呆冗記
呆冗記 人生に有益なことは何一つ書かず、どーでもいいことばかり書いてあるぺえじ。


道東古本買い出し紀行 1
〜朱に交われば赤くなる〜

 1 DDAYより約半年前 計画段階

 本がある。いや、本しかない部屋の片隅に3人の男達が腰を降ろしていた。
 「効果不十分か・・・」
 友人Sが呟いた。
 「ああ・・・。前回の道東攻略作戦。帯広攻略は不首尾に終わり、芽室のニジマスは旬を外し、摩周湖は寄っただけ、屈斜路湖の『摩周湖ソフトクリーム』の旗は風のため不十分な映像しか存在しない・・・。効果不十分だよ」
 私は事実をありのままに述べた。口の中になんとも言えない苦みがある。
 「貴重な時間乗員、金銭搭乗員を消費してこの結果とはな・・・」
 「しかし、カムイワッカの滝と、イクラ丼は戦果十分だったはずだ」
 「が、不十分であったことには間違いないだろう」
 「それは、認める・・・」
 「だけれどね」
 それまで沈黙していた久部さんが口を開かれた。
 「前回の作戦名『シーボース』は、然別湖へ霊的存在を戻し、北見で地ビールを購入する。これを目的としていたんだよね。その目的に関しては効果十分。金銭搭乗員や、時間乗員も浮かばれると思うけれどね・・・」
 語尾が沈む。
 「ただ・・・。別の霊的存在に憑かれた可能性は否定しないよ・・・」
 そうなのだ、私と久部さんは前回の作戦の後半、狂ったように古本屋を漁り出すという端から見ると原因不明の行動に駆り立てられてしまったのだった。あれは何だったのか?
 「不首尾に終わったものはやり直せばいい。ニジマスが美味だったのはGW。ついでに、道東、釧路、根室、網走を廻って古本屋を攻略する。GWの予定は?」
 この一言が今回の迷走の始まりだった。

2 DDAY−5 異常事態

 作戦実施日時は5月3、4、5。まるで笑ってしまうようなGW旅行。下手をすればラッシュに巻き込まれかねないこの計画も、カレンダー通りの休みしか取れない私とSに取っては仕方がないことだった。
 目的は、芽室でニジマスを食し、帯広で古本屋に復讐を果たし、阿寒湖をしっかり見て、屈斜路湖の『阿寒湖ソフトクリーム』を食して記録に残し、釧路、根室、網走の古本屋を攻略、北見経由で帰札する。総走行距離は約1,500キロ。ドライバーが2人いるからこそ可能な強行軍であった。
 しかし、暗雲は意外なところからやってくる。桶屋の例えは真実であった。Sの職場で事変が発生したのだ。それはたちまち時間割作成担当であるSの時間乗員をまとめて三途の川の向こうへ追いやってしまったのである。
 「参加不可能」
 Sは未練を断ち切りそう、連絡してきた。
 「そうか・・・Sくんは駄目か」
 「ドタキャンを防ぐため、決定事項だそうです・・・」
 「運のない男だね。彼も」
 「はい・・・」
 久部さんは小さくため息をついた。
 「で、ドライバーのあては? Tくんはどうなんだい」
 「Tですか・・・」
 私も小さくため息をついた。
 「免許があるくせに旅の移動中ずっと後席で鼾をかき、山道のまんなかでトイレ休憩を要求する。二本の足で歩いている限り信頼できますが、ドライバーとしては・・・」
 久部さんは天を仰いだ。
 「敵にすると頼もしく、味方にすると恐ろしい典型的なタイプかい・・・」
 作戦を縮小するか、日数を拡大するか、ドライバーをもう一人調達するか。作戦直前に事態は暗礁に乗り上げたかに見えた。

 3 DDAY−4 状況好転

 が、状況好転は意外なところから発生した。
 Sのところから私のところへ転載されてきたメールが明暗をわけたのだ。
 「29日 詳細は札幌にて 冴速」
 冴速がさん来る。
 今回の作戦に明るい光が差したかに見えた。冴速玲さんといえばSとともに第一次カムイワッカ攻略作戦を成功させた伝説のエースである。走行限界距離1日900キロ、峠の巡航速度は時速90キロ。血管の中をガソリンが流れ、心臓はビス止めされている。最新鋭の戦闘機を購入するくらいなら、冴速さんを雇った方がマシといわれる伝説の傭兵・・・。って私はなにを言っている。
 ともかく、冴速さん歓迎飲み会で参加依頼を切り出した私に冴速さんは快諾された。
 「うん。Sに言われてそのつもりだったし」
 なんと義理堅い男か。S。我々の作戦は一人の戦士を失ったが、それ以上の勇者を得たのである。計画は順風満帆。行く先には破片ほどの雲すら見えないかに見えた。が・・・。
 翌日、小樽第一倉庫で、悲劇は起こった。
 「だからさ、『聖魔大戦』の主人公はヤン・ウェンリーっぽいんだわ」
 「それはおもしろそうニャ」
 「うん、面白いからやってごらんよ」
 男3人というシチュエーションはともかく、小樽の午後は静かに流れていく。
 「それはそうと上杉、面白い旅行があるそうだニャ」
 「・・・誰から聞いた」
 「Sニャ。自分は時間割作成で動けないけど上杉と久部さんが行くって言ってたニャ」
 「ああ、それなら、俺もいくんだわ」
 「そうニャ? 久部さんも冴速さんも行くんなら僕も行くニャ。ニジマスは美味しそうニャ」
 ああ。前言撤回。何という、なんという人間を差し向けてくれたのだS。

4 DDAY AM6:00 作戦開始

 かくて、作戦は開始された。参加者は久部さん、冴速さん、私にTである。
 朝6時、札幌出発。以上4名を乗せた私のボロ車は一路帯広へと向かう。高速道路を使用して時間をかせぎ、ラッシュに巻き込まれないように少しでも距離を稼ぐ予定だ。一昨年、昨年と函館に花見に行ったときはラッシュに巻き込まれて難儀したのだ。あのような経験は二度とごめんである。
 そして、今回の旅行には、GWラッシュとTだけではなく、もう一つの問題点があった。それがタイヤである。我々の行きつけ。Sの奥座敷とも言われる『K』さんのマスター。彼は毎年、GWに食材を探して道東を訪れる道東のプロである。そんなマスターが言われるには
 「道東、GWに毎年行くけど必ず1回雪降るからねえ」
 そして、数日前の新聞には、網走にて50センチの降雪があった旨、記載されていた。
 兵装担当の私は悩み抜き、遂にスタッドレスでの旅行を決意したのである。スタッドレスは摩耗が早く、巡航速度も高くない。しかし、道東の峠。それも雪をかぶった峠を走破するにはスタッドレスタイヤが不可欠である。
 久部家、冴速家の御長男を危険にあわせる訳にはいかない。私は、いくつかのデメリットに目をつぶり、スタッドレスタイヤの採用に踏み切った。
 「わあ、上杉、おまえまだスタッドレス履いてるのかニャ。どーしようもないニャ」
 私の苦悩を知ってか知らずか、Tが脳天気な声をあげる。
 「道東は雪が降る可能性があるからな」
 「そんな、杞憂ニャ」
 「真夏にユキが降る可能性もある」
 「それって解る人間どれだけいるニャ?」
 ちなみに、そこにいた人間は全員解ってしまったのだった。

5 DDAY AM8:00〜 男子本懐

 北海道横断自動車道を私のボロ車は時速100キロで走り抜け、夕張から274号線を走り続ける。
 行きつけのGSでの事前の情報収集では、8時頃からGWラッシュに巻き込まれる可能性が高いとの話だった。出発以来2時間、274号線を走る我がボロ車の前にはラッシュのかけらもない。
 「どうしたんだろうね」
 「どうしたんでしょうね」
 「だから杞憂ニャ。上杉は心配性ニャ」
 「でも、最悪の事態に備えるのは必要なことなんだわ」
 さすが、冴速さん。話がわかるのである。
 「でも、上杉の場合はしすぎという話もあるニャ」
 「それもあるかもしれないんだわ」
 えーい、どっちやねん。
 「しかし、DC(ドリームキャスト)の『機動戦艦ナデシコ』はおもしろいんだわ」
 我々の旅では話が三回転宙返りするのはよくあることである。
 「そうなのかニャ」
 後ろの席でTが聞き返す。
 「映画編の後の話で、艦長にプレイヤーが就任するんだわ。でも、副長にルリルリがついているから、何にもしなくていいんだ。で、このプレイヤーキャラクターがエースパイロットも兼任してるんだわ。これが、燃える」
 「ほう・・・」
 「敵が来たらまず、『私が出撃する』っていって、ばったばったとポイントを溜まくるんだわ。これで女の子との友好度もガンガン上がるし地位のポイントもあがるわけ、やっぱり戦艦の艦長兼その船のエースというのは漢の本懐なんだわ」
 「そうだねえ。ヤ○ト以来の伝統かねえ」
  久部さんの言葉に車の中を沈黙が支配した。あのゲームはどうしてあんなに酷いのだろう。

6 DDAY AM10:00〜 戦場到着

 しばしの沈黙の後、我々は遂に芽室に到着したのである。時に9時30分。目指すは『松久園』。昨年8月の雪辱を果たすのだ。
 「前回はここで迷ってしまってね。Tくん、冴速くん、監視を密にしてくれたまえよ」
 久部さんの号令一過、我々は目を皿のようにして『松久園』の看板を探した。あまりにもナーバスになりすぎて遙か手前で曲がってしまったりもしたが、そんなに迷うこともなく10時少し前に『松久園』に到着したのだ。
 しかし、『松久園』は我々を拒む。
 「11時開店だそうです」
 何と言うことだろう。少しでも早く到着しようと一生懸命走ってきたのに・・・。
 しかし、このメンツは落ち込んだりしないのがいいところである。近くの木の玩具屋(定休日だった)に遊びに行き、帰りに私が道を行き過ぎたりして無事、11時に『松久園』へ再び到着したのだ。
 座敷へ通された私たちは定食を注文。無茶苦茶空いているのにオーダーを間違えられたり
 (久部さん、「混んでても、空いてても対応が変わらないのは好感が持てるね」って言われましても・・・)
 待ち時間の間、近くのテーブルで彼氏の両親に引き合わされてしまった彼女の悪戦苦闘を聞くともなしに聞いたりしながら、やっと我々は美味なるニジマスに巡り会ったのである。
 「うまいニャ! うまいニャ!」
 事実、8月のニジマスとはものが違った。なんというのだろう。脂ののりが違う。洗い、刺身、唐揚げ、塩焼き。美味である。
 「上杉、まだ運転大丈夫ニャ?」
 そう言うTに頷くと、彼は続けて言ったではないか。
 「お姉さん、冷酒にゃ、お猪口三つ、さあ、久部さんも冴速さんも、さあ飲むニャ」
 お二人がこちらを見る。
 私は肩をすくめると頷いたのだった。

7 DDAY 12:00〜 酒宴余韻

 美味なるニジマスを食した我々は、後席で眠りこけるTとともに一路帯広へと向かう。
 「しかし、ニジマスもおいしかったけれど、おもしろかったんだわ。サボテン園」
 冴速さんが言う。サボテン園とは小さなビニールハウスたった一つにごっそりサボテンが植えられている『松久園』の名物? だ。
 「あれは、絶対に家の人の趣味丸出しだよね。趣味を無理矢理人に見せてる」
 「これがホントの悪趣味ですね」
 きれいにまとめてどうするのだ、私は。
 沈黙が痛い。
 「そういえば、近くのテーブル、面白かったんだわ。上杉さん気づいてた?」
 有難う冴速さん。あなたはいい人だ。
 「ああ、息子が都会から帰ってきて結婚する相手を両親に紹介していた奴ね」
 「へえ、そんなテーブルあったっけ」
 久部さんが悠然と聞かれる。
 「ありましたとも」
 「久部さん、笑える状況だったんだわ」
 そう、おそらく彼は今日のことを一生妻となるべき女性に言われ続けるに違いない。
 小さなコップの麦酒にほとんど口を付けない彼女に将来の姑が聞く。
 「あら、お酒はあまり召し上がらないの」
 「ハイ・・・」
 「嘘つけ、いつもは俺より飲むくせに」
 これは最悪である。
 しかし、三十路の男が4人、そういう状況に陥ることもなく、ニジマスと古本とに血道をあげて1500キロを走ろうとしている。
 「類は友を呼ぶかね」
 久部さんが言う。
 「似たもの同士ですよ」
 「朱に交われば赤くなるんだわ」
 我々が応じる。と、Tが目を覚ました。
 「味噌も糞も一緒ニャ」 
 それは少し違うと思うぞ。T。(00,5,08)


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