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砂田喜昭 2008年2月11日更新  
映画「母べえ」を観て

 山田洋次監督、吉永小百合主演、平和の尊さをしみじみ伝える映画「母べえ」の全国ロードショーが始まり、県内でも4館で上映されています。
 注目を集めるこの映画に足を運んだ読者の方から、熱い感動を寄せていただきました。
「母べえ」の原作と映画の解説本

母べえのささやかな抵抗は救い


 吉永小百合演ずる母べえの優しく、力強く、気高い姿に魅了されました。戦争へと進む苛酷な時代に、心ならずも従わさせられながらも、母べえの子どもへの接し方を見て、親としての毅然とした姿勢、そして気構えを学べる映画です。
  戦争を始める前に、治安維持法で庶民の心を縛り、たくみに隣組等に組織する時代背景がリアルに描かれ、見ごたえがありました。
  その中でも少なからぬ人が母べえの家族に思いやりをよせ、ささやかな抵抗を示していたことは救いと言えます。多くの人に見ていただき、様々な角度から感じていただきたい映画です。 (U)
      
 戦争は人権を奪うことから始まる

 妻と一緒に出かけた。
 母ベえ役を演ずる吉永小百合さんとその子供役二人の演技がなんともすばらしい。
 大学でドイツ文学を教えている父(父べえ)が特高警察にとらわれ、拷問されながらも家へ帰ることを希望に必死で耐えている。残された母と姉妹を、父の妹や教え子・山ちゃん (山崎青年)がやさしく支え合う生活が続いている。学校や隣組にも気を取られながらの生活。そんな苦しい中でも母ベえは子供たちに「父べえは何も悪いことはしていない、必ず帰ってくる」と語りながら力強く生きる。
 昭和16年12月8日、太平洋戦争が始まる。それに追い討ちをかけて、父べえがやつれた遺体となって、家に帰ってきた。ついに、一家を勇気づけてくれた山ちゃんにも赤紙が。終戦直後、広島へ帰っていた父の妹が被爆死し、山ちゃんも魚雷で戦死したと知らされる。戦争のむなしさを悲しむ。
 姉妹は、小学校の教師をしながらがんばってくれた母のおかげで、医師と美術の先生となった。病で入院した母べえを看護する二人。息が細くなった母べえが妹の耳もとへ「あの世では会いたくない。この世で会いたかった」と語る。涙するところが多かつた。
  戦争の第一歩は、人権を奪うことから始まる。映画「母べえ」を観てつくづく、前の安倍総理の「美しい日本」とはこのようなシナリオの準備であったのかと思った。      (T)

歴史を見つめる長い視線
 
 治安維持法違反で服役中の父が、殺されて、貧しい家に戻ってくる場面がある。昭和17年の正月の、山ちゃんに羽根つき遊びをしてもらったすぐあとのことだ。父ベえは、髭ぼうぼうで、しかし磔刑になったキリストのように、原罪を一身に背負って死んだキリストのように、光の陰をおびて返されてくる。
 山田洋次監督は、このようにして、深刻なテーマを暗くは描かない。歴史を見つめる長い視線が備わっているように思えた。(K)





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