6、1967年 マザーグース元年(その2)
マザーグース元年にぴったりの、マザーグースがちりばめられた歌、 I Am The Walrus を読んでみよう。
E I Am The Walrus(1967年9月 rec.) ジョン・レノン 意図的引用
「ぼくが彼で、君が彼で、君はぼく」という最初の出だしからして、マザーグース的である。
母校のクオーリーバンク高校生から、「国語の授業でビートルズの歌詞を分析しています」というファンレターをもらって、母校の国語教師を混乱させてやろうと考えて、ジョンがわざと難解にしたという。
また、数々の造語が入っているところはルイス・キャロル的である。
実際、キャロルの『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』は、幼い頃からジョンのお気に入りの本であったらしい。7歳の時、ジョンは、この『アリス』の登場人物すべての絵を描いている。
なお、この歌のタイトルにもなっているセイウチは、『鏡の国のアリス』に出てくるセイウチからの引用で、この歌を収録した『マジカル・ミステリー・ツアー』のレコードジャケットで、ジョンはセイウチの格好をしている。
@ See how they run
輪唱歌はジョンのお気に入りであったという。I Am The Walrus も、3つの音をたくみに行き来したメロディとなっている。
Three blind mice,see how they run! 3匹の盲目ネズミ 走りっぷりをみろよ
They all run after the farmer's wife, 農家のおかみさんを おっかけた
Who cut off their tails with a carving knife, おかみさん包丁でしっぽ切り落とした
Did you ever see such a thing in your life, こんなこと 見たこと あるかい
As three blind mice? 3匹の盲目ネズミ
A Like pigs from a gun
See how they fly
この一節は、『鏡の国のアリス』の「セイウチと大工」の詩の第11連からの引用であるらしい。
'The time has come,' the Walrus said, 「今こそ そのとき」セイウチは言った
'To talk of many things: 「いろんなことを語るとき
Of shoes--and ships--and sealing-wax-- 靴や--船や--封蝋や--
Of cabbages--and kings-- キャベツや--王様や--
And why the sea is boiling hot-- なぜ海が煮えたぎるか--
And whether pigs have wings.' ぶたに翼があるかどうか」
『鏡の国のアリス』の「セイウチと大工」第11連
その一方で、この一節は、Dickery, dickery, dare というマザーグースにもよく似ている。
Dickery, dickery, dare, ディカリ ディカリ デア
The pig flew up in the air; ぶたが 空を飛んだ
The man in brown soon brought him down, 茶色の服の男が すぐ引きずり落とした
Dickery, dickery, dare. ディカリ ディカリ デア
B eggman
『鏡の国のアリス』に出てくるハンプティ・ダンプティからの引用で、eggman はジョンの造語である。I Am The Walrus を収録した映画『マジカル・ミステリー・ツアー』では、ジョンは頭に白い物をかぶり eggman に扮していた。
Humpty Dumptysat on a wall, ハンプティ・ダンプティ塀の上に座ってた
Humpty Dumpty had a great fall. ハンプティ・ダンプティ 落っこちた
All the king's horses, 王さまのお馬と
And all the king's men, 王さまのけらい みんなよっても
Couldn't put Humpty together again. ハンプティを もとにもどせなかった
C Pretty little policeman in a row
Pの音できれいに頭韻を踏んだ一節。これは、次のマザーグースからの引用。
Mary, Mary, quite contrary, いじっぱりの メアリーさん
How does your garden grow? あなたの お庭 どんなふう?
With silver bells and cockle shells, 銀の鈴 貝がら きれいな女の子
Andpretty maids all in a row. みんな ならんで さいてます
D Like Lucy in the Sky
この一節は、もちろんビートルズ自身の歌 Lucy in the Sky with Diamonds からの引用で、元唄は次のマザーグースである。
Twinkle, twinkle, little star, きらきらひかる ちいさな星よ
How I wonder what you are! あなたは いったいなあに
Up above the world so high, おそらたかくで かがやく
Like a diamond in the sky. ダイヤモンドみたい
E Yellow matter custard
Dripping from a dead dog's eye
この一節は、リバプールに伝わる戯れ唄からの引用らしい。
Yellow matter custard, Green slop pie 黄色いカスタード
All mixed together witha dead dog's eye 緑のぐちゃぐちゃなパイ
死んだ犬の目といっしょにまぜた
F If the sun don't come, you get a tan
From standing in the English rain
この一節は、『鏡の国のアリス』の「セイウチと大工」の詩の第1連にインスピレーションを受けたものと考えられる。なおマザーグースにも、「真夏に氷の上でスケートしていた」「冷たいお粥でやけどした」というように、矛盾した内容を歌いあげたものが数多くある。
The sun was shining on the sea, お日さまきらきら海の上
Shining with all his might: めいっぱい光ってた
He did his very best to make 波をつやつや輝かせようと
The billows smooth and bright-- めいっぱい光ってた
And this was odd, because it was それにしても奇妙
The middle of the night. だって真夜中だったから
『鏡の国のアリス』の「セイウチと大工」第1作