詰将棋の話(17)

(2018年5月2日)
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将棋盤面11マス×11マス/攻方(11,3〜7)零+(11,11)包/受方(1,2)零+(1,3〜7)△+(1,8)零+/中立駒(3〜7,11)歩/1筋、2筋、10筋、11筋、11段の残る箇所は石/1段、2段、8段、9段、10段の残る箇所は「駒打禁止地点」/攻方持駒城/受方持駒零+/初形に迷彩中立谺14枚
ルール:禁欲協力自玉多玉詰(11×11盤) 2手  (特殊ルールの説明)
*13〜17地点の白抜きの駒は受方の覆面駒で、その種類は通常駒および城、包(Pao)、零、谺のいずれかとします。
*「*」印は「駒を打つことのできない地点」を表します(元からその地点に駒があったり、通過ないし移動するのは可能)。
*初形において、盤面(「*」地点を含む空きマス)あるいは攻方か受方の持駒に、合計14枚の迷彩中立駒の谺が存在します。
「Web Fairy Paradise」112号掲載、2017年10月)

特殊ルール詰将棋を扱うインターネット配信誌「Web Fairy Paradise」で発表した作品です。
同誌で解答募集した出題図は上記の通りですが、実はこの出題図は以下の要領で一般化することができます。 下記のパラメータで定まる出題図を「(N,L,n)型」と呼ぶことにすると、上記の出題図は(11,7,14)型に相当します。 これは盤面のサイズ N が最小の場合に相当します。 (なお、本作が成立するためには後述の通りパラメータ N,L,n が「ある条件」を満たす必要がありますが、(11,7,14)型は実際にその条件を満たしています。)

さて、上述したパラメータ N,L,n が満たすべき「ある条件」についてですが、この条件を説明すると解答に関するかなりのネタバレになりますので、自力で解答を考えたい方は以降をまだ読まない方がよいでしょう。
(以下、ネタバレ防止の改行)
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上述したパラメータに関する「ある条件」とは以下の条件です。
パラメータの条件(#)
n = p × q を満たす正の整数 p と q の組で、 2 ≦ p ≦ L-2 かつ 3 ≦ q ≦ N-4 を満たすものがちょうど1組存在する
例えば、上記の出題図に対応するパラメータ(N,L,n) = (11,7,14)では、条件(#)に現れる p と q は(p,q) = (2,7)で与えられます。 このように本作には、初形における迷彩中立谺の枚数を表すパラメータ n の素因数分解が関係しています。
以降に本作の解答と説明を記しますが、念のため少し改行を入れておきます。
(以下、ネタバレ防止の改行)
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解答

(p,q)をパラメータの条件(#)に現れる整数の組とするとき、「(p+3,N-1-q)城、(1,N-1-q)→(p+3,N-1-q)△+」まで。
例えば上記出題図の(N,L,n) = (11,7,14)の場合には、「(5,3)城、(1,3)→(5,3)△+」まで。

本作の狙い

上記の解答にある、持駒の城の正しい打ち場所を知るためには、パラメータの条件(#)に現れる整数の組(p,q)を知る必要があり、そのためにはパラメータ n を素因数分解する必要があります。 このように、「素因数分解の計算をしないと解けない詰将棋」を創りたかった、というのが本作の出発点です。
ご存知の方もおられるでしょうが、巨大な整数の素因数分解は、(少なくとも本作の出題時点では)最新鋭のコンピュータを使ってもなお膨大な時間が必要となる難しい種類の計算であり、そのことがある種の暗号技術の安全性の根拠となっています。 この素因数分解に比べると、二つの整数の掛け算はとても簡単な種類の計算です。 そこで、巨大な(しかし、掛け算すらできないほど巨大ではない)素数 p と q を選び、 n = p × q を計算し、それに従って残りのパラメータ N と L を条件(#)が成り立つように適切に選ぶことで、「作った(パラメータを選んだ)本人以外には解答を得ることが(事実上)不可能な詰将棋」ができます。 折角(?)暗号の研究をしている身なので、暗号っぽい要素を持った詰将棋を創ってみたいなあ、というのが本作の狙いでした。
ちなみに、こんな奇々怪々な作品でも、出題時にはちゃんと(作者本人以外の)正解者が現れました。 ありがたいことです。

なお、前述の解答手順で実際に詰みとなっていることを確認するのにも少々の考察を要します。 詳細は後述することにして、ここでは概要だけ説明します。

ちなみに、盤面に設定されている駒の打てない地点「*」は、作意手順が成立するという上記の理由には関わっていません。 この「*」は紛れ手順がきちんと逃れているという点に関係しています。 (より正確には、「*」の設定をしなくても本作が完全作になるのではないかと推測しているものの、それを証明するには(後述する現状での証明よりもさらに)込み入った議論が必要となり手間が掛かりすぎるので、「*」を設定することで少しでも議論を短縮できるようにした次第です。)

本作が完全作であることの証明

以降では、本作が完全作である、つまり作意手順はちゃんと詰んでいる一方で他の手順では詰まないということを証明します。 かなり長いです。

証明

最初にいくつかの事実を注意しておきます。

事実1
初形において、1筋の駒から利きを与えられている中立谺は無い。
事実1の理由
1筋のある駒がある中立谺に利きを与えていると仮定する。 使用駒の種類から、2筋の石を跳び越えて3筋やそれより左にある中立谺に利きを与えることが可能なのは、その1筋の駒が城または包(またはその利きを何らかの手段で与えられている谺)である場合に限られる。 そして、その1筋の駒から直接(別の谺を経由せずに)利きを与えられている中立谺が存在するはずであるが、その中立谺の位置の可能性は、 に限られる。 しかし、いずれの場合も、逆にこの中立谺から大元の駒(これは受方のロイヤル駒である)への利きが発生するため、初形で受方に王手が掛かっていることになってしまい、不適切である。
<事実1の理由終わり>
事実1の帰結として、初形において以下が成り立つことがわかります。
  1. 中立谺の各々は、利きが無いか、または(攻方の)歩の利きになっている。
  2. ある△+が包+である場合、その△+と同じ段には中立谺は存在しない。
  3. ある△+が城+である場合、その△+と同じ段の3筋に中立谺は存在しない。
事実2
初形において、攻方が盤面の中立歩を動かすか、迷彩中立谺で中立歩を取って受方に王手を掛けることはできない。
事実2の理由
事実1の帰結2.および3.により、初形において盤面の中立歩を動かすか、迷彩中立谺で中立歩を取ったとすると、着手した後の局面においても上記の2.および3.が引き続き成り立つ。 すると、この時点でやはり盤面の中立谺はどれも包や城の利きを持たないので、受方に王手が掛かっている可能性は無い。
<事実2の理由終わり>
以上の事実と使用駒の種類から、初手の可能性は以下のいずれかに限られます。 初手「 (a,b)城 」に対して、2手目「 (1,b)→(a,b)△+ 」という手が成立するかどうか考えます。 初形の配置から 3 ≦ a ≦ N-2 、 3 ≦ b ≦ N-4 です。

まず、 a = 3 とすると、

『初形で迷彩中立谺がすべて攻方の持駒で、(1,b)△+が城または包である』
という配置は上記の手順と整合性があります。 (受方は2手目の時点で駒を取らずに王手を回避できないので、2手目の駒取りは禁欲ルールに反しません。) そして、この可能性『 』においては、2手目が(N,b)零+への逆王手であるものの、それは攻方が(N-2,b)中立谺と打って回避できます。 つまり、この初手および2手目と整合性があるが2手目で攻方が詰みとならないような、覆面駒の種類および迷彩駒の配置の可能性が存在するため、この手順で攻方が詰んでいるとは確定しません。 よって a = 3 の場合には、今考えている手順は逃れとなります。
そこで、以下では a ≧ 4 の場合を考えます。

a ≧ 4 のとき、2手目のような動きが可能な△+は、包あるいは、盤面の別の包から中立谺たちを経由して包の利きを与えられた谺のいずれかに限られます。 ここで、事実1の帰結2.より、もし1筋の別の△+が包であったとしても、その包が利きを伝えることのできる中立谺は存在しません。 このことから、2手目で動いた(1,b)の△+が谺である可能性は無くなり、その駒は包に確定します。

2手目「 (1,b)→(a,b)△+ 」を指せているからには、この手は受方自身に王手を掛ける手ではありません。 このことから、 a 筋において、 b 段目よりも上側と b 段目よりも下側には、それぞれ中立谺が多くても1枚までしか存在しません。 (2枚以上存在すると、 b 段目から遠い方の中立谺が2手目の後の時点で包の利きを得て、(a,b)の包+に逆に王手を掛けてしまいます。) また、事実1の帰結2.より b 段目には中立谺は存在しません。
これらのことから、初手の後の時点で(a,b)の城から中立谺に利きが伝わっている可能性はありません。 これと事実1を合わせると、初手の後の時点で中立谺の各々は、利きを持たないか歩の利きになっているかのいずれかに限られます。

さて、2手目は駒取りであり、禁欲ルール下でその手を指せているからには、初手に対して受方には駒を取らない応手が不可能であったということになります。 特に、2手目に受方は、 b 段目の3筋から a-1 筋までのいずれかの地点に持駒の零+を打って王手を回避することができなかった、ということになります。

仮に2手目に受方がそれらの地点に零+を打ったとして、その後の、攻方に手番が移った状況を考えてみます。
上の考察により、この時点で盤面の城または包(1筋の覆面駒がそれらの駒である場合を含む)が中立谺に利きを伝えていることはあり得ません。 また、2手目に打った零+と攻方の城の位置関係から、攻方の城が1筋のロイヤル駒に直接王手を掛けていることもあり得ません((a,b)城から(2,b)石を跳び越えて(1,b)△+へ、という利きは零+が遮っています)。 つまり、もし上記の地点に零+を打てたならば、受方は2手目に駒を取らずに王手を防げたはずです。 しかし実際には上記の通り、(2手目に駒取りを指せたことから)受方は2手目に駒を取らずに王手を防げなかったので、受方は2手目に上記の地点に零+を打つこと自体ができなかったことになります。
この零+を打てなかった理由として考えられるものは、

(*) 上記の地点に零+を打ったとすると、その後に攻方に手番が移った際、その零+に対する攻方の利きが存在し、2手目が受方の王手放置になる
という場合に限られるので、上記(*)が成立していることが確定します。

一方、前述の通り、このように零+を打った後で攻方に手番が移った状況では、中立谺の各々は利きを持たないか攻方の歩の利きになっているかのいずれかです。 このことから、上記(*)のような可能性が生じるのは、以下の状況に限られます。

(**)  3 ≦ k ≦ a-1 をみたすどの k についても、(k,N)地点が石ではなく中立歩であり、 k 筋の b+1 段目から N-1 段目までの地点がすべて中立谺で埋まっている
(実際、上記(**)のように中立谺が配置されていると、攻方の手番の際には、 k 筋の N 段目の中立歩の利きが k 筋の N-1 段目から b+1 段目までの中立谺へ順に伝わり、 b+1 段目の中立谺が攻方歩の利きを与えられ、そのことで(k,b)地点への利きが生じます。) したがって、2手目「 (1,b)→(a,b)△+ 」を指せたという事実から、初形における迷彩中立谺の配置は上記(**)を満たすことが確定します。
特に、歩は3~ L 筋にしか無いので、 4 ≦ a ≦ L+1 です。

ここで、初形における覆面駒の種類と迷彩中立駒の配置が、

『(1,b)△+が包、それ以外の△+は包でも城でもない何らかの駒であり、上記(**)のように3筋~ a-1 筋、 b+1 段目~ N-1 段目の長方形の領域がすべて中立谺で埋まっており、残りの中立谺はすべて攻方の持駒にある』
を満たしている場合を考えます。 このとき、初手「 (a,b)城 」の後で受方に手番が移った状況では、 N 段目の中立歩は「受方の」歩の利きになっており、これらの駒から盤面の中立谺に利きが伝わることはありません。 今、盤面の中立谺はそれ以外の駒から利きを与えられている可能性もありませんので、この時点で盤面の中立谺はどれも利きを持っていません。 すると、受方が駒を取らずに(a,b)の城からの王手を回避する手段は、 b 段目の3筋~ a-1 筋のいずれかの地点に(1,b)△+を動かすか持駒の零+を打つ以外に存在しませんが、前述の通り、攻方の手番になると b+1 段目の中立谺たちが「攻方の」歩の利きを持つので、これらの手はどれも今着手した受方のロイヤル駒への王手を生じさせる手となり不適切です。
したがって、この初手に対して受方は駒を取らない応手が不可能なので、駒取りである2手目「 (1,b)→(a,b)△+ 」は禁欲ルールに反しない合法手となります。

このように、上記『 』の配置は手順「 (a,b)城、(1,b)→(a,b)△+ 」と整合性がありますが、ここでもし攻方の持駒に中立谺が存在したとすると、攻方は2手目の逆王手を(N-2,b)中立谺と打つことで回避できます(上記の通り 4 ≦ a ≦ L+1 であり、 L ≦ N-4 なので a ≦ N-3 です)。 よって、上記の長方形の領域にあるマスの数よりも迷彩中立谺の数の方が多いとすると、上記の手順と整合性があるが攻方が詰まないような配置の可能性が存在することになり、この手順で攻方が詰むと確定できないため、この手順は逃れとなります。
なお、上記『 』の状況で、上記の長方形の領域(これは横 a-3 筋、縦 N-1-b 段、計 (a-3) × (N-1-b) マスからなる)で n 枚の迷彩中立谺が使い切られていて攻方持駒に中立谺が存在しないとすると、上記の通り手順「 (a,b)城、(1,b)→(a,b)△+ 」は合法手であり、しかも2手目の逆王手を攻方が回避する手段がないため、この手順は詰みとなります。

以上の考察により、以下の事実が示されました。

事実3
手順「 (a,b)城、(1,b)→(a,b)△+ 」( 3 ≦ a ≦ N-2 、 3 ≦ b ≦ N-4 )は、以下の条件がともに満たされる場合には詰みとなり、それ以外の場合には逃れとなる。

事実3の条件 4 ≦ a ≦ L+1 、 3 ≦ b ≦ N-4 および (a-3) × (N-1-b) = n をすべて満たす(a,b)の可能性を考えます。
p = a-3 、 q = N-1-b とおくと 1 ≦ p ≦ L-2 、 3 ≦ q ≦ N-4 であり、 n = p × q が成り立ちます。 ここで p = 1 とすると n = q ですが、上の通り q ≦ N-4 である一方でパラメータの選び方から n ≧ N-3 であり、これらは矛盾します。 よって p = 1 とはならず、 2 ≦ p ≦ L-2 です。
上記の通り 2 ≦ p ≦ L-2 、 3 ≦ q ≦ N-4 かつ n = p × q ですが、パラメータの条件(#)により、これらを満たす p と q の組はちょうど1組だけ存在します。 そして、この唯一の(p,q)について、 a = p+3 、 b = N-1-q と定めると、この(a,b)は確かに事実3の条件を満たします。 よって以下が示されました。

事実4
手順「 (a,b)城、(1,b)→(a,b)△+ 」は、パラメータの条件(#)を満たす唯一の(p,q)について(a,b) = (p+3,N-1-q)が成り立つ場合は詰み、それ以外は逃れとなる。

以降では、「 (a,b)城、(1,b)→(a,b)△+ 」以外の手順はすべて逃れとなることを確認します。
まず、初手「 -X 」は2手目が何であっても逃れることを確かめます。

初手「 -X 」と整合性のある配置と手順の可能性として、 k = 3 と k = 4 の各々について

『初形で(1,k)△+が城+、(N-2,k)に中立谺があり、攻方の持駒に中立谺があり、初手(3,k)中立谺打』
という可能性が存在します。 そのため、「 -X 」と指した時点では、迷彩中立谺の位置や覆面駒の種類は何も特定できません。

一方、初手「 -X 」で王手を掛けている駒は中立谺しかあり得ず、さらにこの中立谺は包か城の利きを1筋の△+のどれかから(直接または、他の中立谺を経由して間接的に)与えられている必要があります。
ここで、大元の△+が包+であるとすると、この包+から直接利きを与えられている中立谺が存在しますが、一方で事実1の帰結2.より、初形でこの包+と同じ段に中立谺は存在しません。 すると考えられる可能性は、初手でこの包+と同じ段に中立谺での着手をした場合のみですが、この場合にはこの包+および中立谺と同じ段に別の中立谺が存在しないことになり、初手で着手した中立谺が包+の利きを得ることで同じ段の N 筋にある攻方零+への利きが生じてしまいます。 つまり、初手が攻方自身への王手を生じさせる手となってしまい不適切です。

このことから、大元の△+は城+であり、この城+から直接利きを与えられている中立谺が存在します。 この中立谺の場所は3筋に限られるため、この中立谺が得ている城の利きにより大元の城+に王手が掛かります。 よって、2手目は少なくともこの王手を防げる手でなければなりません。 特に、合駒をする隙間が無いため、受方は駒を打ってこの王手を回避することはできません。

以上を踏まえますと、初手が「 -X 」の場合、2手目までの手順の可能性は以下のいずれかに限られます。 (上述した王手駒である中立谺と王手を掛けられている城+があるのは3段目から N-4 段目のいずれかであることに注意してください。)

前者の手順「 -X、-X 」について、考え得る可能性として、

『初形で(1,3)△+が城+、(N-2,3)、(3,2)が迷彩中立谺で、攻方の持駒に中立谺があり、初手(3,3)中立谺打、2手目(3,3)→(3,1)中立谺』
および
『初形で(1,4)△+が城+、(N-2,4)、(3,5)が迷彩中立谺で、攻方の持駒に中立谺があり、初手(3,4)中立谺打、2手目(3,4)→(3,6)中立谺』
はどちらも整合性があります。 そのため、2手目を指した時点で迷彩中立谺の位置や△+の種類は何も特定できません。 そして、これらの可能性『 』において2手目は逆王手ではないため、2手目で攻方が詰んでいることを受方は証明できません。 よって手順「 -X、-X 」は逃れとなります。

後者の手順「 -X、(1,k)→(3,k)△+ 」( 3 ≦ k ≦ N - 4 )について、上の考察より、考え得る可能性は

「初手を指した時点で(3,k)にある中立谺が(1,k)の△+=城+に王手を掛けており、2手目で(1,k)城+が(3,k)中立谺を取った」
という場合に限られます。 この手順と整合性のある配置の可能性として、
『初形で(1,k)が城+、(N-2,k)が迷彩中立谺で、攻方の持駒に中立谺があり、初手(3,k)中立谺打、2手目(1,k)→(3,k)同城+』
という可能性が存在します。 (この手順中、2手目に駒を取らない応手は不可能なので、(3,k)同城+は禁欲ルールに反しません。) そして、この可能性『 』において2手目は逆王手ではないため、2手目で攻方が詰んでいることを受方は証明できません。 よってこの手順「 -X、(1,k)→(3,k)△+ 」は逃れとなります。

以上のように、上記の2手目の可能性についてはいずれも逃れとなるので、以下の事実が成り立つことが確かめられました。

事実5
初手「 -X 」は以下逃れとなる。 よって、残っている検討すべき初手の可能性は「 (a,b)城 」と持駒を打つ手だけである。
以降では、この初手「 (a,b)城 」(盤面の条件より 3 ≦ b ≦ N-4 )に対する2手目の可能性を考えます。 その中で「 (1,b)→(a,b)△+ 」という手は既に上で検討しましたので、それ以外の応手がすべて逃れとなることを確かめるのが目標となります。

まず、以下の事実を注意しておきます。

事実6
初手「 (a,b)城 」に対して、2手目に「 (1,m)→(k,m)△+ 」(ただし m ≠ b 、 k ≧ 4 )と指すのは不可能である。
事実6の理由
事実1の帰結2.より、初手を指した後の時点で、包の利きを与えられている中立谺は存在しない。 よって、(1,m)△+が谺+であって包の利きを与えられていた、という可能性は無いので、もしこのように2手目を指せたとすると、 k ≧ 4 より(1,m)△+は包+に確定する。 すると、再び事実1の帰結2.より、 m 段目に中立谺は存在しない。 したがって、特に以下の事実が成り立つ。 上で述べた通り、初手を指した後の時点で、包の利きを与えられている中立谺は存在しないので、この時点で中立谺が持ち得る利きは城の利きと歩の利きに限られる。 そして、王手を掛けられているのは(1,m)包+以外の駒であるにもかかわらず、駒を取らずに(1,m)包+を(k,m)に動かすことで王手を防げていることになる。 これが実現する可能性は、
「城の利きを持つある駒A(城自体か、城の利きを与えられた中立谺)が別の駒Bを跳び越えてその直後の中立谺Cへ取りを掛けている(そのことでCに城の利きが伝わっている)状態において、AとBの間の地点へ包+が移動することでAからCへ利きが伝わるのを防いだ」
という場合に限られる。
しかしながら、このとき、2手目を指した後のこれら四つの駒の並びは「A - 包+ - B - C」という順番になっており、またこれらの駒の間の場所に別の駒は存在しない。 すると、この包+が中立谺Cへ包の利きを与えることになる。 そうすると逆に、この中立谺Cからこの包+への利きが発生してしまい、この2手目は受方包+への王手を生じさせる手となるため、不適切である。 以上の理由により、このような2手目「 (1,m)→(k,m)△+ 」を指すのは不可能である。
<事実6の理由終わり>
これを踏まえると、2手目までの手順の可能性のうち、残されたものは以下のいずれかに限られます。
手順1
「 (a,b)城、-X 」(つまり2手目は、見えている駒の無い場所に盤面の迷彩中立谺を移動するか、持駒の迷彩中立谺を打つ着手)
手順2
「 (a,b)城、(a,b)同中立谺 」(盤面の迷彩中立谺で城を取る手)
手順3
見えている駒が無い地点(c,d)について「 (a,b)城、(c,d)零+ 」(盤面の条件より 3 ≦ d ≦ N-4 )
手順4
ある m ≠ b について、「 (a,b)城、(1,m)→(3,m)△+ 」
手順5
3 ≦ k ≦ a-1 を満たすある k について、「 (a,b)城、(1,b)→(k,b)△+ 」
これらの手順について、 a や b などの値をどのように選んでも、以下の条件のいずれかが常に成り立つことを示します。 これが示されれば、上記のような2手目で攻方が詰んでいることを受方は証明できないことになり、上記の手順がどれも逃れることの確認が完了します。

これらの手順のうち、まず手順1「 (a,b)城、-X 」については、 a = 3 とするとこのような2手目で王手を回避することは不可能なので a ≧ 4 が成り立ち、条件を満たす配置の一つとして

『初形で盤面に中立谺は無く、受方の持駒に中立谺があり、初手(a,b)城、2手目(3,b)中立谺打』
が得られます。
次に手順2「 (a,b)城、(a,b)同中立谺 」( 3 ≦ b ≦ N-4 )については、 以上が手順2に関する可能性のすべてです。
さらに手順5「 (a,b)城、(1,b)→(k,b)△+ 」( 3 ≦ k ≦ a-1 、 3 ≦ b ≦ N-4 )については、
『初形で盤面に迷彩中立谺が存在しない』
という配置が条件を満たしています。

以上により、手順1、手順2、手順5が逃れとなることが確かめられましたので、以下では残る手順3と手順4について考えます。

手順3「 (a,b)城、(c,d)零+ 」について考えます。 (a,b)と(c,d)は違う地点であることを注意しておきます。 また、盤面の条件より 3 ≦ b ≦ N-4 、 3 ≦ d ≦ N-4 です。
まず、 a = 3 のときは、初手が(a,b)城から(1,b)△+へ直接王手を掛ける手であり、合駒する隙間がありませんので、このような2手目の応手は不可能です。 よって a = 3 ではないので、以下では 4 ≦ a ≦ N-2 、 3 ≦ b ≦ N-4 、かつ 3 ≦ d ≦ N-4 の場合を考えます。

以上で c = N-2 の場合の可能性がすべて尽くされましたので、以下では 3 ≦ c ≦ N-3 の場合を考えます。 以上で 3 ≦ c ≦ N-4 の場合の可能性がすべて尽くされましたので、以下では残る可能性である c = N-3 の場合を考えます。 以上で、残る可能性である c = N-3 についてもすべての可能性が尽くされました。 以上が手順3についての可能性のすべてです。

手順4「 (a,b)城、(1,m)→(3,m)△+ 」( m ≠ b )について考えます。 盤面の条件より 3 ≦ b ≦ N-4 かつ 3 ≦ m ≦ N-4 です。

a = 3 とすると、初手で(3,b)の城が(1,b)△+に直接王手を掛けており、その王手は (1,m)→(3,m)△+ では回避できません。 よって a = 3 の可能性は無く、 4 ≦ a ≦ N-2 です。

a ≧ 5 のときは、条件を満たす配置の一つは、

『初形で1筋の m 段目以外の△+はすべて零+、(1,m)△+は城+であり、(4,b)、(a,2)、(a,1)、(4,1)、(3,1)、(3,N-2)、(3,N-1)、(N-3,N-2)、(N-2,N-2)、(N-2,N-3)が迷彩中立谺』
(下図22は N = 11 の場合の一例)
図22
図22
(攻方の手番では、城の利きが(a,b)→(a,1)→(3,1)→(3,N-1)と伝わり、(3,N-1)の中立谺が(3,N)中立歩から伝えられた攻方歩の利きを用いて(3,N-1)→(3,N-2)と城+歩の利きが伝わり、(3,N-2)→(N-2,N-2)と城+歩の利きが伝わり、歩の利きを用いて(N-2,N-2)→(N-2,N-3)と城+歩の利きが伝わり、(N-2,N-3)→(1,N-3)と王手が掛かっています。 (3,m)△+は(3,1)→(3,N-1)の経路を遮っています。)

a = 4 のときは、条件を満たす配置の一つは、

『初形で1筋の m 段目以外の△+はすべて零+、(1,m)△+は城+であり、(3,b)、(4,2)、(4,1)、(5,1)、(6,1)、(6,m-1)、(6,m)、(N-2,m)が迷彩中立谺』
(下図23は N = 11 の場合の一例)
図23
図23
(城の利きが(4,b)→(4,1)→(6,1)→(6,m)→(1,m)と伝わって王手が掛けられています。 2手目により(6,m)中立谺からの利きが消されています。)
以上が手順4についての可能性のすべてです。

こうして、初手「 (a,b)城 」に対して、2手目「 (1,b)→(a,b)△+ 」以外の手はすべて逃れとなることが示されました。 以上より、冒頭の作意手順が本作における唯一の詰手順です。
【本作が完全作であることの証明終わり】

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縫田 光司(ぬいだ こうじ)  jpnuida[at]mwa[dot]biglobe[dot]ne[dot]
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最終更新:2018年5月2日

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