まうす。様_リク小説

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最後の花火が消えるまで
本リクをいただいた「午前2時」のまうす。様より、この小説の挿絵をいただきました、ぜひご覧ください!!←の画像をクリックすると全体が見られます。

花  火



互いの体を繋げる時、彼らは時に誰よりも強くなり、時にひどく無防備になる。外界の全ての情報は遮断され、今二人はただ互いの体に溺れていた。先程まで茜色だった夕暮れがすっかり夜の景色に変わっても、未だ昼間の熱気を含んだ夜風がそよぎ、二人で無邪気に遊んでいた花火の燃えかすが微かな金属や火薬の残り香を漂わせても、少しも気を反らす事無く行為に没頭し続けていた。


「…ぁ…も、……ムリ、だ…っ…」
二人分の体液と汗に湿るシーツの上で、一つに重なった二人の影が激しくもつれ絡みあう。組み敷かれた体はしどけなく手足を投げ出し、その上に覆い被さる男は衰える事を知らずその身を穿ち、激しく揺さぶる。
「何だよベジータ、もうへばっちまったか?」
からかうような、それでいてどこか余裕の無い声と共により一層奥深くの襞を掻き分けて、隠された良いところを掏られると、力を失っていた体が痙攣するように跳ね上がる。
「あ、ぅあ…っ、もう…いやだあぁ…っ!!」
「何でいやなんだ?」
無意識に上へとずり上がって逃げようとする肢体を引き摺り戻し、侵略する男が更に深く突き上げる。悲鳴とも嬌声ともつなかい声を上げながら反らさせた喉に、戯れに男の歯が立てられる。肌に触れる犬歯は白く鋭く、その姿は獲物にとどめをさす獣にそっくりだ。獲物を見据える目は緑の光彩に煌めいて、火花を散らすように燃えている。
「おめえが『欲しい』って言ったんだろ?」

「…ッ!や、やぁ…!」
頭上で手首を一纏めに捕らえ、シーツの上に縫い止めて更に激しく責め立てる。その度に獲物は狂ったように頭を打ち振り、歓喜と羞恥に啼きじゃくる。内側から湧き上がる熔けるような快楽に、触れられずとも彼のものは宙を仰いでそそり立ち、既に何度目かわからないほどに白い蜜を噴き出していた。
鍛え上げられた筋肉がくっきりと浮かぶ腹に獲物の楔がじかに当たるのを感じて、責め立てる男は喜悦と僅かばかりの傲慢を口元に浮かべてうっすらと笑った。
「なあベジータ、気持ちイイんか?」
「……あ…っ、あ、あァ……」
休む事なく責め続けながら、自分の腹にあたってびくびくと震える屹立を手にし軽くすいてやるだけで、その体は過ぎる快楽に跳ね上がり、侵入する熱い内部はきゅうっと締め付けられ、手の中の者は既に透明になりかけている新たな蜜を吐き出しては互いの汗と混じり合いながら放物線を描く。


「なあ、気持ちイイ?なあってば」
あまりに激しく打ち振られて乱れ汗ですっかり湿った髪を、ゆるくかき上げて耳元で甘い声で囁けば、獲物は快楽に潤みきっていた目を見開いて懸命に男を睨み上げる。
「うるせ…っ、いい加減、さっさと…終わりやがれ……っ!」
そう言って、日ごろ手袋に覆われて日に焼ける事の無い白い手が懸命に男の腕を掴んだ。目元を快楽と羞恥に潤ませながらも、あくまでその口は素直でない事ばかりを口にする。自分の腕を掴む小さな手は、もう許してほしいと訴えながら、それでいて自分を離すまいと必死にしがみついてくる。
――ベジータらしいなあ。

「……も、やぁ……カカ……はや、く……っ!」
限界が近い事を訴える声と共に、彼を苛む責め具からなおも貪欲に絞り取ろうとでも言うように、熱い内部がいっそうきつく締められる。その瞬間、持って行かれまいと男の口から獣のうめき声が聞こえ、その胸の中を狂おしい衝動が席巻する。二人が繋がった熱い箇所から互いの体はどろどろに溶けて混ざり合い、永遠に離れなくなるようなイメージが頭をかすめる。
この体を蹂躙し尽くしたい、決して折れる事の無い心まで屈服させたいと、原始的な本能が強く訴えてきて、その勢いのまま律動を一層激しくする。自身の噴きだした蜜にまみれ、びくびくと腕の中で震え続ける小さな体。この体で自分が手が触れていないところなんてどこにもない。いつも互いに痣だらけになって血みどろになるまで闘ってきたのだ。彼の体のことは、彼以上に知り尽くしている。その強いところも、弱いところも。記憶のままに正しく容赦なく、彼の最も弱いところを突き上げた。
「……あ、あッ…アアアアァ!!」
その瞬間、絶叫に近い嬌声を迸らせて獲物が果てた。熟れきった果実が弾けて男の胸と、自身の腹に半透明のしぶきを散らす。弓なりに大きくしなって硬直した小さな体が、すぐまた糸の切れた操り人形のようにぐったりとシーツの上に身を投げ出した。やや遅れて男が、両手でその細い腰を鷲掴みにすると、最奥を突き破ってもなお先を求めるように、より激しく強く突き上げて、身震いしながら獲物の中に自分の灼熱を注ぎ込んだ。




「………ん………?」
遠くで空砲を放つような破裂音が聞こえて、続いてズウンと腹に響くような大きな音が聞こえて目を開ける。
「お、ベジータ。目が覚めたか?ずいぶん良く眠ってたなあ」
ぼんやりと意識が戻ってここがどこなのか咄嗟に分からなかったが、目に写る肌の色にベジータはすぐに状況を理解した。手枕で横たわる悟空のむき出しの胸に身を寄せながら眠っていたのだ。それも、ゆったりと下衣のみ纏った悟空に対して、自分は相変わらず一糸まとわぬ裸ということを知って、かあっと顔が赤くなる。思わず声を上げようとするのを、悟空の言葉に遮られた。
「また新しいの上がったぞ」
空気を切り裂く笛のような音に続いて、腹の底に響く破裂音が遠い空から響いてくる。
「オラ、青いの好きだなあ、ほらあのでけえやつ」
悟空が目を向けた窓にベジータもちらりと視線を走らせた。並みの人間には夏の夜空に浮かぶビルのシルエットが見えるばかりだろうが、彼の卓越した視力やその他の感覚は、建物の影の向こうにあるものをはっきりと捉えた。遠くから聞こえる低い轟音、夜風に混ざる火薬と金属が燃える微かな匂い。そして二つが交じり合って化学反応を起こす時の、艶やかな色彩。光の残滓を撒き散らしながら夜空に放物線を描く炎の典雅。彼の目はビルの裏のずっと向こう、打ち上げられる大輪の花火の姿をはっきりと捉えた。
近くの河川敷では西の都最大規模の花火大会が行われているということを思い出した。それから、花火大会の前哨戦だと言って、僅かばかりの線香花火を手に現れた悟空に渋々付き合わされた事も思い出した。



「なあ、おめえはどれが好きだ?あのわっかのついてるやつか?」
夏の夜空に次々と打ち上げられる同心円状の大きな花火が、緑や赤の優美な光彩を放ちながら消えていく。それを見ながら悟空が尋ねると、ベジータはぶっきらぼうな口調で答えた。
「…別に。打ち上げ花火なんざ、どれだって同じだろうが」
「なんだよ、つまんねえやつだなあ」
相変わらず愛想の無い答えをするベジータに呆れた声を上げながら、しかしその様子がいつもと少しばかり違うのを見て悟空が目を見開いた。ぷいと顔を反らしたベジータは、悟空の胸に顔を伏せてじっとしている。いつもなら『くっつくな暑苦しい』だの『さっさと離せ』だのと口汚く言いながら決して大人しくなどしないベジータが、今日は大人しく悟空の腕の中に収まっている。行為の後のけだるさなのか、それとも別の理由か。悟空はもう一度訪ねた。
「なあベジータ、おめえはどれが好きなんだ?」



するとベジータは、ふた呼吸ほど逡巡するような顔を見せた後、唇を舌で湿してからこう答えた。
「…線香花火…」
「へ?線香花火??」
予想外の答えに悟空は驚いた声を上げ、遠くの空に打ち上がる花火にもう一度目を向け、それからクンと鼻を鳴らして窓の外に置きっぱなしになった線香花火の燃えかすの匂いを嗅いだ。そういえばと、ふと思いだす。
――ベジータのやつ、ずいぶん喜んでたもんなあ。
悟空が持ち込んだ線香花火に、始めベジータはひどく迷惑そうな顔をしていた。けれど半ば強引に座らせて、火を点けた線香花火が小さな火花を散らし始めるとたちまち興味を引かれた様子で花火を凝視していた。そして僅かばかり持ち込んだ線香花火の最後の一本が火玉を落として消えた時、ベジータがひどく寂しそうな顔をして俯いた事も思い出した。それからしばらくして、本当に珍しい事にベジータの方から気恥かしげに悟空の胸にしがみついてきて「欲しい」と行為をねだってきた事も、思い出した。


悟空がもう一度目を窓の方に向けて、相変わらず打ち上げられる花火に目を凝らした。
「――なあベジータ。また線香花火やろうな」
ベジータは答えない。眠ってしまったのか、それとも黙っているだけなのか。それでも悟空は気にする様子も無く語り続けた。
「この頃悟飯も悟天もでかくなっちまって、ちっとも花火に付き合ってくれなくなったからなあ。なあ、またやろうな、ベジータ」
互いに身を寄せて横たわりながら、ずっと悟空は窓の外に目を凝らし、ベジータは黙って顔を伏せていた。窓の外では豪奢な大輪の花火が打ち上げられ続けている。火薬と金属の匂いがいっそう強く感じられるようになり、遠くから聞こえる人々の歓声が高くなる。花火の音の間隔が狭くなる。夜空に鮮やかな光彩を放ち続ける花火大会の終わりは近い。