呆冗記 人生に有益なことは何一つ書かず、どーでもいいことばかり書いてあるぺえじ。
テスタッチ・エイドアーム
なんか、スーパーロボットの必殺技のような名前だがれっきとした自転車のパーツである。先日、ようやく購入した可愛い可愛いパーツである。こいつが実は非常に優れものなのだ。
さて、せっかく買った自転車が実は、少々埃を被っていたりするのだ。うーむ。困った話である。原因は何か。簡単な話である。運転姿勢。これに尽きる。
要するに、緊急時とか高速移動時にはドロップハンドルの下に曲がった先っぽをしっかり握って最大限に漕ぎまくる。これを個人的には第三戦速と呼んでいる。(ひどい乱暴な言葉の使用であることは重々承知している)遅刻しそうな時や、閉店間際の本屋、レコード屋につっこむ場合はこれが大変重宝するのだ。これをやりたくて5万円もするドロップハンドル車を買ったのである。いくらでも安いのがあるのにだ。
しかし、いっつもいっつも第三戦速で突っ走るわけにも行かない。で、ブレーキレバーのゴムカバーのところを握って走る。これが第二戦速である。第三戦速程ではないが前傾姿勢。街中の歩道を突っ走るとき(迷惑走行車両であることはわかるが、何分にも車が怖い。逆に免許とってからは運転中は自転車が非常に怖かったりするのはあいこだろうか)にはこれが重宝する。何か非常事態があっても即座に対応できる。
しかし、四六時中閉店間際の本屋やレコード屋に突っ込んだり、街中の歩道を迷惑爆走するわけではない。のんびりゆっくり走ってもいいではないか。昔はその走行(通称第一戦速)が可能だった。
その第一戦速を可能とするパーツの名は『セフティ・レバー』。ドロップハンドルの進行方向に垂直な部分。そこに平行に伸びる二本のレバー。通常のブレーキと直角に交わるレバーこそ、『セフティ・レバー』だった。
私の3代目のドロップハンドル車(初代、2代は盗難にあってしまった。1号は鍵のかけ忘れだが、2号はチェーンキーをぶ千切られて盗まれてしまったのである。畜生め!)買ったときから中古だったそれは(そりゃあ、2台も盗まれれば当然の話だ)この『セフティ・レバー』が装備されていた。この3代目で私は3年間、雪が解けてから雪が降るまで、タマネギ畑の中の高校まで通ったのだ。
遅刻寸前でもなければ(一度、遅刻寸前の私の自転車の前に飛び出してきた小学生をよけようとして5メートルほど吹っ飛んだことがある。幸い夏服だったので、制服は無事だったが、Yシャツとズボンを1本駄目にした)のんびりセフティ・レバーを握って通ったのである。
しかし、時代は変わってしまった。現在、ドロップハンドルの変速機レバーははブレーキレバーと兼用のものが多い。私はそれがいやでフレームに変速機がついている『雪風』を購入したのだが、最近の自転車はブレーキレバーを握るだけで変速から何からできてしまう。できないのは人類滅亡の予言と、自分の恋の行方を正確にシミュレーションすることだけらしい。いやはや恐ろしい時代になってしまったものだ。
ともかく、故に、がたがた動くブレーキレバーに『セフティ・レバー』などを固定することが不可能になってしまったわけだ。だから、私も愛車『雪風』を購入した朱雀の家の近くのサイクルショップ。そこのご主人にお願いして八方手を尽くして探して頂いたが遂に見つけることはできなかった。実は『旅する奇怪』でも何度か地方の自転車屋に「れおちゃん」や「さっちゃん」を横付けし、『セフティ・レバー』を探したのだが、遂に発見することはできなかった。
故に、『雪風』の第一戦速は封印されたまま今に至っていたのである。
ところがだ、流石に3年近くの月日でハンドルのテープがぼろぼろになってしまった。そこで、久しぶりに件のサイクルショップに張り替えを依頼するため『雪風』を持ち込んだところ、ご主人が面白いパーツを持って現れたのだった。
「お客さん、これ、『テスタッチ・エイドアーム』っていうんですけど、『セフティ・アーム』の代わりになる優れものなんですよ」
え!
運命の出会いだった。
原理は至極簡単。何で早くできなかったのかという程度のものだ。ブレーキレバーがガタガタするならば、ガタガタしないところにハンドルと平行にレバーを取り付ければよい。ハンドルはガタガタしない。二本のレバーをハンドルと平行になるようにハンドルに取り付け、ブレーキワイヤーの途中を引っ張るようにする。するとブレーキが効くという寸法だった。
簡単な話だ。まさに、コロンブスの卵。
私は、直ちに装着を依頼した。効果は素晴らしいものだった。むろん、補助ブレーキとしての扱いになるため、全速力発揮時には安全のためちゃんと本当のレバーを使用するよう念を押されたが、どうせ、このレバーを使用するときはゆっくり走っているのだから問題はない。
かくて、私の『雪風』は巡航速度、第一戦速を手に入れたのである。
ちなみにテスタッチとはメーカーの名前であるらしい。しかし、本当に
くらえ!。この必殺技を受けてみよ! テスタッチ・エイドアーム!
なんて叫びたくなる名前ではある。(03,7,8)