた」。
エネルギーの充填がもう少しであることを知らせるライトの点滅を見つめ、
セインは、レバーを握り直す。
その耳に唐突に飛び込んでくる何か。
「・・・・・・・・・聞こ・・・え・・か・・・・こ・・え・・るか・?・・・・・・・・?・・・・・・」
それは対象物を特定した回線ではなく、
ある一定範囲に無差別に電波を送り、
周波数を微妙に変えながらおよそ全てのArfに向かって放たれたモノだった。
発信源を特定してみると、
それは先ほど無視することに決定されたメタルグレーのArf。
ここはEPMの基地の中、味方同士の周波数が分からないわけがない、
と言うことは、必然的にこの電波はセインに向けられているモノであることが知れる。
だがセインにとって、交渉や取引は意味を為さない行為。
そこに何が産まれるというのか?
戦いの中で生きてきたセインには「言葉」などいらないのだ。
それは戦場では、ただの雑音でしかない。
「・・・・きこ・・・か?・・・・・」
回線を切るためのスィッチを押そうと指を伸ばすセイン。
雑音はしつこく、Dragonknightに届き続ける。
「お・・・の・・前はスプ・・・ド・・・レイア・・・・・・リード・・・・は・・しを・・・き・」
周波数を微妙に変えているので、その言葉の全てを聞き取ることは出来ない。
だが・・・・・指は止まった。
セインのサングラスが、グレーを鈍く反射する。
**********
「聞こえるか?俺の名前はスプリード。レイアルン=スプリード、話を聞いてくれ!」
レイアルンは、他のEPMのArfに聞こえるにも関わらず、
目の前に立つ黄色のArfに呼びかけ続ける。
他の兵士達は、敵の興味がレイアルンに移ることを期待し、若干後退する。
彼らには、もう十分に理解できていた。
このArf、Dragonknightに敵わないことを。
「たいちょー、多分、今の周波数で良いと思うよ。」
ホウショウの声が、月読のみの回線から聞こえたとき、
レイアルンはおよそ兵士らしからぬ、交渉をし始める。
それはカイらも予想だにしない内容であった。
「黄色のArfを駆っている君。
君にはきっとどうでも良いことだろうけど、一応名乗らせてくれ。
俺の名前はEPM軍付属慰問部隊「月読」の隊長レイアルン=スプリードだ。
君に、お願いしたいことがある。」
レイアルンは手応えを感じていた。
あのArfを駆る者が答えを返してきたわけではない。
だが攻撃も仕掛けてこない。
(今のだけで、30秒は稼いだな・・・)
レイアルンは慎重に不必要な間をだと気付かれぬように、
それでいて出来るだけ長い間を取る。
「非戦闘員が安全な場所に脱出するまで、攻撃を待ってくれないかな?」
「隊長!?」
「たいちょー!?」
テロリストにこんな交渉術があるだろうか?
しかも戦場に於いて・・・・・
レイアルンは、再び間をゆっくり取る。
黄色のArfは動かない。
(2分はもった・・・・・・フクウ、まだか?)
心では汗を拭きながらも、モニターに映るレイアルンの表情は、至って呑気なモノ。
そして、レイアルンは次にもっと驚く言葉を相手に、しかも敵にかけたのだ。
「出来れば・・・そのまま帰ってくれないか?」
「戦うなら場所を移すとか出来ないかな?」
レイアルンは卑屈でも、弱気でも無い、極上の笑顔を浮かべて話しかける。
**********
セインは、モニターを見つめたまま動かない。
モニターに映る短髪の男、レイアルン=スプリードを見つめたまま。
彼の言う言葉は、決してセインを馬鹿にしているモノではないことは分かる。
だが、この言葉は半分は偽り・・・・・その事はセインにも十分に理解できている。
それであるのに・・・・・・・・セインは動かない。
非戦闘員を気にし、任務を遅らせるなど・・・・・全く彼らしくない。
何を思っているのだろうか?
サングラスの奥に隠された瞳は、何の思いも見せてはくれない。
ロザリオだけがモニターからの光に反射して光り、
まるで寂しい気分にさせる。
コクピットの中で、エネルギーの充填を示す光が灯る。
だが、セインは動かなかった。
**********
カイは頭を抱えた。
自分が愛した男は、本当に気が狂ってしまったのではないか?本気でそう思ってしまう。
ホウショウも、ボーっとグレーのArfを見つめるだけ。
だが、この会話自体が既にレイアルンの思惑だったのだ。
そうこの会話の時間こそが、レイアルンが稼ぎたいモノだった。
状況は、レイアルンが思う以上に好転していた。
黄色いArfは全く動かない。
レイアルンの呼びかけを素直に守ってくれているのだ。
だが・・・・・・二番目の呼びかけは聞いて貰えそうにない。
「隊長!待たせたな!!!」
レイアルンのモニターにプリンが映る。
Susanowoのモニターは月読の残り五体のArfが、起動していることを示していた。
「プリン。非戦闘員の避難は完了したのか?」
「は!してなきゃこんなとこにいないだろう?」
「隊長もお人が悪いですわね。
終わってないでここに来たら戻れと言われる事くらい、承知してますわ。」
プリンとデュナミスの赤と緑のPowers改が建物の影から現れる。
「安心してな。あたいたちがきっちり避難させておいたよ。」
鮮やかな黄色いPowers改を駆ってアミが現れた。
デュナミスとホウショウのArfが通常のPowersとほとんど違いがないのに対して、
アミとプリンのPowers改の背中には大きなエネルギーポッドと、
その下にまるで後ろに倒れない為のつっかえ棒が二本備えられてある。
「隊長。交渉術をもう少し、勉強して下さいね。」
ため息混じりに、青いArfが空中から現れる。
それはカイの乗る白いKusinadaに対して、青いKusinadaだった。
Kusinadaの特徴は、女性形のSusanowoと言えば分かって貰えるだろう。
と言うよりも、それ以上に言いようがないのだ。
青いKusinadaを駆る者は、フクウ=ドミニオン。
ようやく、月読が全員揃う。
「ありがとう。待ってくれて、避難は終わったよ。」
それを確認するとレイアルンは、視線を黄色いArfに合わせると頭を少し下げて言う。
Susanowo自体もゆっくりと丁寧に礼をする。
それはレイアルンの高いLINKが伺い知れる。
黄と白のArfは、彼ら全員揃うまで動かずに待っていた。
EPMもその間に攻撃を加えようとしなかったわけではなかったが、
一瞬でも攻撃をしようとすれば、敵は銃口をその方向に向け威嚇した。
まるで、レイアルンのしていることを手伝っているかのように・・・・・忠実にDragonknightは待っていた。
そう・・・・レイアルンがこう言うまで。
「始めようか。」
真っ暗な部屋に地球の青い光が射し込む。
「Kaizerionがか?」
「はい。蒼と白の堕天使いえ・・・・L−seedとの戦闘によって修理中です。」
空中に浮かび上がるホログラフは、紅い服の女。
それをイスにゆったり座り、見つめる男。
イシス・フレイヤとロキ。
「Arc(アーク)・Arf・・・・・・・・・
早い洗礼を浴びたな。」
それはどちらに向けて言われた言葉なのだろうか?
Arc・ArfつまりWAに向けてだろうか?それとも・・・・・・・
「Dragonknight、70−Coverも同日、L−seedと戦闘を行ったようですが、
損害は軽微、アーク・プロジェクトになんの支障もありません。」
フレイヤは、淡々としかし正確に報告を続ける。
その瞳には一片の迷いや緊張はない。
「L−seedは?」
ロキの言葉に対して、フレイヤはその美しい顔を歪ませることなく答える。
「70−Coverのルサールカによる一撃で大破させましたが、
その後に変形し、戦域から脱出しました。
その際EPM軍のArf小隊を壊滅させています。」
フレイヤの横の空間に浮かび上がる映像は、
L−seedが変形?した後の姿だ。
暗闇の中に浮かび上がる、漆黒の体とその表面に走る血管のような紅いライン。
「まさに・・・・神から悪魔にだな・・・」
ロキにしては珍しく、ポツリと漏らした言葉に、感情が見える。
一瞬だが、それにフレイヤは表情を曇らせるが、直ぐに報告を再開した。
「サーシャは現在潜入工作中です。
あの娘に関してましては作戦に今のところ遅れはありません。」
ロキはフレイヤの方を向きもせず、ただL−seedを見つめていた。
「Arc・Arfの内Dragonknight、70−Cover両機は現在出撃中です。
それぞれArf基地を攻撃しております。」
ロキはそれを聞いてもフレイヤに向くことはない。
「ルイータ=カルが、本物であることが分かり、
月と各衛星都市の代表達は、
『モーント』を正式に独立支援組織として認めようとする動きがあります。
これに関しましてはリヴァイからの報告があると思われます。
報告は以上です。」
結局、ロキはその報告が終わってもフレイヤの方を向くことは無かった。
ただ一言、
「・・・・そうか・・・・・」
と言っただけで、彼は動きを見せることはない。
フレイヤはその様子を見て、唇を噛みしめる。
ロキからの言葉を最早期待できないフレイヤに残された言葉はこれだけ。
「・・・・それでは失礼します。」
それにもロキは返事をすることは無い。
フレイヤの美しい形の唇は、強い力で食い込まれ醜く歪む。
フレイヤの言葉と同時にホログラフは空気に溶けるように消えていく。
同時に横にあったL−seedの映像も溶けていく。
フレイヤの唇から、紅いモノが流れていたが、
それすらも・・・・・虚空の中に消えていってしまう。
全てが無くなり、部屋には再び青い光。
ロキはゆっくりとイスを地球に向けると、再び見つめ続ける。
まるで地球の人間を見守る「神」のように、悠然と静かに。
「・・・・・マナか・・・・・・」
ロキは瞳を微かに揺らして呟いた。
ピピピ!!
エラー音がコンクリート剥き出しの部屋の中に響いて消える。
「あれ?おっかしいなぁ〜つながんないぞ??」
通信室で燃えるような髪型の男がぶつくさ呟いていた。
相変わらずのラフな格好で、彼には似合わないハイテクな機械の前に座る、プラス=アキアース。
「ユノの野郎〜また、発明だか、開発だかに夢中になってやがんな?」
プラスは不機嫌そうに良いながら、もう一度回線を開いて呼びかける。
誰も出ない。
それだけならまだしも、繋がりもしないのだ。
部屋には似合わないほどに高級な機械にも関わらず、
エラー音を繰り返し響かせるしか出来ない。
「みんなでKaizerionが出来たから、遊びほうけているのか??
全くいい気なもんだぜ。」
自分の中で勝手にみんながお酒を片手に飲みふけっている姿を想像する。
ちょっと喉が鳴った。
「しょうがねえ、後にするか・・・」
ちょっと寂しそうにプラスは自分に言い聞かせると、席を立つ。
Kaizerionが修理中な為にプラスは非常に暇だった。
ユノと話でもして気を紛らわそうとしていたのだ。
ところがいくらやっても繋がらない。
「L−seedめぇ!」
こんな退屈な時間を過ごす原因となった機体を思い出して、
プラスは勝手に怒っていた。
だが、それ以上に頭の中に浮かんだのは、紅い服の女。
「パイロットは外に出歩いたらダメだなんて、誰が決めたんだよ!!」
女の前で一度言った台詞をもう一度言って、
プラスはドアを乱暴に蹴り開ける。
体を動かすことが出来ないことは、プラスにとって最もストレスの堪る事なのだ。
「ユノ、今度はいるんだぞ!!」
返事のしない通信機に向かって、
プラスはそう言うと開け放たれたドアから走って出ていった。
「今度」が無いことは、プラスにはまだ知らされていない。
「何て・・・Arfなんだい!全く!!」
プリンが毒づく。
そこには壊滅まであと数十分と迫るEPM軍の姿があった。
レイアルンの言葉が放たれた後、それに答えるように、
Dragonknightは銃をゆっくりと斜めに構えた。
Susanowoがゆっくりとビームサーベルを抜くと、
戦場が一気に緊迫する。
月読全員の緊張感もピークに達っする。
手強い相手であることは充分に理解できていた。
瞬間、
Dragonknightは、まるで月読を避けるようにくるりと振り返ると、
一気にビームガンを乱射したのだ。
いや、乱射というのは正しくないのかも知れない、
何故ならその全てがArfのボディに突き刺さっているからだ。
完全に不意を付かれた形のEPM軍は、
その一瞬で最前線に立っていたArf十数体を失ってしまう。
(こ、このArf乗りは・・・・・強い。)
カイはその腕前に驚愕する。
月読一の射撃能力を持つ彼女でも、
その行為はかなり難しいように思えた。
出来ないことはない、だが、それは相手がマンターゲットであった時の話。
カイ達の見ている前で、戦闘が一気に加速し、加熱する。
カキン、ガキン、カキン、ガキン・・・・・・・
Dragonknightの翼が、小気味の良い音を立てて、前から後ろへ開いていく。
普通の翼とは違う、板が縦に並んでいるような翼から、一気に炎が吹き出たかと思うと、
Dragonknightは空中に舞っていた。
「怯むな!!!あんな、話に耳を傾ける奴だぞ!!倒せないわけがない!!!」
先ほどの恐怖から解放された司令官が、マイクを持って唾を飛ばしながら檄を飛ばす。
だが、彼は前線にいるわけではない・・・
最も後衛に下がり事の成り行きを見守っているだけなのだ。
それでは前線の兵士達の恐怖は理解できない。
兵士達は躊躇を見せたが、
命令に促されバーナーを蒸かして、空に飛ぶ。
だが、10メートルも浮かない内に、一陣の風が戦場を駆け抜ける。
火花が幾つも飛んだかと思うと、
数体のWachstum達は燃え上がり、失速して地面に叩き落ちた。
「何だ!!!!!!??????」
司令官には何が起きたのか全く理解できない。
だが、慌てて空を見たとき、それを理解する。
Dragonknightがその風だったのだ。
魔槍は確実に敵の命を削る。
銃を分離して、脚部と肩のパッドにしまい込み、
Dragonknightは一本の槍のみで、空中を舞う。
辛うじて飛び上がれたWachstumもいたが、その動きについてこれる筈がない。
「早い!!早すぎ・・・・・」
「何だ・・・・・・!」
「嘘だろう?」
幾つもの言葉が司令室内部に響く、
そして彼らは二度と応答しない。
まるで自然淘汰と言うタイトルの絵画のように、幾つもの炎が辺りを埋める。
既にEPM軍は壊滅し、部隊長を残し、十数体が敗走するのみ。
「隊長、部隊は完全撤退のようです。」
カイが冷静に報告する。
彼らはレイアルンが動きを見せないので、敢えて攻撃に参加しなかった。
「とんでもない奴だぞ!!『草薙』でもなきゃ倒せねえよ。」
呆然とプリンは言うが、その顔には笑みすら浮かべている。
久々の強敵に彼女の中の魂が熱く燃える。
「隊長、我々の現時点での戦闘能力では・・・・・」
デュナミスが口を開き話しかけると、レイアルンの明るい声がそれを制する。
「うわぁって・・・・やばいぐらい強いな。」
脳天気な声が月読の中に響き、緊張感が一気に弛緩する。
「たいちょー、余裕だね!」
ホウショウの明るい声がそれに拍車を掛ける。
月読全員に、カイさえも戦いの中で浮かべてきた、
戦士の強さと優しさが入り交じった笑みが浮かぶ。
ただ、一人、青のKusinadaに乗るフクウだけは、
退却していくWachstumの方を何もせずに、
じっと見つめて佇むDragonknightの後ろ姿を見ていた。
「ArfもAceクラス、パイロットもAceクラスね・・・」
戦闘中は邪魔になるために後ろに縛った髪が、左右に揺れる。
ため息を付きながらフクウは、敵の能力を分析する。
今のままではどう考えても、月読に勝ち目はない。
いくら考えても・・・・・・・今のままでは。
(兵装を解除しても・・・・どうかしらね。)
フクウはそんなことを思いながら、
彼女の前方に立つメタルグレーのArfを見つめる。
(不思議なモノね・・・・)
あのメタルグレーのArfを見つめていると、心に浮かぶ不安が沈んでいくのを感じる。
(みんなも、そう感じているのだろうか?)
そんなことを思うと、チクリとフクウの心が微かに痛んだ。
「みんな、準備は良いか?」
レイアルンから月読に全員に声がかかる。
Dragonknightはゆっくりとこちらに向けて振り返り、地面に降り立つ。
鈍く光る黒い槍。
そこでDragonknightは不思議な行為を行う。
黒い槍を一旦肩のパッドにしまうと、再びそこから同じ黒い槍を取り出したのだ。
「なんだろうね?ただ入れ替えている・・・・・??」
アミが率直な疑問を口にした。
それに答える者はいなかったけれども、
その時、アミの脳裏に一瞬だが何かがよぎる。
脳の中の海馬が記憶を呼び出しかけるが・・・・・
「全機、一気に退却するぞ。」
レイアルンのその声で中断されてしまう。
「隊長!!」
やはりというか、プリンがレイアルンに食ってかかる。
彼女にしてみれば、気合い十分、戦意上昇の所を、
突然の撤退命令・・・・文句を言いたくなるのも分かる。
「あんな奴、俺達が力合わせれば倒せるって!!
な!兵装解除をしてくれ!!隙を作ればアレで倒せる!!」
レイアルンのモニターに画面から飛び出んばかりに身を乗り出したプリンの姿が映る。
「アシュクさん、EPMの中にいるのよ。兵装解除は出来ない。」
カイが冷静にたしなめる。
それが気にくわないのか、プリンはますますエキサイトする。
「何言ってんだよ!!今、倒さなきゃ、被害は広がっちまうんだぜ!」
「隊長。」
フクウがレイアルンのモニターに映る。
レイアルンのモニターは、ウィンドウが開きまくって、
一人一人がどんどん小さくなっていく。
「フクウ、君も反対なのか?」
レイアルンがフクウに尋ねると、フクウはゆっくりと首を横に振る。
「おそらく兵装解除しても、勝率は五分五分・・・・・か、それ以下。
『草薙』を使えば別ですが、あのArfを相手にアレをするのは私達には難しいでしょう。
みんな、今は・・・・退却しましょう。」
フクウの最後の言葉は月読全員に向けて言ったモノ、
その言葉にレイアルンは静かに笑みを浮かべて頷いた。
「プリン・・・今は生き残ろう。
非戦闘員の避難は完了している、被害は少ないよ。」
諭すようにして優しくレイアルンはプリンに言う。
その顔はまるで子供に言い聞かせる保父のよう。
「・・・・・分かった!分かったよ・・・・でも、あんたらしくないぜ!」
そう言うと、モニターの中のプリンは消える。
「ホウショウ。
俺達も含めてこの場のArfの会話記録を抹消して欲しいんだけど、出来るか?」
「うん!出来るよ!!」
ホウショウは、笑顔を浮かべて答える。
「そうか。じゃあ、お願いするよ。」
レイアルンはホウショウの笑顔に目を細めて言う。
「は〜い!」
ホウショウは明るく答えてモニターを閉じる。
と、同時にみんなのモニターも消えて、
Susanowoのモニターの中には黄色に輝くArfだけが残る。
モニターから月読が消えた瞬間、
Susanowoのコクピットの雰囲気が張りつめる。
レイアルンの口元に浮かんでいた優しい笑みは消えて、
その瞳はまるで達観したように澄んでいる。
(・・・・・・・・・来る。)
死の機会は唐突に訪れる、まるで何も無い日常にアクセントを加えるように突然に。
その機会は誰にでも、訪れる。
それが分かるのが、幾分遅いか早いか・・・・だけなのだ。
特に戦士達には・・・・・・・
「カイ!最も早い逃走経路を計算して、一気に駆けろ!!」
レイアルンの檄が飛んだのと、ほぼ同時だった。
Dragonknightの瞳が輝き、その翼は炎を吐き出す。
「月読戦域から離脱します!!」
カイの声が全員のArfに響く。
「「「「了解!!!!」」」」
プリンだけは、了承の意を言葉に表さなかったが、
全員のArfは一気に後退し始めた。
カイには全力で駆ければ何とか、危険地帯から脱出できるように思えた。
(あのArfは、退却するArfに攻撃を加えなかった・・・・期待するしかない。)
カイは薄い幸運を願いつつ、
ホウショウに上げて貰ったLINK%に感謝して走る。
レイアルンに言われたように最短の逃走経路を計算しつつ、
退却するカイはある一つのモニターの異常に気付く。
(え??!!!!!)
不意に見たモニターには、五体の機影しか映っていない。
自分も入れて六体。
「フクウ!誰かいない!!」
カイの叫びがコクピットに木霊する。
ギャリギャリ!!!!
最高速度で移動していた白いKusinadaが地面を削りながら止まる、
そしてその余力で一気に反転する。
「「カイ!!危ない!!!」」
デュナミスとフクウが同時に叫ぶ。
「チィ!!」
カイの直ぐ後ろを移動していたプリンのArfが間一髪で激突をかわす。
Kusinadaと紅いArfが肩を削りながらすれ違う。
バランスを崩したプリンのArfは、肩で地面を削りながらも何とか止まる。
「カイ!!!何やってんだよ!!!」
コクピットで肩を抑えながらプリンが怒鳴る。
「ホウショウ、アミいる?!!」
プリンの怒号にお構いなく、カイは誰がいないのか確認する。
「いるよ〜!」「います!」
二人の声が聞こえて来る。
それに一瞬安堵を浮かべるカイだったが、
誰がいないのか分からずに混乱する。
そして、次の瞬間氷解する。
「レイ、あなたって人は!!」
カイは、一気にブースターを蒸かすと、
先ほどよりも凄まじい加速を見せて戻る。
「カイ!待ちなさい!!」
フクウの止める声もカイには聞こえない。
「何やっているんだよ!!追うぞ!!!!」
プリンの声にみんなが一斉に元の場所に戻ろうとするが、
そのみんなの前に静かに青いKusinadaが立った。
「退却の命令が出たのよ、退却しましょう。」
フクウは静かにみんなに言った。
「おま・・・・」
何か言いたげにプリンは口を開いたが、
モニターに映るフクウの表情を見て止めてしまう。
そこにいたフクウ=ドミニオンは、
みんなが知っている常に優しげで、穏やかな表情を崩さないフクウではなかった。
まるで、全ての悲しみを一気に背負い込んだような、
まるで、他人の悲しみすらも吸い取ってしまいそうな、
まるで、泣きそうな瞳だった。
「でも、待機にしようよぉ・・・」
ホウショウが小さく呟いた。
**********
「レイ!!!」
どこかに冷静さを忘れてきたカイの呼び声。
二人の時にしか使うことのないニックネーム。
Kusinadaの視線の先にSusanowoが微かに見えた。
そこでは、既に戦いの開始のゴングは鳴らされていた。
空中に槍を叩きつけるような形で止まるDragonknight。
そして、それを辛うじて受け止めるSusanowo。
Susanowoの足下は、
その衝撃の凄まじさを語るようにひび割れて、深く陥没している。
上半身にしても、
背骨が折れているのでは無いかと思えるほどに、後ろに反られている。
それはDragonknightの一撃によってのモノではないのだろう。
槍と剣がぶつかる瞬間、
レイアルンは背を一気に反らして力を幾分逃がしつつ受け止めたのだ。
レイアルンだから、出来た芸当とも言えた。
マトモにぶつかっていては、おそらく大破は免れない。
「カイ・・・退却しろと言ったはずだ!」
モニターに映るレイアルンは、口調は厳しくあったが、
幾分優しく微笑んでいた。
それは自分に心配を掛けさせまいとする、
レイアルンの優しさであることをカイは痛いほど理解する。
「私は隊長の命令を受けました。
だから、『全機退却させます』。」
カイは非道く泣きそうな自分に鞭を打ち、
その表情をわざと固化させてレイアルンに言った。
「はは・・・敵わないな、カイには。」
レイアルンがそう言った直後、
第二ラウンドのゴングが鳴る。
そしてそれは最終ラウンドとなる。
**********
セインは無言で間合いを取った。
既にSusanowoの脚部に重大な損傷があることは確か。
次にもう一度同じタイミングでぶつかり合えば、
背骨と脚部は完全に破壊されることだろう、
それはセインの勝利を意味し、作戦の終了とも言える。
顔を少し横に向ける。
そこには白いKusinadaが、
Susanowoの横に寄り添い肩を貸している映像があった。
戦場では、そんな行為は死を意味する。
二体同時破壊の絶好の機会ではないか!
白いKusinadaは、Susanowoに右肩を貸しているために、
左に持った銃をゆっくりとセインの方に向かって掲げる。
**********
「隊長、動けますか?」
カイが心配そうに尋ねると、
レイアルンはモニター越しに笑みを浮かべたまま親指を立てる。
既にSusanowoの両足はガタが来ている事は明白、
そしてそれを高い%でLINKしているレイアルンの足にもかなりの影響が出ているはずだ。
だが、レイアルンはいつもと変わらない笑みを浮かべ続ける。
「私が銃を乱射して弾幕を張ります、その隙に一気に退却しましょう。」
「・・みんなはどうした?」
レイアルンは、静かに尋ねる。
「だ、大丈夫です、もう避難は完了しています。」
「そうか・・・・」
カイのどもった答えに、レイアルンは内心苦笑いしながら頷いた。
Dragonknightは、再び槍を肩のパッドに入れると、
同じように槍をもう一度手にする。
やはり同じく黒い槍「魔槍ゲイ・ボルグ」。
「行きます!!」
カイの気合いの入った声と共に、ビームガンが乱射された。
ズキューーーーーーン!!!!!
「!!!!」
ズキューーーーーーン!!!!!
ズキューーーーーーン!!!!!
ズキューーーーーーン!!!!!
ズキューーーーーーン!!!!!
ズキューーーーーーン!!!!!
正確に六発の光弾が、Dragonknightに向かって軌跡を描く。
「月読は七人で月読なの!」
戦場らしからぬ明るい声。
「・・・・結局、こうなるんですね。」
透き通る声が戦場に消えていった。
「みんな。」
カイはポツリと漏らした。
「隊長、こう言うのは前に無しって言ったじゃねぇのか?
あんたらしすぎるぜ、全く。」
プリンの怒りを押し殺した声がレイアルンに冷や汗を浮かばせる。
「話している場合じゃないって!」
アミの声が月読の注意をDragonknightに向ける。
光の爆発が収まったところには、
巨大な肩のパッドで完全に機体正面を防御した騎士の姿が、
まるで叙勲式にでも出ているように静かに傅いていた。
「隊長、兵装解除しましょう!」
デュナミスの声に、ホウショウが答える。
「間に合わないよ〜!!」
Dragonknightは、素早く投擲スタイルになると、
一気に振りかぶって投げる。
黒い線が、風を切り月読に迫る。
「散開!!!!」
「動かすなああ!!!」
カイの大きな声をアミの大きな声が制する。
皆、その真剣な声に固められてように動かない。
アミは思い出したのだ、ようやくこの時になって。
(アレはゲイ・ボルグ・・・・)
アミはその名前を思い出す。
かつて姉が語ってくれた、無敵の武器の話。
無数の鏃に変化して相手を倒す無敵の槍の神話。
Dragonknightが槍の入れ替えをしているのを見たとき、
アミの脳裏にハッキリと浮かんだ・・・・・・・姉の顔が。
「カイ、離れろ!!」「イヤです!!」
槍はレイアルンに向かってくる。
レイアルンの命令に反して、カイはSusanowoを庇うようにして半身を被せた。
「く!!」
レイアルンは、右腕に付いたシールドで右半身を庇うと、
痛みが非道い右足を一歩前に出した。
(当たらない!??)
フクウはその時、槍の弾道を計算して、
それがSusanowoの横を通り過ぎてしまうことを知る。
その事を二人に知らせようとしたとき、
それは起きた。
ギャリギャリギャリィイイイイイイイ!!!
凄まじい音がして、槍が無数の鏃に分裂して襲いかかって来る。
もし散開していれば、全員が的になっていたことだろう。
ガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!
Susanowoのシールドを削り、シールドが千切れて右腕を吹き飛ばした。
「ぐううう!」
レイアルンの痛みを堪える声が響く。
「ホウショウ!!LINKをカットして!!」
「うん!!」
ブツン!
そんな音がしたみたいに、Susanowoの全てが停止して、肩が落ちる。
レイアルンは、唐突に訪れた痛みからの解放に、
グッタリと正面に突っ伏す。
「大丈夫ですか?隊長。」
カイの掛ける声にも、さすがに声は出せなかったが、
レイアルンはゆっくりと親指を立てた。
**********
「うわあああああああああああああああああああ!!!!!!」
司令官の恐怖に満ちた叫びが木霊する。
ゲイ・ボルグの鏃の多くは、
Susanowoを掠めながらもその後ろに控えていた司令塔を直撃した。
強化ガラスを難なく突き破り、
司令室に黒い破片が突き刺さる。
一個、二個、三個・・・・・限りなく。
爆発炎上する司令塔で、
司令官は生きながら焼かれると言う苦痛を味わいながら消える。
**********
炎上する司令塔を見つめる。
おそらくこの基地の復興には数ヶ月はゆうにかかるだろう。
完全にともなれば、一年は確実だ。
「任務終了・・・帰投する。」
セインはコンピュータに向かってそう言うと、
一気に翼を広げて飛び立った。
その時一瞬だけ、振り返る。
その視線の先には、右上半身を失いながらも辛うじて立つSusanowoが見えた。
パイロットは無事だろう。
いや、無事に決まっている。
(レイアルン・・・・)
セインは心の中で、パイロットの名前を懐かしげに言うが、
直ぐにそれはかき消えた。
今のセインには、不要なモノだから。
夕焼けになりそうな空に、
光のラインを作って、Dragonknightは何処かに飛び去った。
見えなくなったら、もう、それをレーダーで捕らえることは出来ない。
セインの心も、また同じ。
**********
「みんな、無事か?」
レイアルンがよろけながらも地面に降り立って言う。
カイに肩を貸して貰いながら、ゆっくりと歩いていたレイアルンだったが。
パァーーン!
乾いた音が夕焼けの空に響く。
「カイ・・・」
プリンが自分の憤りも忘れて名前を呼んだ。
カイはレイアルンを肩から離して、目にも留まらぬ早さで頬を叩いた。
ドサッ
支えを失ったレイアルンはその場に倒れ込む。
「隊長、何故、私達を信用して下さらないのですか!」
泣いてはいない。
だが、カイの心を、熱くなってきた頬で感じる。
「私達は月読と言う一つのチームだ、だから誰が一人欠けてもダメなんだ!
だから・・・だから・・・・自分が犠牲になるなんてしてはいけない!!!」
「そう言ったのは、あなたじゃない!!!!」
カイの激昂をまともに受けて、
レイアルンは痛みがあるはずの両足に力を込めてヨロヨロと立ち上がると、
カイとみんなの前で、深々と頭を下げた。
足が震えて、今にも倒れそうなのにレイアルンは礼をし続ける。
「悪かった・・・もう二度と、こんなことはしないよ。」
静寂が続く中、カイの拳がギュッと握られる。
それは手を貸そうとした自分を戒めた為。
叩いてしまった自分がレイアルンを助けて良いのか?悩んだ為。
だが、そんな我慢は月読にはいらない。
「たいちょー、それ言うの二回目だよ!」
ぷぅっと頬を膨らませてホウショウが言うと、
レイアルンは少し微笑んでこう言い直した。
「もう三度としないよ。」
そのレイアルンの様子に、思わず吹き出すデュナミス。
奇しくも彼女の笑いのツボに入ったのだろう。
その笑いが伝染したように、ホウショウが、フクウが笑い出す。
終いには、カイさえも後ろを振り向いてしまう、よく見ればその肩が震えている。
「まったく!」
そんなみんなの様子にプリンが怒る気も失せて、
「やれやれ」と言うジェスチャーをする。
笑い声の中、レイアルンがよろけて、カイの方に倒れ込む。
それをカイはしっかりと抱きしめる。
今度はもう離さない。
**********
「やっぱり・・・」
呟きは自分の中に閉まっていた何かを思い出させる。
セピアに染まったイメージが、頭の中で音を出す。
<アミ。いつの日か一緒に・・・最高のArfを造ろうか。>
一人笑いの喧噪から外れて、アミはDragonknightが飛び立った空を見つめる。
「・・・・ロゼッタ姉(ねぇ)が造った子だ・・・・」
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次回予告
双頭の狼は何を見つめて、何を喰らうのか?
巨大な異形の機体が、また一体舞台に姿を現す。
こいつは誰だ!この組織なんだ?と言う疑問がある方は、
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人間関係どうなっているの?と言う疑問をお待ちの方は、
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