「L−seed Ver.Grand hazard」

 

       Divine     Arf                          
 神聖闘機 seed 

 

 

 

第十七話    「凶兆」

 

 

 

ツルギを持って舞う堕天使は、死を司る蒼と白。

全てに平等な眠りを与えるために微笑を浮かべる女と共に現れる。

 

でも、その翼がヒトに切り裂かれ・・・・失ったとき。

女の微笑は消え、

堕天使は・・・・・・安らかな死を与えるモノでは無くなってしまう。

 

落ちた翼が、地面に汚され・・・・・黒くなる。

そして、堕天使もまた、黒く変わっていく。

 

まるで、ルシファーが天から堕ちたときに、

肉を持って、褐色の肌に変わっていったように・・・

黒く

黒く

黒く

黒く

変わっていく

もしかして、
それは堕天使の怒りの為のモノ?

 

漆黒

それは堕天使が痛みを感じた証なのかも知れない。

ヒトに禍々しい予兆を感じさせる。

 

それは凶兆の色。

 

そして、それは死よりも恐ろしい。

 

即ち災いの色。

 

**********

 

「マナブ?」

 

主のいない部屋で、フィーアは顔を上げて呟いた。

何を感じたのだろう?

枕を抱きかかえたままの姿勢で、空を見つめるフィーアの目は、

まるで、何もかもが見えているような気さえさせる。

 

いや、本当に何もかもが見えているのかも知れない。

 

マナブに起こった、起きて、そして起こる事を。

何故なら、フィーアはそう言う女だから・・・・

 

**********

 

「また・・・・オリジナルのArfですね。」
静かにサライは言う。

モニターに映る黄色と白の巨大な肩を持つArf。

「まあ、いつかはやるだろうとは思っていたんじゃが・・・・」
ヨハネが渋い顔をして、目を細める。

「出会いが、故意か?偶然か?が・・・・・・問題ですね。」
サライがその言葉をつぐ。

 

立って落ち着いた二人とは対照的に、
座った二人は激しい動揺と焦りを言葉に出す。

「Dr.サライ。マナブ様への脳震盪はかなり重度です。
加えてL−seed前面への衝撃がβ−LINKでマナブ様に苦痛を与えています!」
最後の方は叫びに近いような声でメルが報告する。

ヨウのモニターにも、L−seedの損傷率が現れて動揺を増大させる。

「L−seed、頸部数ヶ所に重度の損傷が起きています!
うち一ヶ所はパーツの交換が必要です!!」

 

「ふぅ〜む・・・・・このまま戦うには、少しばかり酷かのぅ?」
ヨハネが隣のサライに尋ねる。

メルとヨウの報告を報告としてのみ聞いており、
そこに彼らの感情、動揺や焦りをくみ取っている節は無い。

実際、彼らにとっては何ら動揺することではないのだろうか?

例え前回の戦闘から退却している最中であることさえも・・・

「禍印は安定している?」
サライはヨハネの問いを無視して、冷静な声でヨウに尋ねる。

無視されたヨハネも、それを別段気にした風でもなく、サライからモニターへ目を移した。

 

L−seedの右拳だけは、

Kaizerionのライトニング・カタストロフィを喰らった際の傷も何一つ無く、

赤茶けて錆び付いたシオン板の隙間から、
変わらず不可思議な光を生み出しているだけだった・・・・・


 

「・・・またか?」

揺れる視界の中、マナブは吐き気を堪えて呟く。
そして呟いてから、ますます気持ちが悪くなり言葉を出したことを後悔した。

月の光を反射して、黄色い部分は金色に光り、
白い部分はそれを引き立てるための完璧な役割を果たしている。

金色に輝く大きな肩当ては、マナブの目を細めさせる。

 

美しいArf・・・・・・対峙するL−seedのみすぼらしさがより一層露わになっていた。

まるで栄光と挫折の出会いのように・・・

 

「ヴっ・・」
マナブが口元を抑える。

脳の衝撃はついに彼の口元へ胃からのモノを逆流させるに至る。

レバーから外された右手で何とか抑え込むマナブ。

傾くL−seed、
その身体からはあらゆる力が失われてしまったようだ。

眼下に広がる暗く青い海がまるで
L−seedを、マナブを、飲み込もうとしているよう。

 

**********

「・・・・・・・・・・・・・」

セインは無言だった。
そして、動きもしない。

ただ、LINK−Sだけは正しく作動し、
セインのささやかな感情を表現する。

 

Dragonknightの右手が、落ち行くL−seedに向けて差し出されていく。

そこにはサングラスの奥の瞳からは見つけることの出来ない、セインの心があった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・」
セインは無言だった。

**********

 

マナブの瞳に、Dragonknightの右手が映ることはなかった。

それはそれで良かったのかも知れない。

 

何故なら、マナブを支えるべく差し出されたかに見えたその友好の手は、
一瞬の躊躇の後に、

マナブを殺すための武器を持つ手に変わったのだから。

 

「なんとか・・・持ちこたえろ・・」
マナブがL−seedの体勢を戻し、その目に、そのモニターに映ったのは、

白銀に光る長い銃、そして、小さい銃口。

その口の奥の方には既に光が漏れていた。

 

「何!?」
マナブが、かろうじて身体をひねりかわした空間に、光の線が突き抜ける。

小さい銃口の為、その光線は非常に細かったが、凄まじい早さであった。

かわしたはずだった、確かにマナブのいつもの感覚ではかわせたはずだった。

 

「!」
マナブの背中に鈍い痛みが走る。

かわしたはずの光線は、L−seedの動きを凌駕し、その背中を削っていた。

まるで皮膚を錆びたナイフで切ったようなギザギザの裂傷が、
L−seedの右脇腹から背中にかけてついていた。

あのL−seedの装甲が、かろうじて女の身体には到達していないモノの・・・。

 

「・・・・・・何らかの衝撃により装甲の劣化が見られる。」
冷静にDragonknightのコクピットではセインが、L−seedの能力を審査していた。
その審査には一切の私情は存在しない。

決して自分の能力が上だから、Dragonknightの能力が素晴らしいから・・・・
L−seedの装甲にダメージを与えられている、とは判断しない。

今、サングラスに写る事実から、
セインはL−seedが自分の駆る高シオン製Arf並のArfと遭遇し、
戦闘してきたことを予測していた。

 

「近接戦闘は避け、関節攻撃主体で行く。」
セインは、自分に言い聞かせるようにしてコクピット内の戦闘記憶装置に報告を口述ですませる。

 

そして、Dragonknightが再び銃を構え始める。

今のマナブの脳では、それが危険な動作であることを認識できても、
それに対応することは出来ないでいた。

「ううう・・・イ・・タイ。」
マナブは呻く以外にすることが出来ない。

 

「マナブ様。
敵の攻撃能力は先ほどのKaizerionと呼ばれていたArfと同等です。」
サライが横のモニターで冷静に報告する。

「間違いなく高シオン製Arfです。お気をつけ下さい。」
サライは、マナブの姿を見ても、慰めの言葉を発することはない、
そして、その瞳にはいつもの色しか見つけることが出来なかった。

だが、彼女は「戦いなさい」とは言わなかった。

マナブは、目の前のArfに戦いを挑むか否かの選択肢を与えられていた。
それはサライの優しさだったのか・・・・

 

「さすがに・・・退却は無理みたいだな。」

Dragonknightは、依然L−seedに向かって、光線を放ち続ける。
それをかろうじてかわしながら、マナブは呟く。

その光線のスピードは、マナブに初めて「かわす」という行為を促すモノであり、
マナブに「かわさなければならない」と言う思いを抱かせたモノとなった。

 

奇しくもKaizerionとDragonknightの連続攻撃が、
あのL−seedに、そしてマナブに再び恐怖を植え付け始めていたのだ。

 

L−seedは背後の女から、レヴァンティーンを受け取った。
紅い刃が月に輝く、全く美しい月夜だった。

「・・・・・・・・・・」
無言のまま、マナブは瞳だけを幾分揺らせて、Dragonknightを見つめる。

完全にL−seedの間合いから外れたところからの攻撃は、
セインの性格を現したかのように、正確無比にL−seedを狙い続ける。

そして、当てることが出来る。

 

「L−seed・・・か・・・・・」
セインはDragonknightの銃『ドラゴニック・ブレイズ』を喰らいながらも、
よろめきはせよ、決して海に落ちること無い様を見て呟いた。

さすがはL−seedと言ったところだろうか?
その装甲に光線が当たっても、貫通する事はなかった。

当たった光線は、L−seedの装甲にぶつかると大部分は弾かれてしまっていた。
あの左甲部がその度に青く光った。

光線が当たった部分は微かな青い波紋が出来ているのは気のせいなのだろうか?

だが、Kaizerionによって弱った装甲は確実に削り取られていくのも事実、
そして、それは正しくマナブにリンクされていくのだ。

セインはL−seedを倒すことよりも、
むしろ、あの下腹部のコクピットの中にいるであろうパイロットを倒そうとしていた。

そして、その考えはセインらしく、正確だった。
その原因は分からないが、
脳震盪を起こしているパイロットを倒すのは、L−seedを破壊することよりも遙かに容易である。

現にL−seedのスピードは、光線が当たる度に減少して行っていた。

 

「・・・・・・・減速・・・・・・・」
セインは、義務のために言葉を話す。

「・・・・攻撃続行・・・・・」
そして静かに報告と戦闘を続ける。

 

 

「近づけない?」
マナブは時々来る、鋭い痛みに耐えながら、そして常にある頭痛に苦しみながら呻く。

L−seedがギリギリの線で光線をかわし、
レヴァンティーンで間合いを詰めようとすると、
既にDragonknightはその詰めた間合いでさえも切ってしまっている。

そして次射が、L−seedの装甲に当たって弾かれる。

確実にL−seed、いやマナブの体力は落ちてきている、
その為にL−seedの反応速度は次第に鈍くなってきてはいた、

だが、その攻撃の為に距離を詰める動作に関しては、
まだまだ十分な余力を残している筈であった。

なのに、それなのに・・・・・・Dragonknightは決してL−seedの手の届く位置にいない。

 

「なん・・でだよ!!」
マナブが、肩に当たった光線の痛みを無視しようと叫ぶ。

しかし、それが何の解決にもならない事は、
サライやヨハネ以上に彼にも理解できていることだった、

そして、黄金のArfを駆る者にも。

 

**********

 

「これ以上のL−seedのダメージは、
マナブ様の生命維持に問題を起こすと思われます!」
メルが悲鳴じみた声を上げる。
彼女はあくまで常人の神経の持ち主だから。

「L−seedよりも、マナブ様が先に!!」
ヨウが唇を噛んで状況を言う。
それは報告ではなく、私情を挟んだもので、彼も常人であることを示していた。

 

けれども・・・・・

「Prof.ヨハネ。」
「ううむ・・・・今はまだ・・・・早いじゃろう。」

サライの呼び声に渋い顔で呟くヨハネ。

しばらくの沈黙。

モニターでは、L−seedの右拳に光線が当たって弾かれた。

 

「退却・・・じゃな。」
ヨハネはメルとヨウの様子に動じることもなく至って静かに言う。

「ええ、今は退きましょう。」
そして、サライも同様にして、静かに判断した。

 

「Dr.サライ!早くしないとマナブ様が。」
メルの泣きそうな声がサライの耳に届く。

サライはゆっくりとメルの方に向くと、
その口元に微かな笑みさえ浮かべて言った。

 

「大丈夫よ、心配することはないわ。」
それはまるで子供を諭すように優しかった。

 

「マナブ様、飛行翼を最大に展開して、その場から一気に離脱しましょう。」
サライはモニターの中で、汗だくになっているマナブに向かって言った。

 

「最大に展開したら、完全に的になるじゃないのか?」
マナブは、痛みが歯から漏れそうになるのを必死に堪えて、
モニターに映るサライに言う。

サライの顔に動揺が見られないのが、マナブにとっては心強くあった。

例え戦闘に於いて厳しい人であっても・・・いや、そうであるからこそ心強いと思えるのだろう。

 

「あの黄色のArfの銃は、一点集中型です。
放射型に撃てないのか、
放射型に撃てばL−seedの装甲にダメージを与えられないと思われます。

おそらくは後者でしょうが・・・」

「それで?」
意識を前面の光の線に集中しながらも、マナブは尋ねる。

「L−seedの飛行翼が一つ二つの穴が空いたぐらいで飛べなくなると思われますか?」
サライは微笑んで言った。

戦闘中だというのに、暖かな雰囲気さえ感じられる声音に、
マナブは思わずサライの方を向いてしまう。

 

「く!」
その隙を狙い、ドラゴニック・ブレイズは再びL−seedに噛みついた。

 

「分かった!何とかやってみる。」
マナブは前に向き直ると、痛みを堪えながらもレバーを力強く握りしめた。

**********

「・・・・・・・・」
セインは感じていた。

L−seedの雰囲気が先ほどと違うことを。

数秒前の若干の恐怖さえも感じられたその動きは、
今は停止しているにも関わらず、そこに焦りも何もないようだ。

 

「・・・・・ゲイ・ボルグ・・・・セット。」
セインが呟くと、
Dragonknightの左肩パッドの中で何かが動いている音がする。

Dragonknightの右手で持った銃は油断無くL−seedを捕らえて、
空いた方の左手はその左肩のパッドの中に差し込まれた。

 

モニターの向こうでは、蒼と白が大きな翼を広げるのが見える。

 

「・・・・・・離脱か。」
セインは、その天才の能力を遺憾なく発揮する。
一目でL−seedのやらんとすることを見抜いていた。

逆に言えば、攻撃が来ないことを理解したことになる。
セインは、完全に攻撃に集中をすることが出来るのだ。

今は、あの紅い剣は怖くない。

 

**********

 

「L−seed、戦域を離脱する!」
マナブは、L−seedの翼が全開に開いたことを認識すると、
語気を強くして言う。

痛みはある、頭も痛い、身体も痛い、恐れもある・・・・・けれども、マナブは帰りたい。

 

シオンで出来た羽が美しい音でL−seedを包んだ。

 

ヴァサアアアアアアアアアア!!!

 

そんな音がしそうな感じに、白い翼が羽ばたく。

 

光線が来るだろう、だが・・・・・・・翼は、Kaizerionのダメージを受けていない。
戦域離脱を為すのには充分な強度であったはず。

 

しかし・・・・来たのは光線ではなかった。

 

「何だぁ!!?」
マナブがモニターを確認したとき、Dragonknightの右手は下ろされていた。
当然、それに握られているドラゴニック・ブレイズの銃口も海に向けられている。

そこからのL−seedへの攻撃は当然不可能。

ならば、左手は?

 

まるで投擲をするように、背を若干反らせて長い槍を持っていた。

それは一見すれば、ただの槍だった。
おそらくは人型を取っていない所を見ると、シオン鋼製でもなさそうである。

 

「もう少し、まともなことをした方が良いんじゃないのか?」
マナブは、L−seedを一気に羽ばたかせて、
Dragonknightの頭上を抜けようと詰め寄った。

Dragonknightは、その間合いにL−seedが入っても動くことはなかった。
マナブは、この時その手に持つ紅い剣を振るえば良かったのかも知れない。

だが、マナブは既に「帰りたい」それだけの感情に支配されていた。

 

だから、気づけなかった。

 

ゴウン!!

左手が大きく振り下ろされた。
そして、もちろん手に持つその槍は、L−seedの向けて発射される。

太さは光線よりもあるが、
一点だけの穴であれば、L−seedには何の支障もない。

むしろ光線よりもダメージは少ないかも知れない。

 

「・・・・・魔槍(マソウ)ゲイ・ボルグ。」
セインは、Dragonknightに向かうL−seedを見て呟く。

マナブに、L−seedに戦う意志があれば、これを使うことは出来なかっただろう。
間合いに入られた状態では、いかに傷ついたL−seedと言えども、
苦戦は必至であろうから。

 

「一気に抜ける!!」
マナブの顔は真剣そのものであったが、
その心は油断という敵に蝕まれていた。

ゲイ・ボルグと呼ばれる槍の軌道は、全くの直線。
確かにそのスピードは速いが、
完全にスピードに乗った状態のL−seedにはかわせないモノではない。

 

 

数瞬後、

L−seedは、Dragonknightの頭上を抜ける、

はず。

 

だが、

「何!」
マナブの瞳に、驚愕の色が浮き出る。

 

 

魔槍ゲイ・ボルグ

この意味を知る者なら想像できるだろう。

その真の姿を、そしてその強さを、そしてその恐ろしさを。

 

ギャリギャリギャリギャリィ!!!!!!

そんな音と共に、黒い槍ゲイ・ボルグは無数に分裂した。

そして、その全てが鏃の形を取り、L−seedに襲いかかる。

 

「うわあああ!!」
マナブの叫びがコクピットに木霊した。
圧倒的恐怖が彼を支配する。

今までの痛みを全て忘れ、マナブの瞳は限界に開かれる。

それが戦場の恐怖と知るには、遅すぎるほどに。

 

無数の鏃は、L−seedの全てに襲いかかった。

恐ろしいのは、そのスピードが幾分たりとも遅くなっていないこと、
むしろ増していることだろう。

そして、これもセインは計算していたのだろう。

L−seedのスピードも、最大であったことを。

 

カウンターと言うに、まさに相応しい形で、L−seedは無数の鏃に覆われる。

L−seedの装甲は良い、
それでも決して突き抜ける事は無かったのだから。

だが、大きく広げた翼はどうだろうか?

 

「くああああ!!」
マナブが掻きむしるように背中を押さえる。

L−seedの背後の海が、数多くの水しぶきをあげた。

そして、L−seedの下の海も・・・・・
白い翼がひらひらと落ちていった。

幾枚も・・・・幾枚も・・・・・幾枚も・・・・・

 

あの美しかったL−seedの翼はどうだ・・・・

見るも無惨なその姿。

数多くの穴が空き、その飛行さえもおぼつかない。

 

「・・・・L−seedパイロットの経験不足を認識。」
セインは、静かに報告すると、
Dragonknightの右手を持ち上げる。

そこには、あの龍の炎、「ドラゴニック・ブレイズ」がエネルギーを満たして待っていた。

 

 

「よけなさい!!」

 

 

ズキューーーーーーン!!!!

発射された光線は、海の彼方に消え去った。

 

セインの瞳に、わずかな驚きが見て取れた。

あの状態で、そしてこの距離で、L−seedは身体を反転させてかわしたのだ。
かすりながらもその直撃を避けられたのは、マナブの技量だったのだろうか?

「前述撤回・・・・L−seedパイロット経験不足部分を削除。」
セインは、そう言いながらDragonknightの銃は既にエネルギーを貯め始めていた。

 

だが、その必要は無い。

セインは見た。

そこにいる白い女神を。

 

胸に光るロザリオを強く握ったのは、何を恐れたのだろう?

 


どくん


ガシャン!!

音を立てて、ティーカップが真っ二つに割れた・・・・

落としたわけでも無く、皿の上に置かれていたのに・・・

嗚咽の漏れる部屋で、女はそれを気に留めることが出来ないでいた。


どくん


「え!?」
長い黒髪を揺らせて、女は思わず声を出す。

その手から、
何故か滑り落ちたワイン。

それは派手に紅い海を作り出す。

「ああ〜〜〜!!」
背の低い少女の叫びが食堂に木霊した。

それに続く、五人の嘆きの声。

残り一人は、もの凄くもったいないという表情を静かにしていた。


どくん


「・・・・・・・・」

ゆらゆらと揺れる髪が、儚くも美しい。

ただ女は静かに眠り続ける。


どくん


「マナブ!!!」

埋めていた枕から、
ふいに顔を上げると、名前を大声で呼ぶ。

いや、叫ぶ。

 

そして、その勢いのまま立ち上がると、
その羽のような髪を揺らして、彼女は部屋を飛び出す。

 

彼女は何も見てないし、聞こえてないのに。

 

かつてマナブが戦闘中一度も入ったことが無い部屋に向かって、
彼女は全速力で走り出す。

息さえも止まるほどの勢いで。


どくん


セインの目の前で、
女神は微笑んでいたように見えた。

そして、その脇腹からは巨大な戦斧の刃が飛び出している。

 

紅い瞳は、精気を失っているのか?それとも最初から無いのか?
美しい宝石のように輝いていたが、瞬くことはない。

 

ぐるりと鎖でつながれた刃が回る。
女神の脇腹もそれに合わせて、肉を引きちぎるような感じに傷を深くする。

でも女神の表情は変わらない・・・・・

 

その刃の中心には瞳があった。

まさしく瞳である。

それはセインを、Dragonknightを見つめていた。

 

セインはその瞳の先にいる人間の動揺を感じずにはいられない。

L−seedを偶然で、倒してしまったのだから・・・・・

 

いや、偶然だからか?

 


沈んでいく堕天使。

その瞳は色を失い、
かつてのあの絶対的な強さを感じさせる雰囲気も無い。

まさに堕天使に相応しかろう・・・・・

 

それはただのシオンの塊。

ただの抜け殻。

ただの・・・・・・

**********

 

「何て事・・・・」
サライがそう呟いた。
その言葉は驚愕の印象を持たせるが、

「L−seedは最強」と言った声でサライはひどく静かな声音だった。

 

彼女の前に座るメルとヨウの心の中の言葉は一緒であろう。

だが、その意味はサライとは大きく違っていた。

 

モニターには、L−seedの脇腹を貫通した部分のダメージが、
正しくマナブにリンクしたことを知らせていた。

それは致命傷と言うに相応しかった。

「マナブ様は・・・・・もう・・・・・」
メルは唇を噛み呟いた。

 

その時、

 

「マナブぅ!!!!!!!!」

 

フィーアの声が

初めて作戦室に響く。

 

**********

Dragonknightのレーダーに光点が現れる。
それはその物体が海に沈んでいくことを伝えていた。

 

セインはそれを見て思う。

L−seedはその力を失ったのだと。

 

今、あらゆる索敵機器がL−seedの存在を示していた。

海中に沈みゆくL−seedの様子が、数字としてセインに与えられていく。

それはどんどん、遠く離れていった。

恐らくはあのアンカーを持ったモノの元へ辿り着き破壊されることだろう。

 

セインには、あのアンカーがL−seedを破壊する為に放たれていたわけではない事を知らない。

ただ事実として、L−seedの装甲を貫くArfであることは確か、
そして、その姿は未だにレーダーに映らない。

自分の駆るDragonknight並の高シオン製Arfであろう事は容易に知れる。

 

ある所でレーダーの光点が凄まじい勢いで膨れ上がり、消えた。

「L−seed・・・・破壊完了・・・・・リスト削除。」

 

だが・・・・・・・・・・・

 

これがL−seedの最期だと思ったことは、

セインの人生にとって、最大の誤認。

 




「マナブ・・・・・ヨモヨモわぁ?」

(俺がしたんだ・・・・)

 

「さっきまで、そこら辺にいたんだけど・・・・」

(いるよ・・・・そこにいるんだ。)

 

「本当?
ヨモヨモ、子供なんだから早く家に連れてこうよぉ。」

 

「そうだな。」

(もう・・・)

 

「マナブ!!マナブぅ!!ヨモヨモがぁ!!ヨモヨモがぁ!!」

 




どくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくん

どくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくん


ザバアアアアアアアアアア・・・・・

 

ゆっくりとゆっくりと海中から姿を見せるソレ。

 

Dragonknightの前に、

力無くいるソレ。

だらりと両手を前に垂れ下げて、

顔も前のめりに倒れている。

 

壊れたマリオネット。

それが一番最初の印象だった。

 

脇腹から伸びる鎖が、
妙に・・生々しい。

 

**********

 

「なに・・・?!」
セインが話す。
ただの「言葉」ではなく、「話す」のは戦闘中の彼にしては珍しい。

そこには爆発して消えたと思っていたL−seedが存在していた。

セインに、とっては驚くという行為自体久しぶりのことであった。

 

**********

 

月は明るいのに、
L−seedの身体が見えにくくなっていく。

 

レーダーにはもう映らない。
だから目視するしかないのに、

その瞳で確かめるしかないのに、

だんだん、

だんだん、

見えなくなっていく。

 

夜の闇に紛れ込む。

 

黒く、

L−seedが変わっていく。

 

女神だけが、いつまでも白く白くあった。

 

**********

「え、L−seed?」
メルが疑問を投げかけた。

だが、誰もそれに答えてはくれない。

頭の片隅で、メルはその事実も何故か納得していた。

**********

 

翼が後ろに折れ曲がる。

背中にぴったりと貼り付くように折れ曲がる。

 

後ろの女の脇から下を覆うように、
黒い翼は貼り付いた。

 

何の音もさせないで、
L−seedの脚の間にあった鏃のようなモノが取れて、
それがそのまま尾になる。

刺々しい針を腹に持った蛇のように、
フラフラと空中に浮かんだ。

 

**********

「12(トゥエルヴ)まで行けますか?」
サライは、一連の胸騒ぎのするショウを見ながら、ヨハネに尋ねる。

「・・・無理じゃな・・・」
ヨハネは呆然とするヨウとメルの肩越しから、
禍印の動きを示すメーターを見て言う。

 

「・・・・・−1.219%・・・0にも達していないわ。」

その声は、残念と安堵が入り交じった、不思議なモノだった。

そんな言葉をヨハネが言うと、ますます不思議に感じられる、そんな声だった。

 

「・・・・・Grand hazard(グランド・ハザード)・・・・」

サライは、誰に言うでもなく呟いた。

その瞳は、何故か?

とても優しくて哀しい。

 

Grand hazard・・・・それは「凶兆」の意味。

**********

 

もう、身体は漆黒に包まれていた。

ゆっくりと顔を上げるL−seed。

そこに痕は、もはや無い。

 

口元は完全にマスクのようなモノに覆われて、
言葉をそこから得られることは決してないように思える。

それは、逆に誰の言葉にも耳を貸さないと言うこと。

 

蒼と白は、黒に覆われて、

ただ、

紅い部分、
瞳とコクピット、

そして右拳部。

 

ただ、

青い部分、
左拳の手の骨のような部分。

 

それだけが変わらない。

 

**********

 

「ダメ!!・・・・マナブぅ、ダメだよぉ!!」

フィーアの泣き声にも似た叫び。

だが、それを聞き留めるモノはいない。

L−seedの成長?進化?それは止まることはない。

すでに始まってしまった事を止めることは、
フィーアでも出来ないのだ。

 

そして、フィーアに出来ないことは、
他の誰も出来ない。

 

フィーアには、何がマナブに起きているのか分かっているのだ。

そして、それは彼女の哀しみを増すだけでしかないことも。

 

「フィーア!マナブがいなくなっちゃヤだぁ!!!!!!!」

 

**********

 

バチィィイイイイイン

右甲のシオン板の釘が跳ねとんだ。

放物線を描いて海に沈んでいった。

そして、淡い光が強くなる。

 

瞬間、ソレが始まった。

 

瞳、
コクピット、
そして禍印から、

まるで地震で出来たような亀裂が走る。

その隙間から覗き見えるのは、

血のような紅。

 

毛細血管のように、
幾つも幾つも全身に伸びる紅い線。

 

亀裂から吹き出ている、微かな紅い霧。

 

その姿は、もはや堕天使ではなかった。

そこには、漆黒の魔王が存在していた。


黒いL−seedは、
ゆっくりとDragonknightの方を向いた。

セインの中で、ようやくL−seedが恐ろしいほどに強いという思いが生まれた。

ただ、それは通常のL−seedの数倍もの畏怖が付いていたが・・・・
初めてL−seedに会うセインには、幸運なことにそれが分からなかった。

不運とも言えたかも知れないが・・・・

 

Dragonknightは、スッと銃を構えた。
天才のセインであるから、先ほどのL−seedとは強さが違うことは、
雰囲気からは察していたが、それがどれほどのレヴェルアップなのか?
確かめる意味で同様の攻撃を行うのであった。

 

ズキュウーーーーーーーン!!!

龍が吐く炎、
その威力を模して名付けられた「ドラゴニック・ブレイズ」は、
変わらぬ凄まじい早さでL−seedに迫る。

 

そして、L−seedに命中した。
胸部に光線がまともに命中する。

蒼と白の時のように反射するわけでもなく、
それは完全にL−seedの身体にダメージを与えた。

 

それに対して、セインは一向に緊張を緩める事はない。

かわせなかったのか?

かわさなかったのか?

それは分からないが・・・・・・そこにダメージを与えていないと言う事実があった。

 

Dragonknightは、左手を再び肩のパッドに入れ、
その中に収納されている槍を出す。

先ほどのゲイ・ボルグと全く同じ型のものであったが、

「近接戦闘に切り替える・・・」
セインはそれを投げようとは思っていない。

 

龍対魔王の戦いが始まろうとしていた。

だが、

L−seedの瞳から出た紅は、
まるで涙のように見えたのは、

気のせいなのだろうか?


 

「どういうことなんだ?あれは確かにL−seedの筈・・・・」
トルスは呆然として、呟いた。

自分が貫いた相手がL−seedだと分かり、驚いたのも束の間、
数分後、存在を示したL−seedの死体は、

一瞬後、かき消えて、トルスの目の前で、その姿を漆黒に変えたのである。

ルサールカを抜こうにも、
その驚きの前でトルスはそれを忘れ見入っていた。

ルサールカの瞳を通して、L−seedの変形・・・・
・・・いや、変化と言った方が正しいかも知れない。

それは瞳がL−seedの発している高熱の霧に溶け壊されるまで続いた。

 

恐ろしい、禍々しい・・・けれども、目が離せない。
トルスは、悪魔に魅了される気分が分かった気がした。

 

指令を知らせるモニターの明滅が青いコクピットに鬱陶しく光る。
おそらくそれがなければ、
トルスはL−seedと戦うという選択をすることはなかっただろう。

 

70−Coverをゆっくりと起こすトルス。
未だ左肩から伸びるアンカーは、機体のバランスを保つために地面に差し込まれたままである。

「戦うなら・・・・地に於いて有利な場所で戦え・・か。」
トルスは、誰に教えられたのか?そんな言葉を呟くと、右の滑車を回し始めた。

 

ガラガラガラガラガラガラ・・・・・・・

 

凄まじい音がして、遊んでいた鎖の部分を巻き取る。
それが無くなったとき、L−seedは海中に没し、70−Coverの前に現れる。

水中に於いて、トルスは70−Coverが負けることを信じはしない。
トルスもまた、プラスやセインと同様に天才と言われる部類の戦士だったからである。

 

**********

 

先に動いたのはDragonknight。

一気に間合い詰める、黒いL−seedはその攻撃に反応するそぶりも見せない。

だが、ゲイ・ボルグが正しく、L−seedのコクピットを狙い突かれたとき、
既にL−seedの姿は無かった。

かわしたわけではない、
その証拠に大きな水しぶきがDragonknightに盛大なシャワーを提供している。

下から鎖が引っ張られたことを理解したセインは、
これ以上の戦いを避けることを決断した。

 

何故なら・・・・・ゲイ・ボルグは確かにL−seedのコクピットに突き刺さった筈である。

だが、その先端は拳に横殴りにされ、折れ曲がっていたのである。

あの時に、L−seedが動いたことをセインは知覚することは出来なかった。

 

ボチャン・・・

 

ゲイ・ボルグの先端が折れ落ちた・・・・
いや、その部分を見る限り溶け落ちたという方が正しいのだろう。

高熱と見えない速度・・・・・・

「もし・・・鎖が引かれなければ・・・・」
おそらくDragonknightにも、尋常じゃない被害が出たことだろう。

それを理解したからこそ、さすがのセインもここは一旦引くしかなかった。
折れ曲がった翼が、広がり一気に加速、Dragonknightは何処かへと去っていった。

月明かりが綺麗な夜に相応しく、静かで美しかった。

 

黄金が彼方で消える。

 

**********

 

ガラガラガラガラガラガラ!!

もの凄い音が、左肩から聞こえた。
鎖が巻かれているのではなく出ている。

「なんなんだ、この力!!」
トルスは、苦痛の中から声を絞り出す。

 

ルサールカの鎖が急に動かなくなった。

L−seedは一向に彼の前に現れることはなく、
むしろ鎖を巻こうとした右肩は上に引っ張り上げられて、
強制的に左肩の滑車が回り始めたのだ。

下手に無理をすれば、70−Cover自体が真っ二つに裂けてしまう。

 

「仕方ない!!」
トルスが左のレバーを倒すと、
左側のアンカーが地面から外れた。

 

ガラガラガラガラガラガラ!!!!

 

右肩の滑車は相変わらず回り続ける。

モニターを見れば、鎖の長さがもう僅かであることを示していた。

 

(来るのか)

トルスは、勢い良く減っていく鎖の長さを示す数値を見て思う。

あの黒いL−seedが目で見られると思うと、少し緊張もした。

 

 

ガキィ!!!!

右の滑車が、ぶつかって止まった。

そして、70−Coverの顔が上に向けられる。
それはトルスが上を見たのと同じ事となる。

「な、なんだ?」
呆然とトルスが呟いた。

 

夜の海は暗い。

だから漆黒の身体のモノなんて見える筈がない。

 

だが、そんな理由で見えないのではない。

 

凄まじい水蒸気が立ち上っていた。

まるで焼いた石を、水中に投げ込んだときのように、白い煙を上げている。

 

「ボディが高温と言うことか、でも・・・・・」

 

異常だった、全てが異常だった。

暗い海の中、紅い線だけが映えて、
それは海が紅く割れたように見える。

 

「これが・・・L−seedなのかい?」
トルスは、少し半笑いで言う。

圧倒的異常さが、トルスの脳に侵入して、恐怖と言う種をばらまいていた。

 

紅い目と青い目がぶつかり合った。

それはマナブとトルスの心のぶつかり合いだった。

でも、トルスはマナブから何かを感じ取ることは出来ない。

 

感じられたのは、
70−Coverを、
自分を取り巻く水温が異様な高さで上昇していると言うこと。

額から吹き出る汗を、トルスはゆっくりと拭った。

 

L−seedは、自分の脇に刺さっている鎖をゆっくりと掴んだ。

「うわぁ!!」
トルスが右肩を押さえた。
それはもの凄い熱さ、LINKを通して伝わるL−seedの熱さ。

 

ズボォオ!!

そんな音が水中に鈍く伝わった。

 

L−seedが何の苦もなく、脇から刃を抜いた、
それに伴う痛みなど、何にも関係無しに。

 

L−seedの脇は無惨にえぐれて、向こう側が見えている。

それを確認する間もなく、トルスは上に打ち上げられた。

L−seedが鎖を掴んで、上に投げ上げたからだ。

 

「そんな!」
驚きの声を上げる間もなく、一気に海面を突き破り、
大きな水しぶきを上げて飛び上がる。

レーダーには映らないが、トルスは感じる。

L−seedも下から、上昇してきていることを、
海面に泡が出来て、高温の物体が近づいていることを示唆した。

 

「水の中・・・専用じゃないんだよ!」
トルスは、70−Coverを空中で安定させると、叫んだ。

両肩のアンカーは既に戻り、70−Coverにとって、万全の形である。

 

「カウンターだ!!」
奇しくも、トルスはセインと同様の攻撃方法を選択していた。

右肩のルサールカが一気に下降する。

 

だが・・・・それは堕天使の時のL−seedに通用した技。

今のL−seedは、決して堕天使ではない。

 

もはや、天使の名を捨てた・・・・

・・・それは魔王。

 

海面から浮上した何かに、ルサールカは弾き飛ばされた。

真っ赤な炎を上げた何かが、海面から突き出ていた。

 

よく見れば、それはツルギ。

深紅の刀身から、真紅の炎をあげるツルギ。

 

海面から全てが現れる。

夜の中、炎が紅く光り輝いている、
そして、それを持つモノも紅い霧に覆われている。

 

**********

「L−seed Ver.Grand hazard(ヴァージョン・グランド・ハザード)。」
ヨハネにしては珍しく、静かに言った。

**********

「EPM軍Arf多数接近!」
視線の端に認めた多数の光点を慌てて、報告するメル。

だが、L−seedの姿に心は奪われたままだった。

(・・・怖い・・・)

**********

「さっきの反応を見つけられたのか。」
トルスは、目の前のL−seedを見ながらも、横目で接近するArfを確認する。

ガラガラ・・

ルサールカは、右肩に収まっている。
その刃は、あまりの高熱に溶けていることを知ったとき、

トルスは今の自分の心では叶わないことを理解した。

心が恐怖に喰われている状態では、このL−seedには勝てない事を。

それをきちんと理解できるトルスも、セインと同様に天才と言えた。

「今は・・・ダメだ。」

 

そう思った瞬間、L−seedの亀裂から紅い炎が勢い良く吹き出て飛び去った。

その方向には多数の光。

おそらくは一体より、多数を破壊することを選んだのか?
今のL−seedにとっては、どのArfも、どんな数も意味を為していないように思える。

それなら、数が多い方が後で面倒が少ない。

 

トルスはそう判断して、
多少の安堵に身を委ねる。

屈辱感を殺して、70−Coverは海中に入っていった。

命令が出ていない今、敢えてEPMと戦う必要は無いのだから。

 

まして魔王を敵にして戦うなら、なおさらだ。

 

だが、トルスは知らない。

ただ帰りたかっただけ。

それが理由であったことを。

 

海の向こうで、多くの光が点いては消えて言った。

多くの恐怖が、夜を包み込む。
空はまるで太陽が出ているように明るくなっているのに・・・・・・

悲鳴は聞こえない、でも恐怖は木霊して増えていく。



数刻後

(マナブ・・・死んじゃダメだよ・・・・)

 

(フィーア・・・・マナブがいなくなったら悲しいよ・・・・)

 

フィーアは言葉にしないで、
マナブに言うのだった

 

半裸のマナブの身体、
残った衣服も黒く焦げている。

 

蒼と白の堕天使が見守る中、
蝋燭の暖かいひかりに照らされて、
二人のシルエットが重なっている。

 

あわせた唇から、

赤いモノが、

一筋流れて、

錆びた床を濡らした。

 

真紅は柔らかい光に洗われて、

不思議と神聖なモノに見えていた。

 

フィーアはしっかりとマナブを抱きしめて想い続ける。

 

(フィーア・・・・マナブがいなくなったら哀しいよ・・・・)

 

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次回予告

死に等しいモノに乗るとき

優しさの全てが愛情に変わる


こいつは誰だ!この組織なんだ?と言う疑問がある方は、
「神聖闘機L−seed」設定資料集にどうぞ。

人間関係どうなっているの?と言う疑問をお待ちの方は、
「神聖闘機L−seed」人物相関図にどうぞ。

ご意見、ご感想は掲示板か、このメールで、l-seed@mti.biglobe.ne.jp お願いします。

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