呆冗記
呆冗記 人生に有益なことは何一つ書かず、どーでもいいことばかり書いてあるぺえじ。


ギャビン・ライアル氏に捧ぐ

 一体、何度目の訃報であろうか。いや、随分と久しく私に影響を与えてくださった方の訃報を語る事はなく、安堵していたのだが。
 村下孝蔵氏、みずたになおき氏、光瀬龍氏。
 そして、今、ここにギャビンライアル氏の訃報を聞くことになろうとは。
 「パリは4月である。雨もひと月前ほどは冷たくはない・・・」
 名作『深夜プラス1』の冒頭である。1月18日死去。享年70才。嗚呼。
 実は『週刊文春』の『朝日新聞拉致報道徹底批判』の記事を読みたく手に取ったついでに、隣にあった『週刊新潮』もぱらぱらとめくっていたら、その127ページに『墓碑銘』という記事で氏の逝去を知ったのである。
 『戦後冒険小説の雄』
 この見出しは実に氏にとって相応しいと思う。

 私が氏の作品に触れたのは、高校2年の夏だったと思う。氏の第一作目『ちがった空』のラジオドラマを聞いたのが発端だった。
 むろん、ギャビンライアル氏の名前で聞き始めたのではない。ルパン三世にしてクリント・イーストウッド。故山田康夫氏が主人公、ジャック・クレイの声を当てていらっしゃったのを偶然、第二回あたりから聞いたのが始まりである。
 数回聞いて、即、本屋へ突撃、当時早川ミステリー文庫で出ていた4冊『ちがった空』『最も危険なゲーム』『深夜プラス1』『本番台本』を購入、ついでに言うとすっかりはまって修学旅行にまで持って行ったほどである。(持って行ったもう一冊が『駆逐艦キーリング』(C・S・フォレスター著)だったりする。これはまたいつか語る機会があるかも知れない)
 ともかく、当時、なんとなく大藪春彦氏の作品になんとなく違和感のあった(大学に入ってからは大藪氏の古本を読みあさる事になるのだが、高校時代は、どうもあの狂気的な怒りの感情が苦手だった)私は、ライアル氏の作品の中に何かを感じてそれこそボロボロになるまで読みふけったのである。
 ライアル氏の最高傑作は。この問にはほぼ90%近くが、私も冒頭に引いた『深夜プラス1』を推すであろう。日本冒険小説協会会長、内藤陳氏は新宿・ゴールデン街にこの名を冠した酒場まで開かれてしまった。それほどの名作である。
 しかし、この駄文書き、実はライアル氏の最高傑作には『本番台本』を推したいのだ。第4作目。傑作の呼び名も高い初期4作の中でもそれほど評価は高くはない。
 主人公のキース・カーは他の3人の主人公よりも若い。他の主人公が第二次世界大戦の残滓を引きずっているのに対して、彼は朝鮮戦争の経験者で若く前向きである。もしかしたら、それ故に、評判がイマイチだったのかも知れない。
 同時に、冒険小説にミステリーのフレーバーが強い。
 キースが革命に関係していると誤解された理由は何か? 飛行技術を教えていた若者を殺したのは誰か? 
 そして、味方の中で主人公だけが20ミリ機銃とナパームを搭載した戦闘機、ヴァンパイア12機の対地攻撃の怖さを知っている。故に彼は旧式としか言いようのないB−26ミッチェルで飛び立つのだ。
 今でもこの辺り、燃えるのだ。
 最後に、これが非常に重要だが、ヒロインも活きがよい。
 『ちがった空』のヒロインは写真家ではなく、悪女であろう。『深夜プラス1』のヒロインは未亡人だし、『最も危険なゲーム』のヒロインは大金持ちの紳士の妹だが強烈な男達の中では影が薄い。しかし、この『本番台本』のヒロイン、J.Bの活きの良さは他の3作に類を見ないのだ。
 そんなあたりが高校生の私には、特に嗜好にはまったのかも知れない。
 いや、本当にJ.B(最後まで本名が解らない)はいいオンナである。自分というものをしっかりもっていながら、他人との協調性もあり、純粋でありながらしっかり打算ももっている。そして、何よりも可愛い。
 うーむ。こういう女性が目の前にいたならば、即嫁さんにしてしまうのだが。(相手にされない可能性大)

 しかし、新潮の記事を読んでから、情報が欲しくて即座にネットに接続してみた。
 『ギャビン・ライアル 逝去』で検索をかける。
 いくつかの記事の中に、こんな記事があった。

# 呆冗記 光瀬 龍氏に捧ぐ・・・
... また、訃報である。しかも、全然知らなかったという。7月7日逝去。私 は本当にインターネットやっているのだろうか? 偉大な日本SF ... である。 この本は私に影響を与えた本としてはギャビン・ライアルの『本番台本 ...

http://www2u.biglobe.ne.jp/~muuminn/03023.html 

 99年の9月20日の『呆冗記』である。その時には。まだ、ライアル氏が亡くなるなんて思いもよらなかったのだ。
 ああ、時間というのは実に無情である事よ。
 ギャビン・ライアル氏、どうぞ安らかに。素晴らしい16冊の著作を本当にありがとうございました。(03,2,12)


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