3.6 基盤モデルと生成AI
LLM・VLM・End-to-End運転モデル
この回で分かること
- 基盤モデル(大量のデータで事前学習し、さまざまな用途に使い回すモデル)と、事前学習・微調整の流れを説明できる
- LLM が「次のトークンの確率」を予測して文章を作るしくみと、温度・ハルシネーション の意味を説明できる
- VLM や End-to-End 運転モデルなど、自動運転での使い道と安全上の課題を説明できる
直感で理解する
これまでのモデルは、「歩行者の検出」「標識の分類」のように、1つの課題ごとに正解付きのデータを集めて学習するのが基本でした。これに対して 基盤モデル は、まずインターネット上の文章や画像、大量の走行記録などを使って、正解ラベルなしで巨大なモデルを学習させます(事前学習)。そのあと、少ないデータで追加学習(微調整)したり、文章で指示を与えたりして、さまざまな用途に使い回します。
正解ラベルなしで学べるのは、「文章の続きを当てる」「隠した部分を当てる」のように、データそのものから問題を作れるからです。膨大なデータの続きを当て続けるうちに、言葉の意味や世界についての知識のようなものが、モデルの中にたまっていきます。
文章を扱う基盤モデルを LLM(大規模言語モデル)、画像と文章の両方を扱うものを VLM(視覚言語モデル)と呼びます。文章や画像を新しく生み出せることから、まとめて 生成AI とも呼ばれます。中身の多くは、3.5 の Transformer を巨大にしたものです。
数式で確かめる
① LLM は「次のトークン」の確率を予測する
LLM は、それまでのトークン(3.5)の並びが与えられたときに、次に来るトークンの確率を予測します。1.2 の条件付き確率そのものです。
文章を作るときは、この確率に従って次のトークンを1つ選び、並びに付け足して、また次を予測する、をくり返します。事前学習では、実際の文章で次に来たトークンの確率が高くなるように、つまり交差エントロピー(2.4)が小さくなるように学習します。モデルが学ぶのは「本当かどうか」ではなく「続きとしてもっともらしいか」である点が、あとで大事になります。
② 温度:答えの散らばり具合を決める
各候補の点数 \(z_k\) を確率に直すとき、ソフトマックス関数(2.4)の前に 温度 T で割ります。
「赤信号では車は」に続く言葉の候補の点数が、「止まる」4、「停止する」2、「進む」0 だったとします。
温度1では「進む」の確率は \(1/(e^4 + e^2 + 1) \approx 1.6\%\) ですが、温度2では約9%に上がります。温度を上げると表現が豊かになる一方、まれに不適切な答えも出やすくなります。温度を下げるとほぼ毎回同じ答えになりますが、それが正しいとは限りません。
③ 規模と、使い回し方
現在の大きな LLM は、数十億〜数兆のパラメータを持ち、数兆トークンの文章で事前学習されています。モデルの大きさ・データの量・計算量を増やすほど、損失がおおむね予測できる形で下がり続けることが知られていて(スケーリング則)、これが大型化を後押ししてきました。
事前学習したモデルは、次のような方法で目的に合わせます。
- 微調整:目的の課題の、少ない正解付きデータで追加学習する(3.2)
- 指示(プロンプト):「この画像の危険な点を挙げて」のように、文章で課題を伝える
- 人の評価による調整:人が良い・悪いと評価した答えをもとに、振る舞いを調整する
発展:生成AIの評価
生成AI の答えには、ひとつに決まった正解がないことが多く、評価は画像の認識よりも難しくなります。よく使われるのは、正解のある問題をたくさん集めた ベンチマーク で正答率を測る方法ですが、読むときに注意したい点が3つあります。
- 正答率にも幅がある:500 問で正答率 80% なら、標準誤差は \(\sqrt{0.8 \times 0.2 / 500} \approx 1.8\%\) で、95% の幅はおよそ ±3.6 ポイントです。ランキングで 1〜2 ポイントの差があっても、偶然の範囲かもしれません(2.7、3.10)。
- 問題が学習データに混ざっている(データの混入):ベンチマークの問題と答えがインターネットに公開されていると、学習データに含まれて「覚えて」いることがあります。測った正答率が 82% でも、問題の 10% を丸暗記で解いていたなら、初めて見る問題での正答率は (0.82 − 0.10) / 0.90 ≈ 80% です。公開されていない問題や、新しく作った問題で確かめます。
- 毎回同じ答えとは限らない:温度(②)が 0 でなければ、同じ質問でも答えが変わります。1 回ごとの正答率が 80% でも、5 回続けてすべて正しい確率は 0.8⁵ ≈ 33% です。安全に関わる使い方では、何回か答えさせて、ばらつきも評価します(3.7)。
正解が決まらない文章の良し悪しは、人が採点するか、別の AI に採点させます(AI による採点)。AI による採点は速くて安い一方、長い答えや最初に示された答えを高く評価しやすい、自分と同じ系統のモデルを好みやすい、といった偏りが知られています。人の採点と一部を突き合わせて、ずれを確かめてから使います。
自動運転との接点
- 使われ始めている場所:場面を言葉で説明したり質問に答えたりする VLM、大量の走行記録から「雨の夜に子どもが横断」のような珍しい場面を言葉で探す検索、学習データへの正解ラベル付けの補助、センサから経路までを1つのモデルで行う End-to-End 運転モデル、実在しない場面を作り出すシミュレーションなどです。→ 4.6 モジュール型とEnd-to-End型、5.7 シミュレーションとXiL、5.8 未知の危険を探す
- もっともらしい誤り(ハルシネーション):生成AIは「もっともらしい続き」を作るので、自信のある口調で事実と違うことを答えることがあります。運転中に「信号は青です」と誤って説明されれば危険です。安全に関わる判断に使うなら、別の手段で確かめるしくみ(監視・歯止め)が必要です。→ 4.7 安全の3本柱
- 同じ入力でも答えが変わる:温度などの設定しだいで、同じ質問への答えが毎回変わります。評価では設定とモデルの版を記録して固定し、何度も試して答えのばらつきごと確かめます。提供元がモデルを更新すると、振る舞いも変わりえます。
- 学習データが広すぎて見えない:インターネット規模のデータで事前学習したモデルは、何を学んだのかを把握しきれません。ODD との関係や、必要な場面をどこまでカバーしているかを示すのが難しくなります。→ 5.9 AIコンポーネントの安全
- 「正解」の決め方が難しい:自由な文章や経路を出力するモデルは、何をもって正しいとするかの基準づくりから必要です。場面を決めて振る舞いを確かめる評価が中心になります。→ 5.6 シナリオベース検証
まとめ
- 基盤モデルは、正解ラベルなしの大量データで事前学習した巨大なモデルを、微調整や指示でさまざまな用途に使い回すもの。LLM・VLM・End-to-End 運転モデルなどがある
- LLM は次のトークンの確率を予測して文章を作る。温度を上げると答えが散らばり、確率の低い不適切な答えも出やすくなる
- 学ぶのは「もっともらしさ」なので、ハルシネーションが起きる。安全に使うには、別の手段での確認、設定と版の固定、場面ごとの評価が必要
確認クイズ
Q1. 候補の点数が「止まる」4、「停止する」2、「進む」0 のとき、温度1での「進む」の確率は?
\(e^0 / (e^4 + e^2 + e^0) = 1 / (54.6 + 7.4 + 1) \approx 1/63\)、約1.6%です。
Q2. 同じ点数で温度を2にすると、「進む」の確率は? これは何を意味する?
点数を2で割ると 2、1、0 なので、\(1 / (e^2 + e^1 + 1) \approx 1/11.1\)、約9%です。温度を上げると、確率の低い不適切な答えが選ばれる機会が増えます。
Q3. LLM が、自信のある口調で事実と違うことを答える現象を何と呼ぶ? なぜ起きる?
ハルシネーションです。LLM は「続きとしてもっともらしいか」を学んでいて、「本当かどうか」を確かめてはいないからです。
Q4. 同じ画像と質問に対して、VLM の答えが毎回少しずつ違いました。安全評価ではどうする?
温度などの設定とモデルの版を記録して固定し、同じ条件で何度も試して、答えのばらつきを含めて評価します。モデルが更新されたら、評価をやり直します。
もっと知りたい人へ
- 次の回:3.7 不確実性とキャリブレーション
- 関連:1.2 条件付き確率とベイズの定理、2.4 ロジスティック回帰(ソフトマックス関数・交差エントロピー)、3.5 Transformerと注意機構
- 用語集:基盤モデル・事前学習・微調整、LLM・VLM、温度、ハルシネーション、End-to-End
- 解説動画:YouTube(約5分)(静止画のスライドと音声で要点を説明。英語版の記事には英語の動画があります)
- 参考文献
- R. Bommasani ほか, “On the Opportunities and Risks of Foundation Models,” arXiv:2108.07258, 2021.
- J. Kaplan ほか, “Scaling Laws for Neural Language Models,” arXiv:2001.08361, 2020.
- Y. Hu ほか, “Planning-oriented Autonomous Driving,” CVPR, 2023.