日本に生息する3属12種のアシナガバチのうち,8種が本州に生息しています.名古屋市内でも8種全ての採集記録がありますが,営巣を確認しているのはコアシナガバチとヒメホソアシナガバチを除いた6種です.スズメバチよりも身近な環境に生息しているため,見かける機会も多く,刺傷被害もよく発生しています.
アシナガバチの基礎知識
アシナガバチ亜科に属するハチは,世界で29属,約800種が知られています.日本には3属12種が生息しており,このうち,チビアシナガバチ属を除く2属8種が本州に生息しています.トガリフタモンアシナガバチは北海道のみに,ナンヨウチビアシナガバチは小笠原諸島に,タイワンアシナガバチとオキナワチビアシナガバチは奄美大島以南の琉球列島に生息しています.
都市部に生息するのはアシナガバチ属のセグロアシナガバチ,キアシナガバチ,フタモンアシナガバチ,コアシナガバチ,キボシアシナガバチ,ヤマトアシナガバチの 6種ですが,種構成は地域により異なっています.名古屋市内ではアシナガバチ属5種と,ホソアシナガバチ属1種の合計6種が確認されています.
アシナガバチ属では,セグロアシナガバチが最優占種となっており,市街地で普通に見られます.次いでフタモンアシナガバチが耕作地や草地の周辺で,キアシナガバチは東部の丘陵地で多く見られます.
その他の種(ヤマトアシナガバチ,キボシアシナガバチ)は,ヤブカラシの花などに吸蜜にやってくる成虫を時々見かける他は,巣が見つかることは稀です.また,関東地方で普通に見られるコアシナガバチは,今まで名古屋市内で見かけたことはありません.ホソアシナガバチ属のムモンホソアシナガバチも,時たま成虫を見かけることはありますが,営巣が確認されることは稀です.
スズメバチ科 Vespidae アシナガバチ亜科 Polistinae |
アシナガバチ属 Polistes |
セグロアシナガバチ | 北海道〜琉球列島 |
キアシナガバチ | |||
フタモンアシナガバチ | |||
トガリフタモンアシナガバチ | 北海道 | ||
コアシナガバチ | 北海道〜九州 | ||
キボシアシナガバチ | |||
ヤマトアシナガバチ | 本州〜九州 | ||
タイワンアシナガバチ | 奄美大島以南の琉球列島 | ||
チビアシナガバチ属 Rapalidia |
ナンヨウチビアシナガバチ | 小笠原諸島 | |
オキナワチビアシナガバチ | 奄美大島以南の琉球列島 | ||
ホソアシナガバチ属 Parapolybia |
ムモンホソアシナガバチ | 北海道〜九州 | |
ヒメホソアシナガバチ |
アシナガバチの生活史
営巣開始時期は4月上旬頃で,1頭の越冬女王バチにより巣が創設されます.生活史は1年限りで,オスバチと新女王バチの羽化する8月下旬には営巣活動を終えます.女王バチが単独で巣作りをしている時期には,攻撃性はほとんどありませんが,働きバチの羽化後は攻撃性が増し,7月〜8月の活動の最盛期にはしばしば刺傷被害が発生します.
アシナガバチの巣は一枚の巣盤からなり,外皮が作られることはなく育房が露出しています.営巣場所は樹枝や葉の裏,軒下などの開放空間に作られることが圧倒的に多く,一部が戸袋や壁間などの閉鎖空間にも巣を作ります.育房数は100房以下のことが多く,最も営巣規模が大きいフタモンアシナガバチでも1,000房程度です.幼虫の餌として,街路樹や庭木につくアオムシやケムシなどを狩る益虫としての側面も忘れてはなりません.人家の近くに巣を作ることが多いため,しばしば刺傷被害が発生し嫌われますが,スズメバチに比べると性質が温和で攻撃性は強くありませ
ん.誤って巣に触れるような低い場所でなければほとんど危険はありませんので,なるべくそのままにしておきたいものです.