呆冗記 人生に有益なことは何一つ書かず、どーでもいいことばかり書いてあるぺえじ。
火星の土方歳三?
さて、最近評価低下が著しい吉岡平氏の新作が発売された。考えてみれば氏の作品。前回の海上自衛隊モノはレビューすらしていなかったりする。まあ、中身は例によって例のごとく、ネタの書き飛ばし。豆兄ちゃんとでかい弟。等価交換でヤシガニで。ヘリに乗るのに木刀一本シートの横。といったシロモノである。やっぱり氏が一番輝いていたのは富士見書房版『タイラー』の頃なのだな。という評価を新たにしたのだった。
ただ、前回の後書き。
「自衛隊は日本を守るために存在する」
は激しく同意。だからといって
「イラクで死ぬのはもったいない」
については、気持ちは分かるが、同意は出来ない。確かに個人的には全く同意である。優れた状況対応能力を叩き込まれた、エリート中のエリートである自衛隊員の皆さんに万が一の事態が発生すれば、こんなにもったいないことはない。
しかし、絶対に起きて欲しくない万一の事態が発生したとして、それは民主国家日本の国民の代表者が集まる国会において決定され派遣されたのである。どこであろうとも、それはもったいないとか無駄とかいう評価を与えられるモノではないはずである。
国民を守るのも、国家の評価を守るのも、共に重要なのではないだろうかと思ったりするのだが。
なにはともあれ、自衛隊の皆さんの無事ご帰還を切にお祈り申し上げる次第である。
さて、本編。
今回の新作。
『火星の土方歳三』。
あひゃ。である。
『火星』なのだ。マーズ・エクスプローラーの。『火星』。
『土方歳三』なのだ。大河ドラマの新撰組。
はあ、吉岡氏も本当に完璧にヤキが回ったな。失礼ながらそう思った。しかし、いくらヤキが回ったってやって良いことと悪いことがあるのではないか。そう思うのだ。
新撰組ブームの今年、火星大接近だから『火星の土方歳三』。結果として、バロウズ氏の火星シリーズに紛らわしい題名をつけてバロウズファンに売り込もうなんぞ、数多い『火星』ファンに対する挑戦だ。そう思ったのである。
たとえ、創元SF文庫で初期三部作しか読んでいない、あまつさえ、それを古本屋に売ってしまって、絵師の方の画集は復刻版をさんざん悩んだ結果、結局買わずに済ましてしまって、つい最近、合本4冊を買って、なんかこれ、翻訳違わないかと違和感を感じた程度の『火星』ファンだとしても、なんかこの題名には違和感を感じてしまった。
売れりゃあいいのか。
決別の時は来たのであろうか。
と、すればファミコン文庫レーベルは全部売りだろうな。ソノラマの『アプサラス』はどうするべか。などと思いながらも購入した。
私は莫迦かもしれないが自腹を切らない本のことをあーだこーだ言う趣味だけはない。
で、はまった。
いや、吉岡氏。ようは『バロウズの火星』世界にサムライを一人放り込みたかったのだ。 しかし、カリスマのあるリーダーであれば、それはジョン・カーターと変わりない。であれば組織作成の天才。サブリーダーでキャラの立っている人物を送り込もう。それがまあ、多少は作為があるとしても、土方歳三であった。それだけの話だったのだ。はじめにマーズ・エクスプローラーと新撰組があったのではない。火星のサムライという題材に対して、火星と新撰組がにわかブームの現在なら発行できると踏んだ作品だったのである。
まあ、内容は『火星』である。美しく健気で気高い心を持ったプリンセスがいて、戦士の誇りのためには命すら賭ける雄々しい主人公がいて。火星の驚くべき自然と生き物がいる。そう、バロウズファンが愛してやまぬ古き良き物語である。
ただ、難を言えば、超科学分が少し不足しているかな。といったところだ。オパールが大好きなパールゴンなる怪獣は大笑いさせてもらったのだが。超科学が欲しかったのは贅沢だろうか。
吉岡氏、本当に『火星』シリーズが好きなのだな。そう思える一作に仕上がっている。
しかし、合本の翻訳、いずくらしいと思ったら、訳者が変わっていたのか。今度、オリジナルをどこかで見つけて購入しようと思う。
やっぱり、短剣じゃない、匕首でないとな。(04,6,4)