<味ばなし −1>

発祥の地で味わう
みたらしだんご
京都・下鴨神社

 うっかり寝すごし朝になったらかたくなる、というだんごの歌は正しい。本当にうまいだんごを味わうには「すぐさま食べる」以上の能書きはない気がする。

 だんごも百花繚乱、津々浦々に名物あり店々のアレンジありだが、中でも代表格といえば、みたらしだんごだろう。その発祥地とされる京都・下鴨神社を訪ねたことがある。

 糺ノ森(ただすのもり)が都の喧燥を遠ざけて境内は静穏に包まれている。一角に小さく奉られた井上社の前に水をたたえているのが、御手洗池(みたらしいけ)である。これは、五月の葵祭の主役「斎王代」が、祭前日にみそぎをする大切な池と聞いた。また、土用の丑の日には、この池の水に足をつけて無病息災を祈る御手洗祭がある。

 さかのぼれば、かの後醍醐天皇がこの池で水をすくったところ、池の水面に一粒また一粒と泡が浮いたので、それに見立てておだんごを作ったのだとか。その伝承から、下鴨神社の氏子の家々で葵祭や御手洗祭に、神饌の供物として作られたのが、みたらしだんごの起源らしい。

 大正時代にそれを門前名物に仕立てたのが本家・亀屋粟義。神社の西側に構える「加茂みたらし茶屋」でその名物だんごを食べることができる。

 ここのみたらしだんごは、3兄弟ならぬ一串五つ玉である。神社の由緒にあやかり、五つのうち、初めの玉だけを少し離して頭に見立て、残る四つが連なって、人間の五体を表している。厄除け・健康の願いがこめられているという。焼き立ては香ばしく、黒砂糖と葛を使った甘めのタレが独特で、確かにうまい。だんごの玉もかなり小粒、小梅ほどもあるだろうか。

 一般に知るみたらしだんごとはかなり趣の異なる味わいに戸惑いを覚えつつ、いや、だからこそ原型・源流のありがた味がある気もして、なんてことはない、ついついもう一皿を求めていた。

(ただし、写真は山長製みたらしだんごです)

●下鴨神社
京都駅から市バス4・205系統「下鴨神社」下車、徒歩5分 ●亀屋粟義「加茂みたらし茶屋」
水曜休/075・791・1652
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