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砂田喜昭 2015年7月8日更新  
歴史や憲法をどう教えるか
中学校教科書読み比べ

 今年は中学校教科書の採択が行われます。
 多くの教育関係者や弁護士、歴史研究家たちは「育鵬社、自由社の教科書は「歴史を歪め戦争を美化して『戦争する国づくり』へ子どもたちを導く憲法敵視の教科書」と厳しく批判しています。
 一方、市議会では「これまでの教育に自虐史観(注)があるのでは」と、育鵬社・自由社の教科書を推奨するかのような発言も出ました(幸福実現党を名乗る中野るみ子議員)。
 そこで新婦人小矢部支部のお母さんたちは教育センターの教科書展示会へ行き、教科書とを読み比べてみました。

歴史教科書
育鵬社・自由社版 戦争を美化


 韓国や中国など近隣国との対立の原因の一つは、軍事力で韓国併合、満州国樹立、東南アジアへの進出をした日本の植民地支配や侵略をどうみるかにあります。

   
韓国併合は朝鮮の人を幸福にした?

 育鵬社は表(写真)を載せ日本が韓国に善政をしいたように教えようとしています。
育鵬社版、あたかも韓国に善政を敷いたかのように
 帝国書院は韓国で「土地調査の結果、所有者があいまいな土地は没収されたため、小作人となるものや、日本や『満州』へ移住せざるを得ないものが出ました。」と書いています。
 東京書籍は、併合への喜びを表す支配者の短歌と、侵略された人々を思いやる石川啄木の短歌とを示し(写真)、生徒に考えさせようとしています。
支配者の短歌と、石川啄木の短歌を比較。被侵略者の思いを伝える
   
日中戦争が満州を発展させた?

 育鵬社は「満州国」での工業の発展と人口の増加を強調し、日本の満州支配を美化しています。地元の人々の土地を奪い日本の満蒙開拓団が入植をしたことには全く無批判です。自由社は南京事件の記述を削除しました。他社は「日本の侵略」と明記しています。

   
アジア太平洋戦争はアジア独立のための戦争?

 「日本軍の勝利に、東南アジアやインドの人々は独立への希望を抱きました。」(育鵬社)、「アジアの人々を奮い立たせた日本の行動」(自由社)などのコラムをのせています。これらは、中国侵略への経済制裁としてアメリカからの石油輸入を止められ東南アジアへの侵略(南進)によって資源を確保しようとしたこと、現地調達の方針のもと日本軍が現地の人々の食料を奪い、労働力としてもつかったことなど日本の行った戦争の真実を覆い隠し誤解させるものです。
 他社にはこのような記述がなく、アジア諸国民に与えた苦しみをありのままに取り上げています。
 育鵬社、自由社は戦争の名称にも大東亜戦争という当時日本がつけた名前を使っています。

   
植民地化、侵略、国民総動員体制を
     人々は喜んで受け入れた?


 朝鮮、中国、東南アジアで反日運動があったとは書いていますが、運動への悲惨な弾圧があったことは隠しています。日本では、「国民の多くはひたすら日本の勝利を願い」(育鵬社)積極的に国家・戦争に協力して頑張ったと強調しています。
 東京書籍や帝国書院には情報統制や警察・憲兵の厳しい取り締まりのもとで戦争が続けられたことが書かれています。

公民教科書
育鵬社・自由社版 憲法を歪める


 公民の学習で最も重要な柱の一つは、日本国憲法の理念と原則を学ぶことです。
 育鵬社、自由社の教科書は、国民主権、基本的人権より国家に奉仕すること、「社会の秩序」が上、「国防の義務」のない日本の憲法は平和を守れないという立場で書かれ、今の政府の考えを教え込もうという姿勢がみられます。
 他社は国民主権、基本的人権の理念、憲法9条の歴史的意義や9条を生かしどう平和を作るか考えさせるようになっています。
 沖縄の基地問題についても、育鵬社は「日米安保体制は日本防衛の柱であり、アジア太平洋地域の平和と安定に不可欠」と書いて、辺野古新基地の建設を推進する立場に立ち、他社のように反対運動のことを書いていません。基地の成り立ちや圧倒的多数の県民の声を無視し、政府の見解に偏っています。
 昨年1月に出された教科書検定の新しい基準「政府見解がある事項はそれに基づく記述をする」の弊害が明らかです。

自分で考える主権者をそだてたい

 歴史を学ぶことは過去を振り返り、よりよい現在と未来を考えることです。自虐史観と非難する立場にはそれがなく、科学的でありません。現代の意見の対立には、自分で考えることのできる主権者を育てることが大切です。
 歴史、公民の教科書を読比べ、育鵬社、自由社の教科書には疑問を持ちました


 (注)自虐史観

 
安倍政権や自民党が教科書検定に介入し、これまでの歴史教育を「自虐史観」と非難し(自民党教育再生実行本部、2013年6月12日)、育鵬社・自由社の教科書を合格させました。

 戦前の日本は天皇を中心とする専制政治のもと国民の権利と自由をうばい、アジア諸国に対する侵略と植民地支配、戦争へとかりたて、日本人310万人、世界で?千万人を犠牲にしました。戦後日本は「日本国国民を欺瞞して世界征服の暴挙に出る過ちを犯させた者の権力と勢力は永久に除去する(ポツダム宣言)」ことを出発点に、天皇主権から国民主権へ、日本国憲法のもと平和と民主主義を基調とする国へと歩み始めました。

 これまでの歴史教育を「自虐史観」と非難する立場は、歴史の事実を歪め、国民を騙して戦争へとかりたてた勢力を免罪、美化しようとするものです。

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