ポピンズはマザーグースがお好き

 1943年出版のP.L.トラヴァースの『とびらをあけるメアリー・ポピンズ』は、マザーグースのオンパレード。この一冊の中に、なんと21編の唄が引用されている。マザーグースの知識があれば、この物語をずっとよく理解することができるだろう。

 では、マイケルたちが、メアリー・ポピンズに連れられて、ピアノ調律師トゥイグリーさんの家を訪ねる場面を読んでみよう。

 He wound up another musical box and a new tune fell on the air. "That's 'Lodon Bridge is Falling Down!' It's my favourite song!" cried Michael.

 "London Bridge is Falling Down, dance over, my Lady Leigh!" sang Michael. 

 彼は、もう一つのオルゴールを巻いた。違うメロディーが空中に流れ出した。「これ、『ロンドン橋おちた』だ! ぼくの大好きな唄だ!」と、マイケルが叫んだ。

 「ロンドン橋おちた。踊って渡れ、レディ・リー!」と、マイケルは歌った。

 マイケルが歌った唄は、先にあげた「ロンドン橋」の歌詞と少し違っている。これは「ロンドン橋」のバリエーションの中でも古いもので、「レディ・リー」は、ロンドン橋の東にあるリー川をさしていると思われる。

 このように、ひとつの唄にさまざまな歌詞があるのも、マザーグースの特徴であろう。

 なお、マイケルのオルゴールは、ロンドン橋のメロディーであったが、この軽快なメロディーはオルゴールにぴったり。映画でも、ディズニーの『ポカホンタス』や、マイケル・ダグラス主演の『フォーリング・ダウン』などで、オルゴールに使われた。

 この唄をタイトルに使った映画も2本ある。オードリー・ヘップバーン主演の『マイ・フェア・レディ』と、前述の『フォーリング・ダウン』である。

 名作『風と共に去りぬ』や、グレース・ケリー主演の『喝采』、『チップス先生さようなら』などでもこのロンドン橋の唄は、引用されていた。