NHK・BS2で放送された「マルタの猫」−地中海・人とネコの不思議な物語−というドキュメンタリーを観た。その名のとおり、地中海にあるマルタ島で暮らしている人と猫との物語を綴ったものだった。 小さな島に、本当に沢山の猫たちがいた。生まれた時から傍らには猫がいた13歳の少女とその家族の物語、また、身近な人間の死を二度経験した猫と残された家族の物語等、いくつかの猫と人との物語が丁寧に描かれていた。 中でも一番印象深かったのが、一日中365日、野良猫に餌をやり続けている青年のこと。彼は一日に何軒かのスーパーをはしごして大量のキャットフードを購入しては、島のあちこちにいる野良猫たちに餌を与えて回っている。毎日。毎日。街の人たちは、仕事もしないでと彼のことを変人扱いだ。子ども達までも「あの人ちょっとおかしいのよ」なんて言っていた。しかし彼らの中には、変人扱いしておきながらその餌場に子猫を捨てていく人もいるわけで……。 クリスマス・イブの夜、彼は新顔の子猫を見つけ膝に抱いていると、彼の数少ないであろう友人のフィリピンから来た少年とその母親が、これから一緒に教会へ行かないかと声をかけた。彼女はシングルマザーのキャリアウーマン。彼は、猫に餌をあげなきゃいけないからと断った。すると彼女は、何気なくバッグから10ポンド紙幣の入った封筒を取り出して渡し、もし店が開いてるようなら、あなたに買ってきてもらっていいかと言った。朝、子猫が外で鳴いてたみたいだから、と。彼女はなんて素敵な優しさの持ち主なんだ!なんて素敵なクリスマス・プレゼントなんだろう!という感動で涙がこみ上げてきた。ちょっと変わった息子の友人に対する施しではなく、自分の代わりに猫たちの餌を買ってきてくれないかとサラリと言える彼女の優しさと、その優しさをちゃんと理解していて素直に「Thank you!」と笑顔で受け取る彼に、本当に心を打たれた。 親子が去った後、「怒ってるよこの猫。僕が手を離そうとすると怒るんだ」と嬉しそうな表情で言った。そして、島中の教会の鐘が鳴り響く中を、猫缶の入った袋を提げて次の餌場へと歩いて行く彼の姿は、圧倒的な迫力で胸に迫ってきた。 最後の餌場、彼の家の前でお母さんのことについて聞いてみると、母親はみな優しいものだけど、僕の母親は僕に特別優しかったと言った。そしてさっきの親子のことを、彼女はとても優しい人だ、だからあの子も大人になったらもっと優しい人になるよと言った。彼は、変人でもなければ、どこもおかしくなんかないではないか。 朝、心地好さそうな海沿いの公園で、彼は相変わらず野良猫たちに餌をやっていた。ベンチで餌を食べる猫を、本当に楽しそうな、幸せそうな顔で見ていた。そんな彼のことを、猫の保護を目的に活動しているマルタ猫協会の人たちは“猫のプリンス”と呼んでいるのだそうだ。 例えば、骨と皮だけのガリガリに痩せた野良を不憫に思い、餌と寝床を提供している猫又の“猫”に対する思いと、彼の野良猫に注ぐ愛情とでは、きっと天と地ほどの差があるのだろう。猫協会の人が言っていたように、もしかしたら彼は猫が「好き」なのではなく、猫に「なりたい」のかもしれない。でなきゃ人生の全てを猫に捧げる生き方なんてできるものではない。凄い!!! マルタ島、一度行ってみたいな……。
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