意識的引用その2(ファンタジー補強作用・パロディ)

 児童文学ならではの引用の意義に、ファンタジー(空想文学・童話)補強作用がある。例えば、『メアリー・ポピンズ』シリーズ。ケルトの伝承文学に深い造詣があったP.L.トラバースは、シリーズで伝承童謡を多用した。その数はシリーズを通して、のべ50篇にものぼる。トラバースはファンタジーの世界を補強するために、マザーグースを意識的に引用したのだ。

 読者である子供たちは、なじみ深いマザーグースが様々に形を変えて物語に出てきたとき、その物語をより身近に捉えることができる。マザーグースは、多くの子供たちを引きつける力と、物語に生命力を与える作用を持つのだ。なお、替え唄、パロディなども、この項に入れることができる。 

(7)ポピンズはマザーグースがお好き

 1952年に出版されたシリーズ4作目の『公園のメアリー・ポピンズ』には、マザーグースがたくさん登場する。'Cock Robin' や 'Old King Cole' など、その数は15以上。マザーグースを知っているといないとでは、この話の理解は全く変わってくるだろう。

 さて、その『公園のメアリー・ポピンズ』の第6章。影がみんな自由になるというハロウィーンの晩、公園は影たちでいっぱい。影が一人歩きするというのは、ディズニー映画の『ピーターパン』を思い起こさせる光景でもある。その影たちの中に、どうやらボー・ピープと羊の影も紛れ込んでいるようだ。

 

 "Take care, Bo-peep! Do look where you're going. Those lambs of yours nearly knocked me over!" A shadow carrying a crook was skimming through the crowd. And behind her a flock of curly shapes gambolled on the lawn. "But I thought Bo-peep had lost her sheep!" cried Michael in surprise. "That's right!" The Bird Woman's shadow chuckled. "But 'er shadder always finds them."ポピンズの表紙

 「気をつけて、ボー・ピープ!よく見て歩いて。あんたの子羊がわたしを吹っ飛ばすところだったよ!」杖を持った影が、みんなの間をかすめて通りました。そのあとから、巻き毛の羊の群が、芝生の上を飛び跳ねて行きました。「ボー・ピープは、羊を迷子にしてしまったと思ってたよ!」マイケルは、驚いて叫びました。「そのとおり」と、鳥のおばさんの影が、くすくす笑いながら言いました。「でもね、あの娘の影がいつも見つけてやるのさ。」

 

 このあと、「影はものを通り抜けるし、実体がないよ」という子供たちに、鳥のおばさんは「ものを通り抜けて向こう側に出るために影がある」と説明する。「向こう側」とは、ファンタジーの世界のことであろうか。

 この鳥のおばさんによれば、「影はもう一人の自分(Your shadder's the other part of you)で、内側の外側(the outside of yourinside)。」含蓄のある言葉である。羊を迷子にしてしまうボー・ピープには、ちゃんと羊を連れ戻してくれるしっかり者の影がついていたようだ。

 また、『とびらをあけるメアリー・ポピンズ』でもマザーグースが多用されており、計21篇の唄が引用されている。マザーグースは、ポピンズのファンタジーの世界を補強しているのである。