呆冗記
呆冗記 人生に有益なことは何一つ書かず、どーでもいいことばかり書いてあるぺえじ。


約四半世紀前の莫迦野郎へ

 いよいよヤフオクから荷物が届いた。それこそ何であろう。今は無きMGCのモデルガン。S&W M59である。前回のVP−70Mの時にも言ったが、私の憧れの一丁であるのだ。
 もしも、護身用に一丁、ハンドガンを持つとしたら何を持つのか。これは中学校時代の私たちの仲間内では、高千穂遙氏の作品のヒロインの中で誰を選ぶかといった事並みに重要な命題であった。モデルガン規制も何のその。刑事ドラマや洋画の刑事モノ全盛の頃である。夢はそれこそ44マグナム弾程大きかったのだ。
 で、当然のごとくオートマチック派とリボルバー派にわかれることになる。
 リボルバー派は当時からかなりの勢力を持っていた。なにせ『ダーティ・ハリー』でS&W M29が格好良いとこてんこ盛りである。『シティ・ハンター』でコルト・パイソンは信じられないほど高性能である。
 たとえ、実際には44マグナム弾ではアメ車のエンジンブロックをぶち抜けなくても、いくら精巧なバレルを持っていても、パイソンは所詮はハンドガンでしかないとしても、過大でセンセーショナルな物語中のカタログデータは私たちの夢想をかき立ててくれたのだ。何よりもリボルバーは決してジャムらない。これがリボルバー派の最大の根拠であった。なにせ、オート派の総大将、オート・マグがオート・ジャムと呼ばれていたほどである。我々のオートマチックに対する評価はかように低かった。
 それでも、マガジンチェンジだけで打ち続けられる、形が格好良い。等々、オートマチック派にもファンは多かった。
 『ルパン三世』。山田康夫氏が声をあてたルパンの愛銃はなんだったか。ワルサーP38である。『007』シリーズ。ジェームズ・ボンドの愛銃だってワルサーPPKである。
 かくて、当時としては決して安くない『GUN』誌や『コンバット・マガジン』誌を前に喧々囂々、ああでもない、こうでもないとやっていたのである。
 ちなみに、私の護身用の一丁は、実用性一本槍。別名大工道具といわれていた無骨なスターム・ルガー社のセキュリティ6。その357マグナム6インチバレルに38スペシャル弾を装填して携行する。といったものだった。
 随分と渋い選択をしたものである。華もへったくれもない。流石は高校時代、鞄の中に、厚物切りカッターナイフと防水マッチ、懐中電灯を突っ込んでいただけはある。
 しかし、マッチなど喫煙道具と考えれば校則違反びしばしである。良く怒られなかったモノだ。
 とはいっても、私も高校生。実用一点張りだけではなかった。憧れもあったのである。その憧れの一丁がS&W M59だったのだ。当時、まだ『刑事スタスキー&ハッチ』を知らなかった私は純粋にその写真に参ってしまったのだ。
 ストッピング・パワーに欠ける9ミリパラ。いかにもジャムり易そうな15連発ダブルカラムマガジン。当然グリップは太くて当時の私の手では満足に握ることも出来そうになかった。実用性は皆無。それでもそのシルエットは私の心をつかんで話さなかったのである。
 そして、MGCのモデルガンの存在。私がM59に興味を持ってからの新製品だったかどうか定かではないが、その出来の良さは特筆に値した。同時にその値段も特筆モノであった。ただでさえ高価なMGCのモデルガン。その中でも高級モデルガンがM59であったのだ。
 その価格1万5千円。とてもではないが一介の中学生には過ぎた代物であった。いまから25年近く前の1万5千円。無理だった。
 そして、MGCの解散。私の脳細胞にはM59の名は深く刻み込まれたのである。
 結果として、大藪春彦氏の著作にかぶれて書いた作品。私だけがリアルだと信じていた作品の主人公のサブ・ウェポンがセキュリティ6となり、前にも述べた荒唐無稽な学園エスパー小説の主人公のメインウェポンとして、M59の発展型であるM459を持たせてしまったのだ。
 いかに、私がこの作品を何も考えずに設定したか。ヒロインにVP−70というところで設定が破綻しているのである。あんな太いグリップ、女の子に握れるはずがない。
 そんなこんなで憧れの一丁になっていたM59が、今回、ひょんな事からオークションで入手することが出来た。25年前の願望をようやく叶えることが出来たのだ。
 現物を握ってみると、写真で見たよりは遙かにグリップが細く、握りやすい。重量バランスは実銃通りのはずはないとしても持ちやすい。流石はS&Wの代表的オートだけのことはある。しかし、あれだけ偏見持っていて、よくこの銃が好きになったモノである。それだけシルエットが私のツボにはまったと言うことなのだろうか。
 こうして、私は25年前の物欲にけりをつけたのであった。
 まあ、こだわりと言う奴はかように業が深いのだ。これではとてもじゃないが、朱雀のことは莫迦には出来ない。

 最後に、この商品をこれほどのコンデションで保管なさっていた出品者さんに感謝と敬意を贈らさせていただきたいとおもう。ありがとうございました。私も大事にします。(04,6,8)


backtopnext