呆冗記
呆冗記 人生に有益なことは何一つ書かず、どーでもいいことばかり書いてあるぺえじ。

「真」の是非

 さて、実は最近随分と気になることがある。
 それは何かというと、漫画に続いてヤングアダルト小説の世界にも改訂版、とか愛蔵版といったものが蔓延りだしている現状だ。
 一体これはどういうことか?
 私が思うにこれはジャンルとしての活力が停滞していることを表しているのではないだろうか? そのジャンルに活気があるならば、新たな作品が次々と出現してもおかしくはない。しかし、最新の作品よりも、入手が難しくなった過去の作品の方が人気があると言うことは決して喜ばしい事とは言えまい。
 更に、高価な愛蔵版の蔓延となればこれこそ、貧乏な若者ではなく、貧乏な若者であったある程度小金の出来た年代を対象にしているとしか思えない。高価な愛蔵版というものは、決して若年層のファンを増やすものではあり得ないからだ。
 まあ、ターゲットにされている1960年代生まれの特色についてはもう少し良く考察してから『呆冗記』のネタにしようと思っているのだが・・・。(って、宿題ばかりが増える今昔)

 よって、今回は全体ではなく、ある作品について考えてみたい。その作品とはファミ通文庫で始められたある物語。吉岡平著『真 無責任艦長 タイラー』(以下『真』)である。
 『無責任艦長 タイラー』。この一世を風靡したシリーズには2つの流れがある。それは富士見ドラゴン文庫のオリジナル小説版(以下『オリジナル』)とアニメ版である。
 私の立場を明確にするならば、私は小説版派であり、アニメはまったく見ていない。(友人からビデオは借りたのだが・・・結局見ていない)だから、イラストもバリバリの都築タイラーである。タイラー以後のシリーズのアニメ風のイラストには違和感をもってしまう人間なのだ。
 作者曰く『真』の存在意義はこの2つの流れを統合することにあるのだそうだ。
 しかし・・・。私にはとてもそうとは思えない。
 この作品、まず驚くのは主役のイメージのあまりにも大きな変更である。植木等から堂本某(若手アイドルはいまいち分からない)へのイメージチェンジというのはいくらなんでもと思われる。
 しかも、旧作の各作品を時系列順に並べてくれているのはいいのだが、(だから、まだ第一作、巡洋艦『阿蘇』艦長にはなっていない)その性格の変化にとまどうばかりだ。
 主人公が「いいひと」過ぎるのである。
 『オリジナル』タイラーは少なくとも「いいひと」ではない。必要とあれば策も弄する。味方を捨て石にもする。ダークな部分を持っている男だった。そのあたり。『銀河英雄伝説』のヤン・ウェンリーとは違う。(彼は思っても実行できない)そして、私がリュウ・アリエス(人類生存圏を三分する勢力がそれぞれ争うという良くある設定の自作『虚空戦記』の主人公)を諦めたのも、自作の主人公が結局「いいひと」に過ぎないことをオリジナルを読んで痛感したからである。
 しかしだ、今、目の前にいる『真』タイラーがこの先、起こりうる事件で必要であれば味方を捨て石にもできる男になれるのか? それは非常に望み薄なのだ。だいたい、アイドル顔のキャラクターがそんなまねが出来るはずがない。
 その点、どう思うだろうか。『機動戦艦ナデシコ』の初回特典が欲しいばかりに、セットの中古LDを8、000円で、更に初回特典BOX1と2をそれぞれ1、250円で購入した友人Sよ。
 「と、突然ふってきたな。こいつは。しかも秘密にしていることをばらしやがって、お前だってウテナ全巻14,000円で買ったじゃないか」
 うぐ・・・。しかし、それは既に3行日記で公開済み。ダメージは少ないぞ・・・。
 「じゃあ、あんなことや、こんなことを言ってやろうか?」
 ならば、こんなことやあんなことを言うまでの話・・・。
 「・・・」
 ・・・。やめよう。お互い益はない・・・。というわけでこの『真』をどう見るのだ。
 「うーん。いいんじゃないのか? たぶん『真実』の一つなんだろうな。これもまた」
 へ? 真実って唯一無二のものではないのか?
 「全然。真という価値観が出てきた以上、そこには偽という価値観も存在する。前に言っただろう。

 ゾイドは典型的な
 『悪逆非道な帝国の卑怯な奇襲攻撃によって大損害を被った正義の共和国が、最初の苦難を何とか跳ね返し、最終的に勝利する』
 という万人好みの話のステレオタイプでしかないのだそうだ。
 見方を変えるなら、
 『正当な帝国の支配者である兄が、トチ狂って共和制などと言う誤った政策を行ったことに対し、弟が翻意を促すため出兵すも、武運つたなく敗れ去った』
 という話になる。 (呆冗記 第163話 『ZOIDS その出会い』より)

 ああ、あれね。
 「この『真』が存在するならば当然、『偽』も存在するはずだ。誰が見たのか? その人間がどういう立場だったのかということでまったく違った話になりかねない。それから、新事実の存在がある」
 へ・・・?
 「『オリジナル』発表以後、過去のタイラーワールドを作者は好んで書いてきたよな。それが新事実となって、歴史事実の再評価となって『真』ができたと考えればいいと思うんだな。
 歴史的には良くあることだ、女体を象った呪術的な存在としての土偶が、男性土偶の発見によってまったく違ったものへ変わっていくこともある。だから、新事実によってタイラーが変化するのも当然かも知れないんだな」
 いやはや、そこまで大層に考えることかね。
 「いや、遊んでるだけ」
 ・・・。
 「しかし、旧作を前面改訂する、キャラも何も全部変わると言うことの是非はまた別の話なんだな。ま、富士見の『旧』シリーズからの読者としてはそんなもの書くくらいなら、全部新設定でやってくれと思うんだが・・・。こればっかりは作品は作者のものだから。しかたがあるまい。いろいろ金も関わってくるだろうし・・・」
 そう言うものなんだろうか。しかし、吉岡氏にはもっと新しいものを書いて欲しいのだが・・・。吉岡平最初期(林明美時代は残念ながら知らない)からの読者としては切にそう思うのである。(00,11,22)

追伸 今日の朝刊の朝日ソノラマの広告にとんでもないものを見つけてしまった。『クラッシャージョウ 連帯惑星ピザンの危機 改訂版』
   高千穂氏。あなたもですか・・・。(00,11,26)


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