*2005年秋*

Tristan Prettyman / Twentythree
Bonnie Raitt / Souls Alike
村治佳織 / リュミエール



11月
村治佳織 / リュミエール(推薦!)
えっ、これギターの音?よく聴けば紛れも無くクラシック・ギターの音。ピアノでいう右手の旋律がまるで雨だれを模したピアノの音のように響く。
1曲目はエリック・サティの「ジムノペディ 第1番」。ピアノ曲として有名なこの曲をギターで聴いたのははじめて。原曲の雰囲気が変わってしまうどころか、まるでギターの曲であるかのような表現力に脱帽。
村治佳織さんの新譜は、フランスの作曲家を中心とした構成。先のエリック・サティのほか、ドビュッシー、ラヴェル、フォーレ、プレヴィル、吉松隆、ミシェル・ルグランらの曲を収録。
前作よりずっと方向性がはっきりしていて、真摯で豊かな響きが素敵です。
クラシックにはめずらしい、折りたたみ写真ブックレット付き。
◇◇◇

Jud Newcomb / Byzantine (推薦!)
これ、ジャケット良くない(笑)。写真、本人じゃないし、これじゃどんな音楽が入っているのかわからない。でもご安心あれ。
ジャド・ニューカムはかっこいい男性ロッカー。枯れた声もよろしい。
敢えてロッカーと書きましたが、タワレコではオルタナ・カントリーというコーナーに並べてありました。いつそんなジャンル名ができたんだ〜?わけが判らなくなるじゃないか。
どんな感じかというと、土臭いロック、プラスややカントリー。ロックなナンバーはジョン・メレンキャンプを彷彿とさせ、枯れた声は私の好きなカントリー・アーティストのジョン・プラインに似ている。曲によってはボブ・ディランとかトム・ウェイツら通じるところもあったりする。
「テキサス発のソングライティングの逸材」「アメリカ心あふれるマインドを内に秘めたアルバム」と書かれているように、彼の作る曲がとてもいい。彼の弾くギターもいい。暖かなオルガンがかぶさる曲もまたいい。
いきなりかっこいいハモリを聴かせる「Plain & Simple」、ギターのリフがとてもいい感じの(ちょっとだけワイヨリカ風?ちょっとだけPeople Get Ready風)「You And Your Lady」、土臭さ漂う「Someone To Share It With」がとりわけ好きです。

10月
Bonnie Raitt / Souls Alike(推薦!)
ボニー・レイットの新譜は最高にかっこいい。
キャッチーな1曲目「I Will Not Be Broken」からグッときますが、2曲目以降は、かって聴いたことがないほど、ファンキーでブルージーで気合入りまくっています。
彼女は、ボトル・ネック・ギター奏者として有名ですが、今までのアルバムでは歌に徹し、どちらかというとシンガーの側面が強かったように思います。
ところが、このアルバムでは、ブルージーかつパワフルなボトルネック・ギターをびゅんびゅん弾きまくっています。
やや陰鬱な雰囲気の「God Was in the Water」、リトル・フィートばりにファンキーな「Love On One Condition」、ノリのよいロック・ナンバー「Unnecessarily Mercenary」、珍しくエレクトロニカ(?)な「Deep Water」、しっとりと締めくくる「The Bed I Made」まで、実に聴かせます。いいです。
◇◇◇

Herb Alpert & The Tijuana Brass / Lost Treasures(推薦!)
A&Mレーベルの創始者の一人“A”としても有名なトラッペッター、ハーブ・アルパートの旧譜が紙ジャケット仕様で発売になりました。
ハーブ・アルパートの音楽のイメージは、ジャズのようなアドリブ主体ではなく、キャッチーかつポップで底抜けに陽気。ややもすると、ロックにもジャズにも収まらない音楽性はBGM的に取られがち。
ところがどうしてどうして、歳を取った今(笑)聴き返すとなかなかぴったりときて、陽気で弾んだラテン・フレーバー満点のメロディーはうきうきと楽しく、当時爆発的に売れたのも頷けると言うもの。
ここに紹介する『Lost Treasure』は単なる再発ではなく、60〜70年代に録音されながら未発表になっていた楽曲を集めた、れっきとした新譜。
1曲目「Up Cherry Street」のイントロのころころとよく転がるニューオリンズ・スタイルのピアノからご機嫌。
目玉はなんといっても、7曲目「Close To You」。バート・バカラックがつくったこの曲は、もともとハーブに贈った曲だそうで、結局自分では発表せずにカーペンターズに譲ってご存知のように大ヒット。
アップ・テンポのギター・カッティングから入るサンバ・アレンジはカーペンターズのバージョンとは趣が全く違っていて面白い。
ジェームス・テイラー作の「Fire And Rain」まで、アップ・テンポに変身しているのには笑いました。
他にも知っているあの曲、この曲がぞくぞく。
全22曲、楽しめます。
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高田みち子 / Talea Dream
2004年09月〜11月 *秋*で紹介させて頂いた高田みち子さんのセカンド・アルバムが発表になりました。今回も本秀康さんのかわいらしいイラスト・ジャケット。
前作は、ジャズ・シンガーというより、70年代シンガー・ソングライターの感触に近いと思いましたが、本作は前作に較べると、しっとりスローテンポのバラードが多く、ジャジーなテイストが高くなっています。
本作も彼女自身の作曲・日本語による作詞が中心。前半はしっとり、後半ようやくポップな面が顔を出すといった感じでしょうか。
Paul Simonの「Still Crazy After All These Days」をカバーしていて、これもいい感じです。

9月
Tristan Prettyman / Twentythree (推薦!)
彼女自身が弾くアコースティック・ギターに続いて入る、スコーンと空に抜けるような小気味良いスネア・ドラムの音、心躍るリズム、人懐っこいメロディ、そんな1曲目「Love Love Love」で始まる。
トリスタン・プリティマン、ちょっと変わった名前の23才シンガー・ソングライターのデビュー作です。
とにかく曲がいい。ちょっと引きずるようなハスキーな声もいい。
シンプルなバンド・サウンドもいい。
5曲目「Shy That Way」はジェイソン・ムラーツとのデュエット。翳りの有るメロディーだが、明るい1曲目とはまた違った味わいがあります。
ジェシー・ハリス、G・ラブらが参加しています。

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Larry Carlton / Firewire (推薦!)
ラリー・カールトンのニュー・アルバムは実にかっこいいロック・インスト・アルバム!
1曲目「Inkblot 11」でいきなりタイトなリズムで突っ走る。ユニゾンで切り込んでくるホーン・セクションはR&B/ファンクのよう。
プロデューサーにメタリカも手がけたチャバ・ペトスを迎えた本作はこんな風に始まります。
3曲目「Maked Truth」でバラードになるのですが、これがまためちゃ渋い。歪んだギターのトーンが堪らなく哀愁を誘います。
4曲目「Surrender」ではブルージーなリフが印象的で、余韻の残る曲です。
5曲目「Big Trouble」は余韻をかき消すような、メタル調?のヘビーなナンバー。
6曲目「Goodgye」で一転。ミュート・トランペットが絡む、ジャジーな曲。ここではギターもディストーションを掛けずに、優しいトーンで弾いています。
このあともファンキーなナンバー、アコースティック・ギターに持ち替えたナンバーと、多彩な曲が続きます。
日本盤はボーナス・トラック「Magokoro」を収録。題の如く落ち着いた良いナンバーです。
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Eric Clapton / Back Home (推薦!)
表ジャケットはギターを持って列車を降りる男の足元のイラスト。インナー写真をペラペラとめくると、お子さん3人と奥さんに囲まれて楽しそうに子どもにギターを弾くクラプトンの写真。
1曲目「So Tired」で、子育ては大変、でもお休みのキスで帳消し、と歌う。
温かい家庭を得たそんな幸せに溢れるアルバム。では全編ほんわか、アットホームした曲調かというと、そうでもなくて、力強く勢いのある内容になっています。
特に、クラシック・ソウル/R&B色が今回最も強いのではないでしょうか。
2曲目「Say What You Will」は愛・地球博のテーマ曲にもなっている曲ですが、ここではレゲエのリズムを取り入れたアレンジに変えています。
3曲目「I'm Going Left」はStevie Woner + Syreeta Wrightのカバー曲で、ゴスペル・フィーリング溢れるホーン・セクションやコーラス、気合の入った歌に熱くなります。
続く4曲目「Love Don't Love Nobody」はスピナーズの曲を取り上げた、じんとくるスローなソウル・ナンバーです。この2〜3曲目の流れには泣けます。
5曲目「Revolution」はふたたびレゲエのリズムを取り入れたオリジナル曲。
6曲目「Love Comes To Everyone」はジョージ・ハリスンが1979年に発表したアルバム「George Harrison(邦題:慈愛の輝き)」の1曲目に入っていた曲のカバー。かなり原曲に近いアレンジ。シンセ・ソロはスティービー・ウィンウッド。
7曲目「Lost And Found」は、バンド・メンバーとのセッションから生まれたブルーズ・ナンバー。この曲のエンディングは・・・、内緒。
8曲目「Piece Of My Heart」は実にクラプトンらしい、落ち着いたナンバー。マイナー調の翳りのあるメロディーがいい。
最高に感動したのは、11曲目のバラード曲「Run Home To Me」。ザ・バンドの故リック・ダンコを彷彿とさせる哀愁漂うボーカルが絶品。ザ・バンドのかの名曲「It Makes No Difference」に通じるものがある名曲です。
愛する奥さんと子どもに包まれた幸せ、そして、やがて親の許から離れていく女のお子さんに、いつでも戻っておいで、と歌っています。