バナー2015年5月24日号本文へジャンプ
砂田喜昭 2015年5月31日更新  
自立支援ケアで
介護度の重い人も歩けるように

民生文教常任委員会の行政視察

 民生文教常任委員会の行政視察で5月13日、東京都渋谷区の特別養護老人ホーム「杜の風・上原」(入居者80名、他に短期利用者20名、デイサービス30名定員)で自立支援ケアの取り組みを学んできました。「杜の風・上原」の自立支援ケアというのは介護度の重い人でも自立性を回復できるように「水分・食事・運動・排泄」を基本とした各専門職による一貫したケアを実施し、自宅での生活をおくれるようにする取り組みで、その実践例にたいへん驚かされました。(砂田喜昭・記)



水分ケア
毎日1500mlの水分補給


 人間は一日2500から2800mlの水分を体外に排出することが必要です。食事以外に一日1500ml以上の水分補給が目安になります。施設では緑茶、コーヒー、寒天ゼリー、サイダーなど24種類の飲み物などで水分を提供しています。食事のときだけでなく、こまめに提供しています。利用者の状況に合わせて徐々に摂取量を増やし、入所前平均915mlだったものが半年後には平均1543mlになりました。

食事ケア
一日1500Kcalの食事


 寝ているだけでも1200Kcalを消耗します。「ちゃんと食べること」が、活力に結びつき低栄養を防ぎます。できるだけ、ご飯、おかゆなど常食で、よく噛んで食べるようにめざしています。ペースト状の流動食や胃瘻(いろう)の方でも高カロリーゼリーによる栄養補給からはじめ、徐々にお粥やきざみに変更し、普通の食事を食べられるようにめざしています。


運動ケア
 歩くことは
   体力づくりの基本


 パワーリハビリとあわせて、歩行可能な方には屋外の散歩、困難な方も歩行補助具などを用いて、毎日歩くことを支援します。要介護4・5の方に対してもトイレ使用時など日常生活の動作のなかで、立位を繰り返しとることによって、徐々に立位が可能となり、5秒間のつかまり立ちが可能になった段階で、歩行器歩行訓練を開始しています。施設全体の8割の方が歩行能力を回復しています。
 パワーリハビリでは、高齢者向けの6種類のトレーニングマシンを利用し、理学療法士の指導の下に安全なトレーニングを実施します。寝たきりで動かないと、体が歩くなど日常生活動作を忘れてしまいます。体が忘れかけた日常生活動作をトレーニングにより普段使わない筋肉を動かすことで、安定した体の動きの改善をめざします。

排泄ケア
 排便はトイレで


 入所日初日からおむつを外しトイレに座ってもらいます。不用な下剤を使用せず、上記ケアとともに繊維質の多い食物を摂取することで、安全なトイレ環境での生理的な排便をめざします。おむつの原因は便失禁です。この施設は2013年に開設されましたが、その半年後には「常時便失禁あり」が利用者の33%から1・1%になりました。

 在宅・入所
 相互利用制度にとりくむ


 在宅・入所相互利用制度とは、特別養護老人ホームに3ヵ月を限度として入所してもらい24時間の集中的なケアをした後、自宅に帰って在宅サービスを利用しながら在宅生活を送ります。その後再び施設利用をし、これを繰り返して最終的には在宅へ戻ることができるようになります。一人の入所者が在宅の間、別の方が入所し、同じように施設サービスを受け、また在宅生活に戻ります。ベッドシェアともいいますが、現在5ベッド10名の方が利用しているそうです。2013年度の実績ではこの利用者の延在宅復帰回数が8回で、一回の平均施設利用日数が2・5ヵ月で、最終的に在宅に復帰した割合は24名中13名、54%になったそうです。

 介護保険給付額、
 利用者負担も軽減


 在宅・入所相互利用における費用効果について、特養長期入所の場合と比べると介護保険給付費が一人あたり77万3159円少なくなり、利用者負担も43万6502円軽くなったそうです(2006年世田谷区立きたざわ苑・定期的利用者6名の平均)。
 また自立支援ケアによって介護保険給付も抑制されます。「杜の風・上原」では約7割の利用者の介護度が改善しました。改善した利用者の保険給付額は年間788万円も減りました。施設にとってはそれだけの収入減となるのですが、特養の空きベッドを減らすことでその分を補っているとのことです。利用者の入院で空きベッドが出ますが、この施設では自立支援ケアによって入院する人がほとんどいないとのことでした。

 トップへ戻る
砂田喜昭(Yoshiaki Sunata)のホームページへ戻る