ラムネ様_リク小説

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2 in 1


雲一つない青空だと思っていても、ほんの少し風が湿ったと気付いた次の瞬間には、もう天がひっくり返るような嵐が来たりする。自分の人生、これまで散々奇怪なものを見てきた。もうこれ以上の事象は起こり得ない、ようやくこれで平穏な日常が訪れたと安心したのもつかの間、突然もっととんでもない事が起こったりする。その原因はいつも…ヤツだ。

「………………おい」
横窓から差し込んでくる朝日にこめかみがピクピク引きつるのを感じながら「ヤツら」を睨みつけると、カカロットが黒い目をぱちぱちと瞬かせて怪訝そうな顔をした。
「なんだベジータ、どうかしたんか?」
太い腕を組みながらのんびり胡坐をかくカカロットのすぐ横で、カカロットそっくりの声がする。
「おめえ顔色悪ぃぞ」
声の主は緑の目を見開きながら、長い脚を投げ出し寛いだ様子でオレを見上げた。金色の髪と目の色を除いたら、その顔はカカロットそっくりだ。……いや違う、そっくり、どころの騒ぎじゃねえ。そっくりどころか同一人物、カカロットそのものだった。
「なんだ、じゃねえ、どういう事だこれは!!」
――ある日、カカロットが『二人』になった。
――それもなんの説明も無く。


「どうって言われても…なあ?」「なあ」
この怪現象をいち早く見つけたオレの前で(なぜ一番始めにオレが見つけたか。……ヤツの隣りで寝ていたからだくそったれ!!)「奴ら」は実に呑気なものだ。同じ顔をした黒髪のカカロットと金髪のカカロットは、天気の話でもするような気安さで、互いの顔を見合わせて頷きあった。
「朝、目が覚めてたらこうなってたんだよな」「だからオラにも良くわかんねえんだ」
二人そろってこちらに向き直り、同時に首を傾げる(同一人物だから正確にいえば「二人」はおかしいか?くそっややこしい!!)
「なあ、そうだよな。もう一人のオラ」「ああ、そうだ」
黒いカカロットの言葉に同調して金のカカロットがすかさずうなずく。この異常事態にうろたえてるのはオレだけかよ!なんで当の本人が落ちつき払ってるんだ、おまけに無駄に息ぴったりなのがムカツクぜ!!


「なにが『なあ』だ、ふざけやがって!キサマ少しは驚くとかうろたえるとかしたらどうなんだ!!」
「んな事言ったって騒いでもなんとかなるわけじゃねえだろ?」
黒のカカロットがのんびりと答える。
「そうそう。そのうち神龍に頼んだら一人にもどしてもらえるだろ」
今度は金のカカロットがのんびりと答える。分裂(?)しても性格は変わらないらしい。折しもカプセルハウスの外では日が昇り始め、じりじりと気温が上昇していく。ついでに、はははと笑う奴らを見てるとオレのイライラまで増してくる。
「『そのうち』ってどういう事だ、しばらくそうしてるつもりか?!」
「それにオラが二人いれば悪ぃ奴が現れても戦える奴が増えるってもんだろ」
オレの言葉をまるっきり無視しながら再び金のカカロットが答える(どうやら金の方が黒い方より少しだけ知恵が回るらしい)。


それにさ、と金のカカロットが畳み掛ける。
「オラたち二人いれば、組み手の相手に困らねえよな、なあもう一人のオラ」「あ、そうか。おめえ…じゃねえや、オラ頭良いなあ」
「何言ってやがるカカロット、キサマの相手はこのオレだ!!」
ぶつり、とオレの中で何かが切れる。
「第一実力がまったく同じもの同士でトレーニングしてどうするつもりだ、お互い倒れるまでやろうってのか?!」
「ぶっ倒れるまで修行かあ、おもしろそうだな」「ああベジータ心配すんな。たまにはおめえの相手もしてやるよ」
~~~~~~~~っ!!こっこいつらふざけやがってぇええっ!!!オレが拳をワナワナ震わせてる間にも、カカロット二人は『自分の横顔を初めて見た』だの『自分のつむじは右寄り』だの、どうでも良い事で互いにはしゃいでいる。


こんなバカどもに付き合ってられるか!!こうなったらカカロット、このオレが二人まとめて……!!このバカどもをカプセルハウスごと吹っ飛ばしてやろうかとオレが身構えかけたところで、金のカカロットがあっと何かに気が付いた顔をした。
「けどよお、オラ達大食らいなのに二人に増えちまったらマズイかもなあ」
金のカカロットに合わせて、黒のカカロットも声を上げる。
「またチチの奴に怒られちまうな」
「あいつ怒るとすげえ怖えからなあ」「ああまったく」
「バカかキサマら、他にもっと考える事があるだろうが!!」
「他にもっと……?あっそうか、仕方ねえ、まずメシは暫くの間オラたち二人で半分ずつわけるとすっか」「ああ、わかったぞ」
「違うそうじゃねえ!!」
「何だ違うのか?えーっとなんだ…?ああそうか、大丈夫だベジータ、オラたちたぶん体型も同じだから道着も同じの着るさ、心配すんな」
「そうじゃねえって言ってるだろくそったれが!!」
このバカ相手に常識は通用しないと分かっているはずなのに、話すほどにオレの血管が切れそうになる。
「きっキサマらのんきな事ばっかり抜かしやがって、ちょっとは後先の事も考えやがれ!!」
そこまで口にして、そこでオレは重要な事に気が付いた。まてよ?カカロットが二人になったという事は、オレが倒す相手も二人に増えたということか?カカロットの奴が「修行」だのとぬかしてどこかへ行っちまってももう一人残る事になるわけだ。なるほど、これは面白い。闘う相手が多いほど燃える、それが戦闘民族サイヤ人だ!ふはははは!!
「ベジータ、何か一人で笑ってるぞ」「気持ち悪ぃ奴だなあ」「ところでさ、もう一人のオラ」


そこまで一頻り笑っていたオレの背筋を、何やらピリっとした感覚が走り抜けた。…なんだ、この感触は…戦場で身につけた、オレの第六感とも言うべき感覚。
「メシも服もオラたち二人でわけられるけどさ」
ちらり、と黒のカカロットが横目でオレを見た。……ぞくり。またしても今一瞬背筋を何かが駆け抜けた。
「…あ、そうか。分けられねえものもあったな」
今度は金のカカロットが、やはり横目でオレを見る。……ぞぞぞぞぞっ……なんなんだ、この背筋が寒くなるような感触は……覚えがあるぞ?!
「あいつのケツ、一つしかねえよなぁ」「うーん、神龍に頼んでベジータも二人にしてもらうか?」「んな事しなくっても、あいつのケツと口を使えばいいんじゃねえか?」
この感触は大抵戦況が一気に悪化する前触れ、最悪の事態が起こる時の前兆だ!!
「そうか、ベジータもオラたち二人で分ければいいんだな!」
黒と金のカカロットが同時に破顔するのと、それまでで一番強烈な悪寒にオレが後ずさったのは、ほぼ同時だった。
「「オラ達って頭いいなあ!」」


「はっ離しやがれこのバカどもが!!」
オレは寝台の上にポイと転がされ、たちまち金のカカロットに両腕を恐ろしい力で押さえつけられた。
「いいじゃねえか、朝メシ前に体動かしたほうがメシもうめえだろ」
なにがメシだ、食う間も無くサカりやがって!!黒のカカロットが少しも悪びれた様子も無く、オレのシャツをまくりあげる。ああくそっ!さっき着たばかりだぞ!
「何が『体を動かす』だ、きさまら勝手な事ばかりぬかしやがって!!くそっ、離しやがれ!!てめえら二人まとめて相手したらこっちの身が持たねえ!!」
オレがいくら喚き散らしても、オレの腕を押さえつける金のカカロットの強力は少しも緩まない。むなしく身もがくオレの衣服が黒のカカロットの手でポイポイと剥がされていく。やっぱりカカロット、キサマは一人でいろ!!オレが倒すカカロットは一人で十分だ!!!


もはや身を覆う衣服を全てはぎ取られ、ガバッと開かされた足が黒のカカロットの両肩に担がれる。更に目の前には、オレの口を塞ごうとするように金のカカロットの凶悪なブツが迫り―――――。







ぎゃあああああっ!







…自分の絶叫する声で、オレは目が覚めた。寝台から転げ落ちるほどの勢いで飛び起きたオレの胸は冷や汗でぐっしょり濡れ、先程まで押し寄せていた絶望と恐怖に心臓が踊り狂っている。……夢?今のは夢だったのか?
「………………」
オレの隣りでぐーすか寝ているカカロットの姿を、おそるおそる眺めてみた。その髪の色は…黒、だ。そしてカカロットは一人、だけだ。
良かった、『夢』だったか…。事実を確認すると同時に、たちまち胸に押し寄せる安堵と脱力感。良かった、本当に良かった……!!脱力のあまり、オレはそのまま寝台にぐたりと倒れてしまいそうになった。まったく、何てひでえ夢を見たんだ。よりによってカカロットのヤロウが二人になるなんて、な。大きく息を吐きだして暴れる心臓を落ちつかせる。しかしなぜ、オレはあんな夢を見たんだ?『もっとカカロットの奴と闘いたい』、オレの願望が妙な形で夢に現れちまったって事か?自分に対する決まり悪さを覚えつつ、オレはもう一度深呼吸してから今度こそ幸せな眠りにつくため寝台に身を横たえようとした。


「お、ベジータ目が覚めたか?」
目蓋を閉じようとした瞬間、あらぬ方から不吉な声がした。オレの横でぐーぐー眠っているはずのカカロットの声が、なぜか部屋の入り口方向から聞こえてきた。
「なんだ、もう一人のオラまで寝ちまったのか?だらしねえなあ」
また不吉な声がして、オレは力を込めて目を閉じた!!これは夢だ、夢なんだ!!てっきり夢から覚めたと思ったが、夢から覚めた夢を見ただけだ!!!
「……ふああぁ、オラすっかり眠っちまった」
オレの淡い願望を打ち砕くように、同時にオレの横で黒髪のカカロットが、大あくびをしながら目を覚ます声が聞こえる。
ダメだ、絶対ダメだ!!目を開くなオレ!!絶対に目を開くんじゃねえ!!!心の中で絶叫する自分の意思に逆らうようにオレの目は開かれ…そこで押し寄せる絶望感が現実化するのを目にした。
「「じゃあベジータ、休憩したところで続きすっか」」
―――寝台に横たわるオレの横では寝ぐせでくしゃくしゃになった黒髪のカカロットが、そして開け放たれた部屋のドア付近ではスポーツドリンクの缶に口をつける金髪のカカロットが、そっくり同じ笑顔でオレを見ていた。







……ぎゃああああああああっ!!







むなしく響き渡る自分の絶叫を聞き、夢で見た光景さながらに、二人のカカロットに圧し掛かられガバッと足を開かされながらオレは思った。今すぐにでもドラゴンボールを集めて神龍に願いを叶えさせてやる!今度の願いは不老不死なんかじゃねえ、「カカロットを一人に戻せ」だ!!
…もっとも、二人のカカロットにこれからめちゃくちゃに翻弄されるであろうオレに、そんな暇があればの話だが。