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砂田喜昭 2009年8月9日更新  
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「北陸本線の県境分離は、なぜいけないのか」シンポジウム開く

 「北陸本線の県境分離は、なぜいけないのか」をテーマに、シンポジウムが6月28日、富山市で開かれました。主催は「公共交通をよくする富山の会」で、2011年の北陸新幹線の開業に伴い、並行在来線である北陸本線がどうなるか、どうするかを考えるシンポジウムのPART4として開かれ、2つの報告がありました。 
報告1 運賃と県境分離
報告2 運営会社の経営と県境分離
 政府・自民党による合意では、新幹線開業時には並行在来線の経営をJRから分離し、地方自治体などで新たにつくる第三セクター鉄道会社が経営することとなっています。

(報告1)「運賃と県境分離」
  運賃が上がる

 最初の報告は、岡本勝規氏(公共交通をよくする富山の会世話人・富山商船高専国際流通学科)による「運賃と県境分離」でした。(報告2「運営会社の経営と県境分離」は続報) 

@ 第三セクター鉄道化で
  1.25倍に


 岡本氏はまず、この場合に運賃がどうなるかを検討します。これまでに経営分離された並行在来線ではすべて運賃が値上げされました。長野新幹線開通に伴って発足した「しなの鉄道」では平均1.28倍に値上げされ、「いわて銀河鉄道」では1.58倍になっています。
 富山県が行った収支予測調査でも、運賃値上げを想定しています。これまでの並行在来線でとられた措置を踏まえた場合、収支均衡のためには運賃を1.25倍にすると例示しています。開業後10年目には、さらに1.25倍値上げするとしています(10年後には1.56倍)。

A 県境分離で
 初乗り運賃が二重取り


 新しくつくられる第三セクター鉄道が県境分離され、富山県の第三セクター鉄道、石川県の第三セクター鉄道、新潟県の第三セクター鉄道と分割されると、それだけで運賃が値上げとなることも明らかにされました。それは「初乗り運賃」が二重取りされるからです。図1・図2をご覧ください。

  高岡・松任間
820円が910円に


 現状では高岡・松任間の普通運賃は820円です。第三セクター鉄道の運賃を値上げしない場合で計算しても、それが910円になります。(図1)各社が1.25倍に値上げをした場合にはこの区間の運賃は1090円となります。
 

  富山・大阪間 特急電車 
7980円が8490円に


 富山・大阪間で、JRの特急電車が県内乗り入れした場合の料金はどうなるでしょうか。現行の料金は7980円です。それが8490円(図2)に値上がりします。1.25倍に運賃改定した場合には、8750円となります。


  県境分離
在来線利用者に利益なし


 これらの事実を示して岡本氏は、「県境分離によって在来線利用者が利益を得ることは一つもない」「県境分離は行政の都合であって利用者の都合とは関係ない」として、運賃面の弊害をもっとアピールし、北陸本線が一体として経営されるように運動すべきだと結論づけました。


B 自家用車に
   対抗するには
 運賃抑制が重要


 公共交通が自家用車に対抗できるようにするには公共交通運賃を抑えることが何より重要です。

世界は
運賃のバリアフリーに


 岡本氏はドイツで取り入れられている「ゾーン運賃制」について紹介しました。同一ゾーン内であれば、切符の有効時間内であれば、国電、バス、地下鉄、路面電車を何度乗り換えても均一料金となっています。ゾーンを越えると追加料金が取られます。
 韓国でもソウル市では電子マネーによる運賃通算がされます。始発からの距離で料金が決まり、10キロまでが900ウォン、5キロ超えるごとに100ウォンが追加されます。これには韓国鉄道公社や、地下鉄、市営バス、民間バス、民間タクシーまで参加して同一料金で、乗り換えは5回までOKです。

 世界の趨勢は運賃も交通手段の違いを乗りこえて同一料金で利用できるように便宜を図っています。そのような時代に、県境分離で県ごとに違う料金体系を作ることは、時代に逆行していると言わねばなりません。

シンポジウム続報 (報告2)
運営会社の経営と県境分離

    
 「運営会社の経営と県境分離」と題する報告が、同世話人の渡辺真一氏からありました。


現在の北陸本線
 県境とは無関係に
        一体運営


 現在の北陸本線では、列車指令、車両基地の配置などの鉄道システムは県境を考慮していなく、一体のものとして運営されています。これを県境分離したらどうなるか、各県ごとに新たな設備投資が増えることも予想されます。

貨物輸送は
日本海側の大動脈
 環境対策でも重要


 もう一つの問題は鉄道貨物輸送がどうなるかです。県内を通過する貨物列車(金沢・青海(新潟)間)は約40本あり、通過貨物量は205万トンから213万トンで、県内で発着する貨物量44万トンの約5倍になります。第三セクター鉄道が将来にわたってきちんとレールを維持してくれるのかが、物流業者の懸念材料となっています。環境問題を考えると、トラック輸送に比べ鉄道輸送は優れています。整備新幹線は華やかな話題になりますが、その裏で貨物ルートが不利益を被らないようにしなければなりません。

 
国の責任で
全国鉄道ネットワーク 
        の維持を


 渡辺氏は、これまでの住民運動と自治体の協働の運動・取り組みによって、「政府・与党合意」が次々と破られていることを指摘し、国の責任で県境をつなぐ全国鉄道ネットワークの維持を求めて粘り強く運動していこうと呼びかけました。

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