(12)どうしてこんなに引用されているの?
児童文学にマザーグースが数多く引用されている理由の一つとして、「マザーグースのキャラクターの豊富さ」があげらる。Humpty Dumpty をはじめとして Bo-peep、Georgie Porgie、Jackと
Jill、Simple Simon 、Jack Horner などの個性豊かな人物が、マザーグースには数多く見られる。
その人物名を出すだけで、性格や様子、その場の状況などを端的にかつ生き生きと表すことができるのだから、「比喩や説明」として使われることが多いのもうなずける。
一方、日本のわらべうたにはあまり変わったキャラクターは登場せず、どちらかといえば、自然の風物を情感豊かに歌い込んだ唄が多い。
郷愁を誘う日本のわらべうたは、日本の児童文学ではめったに引用されていないし、出てきたとしても、「遊び唄」としての引用である。決して「ファンタジーを補強する」ためには用いられていないし、わらべうたにもとづいた児童文学もほとんど見られない。
本稿で検証した『メアリー・ポピンズ』や『アリス』などでは、マザーグースのキャラクターたちが縦横無尽に活躍するが、彼らを自分の創作物語の中で活躍させたい、と作家たちが願うのも当然のこと。一方で、イメージを大きく崩し、パロディに仕立て上げる場合もある。
登場人物のイメージが人々に共有されているからこそ、そのイメージをどう壊し、どう膨らませるかが、作家の腕の見せ所なのである。