このタイトルを聞いてまず頭に浮かんだのが、京極夏彦著「今昔続百鬼−雲」収載の「古庫裏婆」に出てくる“衛生展覧会”だった。そこまで悪趣味なものではないのだろうけど、見に行った人の中には気分が悪くなって倒れた人もいるだとか、兎に角なんだか凄いという噂を聞きつけ、ただただ興味本位で見に行ってみた。 事前にネットで混雑状況を調べてみたら、会期終了間際のこの時期はどの時間帯も混雑しているとのことで、開場時間めがけて出掛けることにした。 会場である東京国際フォーラムに到着すると、当日券を購入するのに長蛇の列となっており、40分待ちだと言われた。待っている間にも列はどんどん長くなっていき、当然前売りを買っている人たちは入り口の入場待ちの列に直に並んでいくわけで、とうとう入場制限が行われるようになってしまった。結局会場に入れたのは、到着してから1時間以上経ってからだった。 この「人体の不思議展」の趣旨については、まあ色々と高尚なものがあり、行った人のアンケート等を見ると、医療従事者のみならず皆さん何がしかの感慨があったようで、単なる興味本位で見てもいいもんだろうか…なんてちらっと思ったりもしつつ会場内に入ってみると、うぬぬぬぬぬ……。感慨も何もあったもんじゃない。取り敢えず、見えない。苦笑 「人体の不思議展」で展示してあるのは、人体標本。部分的なものから全身まで。臭いや扱い難さのあったこれまでのホルマリン標本から、“プラストミック”という画期的な技術が開発され、臭いもなく、弾力性に富み触れることも出来て、半永久的に保存できるのだそうだ。つまり、展示してある全ての標本が、生前からの意志に基づいた献体であり、作り物ではない本物(という言い方がいいのかどうか…)の人体標本なのである。 入り口に近い辺りは、部分的な標本がガラスのショーケースに納められて展示してある。一番最初に見たのは腕だったか脚だったか。その他臓器やら血管やら諸々。矢張り皆さん始めは興味津々で、ケースは物凄い人だかり。掻き分けて見てみようと思っても掻き分ける隙間も無いから、前で見ている人がどくまでしばし待つしかないのだけど、これが全然どいてくれない。一際人だかりの激しい所があり、何かと思い近づいてみても、前にいたバカップルが「女:凄いねー♪」「男:ねー♪」などと言いながら居座り続け、全く動こうとしないのである。だから別の方向からと思っても最早後ろからの圧力で移動することも出来ず、どうしたものかと思っていたら、ようやくバカップルの隣にいたお姉さんたちがケースから離れ、ここを逃すまじと体を割り込ませて見てみたケースの中にあったのは、いわゆる生首。首から切断された頭部だった(髪の毛や毛は全ての標本に無い)。このお方も、献体となった後、まさかこんなバカップルの前に晒されるとは思ってもいなかっただろうな…なんて、興味本位で見に来た猫又が言えたことではないか。(苦笑) プラストミック標本は、見た目は綺麗な肌色の蝋人形のようだった。会場の中ほどから展示されている全身標本は、ケース等には入れられておらず、立っている状態で置かれてあった。そのどれもが身を削がれ、あるものは脊椎があらわになり、あるものは頭のてっぺんから見事に右半身だけ脳やら筋肉やら内臓やらがあらわになり、etc……。決して蝋で出来た作り物ではない生々しさが感じられると同時に、自分の体もこんなふうになっているんだなという実感がわいた。 その他、のり巻きの如く頭からつま先までまるまる一体を数十センチごとに輪切りにしたものや、触れる献体、脳の重さを体感できるコーナー等があった。見知らぬおばちゃんが、「今日は焼肉は食べられないねぇ」と言っていた。確かに。(苦笑) 焼肉を食べる気にはならないけれど、展示ごとに書かれている説明をちゃんと読んでいられるぐらいに落ち着いてじっくりと見学出来る時に行けば良かったな…。
|