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砂田喜昭 2016年2月7日更新  
「つながれアジア! 葬れTPP! 1.30 国際シンポジウム」
世界に広がる市民運動に感心
砂田喜昭

 「TPPに反対する人々の運動」という市民団体が主催して「つながれアジア! 葬れTPP! 1・30 国際シンポジウム」が東京で開かれ、私も参加しました。
田町交通ビル6階ホールでのシンポジュウム
 マレーシア、韓国、ニュージーランドからそれぞれの国での反対運動の現状を聞くことができてたいへん有意義でした。英語での発言でしたが、日本語の通訳付きで、資料には日本語に翻訳した発言集が付けられており、内容を理解することができました。


  
マレーシア
 
市民運動で政府を動かす

ファウワズ・アブドゥル・アズィズさん
 報告者のファウワズ・アブドゥル・アズィズさんはジャーナリストで、自由貿易協定とマレーシアへの政治・社会経済的影響を中心に報道しています。現在は第3世界ネットワークで政策・提言活動をしています。


 マレーシアでは1957年以降、13の自由貿易協定(FTA)と71カ国との2国間投資協定を結んできたが、2006年に米国とのFTA交渉を開始した。市民団体がこのとき反FTA同盟を結成し、反対運動を展開した。
 貿易協定交渉ではマレーシア社会のマレー人とその他の先住民族との扱いが問題になった。
 マレーシアでは独立後、長年地理的、教育的、経済的に不利な立場に置かれてきたブミプトラの人々が社会・経済開発から置き去りにされないようにするという憲法第153条が定められていた。例えばブミプトラの有限会社の資本比率はブミプトラに有利に設定された。多額の資金も教育や地位向上のために拠出された。
 国内での議論が十分深まらないまま、米国との自由貿易協定でこの優遇人種政策の存続が脅かされることへの懸念からマレーシア政府も2009年に無期限保留を決定した。この時点で、反FTA同盟の活動も休止した。
 しかし、今度のTPP交渉は国会議員でも協定文を見ることができないという秘密交渉だった。2013年にマレーシアでは52の市民団体でTPPに反対する運動(BANTAH)を立ち上げたが、秘密主義のため困難に直面した。
 市民団体ではTPPが市民にどんな影響をもたらすかを啓発する活動と、政府の署名決定を覆すことができなくても、マレーシアにとっての費用と効果を精査するよう働きかけている。

 私は、マレーシアで市民運動が政府の政策を変えさせたと知って、感心しました。日本では安倍政権を倒さなければ、なかなか難しいのと比べ、国民の声に耳を傾ける姿勢がマレーシア政府にはあるのだろうと受け止めました。

 韓国

TPPの内容を
熟知し、知らせることが大切

<font color="#0000ff" size="4">チョン・テインさん</font>
 チョン・テインさんはノ・ムヒョン元大統領の首席秘書官を務めるが、韓米FTAに反対して辞任。その後、韓米FTA反対運動を進めてきた方です。ソウル市の社会的経済の政策・理論面を担当とのことです。


 米韓FTAで経済成長も貿易もさほど伸びていない現状が報告された。会場から「韓国はTPPに参加しないのか」との質問が出され、彼は「自動車のアメリカ向け関税撤廃が25年後に先送りされたことから、日本にとっても余りメリットがないように思う。韓国は自動車がどうなるか警戒してみていたが、これでは韓国にも余りメリットがないので積極的ではない」と答えた。
 TPPの今後について、「サッカーで言えば前半戦が終わったところであり、日本が批准しなければ発効しない。アメリカの議会から追加要求が出されることもあり得るが、そうなれば他の国からも反発が出て、どうなるかわからない。市民運動とすればTPPの内容を熟知し、広く知らせていくことが大切だと思う」と述べた。

 
 ニュージーランド
  
  社会は変えられる、
   あきらめない

モアナ・マニアポトさん
 モアナ・マニアポトさんは、先住民族マオリの芸術家で、シンガー・ソングライター、ドキュメンタリー制作者としてドイツなどEU各国でも活躍されています。また、TPPなどグローバリゼーションに対抗する活動をしています。彼女は、歌で自己紹介をし、先住民とイギリス政府との主権をめぐる戦いの歴史に触れながら社会は変えられる、あきらめてはいないと強調されました。

 ニュージーランドは人口460万人で、マオリはそのうち14・6%、約67万人だ。5%の富裕層はニュージーランドの富の40%近く所有しているが、マオリは富の5%しか保有していない。
 イギリス政府とマオリの首長たちとの間で1840年2月6日にワイタンギ条約が結ばれ、土地、漁業その他すべての価値あるものにマオリが優先権(主権)を持つことの再確認と、イギリスにはニュージーランドに入植する権利と義務が与えられた。これ以後、マオリと政府との間で主権をめぐる戦いが続いており、TPPもその戦いの一つだ。
 彼女は知的財産権の問題を紹介した。2002年にドイツで自分の名前「モアナ」を入れたアルバムを発売したが、それが商標登録違反だと訴えられ、アルバムの名前を変えざるを得なかった。どうしてヨーロッパの会社が金もうけのために、ポリネシアの中で一般的なモアナという単語を支配できるのか。
 マオリの人々は裁判で20年もたたかい、ついに「知的財産権保護に関する法律は、マオリの知識および有価値物が損なわれないよう防衛し保護することを、対象にしない。もっぱら商業的な乱用を防ぐためのものだ」と確認された。

  TPPがこのようなマオリの主権を侵害するのではないか、国連の先住民の権利に関する宣言に反するのではないかと、戦っているそうです。最後に彼女が「社会は変えられる、あきらめてはいない」と述べたこと に、会場から拍手が沸き起こりました。

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