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難経の治療原則

難経にはいろいろな治療手段が記載されているが、我々経絡治療家が本治法という場合 は難経六十九難に基づいた治療原則で施術する方法を言う。

「難経六十九難」
六十九の難に曰く、経に言う、虚するものは之を補い、実するものは之を泄す。
虚せず実せずんば、経を以って之を取るとは何の謂ぞや。然るなり、虚するものは其 の母を補い、実するものは其の子を瀉す。当に先づ之を補って然して後に之を瀉すべし。
虚せず実せずんば経を以って之を取るとは是れ正経自ら病を生じて他邪に中らざれば なり。当に自ら其の経を取る、故に言う、経を以って之を取ると。

 難経の解釈に於いては経絡治療家の中でも意見がいろいろ別れるところがある。 難経六十九難もそのひとつでこの解釈の違いによって会派が別れているほどである。 元々木簡に記された経を基にしているので言葉がかなり省かれてしまっていることが その主な要因である。従って経の中で指し示される「其の母」や「其の子」の「其の・・」 が「其の経の母経や子経」なのか「其の経中の母穴や子穴」なのか解釈によって施術 する経や穴が大きく違ってきてしまう。
 どの解釈をとってもいずれかの解釈の部分でどうしてもそれぞれの持論を押し通さ ないと話が進まなくなる。このことは六十九難に限らず古典を解釈する場合にはぶつ かる問題であるがこのことにあまり拘泥していても始まらない。要はひとたび自分の スタンスを決めたらそれを最後まで貫いてみてその結果をクールに考察していけば良い。
 筆者は故福島弘道先生の説に倣って難経を解釈してきているのでここでもそれに 従って解説してみたい。さらに詳しくは故福島弘道先生の著書を参考にされると良い。

要約すると
1) 虚した経は補法で補い、実した経は瀉法をもって平らげる。
2) 補法と瀉法では補法を優先させ、補った後瀉す。
3) 最も虚した経を本証とする。
4) 最も虚した経をまず補うが次にその経の母経が虚していればその母経も補う。
5) 最も虚した経の相剋関係にあたる経に虚実があればこれを副証とする。
6) 副証の経も虚実に従い補瀉を行う。

具体的例を示すと六部定位脉診によって最も虚した経が患者の左手の関上の部の肝経 の脉だったとすると脉診による証は肝経の一経虚証となる。もし肝経の母経である 腎経も虚しているとなれば肝虚(単一)証となる。次に肝経の相剋経である脾経、 肺経を観察し虚実があれば、副証はそれぞれ脾実証、脾虚証、肺実証、肺虚証となり 本証と合わせてそれぞれの場合を肝虚脾実証、肝虚脾虚証、肝虚肺実証、肝虚肺虚証と呼ぶ。
この場合副証となるべき経も虚した状態の存在を認めたのは故福島弘道先生で例えば これを肝脾相剋と呼んだりその治療を肝脾の相剋調整と呼んだりする。理論の上では 仮定の部分を含んだままであるので他からの批判も多いが実践的な臨床家であれば この理論の正当性を認めざるを得ないのは筆者ばかりではないだろう。 つまり本証のみならず副証までも虚した状態であるとして施術した方が他の証を立て た時よりも成績が良い場合が間違いなくあるということである。 しかし、この理論に対する客観的な追試が行われず多くの臨床家の印象によって支え られているのが残念である。このことは未だに印象でしかものを言わない東洋はり医 学会の責任でもあると筆者は考えている。

具体的な取穴に付いては治療過程を参照のこと。