呆冗記 人生に有益なことは何一つ書かず、どーでもいいことばかり書いてあるぺえじ。
道東古本買い出し紀行 2
〜機雷は嫌いだ〜
8 DDAY PM12:00〜 帯広到着
というわけで、車は帯広に到着する。
前回、大きな古本屋を発見できなかった。我々が敗北した土地である。
しかし、我々には今回、新兵器があった。その名は職業別電話帳。
「じゃあ、ちょっと調べてくるね」
久部さんが電話ボックスへと向かった。
「上杉君・・・」
待つこと数分。久部さんの表情は焦燥といっていいものだった。
「我々は、勝利していたのかもしれない。帯広には大きな古本屋は存在しないんだよ」
「え、BOOKOFFがないニャ」
「GEOもないんですか?」
Tと私の問いに久部さんは頷く。
「なんてこったい・・・」
冴速さんが呟く。
前回、我々は帯広に強大な仮想敵を想像し、それを発見できないことで一方的に敗れたのだった。その仮想敵が存在しないのならば。
「次の目的地に行くんだわ」
優しく冴速さんが促し、ボロ車はのろのろと動き出したのだである
「あれ、古本屋ニャ。寄ってみるニャ」
Tが言ったのはしばらくたってからだった。『S』という小さな古本屋がそこにはあった。しかし、実はその古本屋が、今回の最大の収穫だったとは誰が知ろう。
小さいのに異様な品揃えの店であった。最近の発行とはいえ、サイン入りの同人誌、札幌では入手出来なさそうな腰帯付き初版本。大型古書店発見に失敗した我々の傷を癒すには十分な品揃えだったのだ。
かくて、我々は意気揚々と次なる目的地、釧路へと向かったのだ。しかし、
「あの店、駅前店ニャ。本店もあるニャ」
しばらく何事か考えていたTの言葉に我々は顔を見合わせた。
どうやら帯広はゲリラ戦が必要な街らしい
9 DDAY PM13:00〜 別腹問答
というわけで、我々は釧路へと向かう。
しかし・・・
「しまったんだわ、帯広名物『ぱんちょう』の豚丼食ってないんだわ」
冴速さんの言葉に私が応える。
「寄っていきますか?」
「豚丼は別腹かニャ。ニジマス喰っても入るかニャ」
調子に乗ったTを久部さんが窘めた。
「Tくん、言うのはいいけどね、やったら縁切るよ」
「それは困るニャ」
「だいたい、これだけ腹一杯食べてご飯が入るかい?」
私は豚丼くらいなら入るかもしれないと喉元まででかかったのをあわてて押さえる。
「でも、甘いものなら入るかもしれないんだわ」
冴速さんが言う。
「しかし、甘いものといってもな、カロリーメイト大ジョッキ。イッキ飲み出来るかな」
私が答えた。
「大ジョッキって700CC入るニャ! だったら一日分のカロリーが取れるニャ。恐ろしいニャ」
そう、あの不味いカロリーメイトの缶を3つジョッキに注いでイッキ飲みである。この試練に耐えたものはまずいない。
「ふふふ、甘いんだわ」
冴速さんが笑う。
「北見にはチーズケーキというものがあるんだわ」
「どこにでもあるニャ」
Tの反論は瞬時に粉砕された。
「ノンノン。ただのチーズケーキではないんだわ、イチゴのショートケーキ。そのイチゴをすべてチーズに変えて欲しいんだわ」
どーん。
車内を沈黙が支配した。車は一路釧路へ向かう。
10 DDAY PM14:00〜 釧路到着
恐るべきは北見のチーズケーキ。我々は黙ったまま釧路へと入った。と、人生楽あれば苦あり。釧路には大きな『BOOKOFF』が我々を待ちかまえてくれていたのだ。
しかも、その『BOOKOFF』新刊書店とゲーセンとくっついているではないか。
「パラダイスニャ・・・」
Tが呟くまでもなく、我々は古本屋へと突入したのである。
「奥瀬サキ『フラワーズ』スコラ版!」
私は思わず目の色を変えて購入してしまった。(実はソニー版だった)ま、失敗した私はともかく、久部さん、冴速さんはそれぞれ、それなりの戦果を上げられた様子である。
ならば、新刊書店である。札幌でも買える本をあさる我々は何者か? 定期的に書籍のインクの匂いを嗅がなければ生きていけないとでも言うのか? ともかく、その座り読み大歓迎。店内に心地よいソファー付き新刊書店。『N』で『小説 里見☆八犬伝』を買ってしまった私は何をしているのだろうか?
「莫迦ニャ」
T、適切なつっこみ有難う。
そして、十分に新刊本の匂いを嗅いだ我々はゲーセンへと向かう。そこで私は生涯の宿敵と出会うのだ。
これは、この、キーボードのついたゲームマシンは何なのだ?
百円を入れる。打って打ってうちまくる。快感・・・。
が、敵の攻撃は熾烈を極める。特にゾンビが投げてくる物までうち倒さねばならぬとは・・・それがあんなにダメージがでかいとは」
『燃える』
しかし、パターンが読み切れない。
「これって、ドリキャスでゲームになってなかったかニャ」
Tの言葉に私は血眼で振り返った。
ドリキャスを買う。私は密かに誓ったのだ。
11 DDAY PM17:00〜 釧路駅前
さて、なにはともあれ今回の最初の宿泊地釧路へと到着した。
「行き当たりばったりで宿が取れるかニャ」
旅慣れていないTが尋ねる。
大丈夫である。北海道の宿泊地、温泉街でもない限り、今だかつて宿が取れなかったことはない。(また、否定の連続)
駅の案内であっさり宿が取れた。
「へ・・・。一泊3,800円?」
思わず引いてしまった。安すぎる。
それはともかく、駅内の『B』。エジソンの蝋管なんても置いてあったが・・・。誰が買うのだ。おそらく、店内で一番価値があるのは『のらくろ』の復刻全集(一冊物)だったのではないだろうか。田川水泡氏サイン入り美本。欲しい人ならかなりの金額がつくのであろうか。
「我々の代でそこまで価値のある作家ってたぶんいないニャ」
Tが悲しげに呟く。
「手塚全集は成立したニャ。でも石森全集は売り上げがはかなくて第二次はお蔵入りみたいニャ・・・」
更に悲しげに吐き捨てる。
「こんなことなら、第一部予約して購入して置くんだったニャ。そうしたら第二次もきちんと出たかもしれないニャ」
いまいち石森美学に染まりきれなかった、私は頷くしかなかった。
駅の駐車場で。冴速氏に
「上杉さんはバックが苦手か」
と看破されたりしながら。宿にたどり着く。
さすが3,800円。らしい宿だがチェックイン後、私がガソリンをボロ車に入れて戻ってくると、久部さんが言われたのだ。
「額の裏とか。カレンダーの裏とか、何かあるかと思ってめくってみたけど何もなかったよ」
3,800円。霊的には安全な宿であった。
12 DDAY PM19:00〜 麦酒探索
というわけで宿の決まった我々は夜の街に飛び出した。
目指すは釧路の地麦酒屋である。
しかし、我々はひとつの過ちを犯していた。
メンバーの一人、Uはこう語る。
「あのお、たしかメンバーのKさんが釧路の地ビール飲むのにあっちこっち動いたって話言ってたような気がしたもんですから、まかせとけばいいかと思ってついていったんですよね・・・」
しかし、事実は釧路から北見まで地ビールを飲みに行っていたのである。例の900キロ移動はこのときなされていたのだ。
そして、メンバーの一人K氏はこう語る。
「Uさんがどっち? と聞くからこっちじゃないと答えたんだわ。そしたらそっちへずんずん行ってしまったんだわ・・・。知ってると思ったんだわ」
ついでにあとの二人にも聞いてみよう。
「ま、二人が行く方に間違いはないでしょ」
「おなか空いたニャ。やっぱり豚丼喰っておくべきだったニャ」
かくて、4人が地ビール園を見つけることができたのは奇跡であったのか?
運河のこちら側にあったビアホールはサッポロとアサヒであった。かくして、運河の橋を渡ったのであったが・・・。
「これは、春の像か・・・」
横にあった像の題を私が呟くと冴速さんが応じる。
「あっちがクレイ1、クレイ2なんだわ」
真面目に信じたぞ。冴速さん。
念のためにいっておくと、これは私の「春」。HALに対してのギャグである。そんな像は存在しない。念のため。
かくて、我々は対岸の地ビールホールにたどり着いた。実はこっち岸にも地ビールホールが開店していたのはその後に解った事実である。看板ぐらい出しておけよ・・・。
13 DDAY PM19:00〜 麦酒堪能
というわけで、いよいよ釧路の地ビールとご対面である。
『霧笛ピルスナー』『海霧ヴァイツエン』
なかなか凝った名前なのだ。つまみも新鮮な海の幸が豊富で美味しい。
しかし、
「ピルスナーとヴァイツエンはどこでも同じ味なんだわ」
お、ボルト・クランク(『98』ではない方)を気取っているなKさん。
「ま、『レッドエール』くらいなら地ビールらしいと言えるんじゃないのかな」
これも『サンセットレッドエール』ご大層な名前が付いている。
「ま、日本はラガーばっかりですからね」
「そうニャ。日本はラガーばっかの国ニャ。『アサヒ』『キリン』『サッポロ』『とりあえず』『まずは』。ガイジンさんはみんなビールの名前だと思ってるニャ」
「まさか・・・」
「ありえん話ではないなあ」
納得しないでください久部さん。
が、やっぱりレッドエールが、らしいビールである。
「『ハニーウィートエール』は名前と違って甘くないニャ」
「当たり前だ。なんだったら砂糖ぶち込んでやろうか?」
「それはゴメンニャ」
あと地酒の冷酒。名付けて『逆鱗』もある。
「嘘ニャ、『彩鱗』ニャ。受けない一発ギャグかますのはよすニャ」
「・・・久部さん。ソーセージをどうぞ」
「あ、ありがとう」
Tにかまわず最期のソーセージを久部さんに手渡そうとすると・・・転がった。
「あ、わざとニャ。自分で食べたいから、わざとテーブルの上に転がしたニャ」
濡れ衣だっちゅうの。
14 DDAY PM21:30〜 追憶書店
さて、いい加減飲んで宿に帰る途中、『B亭』なる本屋が目に留まった。
「あ、ここは結構有名なんだわ」
冴速さんがそう言う。
「ほう、どんな本屋なんだい」
「寄ってみますか」
なんといってもそれがこの旅行の目的なのである。我々はその小さな本屋へ入っていく。
「こ、これは・・・」
私と久部さんは店内にある種の懐かしさを覚えたのだ。
店内は一種雑然としていた。ゲーム関係、そしてマイナーコミックが妙に充実している。
レジの近くには何故かテーブルトークRPG用のダイスが箱に入って置かれていた。
その側にはTRPGのサプリメントが新旧ごちゃまぜに定価で売られている。
「あれ、いくつか古い奴、割り引いてたらかってたかも知れないんだけどね」
久部さんが後で語られたところである。
「ダイスニャ。ダイスニャ。買うニャ」
Tが目の色を変えて10面体と20面体ダイスを握りしめている。そんな物買ってどうするんだT。
「冴速さん・・・こういう店かい」
ご祝儀代わりにコミックを1冊買った私は冴速さんに聞いた。
「地方にしては珍しいんだわ。ここ」
いや、札幌にしても十分に珍しい。TRPGがカードゲームに駆逐されて久しい。現在生き残っているのは『ガープス』くらいか? 『D&D』『T&T』『RtoL』。我々は安田 均氏より少し短い程度のゲーム歴は持っているのだ。しかし・・・。
「なんか雰囲気にてますね『あの本屋』に」
「あ、上杉君もそう思った?」
そう、その時は直接の面識はなかったが、久部さんがバイト、私が客としてよく出入りしていた本屋があった。今は亡きその本屋の分も『B亭』には繁盛してもらいたい。そう思って我々はその店を後にしたのだった。
15 DDAY PM23:30〜 機雷無情
「さあて、始めようか」
夜も更けた。いよいよお楽しみタイムである。久部さんが嬉々としてカードのてんを切る。『栄光の八八艦隊』。サイコロ任せのカードゲーム。我々の旅行にはこのゲームがつきものなのである。
まず艦船カードが4枚配られる。
「うーん、酷いなあ」
「『三笠』が一番使えそうニャ」
「何なんだわ。この艦隊」
「てんは切ったんだけどね」
第一回目。八八艦隊とは名ばかり、旧式艦ばかりの艦隊で戦いの火蓋が切られたのだ。
そして、一枚ずつカードを引いてくる。この中にはイベントや戦闘時の特殊効果、サイコロ数修正用のカードがある。
「増援ニャ」
「あ、俺もなんだわ」
増援とは艦船カードを一枚貰うことが出来るカードなのである。おお、結構新式が増援できたではないか。では、私も。
「$%&(声にならない叫び)」
「あ、機雷ニャ」
機雷を引くとサイコロを振って損傷確認をしなければならない。ぼこぼこ損傷していく我が艦隊。
「落ちた犬は叩くニャ」
「ま、それが理屈なんだわ」
「兵法においても正しいよね」
たちまち全滅。ゲームオーバー。
「えーい。見ておれ」
再戦開始である。
「お、増援ニャ」
「名将(艦船の能力を高めるカード)だね」
「増援なんだわ」
「あ、機雷・・・」
今度はなんと3枚も・・・。
結局またボコボコである。しかし、それはまだ翌晩の悲劇の序曲でしかなかったのだ。(00,5,15)