呆冗記
呆冗記 人生に有益なことは何一つ書かず、どーでもいいことばかり書いてあるぺえじ。


道東古本買い出し紀行 3
〜座礁はもっと嫌いだ〜

 16 DDAY+1 AM8:30 古潭探訪

 さて、翌朝6:30、我々は更なる旅のために出発したのである。目指すは阿寒湖、屈斜路湖。すなわち、前回の旅行で効果不十分だった部分を完璧にこなさなければならない。
 まずは阿寒湖。アイヌコタンに車を停めて湖を見に行く。朝も早いというのにきっちり観光船が動いているのは流石GW。それはともかく、ぼーっと湖を見てこれで一つ取りこぼしGETである。
 で、アイヌコタンのセルフサービスの喫茶店で、『しばれ薯腐敗ダンゴ』(著作権は冴速さんに帰属する)のセット(昆布茶付き)を食べる。
 「いいんですか? こんな表現」
 「だって、発酵も腐敗も同じことなんだわ」
 「そうそう、人間に役立つのが発酵。役立たないのが腐敗ニャ」
 「食べても死なないのが発酵、死ぬのが腐敗とも言うよね」
 喫茶店の店先で交わす会話ではない。
 ああ、捨てたはずの常人の見栄が疼く。
 「よく言うニャ。なんだ酸っぱくないじゃないかって言ったのは誰ニャ」
 「だって、砂糖が効いて甘いんだぞ、T」
 「本当に発酵して酸っぱかったら一般受けしないんだわ」
 結局、似たもの同士である。
 そして・・・。Kさんがやおらペンを取り出すとナプキンに何か書き始められた。
 「どうしたんです?」
 「いやね、このセット、絶対に梅昆布茶の方が合うと思うから、そう返すナプキンに書いておこうかと思って」
 「確かに、梅昆布茶の方が合いますね」
 同様にナプキンに書き始める私。
 「これで、変な客として1週間はこの店に話題を提供するんだわ」
 それはともかく、我々の助言は聞き入れられるのか? また来なくてはならない。

17 DDAY+1 AM10:30 氷菓再訪

 車は快調に走り続ける。次の目的地は屈斜路湖である。屈斜路湖で『摩周湖ソフトクリーム』を食すのだ。
 「屈斜路湖なのに『摩周湖』、こりゃアカン(阿寒)ニャ」
 閉鎖空間に24時間以上、異様な乗りに包まれた我々はそんな親父ギャグすら許すほど寛大になっていたのだ。 
 そして、霧が出る。
 「久部さん、『例のもの』を」
 我々の旅行で霧が出たら流すBGMは一つしかない。それが『エクソシスト2』のサントラである。その異様な雰囲気の中、
 「いやあ、霧ニャ、霧ニャ。これはうまくすると摩周湖も霧かも知れないニャ」
 Tが喜ぶ。道東旅行のジンクス。「晴れた摩周湖を見ると婚期が遅れる」を体験していないのはTだけである。
 「行ってやろうか? T」
 「以外と、行ったら晴れたりするんだわ」
 「そうそう、湖だけいい天気」
 「もう、いいニャ」
 拗ねるT。おまえ、結婚願望あったのか?
 かくして、車は屈斜路湖へ到着。無事、屈斜路湖の『摩周湖ソフト』の写真撮影に成功する。しかし、食すのは『ピスタチオソフト』非常に腹持ちがいい。これで1食OKの優れものである。
 そして、我々はとんでもない物を見つけてしまったのだ。『銘菓 クリオネ饅頭』前回はなかった新製品。葛の中に赤いあんこがとってもぷりちー。お見せできないのが残念だ。
 いやあ、受けた。受けた、早速土産にしてしまう我々。Sは喜んでくれるだろうか?
 「次は網走なんだわ」
 冴速さん、そう、普通ならばそうなる。
 「いや、ここから根室なんですよ」
 「そ、そりは・・・」
 これはそう言う旅なのである。

18 DDAY+1 PM13:30 迷走開始

 「そうか・・・そうなんだわ」
 車はせっかく網走に近づいたのに再び根室に南下する。地図を難しい顔してのぞき込んでいた冴速さんが頷く。
 「我々は迷走してるんだわ。これは笑える旅程なんだわ」
 「そうだよ、ただの旅行じゃないよ。これは。というか、上杉君と旅行するとたいていただの旅行じゃ済まないね」
 久部さん。そのお言葉そのまま返します。
 「ま、こうやって寝てても道東を旅行できるんだからボクはいいニャ」
 おまえ、いつから寝ていてもいい立場になった? へ、サブドライバーくん。
 「でも、観光スポットはほとんど素通りというのが悲しいニャ」
 「おや、Tくん、これを観光旅行だと思ってはいけないよ」
 「違うニャ?」
 「違います。これは買出しなんだよ」
 そこで久部さんが言葉を切られた。
 「古本買出し紀行。ほら、空を大きな飛行機が飛んでる」
 「あ、カメラにケーブルささないとならないニャ。そのケーブルくわえるニャ」
 「牛乳はおなか壊すんだわ」
 「あ。魚も空飛んでる」
 どうしてそう言う話で盛り上がるか。我々。
 かくて、我々は一路根室へと向かう。
 しかし、根室で電話帳を調べると古本屋は1軒しかなかったのだ。
 その「H書店」は小さな、小さな古本屋だった。品揃えもそれなり。レコード関係が充実していたようにも思えたが今回は関係ない。ただ、ガンダム関係の書籍とLDがかたまって置いてあった。値段は高い。
 誰かがコレクションを手放したのかも知れない。我々はその山に侘びしさを感じながら根室を後にした。

19 DDAY+1 PM14:30 白亜巨塔

 根室に本なし。ビデオ、ユースドゲームもなし。
 貴重な時間乗員を失った我々はそのまま納沙布岬へ向かう。せめて観光でもしようという考えである。
 「また、霧ニャ」
 何度か目の『エクソシスト2』。その霧の中から巨大な白い巨塔が現れる。
 「軌道エレベーター」
 久部さんが呟かれるが、確かに霧の中の『平和の塔』はそんな雰囲気だった。
 「しかし、寒いニャ」
 「このあたりは夏でも寒いんだわ」
 その昔、大学時代は道東を根城にしていた冴速さんがTに応じる。
 「あれが、『四島のかけ橋』こっちが『北方館・望郷の家』」
 前話撤回。すっかり観光客してしまった我々である。
 しかし、結局『平和の塔』には上らず納沙布岬を後にする。
 「あ、怪しいニャ」
 と、Tが素っ頓狂な声をあげた。行きは霧が深くて気がつかなかったが道端に一件の寿司屋。『日本最東端の寿司屋』とある。
 「なんか、キャッチフレーズが怪しいニャ」
 確かに、地理的条件を売りものにするとは。
 「じゃあ、この隣にもう一件寿司屋始めれば『日本最東端の寿司屋』になれるんだわ」
 その程度でひっくり返るキャッチフレーズ。なぜか可笑しい。
 「『最東端の焼鳥屋』ってのもありだね」
 「『最東端の豚カツ屋』ニャ」
 時間的制約からトドワラはパス。途中、原生花園のあたりに立派な建物が出来ていて驚いたりしながら我々は網走へ向かう。
 網走、今回初めて訪れる最後の土地。そして、そこにいかなる古本屋があるのか?
 我々は真実をまだ知らない。

20 DDAY+1 PM16:30 某古書店

 網走に、古書店は一軒しかなかった。
 古書店『B堂』。しかし、そこは徒者ではなかったのだ。
 まず、地方史本が地方としては異様に充実している。漫画のたぐいもあるのは経営上仕方がないのだろうが、店の半分は地方史や岩波の絶版文庫・新書の類なのである。札幌の『K堂』さん系のお店である。
 おそらくは、目録で商売しているのではないだろうか。帯広以東の地方史のメッカなのかも知れない。
 ああ、Sならばどれほど喜んだことか。ただ、価格はしっかりついていた。掘り出し物はほとんどない。それでも、岩波文庫の『ロシア民話集』上下巻を購入する。
 しかし、いかにも店は小さい。30分程で物色し終わり、店を出た。
 写真集等を物色されていた久部さんが車内に戻ってから言われた。
 「惜しいなあ。値段、結構安めについているんだよね」
 どうやらご主人、写真集は苦手らしい。
 「でもね、絶対数が少ないんだ。玉不足。掘り出し物もないしね」
 ま、地方都市の悲哀かも知れない。
 しかし、札幌に産まれて私は本当に良かったと思う。そうでなければ今頃欲求不満で死んでいたかも知れない。いや、まじである。古本屋が一軒しかない街などに生きていたらどうなっていたか。あまり想像したくない。
 その後、駅で宿を探す。
 GWで混んでいると言うことだが、あっさりビジネスホテルが取れてしまった。ありがたい話である。1泊5,800円。ま、昨日が安すぎたのだ。ビジネスホテルはお風呂も部屋についているしなかなかありがたいのだ。 昨日はお風呂に入れなかったし。即決定で宿へと向かう。
 宿へついたら今晩も地ビールである。

21 DDAY+1 PM18:30 麦酒探訪

 さて、麦酒である。ホテルで教えて貰ったとおりに網走ビール館へ向かう。
 「そういえば今回は新得へ行っていないね」
 これが爆弾発言となった。運転しない久部さんには距離感がない。
 「蕎麦をおみやげ頼まれてたんだよね」
 「新得なら網走から1時間半程度なんだわ」
 冴速さんが、更に混迷に拍車をかける。北海道を離れて数年。新得の場所を勘違いされていたのだ。
 「今日、北見こなしてしまいますか?」
 新得に行くならばそのまま札幌に帰ってしまった方が早い。ならば北見の『GEO』と『BOOKOFF』は今日中に廻る方がいい。しかし、二日で1000キロ走った私は疲労の極にある。が、Tか冴速さんに運転してもらえばなんとかなる。
 「でもみんなビール園に歩いているニャ」
 Tの言葉の通りだった。みんな疲れていたのかも知れない。我々は結局網走ビール園へと向かってしまったのである。これが翌日の喜劇を産むことになるとは誰も・・・。
 「知ってたニャ。でも、みんな知ってて翌日新得に6時間かけて往復するんだと思ったニャ。そう言う旅行だと呆れてたニャ」
 これは後日、その時、唯一の常識人のお言葉である。
 網走の地ビールは意外とヴァイツェンがうまい。しかし・・・。
 「なんでしょうね、これは」
 「そうだね・・・どうしたんだろうね」
 子供連れで食事を楽しむ家庭。その場に居合わせた子供はみんな女の子。6〜7人の女の子。これは偶然か? はたまた、網走には何か男子が少ないのか?
「ああ、うらやましいニャ。そうならボクの青春はバラ色だったかもニャ」
 いや、やっぱり一極集中してお前には廻ってこなかったんじゃないかT。

22 DDAY+1 PM21:30 座礁哀歌

 お土産を購入。宿へ帰りがけ、中古ゲーム屋で『タイムギャル&忍者ハヤテ』と名作『ソウルエッジ』を購入。
 途中感じの良さそうな飲み屋があったが、窓越しにのぞくと若い連中がよろしく蜷局を巻いている。あんな時代が私にもあったなと少し感傷的になるも、一見さんの出る幕ではなさそうなので宿へ戻る。さあ今晩も『栄光の八八艦隊』である。
 冴速さんが風呂に入っている間に小手調べ。おお、勝利。偉いぞ『13号艦』流石は八八艦隊屈指の名艦である。
 そして、冴速さんが来た。いよいよ本番。目立ってはいけない。このメンツで目立つと残り3人でタコ殴りにあうことは昨晩で確認済みである。目立たず、目立たず。
 しかし、久部さんの主力艦を山ほど修正カード使って轟沈してしまう私。
 久部さんの目が光り、Tと冴速さんが尻馬にのり、結局我が艦隊タコ殴りである。
 もう一戦。手のつけられない久部さんに対抗すべく冴速さんと同盟を結ぶ。しかし、
 「理性では解っているんだわ。でも感情が追いつかないんだわ」
 我が損傷艦に冴速さんが攻撃をかける。
 「感情がぁ」
 私と冴速さんが殴り合う間に漁夫の利を取ったのはまた久部さんであった。
 今度こその3回目。がんばれぼくらの『フリードリヒ・デア・グロッセ』。今回はなかなか消耗戦。増援も来るが損耗も大きい。ぼかすか船が沈んでいく。艦船に与えられたポイントを50以上貯めると勝利なのだが残るはみんなただ1隻。しかし・・・私がひいたのは。
 「座礁・・・」
 無条件で艦船は沈没のイベントカードだ。
 私が脱力して寝た後の3人の勝負も冴速さんが機雷をひいて勝負が決まったらしい。
 機雷は嫌いだ。でも座礁はもっと嫌いだ!(00,5,16)


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