状況 :再び、上手の方へ歩き出す根岸
    舞台上手から、鞄を肩に掛けて、色紙とマジックを持った若き日のリカが
    幼い頃のトシオの手を引っ張って入ってくる。トシオはシュウシュウ
    言いながらスキーをやってるような感じで跳びながら歩いている
    リカ、根岸に
リカ :あ、お疲れさまでした。よかったですぅ
根岸 :あ、どうも
状況 :根岸、チカの方を向いて、怒った口調で
根岸 :ファン入れるなって言っただろう
リカ :あのう
状況 :根岸、リカの方を向いて
根岸 :あ、サイン
状況 :返事も聞かず、マジックと色紙をひったくり
根岸 :ケーン!来年もよろしく!
状況 :何か殴り書きして、うっとうしそうに出てゆく
    リカ、色紙を見ながら、悲しそうに
リカ :あぁ〜
状況 :チカのほうを向いて
リカ :あのぉ、ギターの太川さんもう帰っちゃいましたぁ?
状況 :立ち上がって、リカの方を向きながら
チカ :太川はもう帰りました
状況 :リカの顔を見て言葉を失うチカ。突然大声で
チカ :おかぁさ
状況 :あわてて、言葉を切るチカ。リカ、チカの顔をのぞき込んで
リカ :はい?
状況 :トシオ、リカのまねをして
トシオ:はい?
状況 :チカ、トシオをしばらくじっと見ている
チカ :おにいちゃん!?
状況 :けげんそうにチカを見るリカ。リカ、焦って、取り繕うように
チカ :あ、いえ、はい!
リカ :太川さん、サインもらいたいなーとおもったんですけどぉ
状況 :ふてくされているリカ
リカ :なんかあの人が「ケーン」って
状況 :落書きされた色紙をマジックで叩きながら、ぶーぶー言うリカ
チカ :あ、すいませーん
状況 :トシオ、リカが持った色紙に顔を近づけてのぞき込む
    リカ、トシオの顔に色紙をくっつける
リカ :い〜え!
状況 :完全にムッとした口調のリカ
チカ :太川はもう帰ったんですけど
リカ :あ、そうですかぁ
トシオ:そうですかぁ
リカ :じゃ、
状況 :あきらめて、後ろを向いて帰ろうとするリカ。チカ、あわてて
チカ :ぁ、ぁ、お送りしますっ!
状況 :リカ、チカの方を向く
チカ :サイン郵送します!
状況 :リカ、驚いたような表情で
リカ :ほんとに?
状況 :こくりとうなずくチカ。リカ、先ほどとはうってかわって明るい声で
リカ :でも、どうしてそんなことまで?
状況 :リカ、チカの方に歩いていき、チカの肩を押しながら
リカ :すっげーいい人ぉ
状況 :チカ、後ろによろける
リカ :じゃ、住所
チカ :あ、知ってます
状況 :うつむいたまま言うチカ。一瞬の沈黙。「やばい」といった表情であわてて
チカ :あ〜、じゃ住所!
状況 :納得いかない表情ながら、色紙に住所を書くリカ。
トシオ:シュウ、シュウ、シュウ、シュウ
状況 :チカ、1人で遊んでるトシオを見つめている
チカ :息子さんですか?
状況 :トシオ、チカの顔を見ながら
トシオ:むしゅこさん
リカ :ええ、息子さんちょっと馬鹿でね〜
状況 :マジックで、自分の頭を示しながら言うリカ
トシオ:しょうですか
リカ :そうですかだって
状況 :リカ、色紙に住所を書きながら
リカ :ほんとは子ども連れてこんな所来たくなかったんですけどね
    カッコ悪くて。
状況 :チカ、うつむいて
チカ :仕方ないですよね。ご主人蒸発しちゃ
状況 :リカ、手を止めて、チカの顔を見て
リカ :...蒸発ぅ?
状況 :チカ、リカの顔を見て、ゆっくりと視線をそらして
    「失敗した」という感じで
チカ :あれ、まだだったか?
リカ :忘年会兼ねて、旅行に行ってるんです。友人たちと
チカ :...あぁ、友人とね...それだ...
状況 :1人でぶつぶつ言うチカ。リカ、再び住所を書き始める
    チカ泣き出しそうな表情で、ゆっくりとリカの方を向きながら
チカ :それ...帰って..こないかもしれない..なぁ
状況 :リカ、ムッとした口調で
リカ :どういうことよぉ
状況 :チカ、あわてながら
チカ :あ、いや!うん、頑張って下さい。それしか言えません、うん
リカ :いい人なんだか悪い人なんだか...
状況 :トシオ、かぶっていた帽子を取って、チカの背後から忍び寄り
    チカに、帽子をかぶせながら
トシオ:はい
チカ :...あ
状況 :チカ、嬉しそうな表情で、ゆっくり後ろを振り向く
    リカ、荷物を置いて、チカの方に歩いていく
    チカ、ちょっとひざを曲げ、両手をももに乗せ、前屈みになって
チカ :おねえちゃんにくれるの?
リカ :あげないわよ
状況 :有無を言わさず、帽子を取り返すリカ。チカ、寂しそうな表情で振り返る
    リカ、色紙を渡して
リカ :すいませんけどぉ、ここに送って下さぁい
チカ :はい...
リカ :おじゃましましたぁ〜。いこ
状況 :トシオの手を引っ張って、上手へと歩き出すリカ
    チカ、寂しそうに
チカ :バイバイ、トシオちゃん
リカ :どうして名前を!
状況 :反転するリカ。トシオ、リカに振り回される。チカ、あわてて
        あとずさりながら手をブンブン振って
チカ :あ!あ、だいたいの感じでぇ
状況  :カメラマンが構図を決めるように、両手の親指と人差し指で四角い枠を
    作り、のぞきこみながら誤魔化すように言うチカ
チカ  :う〜ん、あ、あ、あたし勘がいいんだなぁ
    ふふ、あは
状況 :ひきつった笑いのチカ
チカ :あぁ〜、あなたには、2才になるひどく可愛い娘さんがいますね
状況 :リカ、驚いた表情で
リカ :すごぉい
状況 :上目遣いでリカをのぞき込むように
チカ :今日は?
状況 :リカ、うっとうしそうに
リカ :今日は、なんかギャアギャアうるさいから叱りつけて置いてきた
チカ :ひどい...
状況 :トシオ、手を叩きながら
トシオ:パンパ〜ン
リカ :してないでしょ!
状況 :トシオの顔を上からのぞき込むようにして言うリカ
    トシオ、目をひんむいて、黙る。チカ、悲しそうに
チカ :...可愛がってあげたほうがいいですよ。いい子なんですから
リカ :はい
状況 :生返事のリカ
リカ :トシオ行こ
状況 :再び、上手へ歩き出す
チカ :あ、トシオちゃん!
状況 :立ち止まり、振り向くリカとトシオ。呼び止めたあとで、あたりを
    見回すチカ。テーブルの上のボトルを見て、取りにいく。ゆっくり
    トシオの方に歩いていくチカ。リカ、不安そうな表情で、かばうように
    トシオを抱く。チカ、ボトルをトシオに差し出し
チカ :はい
トシオ:はい
状況 :トシオ、受け取って、嬉しそうにオーバーオールの懐にしまい込む
チカ :さようなら
リカ :どぉも
状況 :チカ、軽くおじぎをして、トシオの手を引いて上手へと歩き出す
    トシオ、手を叩きながら
トシオ:パンパ〜ン
状況 :トシオの顔をのぞき込み
リカ :なんなのよ!
状況 :2人は、上手へと去ってゆく。チカ、沈んだ表情で舞台中央へ歩いていき
    正面を向いて椅子に座って足を組む

=== ミキの部屋 ===  148min00sec

状況 :舞台後方の幕が開き、左上に、ミキとミキの母が座っている
ミキ :えぇ!?やだぁ!私は東京に残る!
榊原母:そんなこと言わないで。また3人でやりなおしましょ
ミキ :そんなぁ...
榊原母:お父さんとお母さんが仲直りして嬉しくないの?
ミキ :そりゃうれしいけど...
状況 :ミキ、ムッとした口調で、ミキの母をにらみながら
ミキ :半年やそこらでぇ、舌の根も乾かぬうちに
榊原母:やっぱり、あたしがいないとだめなんだって...お父さん、泣いてた
ミキ :そりゃ泣くのは簡単だけどさぁ...また半年して別れんじゃない?
状況 :ミキの母、怒りながら
榊原母:バカッ!30日の飛行機予約したから
ミキ :何でまたそんなあわただしい日にぃ!
榊原母:元旦は、3人で過ごすの
ミキ :やだぁ。来年デビューすんだからぁ!
榊原母:そういうことは高校出てからにしなさい
状況 :立ち上がるミキの母
榊原母:今夜にでも、マユミちゃんやおじさんやおばさんにお世話に
    なりましたってご挨拶しておきなさい、ね
状況 :部屋を出ていくミキの母。ミキ、うつむく
ミキ :......やだ...

=== 先生の噂 ===  149min00sec

状況 :無声映画のバックに流れるような音楽が流れ、舞台右上に
    写真部、柔道部、取り柄のない男が出てくる
柔道部:俺らはただ根岸先生の噂をね
写真部:生徒にずいぶん手をつけてるらしいぞって
取柄無:噂だよ〜
柔道部:子どもをはらませたことも一度や二度じゃないぞって
取柄無:噂だから〜
柔道部:そしたら坂井のやつ、手付けられた口だったんだ〜
状況 :指をならしながら
取柄無:失敗した〜
写真部:怒ったね〜、あいつ〜
取柄無:や〜、怒りました〜
柔道部:「そんな噂、嘘よっ」てね
状況 :右手を左右に振りながら
2人 :言ってない言ってない
写真部:「根岸先生はそんな人じゃないわ」ってね。
状況 :右手の甲で右隣の男につっこむ感じで
2人 :違う違う
取柄無:「根岸先生は私のものー」
状況 :右手を左右に振りながら
2人 :いやいやいや
チカ :あの人の勝手じゃない
状況 :3人で一斉に、舞台中で座っているチカを指さして
3人 :それだ!
状況 :チカを見つめながら、喋り出す。声にはエコーがかかっている
チカ :そんなのあの人の勝手じゃない。教師の風上とか風下とか
    ぺらぺらぺらぺら。あなたたちや私がとやかく言うことじゃないでしょう
3人 :なるほど。もっともです!
状況 :3人、大きく手を振りながら
3人 :さよ〜なら〜!
状況 :そのまま、幕が閉じてゆく

=== 喫茶店 ===  150min00sec

状況 :舞台の照明が灯る。ウェイターがトレイにグラスを乗せて
    歩いてくる。グラスをテーブルに置きながら
店員 :いらっしゃいませ。ご注文は
状況 :チカ、正面を向いたまま
チカ :ナタデココ
店員 :はぁ?
状況 :チカ、ウェイターの顔を見て
チカ :なんて、まだないか。パンナコッタ!
状況 :チカ、バカ笑いしながら
チカ :は、もっとないよぉ!
状況 :無反応のウェイター。チカ、急にさめた表情で
チカ :コーヒー...
状況 :ウェイター、注文を受けて、上手の方へ出てゆく。マユミが下手から
    走ってきて、自動ドアの前で止まる。「うぃーん」と言って
    ドアが開き、店内に駆け込んで、せっぱ詰まった表情で
マユミ:チカちゃぁん!
チカ :あ、おはよう!マユミちゃんぎりぎりセーフ!
状況 :笑顔で、言うチカ。マユミ、椅子に座って、苦しそうな表情で
    息を切らしている
チカ :あれだねぇ、ミキのやつはどうもたるんどるねぇ
    今年最後のミーティングなのにぃ
状況 :マユミ、両腕をテーブルに乗せ、息を切らしながら、苦しそうな表情で
マユミ:ミキちゃん来ない!
チカ :なんで?
マユミ:今日福岡帰っちゃう
チカ :なにぃ!
マユミ:2時の飛行機だって
チカ :あと1時間!
状況 :ウェイターが、トレイに水の入ったグラスを乗せてやってくる
マユミ:すぐ行かないと
チカ :うん
マユミ:クリームソーダ
状況 :苦しそうな表情で、ウェイターに注文するマユミ
チカ :ぼけるね、君は!コーヒーキャンセル!行こう!
状況 :立ち上がるって駆け出す2人。ドアの前で並んで止まる
    「うぃーん」と言ってドアが開き、店外へ駆け出し
    下手へ走って出てゆく。ウェイター、首をかしげながら、テーブルの
    グラスをかたづける。ウェイトレスが出てきて、椅子やテーブルを
    かたづけ始める。照明が暗くなり、舞台後ろの幕が開く

=== 飛行機機内・1 ===  150min50sec

状況 :舞台左上に、飛行機のシート。左から、サラリーマン、ミキ、ミキの母が
    並んで座っている。シートの左にスチュワーデス
スチュ:みなさま、シートベルトを御着用下さい
榊原母:ほんとによかったの?マユミちゃんやチカちゃんに何も言わなくて
ミキ :だって...言ったら決心揺らいで出発できなくなる
状況 :下手の方へ去ってゆくスチュワーデス

=== 羽田へ・1 ===  151min10sec

状況 :舞台上手から、駆け足をしながら、チカとマユミが入ってくる
    駆け足をしながら、少しずつ前に進む。チカの後ろにマユミ
    お互い、前を向いて走りながら
チカ :ミキのやつみずくさぁい!
    同じ家に済んでてどうして言ってくれなかったのぉ!?
マユミ:なんか気恥ずかしいから私たちには黙っててほしいって頼まれたって
	  おとうさまが
チカ :そぉんな。だったら最後まで黙ってろよ、おとうさまも
    これで間に合わなかったら何か私たちバカ!
状況 :舞台下手へと出てゆく

=== 留守番電話 ===  151min30sec

状況 :舞台右上にリカ。チカの部屋で本棚から本を取り出したり戻したり
    している
トシオ:かあさぁん!
リカ :ん〜?
トシオ:またチカの部屋いじくってるんですかぁ?
リカ :ん〜?そうそう
トシオ:そうそうってやめといた方がいいですよ。娘といえどもプライバシー
    はプライバシーなんですから
リカ :...だって趣味だも〜ん
状況 :チカの電話が鳴り、電話の方を見るリカ
    チカの留守電メッセージが流れ出す
留守電:はい、ただいまちょっと外出してます。戻り次第
リカ :どこがちょっとよ
留守電:折り返し電話しますので、発信音のあと、メッセージをどうぞ
    それからファックスの方もよろしくねぇ
状況 :発信音が鳴り、電話から根岸の声
根岸 :あ、根岸です。元気だったかい?
女の声:早く
根岸 :ずっと学校休んでいるんでぇ
    (なんだよぉ、うるせぇなぁ)あ、もしもしごめん
    あのね、俺結婚するんだ。俺たち。
    あの、俺たちって、俺と岡崎。岡崎サヨコ
状況 :舞台上手から、サヨコに押し出されるようにして、つんのめりながら
    根岸が入ってくる。サヨコがバナナのようなものを頬ばりながら
    根岸に続いて、入ってくる。根岸、後ろのサヨコを気にしながら
    小声で
根岸 :でも、ま結婚は結婚だから。たまに会うから、なぁ
状況 :リカ、受話器を取り
リカ :もしもし
根岸 :あっ!
状況 :焦る根岸
リカ :切らないで
状況 :リカ、イヤミっぽい口調で
リカ :どーもぉ、いつもうちのチカがお世話になっておりました
    あと、御結婚おめでとうございますぅ
状況 :根岸、顔をひきつらせながら
根岸 :あ...ども、お母様ですか。
リカ :はい。のっぴきならない理由がそこにいるんですか?
根岸 :...はい?
状況 :スクリーンがおりてきて、燃えたハズの根岸のファックスが
    映し出される
リカ :「のっぴきならない理由で退職することになった。
     いろいろな絡みでもうあまり会えないかもしれない。
     でも、会えたら会う。」なんだそりゃ?
状況 :スクリーンが上がる。根岸、驚いた表情で
根岸 :すっごい記憶力
状況 :根岸、焦って、言い訳するように
根岸 :あ、でも、あれ、酔っ払ってる時に書いたんで、あの
    なんだこりゃって感じで...
リカ :あの子はちょっと単純ですけどね、私に似て。でもナイーブなところは
    すっごくナイーブなんですよ、まずいことに
状況 :根岸、うなだれて
根岸 :はい...
リカ :不倫でも何でも結構ですけれど
根岸 :あ、いえ
リカ :あなたがどんなにアンポンタンか、だいたい想像つきますけど
根岸 :アンポン...
状況 :リカ、急に厳しい口調で
リカ :愛するならきちんと愛してやって下さい
    こんなこと、あの子が聞いたら真っ赤になって怒るわ
    余計なこと言うなって。でも、これだけは言っておきます
    あの子をバカにしたら、ぶっとばーす!
状況 :リカ、叩くように通話ボタンを押して電話を切る。根岸しばらく
    うなだれたまま
根岸 :......はい
状況 :根岸、サヨコと一緒に上手の方へ出ていく

=== 飛行機機内・2 ===  153min40sec

状況 :この間、ずっと座ってうつむいているミキ
榊原母:福岡ついたら3人でお寿司でも食べましょうね
スチュ:只今機内は禁煙となっております。禁煙サインが
    消えるまでおタバコは御遠慮下さい
状況 :シートベルトに手をやり、「カシャ」と外して、立ち上がって
ミキ :降りる!
榊原母:え?
ミキ :前、すいません
状況 :サラリーマンの前を強引に通るミキ
榊原母:ちょっとミキ
ミキ :心配しないで。すぐ帰るから
榊原母:ミキ!
ミキ :降りま〜す!
状況 :機外へ駆け出すミキ
榊原母:ミキ!ミキ!
状況 :ミキの母、シートベルトを外そうともがくが外れない
スチュ:お客様、間もなく離陸いたしますので
榊原母:だってミキが!
状況 :スチュワーデスの顔を見て、ミキが出ていった方を指さしてあせったように
    言うミキの母
スチュ:ミキは
状況 :笑顔で首を左右に振りながら言うスチュワーデス
榊原母:ミキ〜!

=== 羽田へ・2 ===  154min10sec

状況 :太川が舞台下手から、下手の方に向かって走りながら、上手の方に
    進んでくる。舞台上手からは、チカとマユミが下手の方に走りながら
    入ってくる。ある程度の所で、3人とも、その場で駆け足
太川 :榊原さ〜ん!
マユミ:太川君!
状況 :太川走りながら、後ろを振り返り
太川 :あ
チカ :なんでいるのぉ?
太川 :榊原さんが、今朝うちに突然やってきて
状況 :3人とも、駆け足をやめて、太川の回想シーン。舞台下手から
    両手にレコードを沢山抱えている感じのミキが入ってくる
ミキ :太川君、借りてたレコード返す
太川 :どうして急に?
状況 :ミキが軽々と持っていたレコードを受け取り、腰が砕ける太川
ミキ :ちょっとね。じゃあ、よいお年を
状況 :太川に背を向け、舞台下手に去ってゆくミキ
太川 :え、ちょっと、榊原さん!榊原さん!
状況 :太川、追いかけようとして、無意識にレコードを放り投げる
    そのレコードを見て
太川 :あっ!
状況 :回想シーン終了。再び駆け足を始める3人
太川 :そこで、見城のうちに電話したら
状況 :再び3人とも、駆け足をやめて、太川の回想シーン。舞台下手から
    何かを食べながら、受話器を持ったマユミの父が入ってくる
見城父:福岡帰ったよ
太川 :え!
見城父:今、俺羽田まで行って戻ってきたんだもん。まだ間に合うかもよ
    飯食うって言ってたから。はいはい、はい
状況 :なにかをかじって、口をもぐもぐさせながら、舞台下手へと去っていく
太川 :そんなー!
状況 :太川、足を踏みならして怒鳴る。回想シーン終了。再び駆け足を始める3人
    マユミ、チカを追い越して、太川のすぐ後ろまで移動
太川 :榊原さんが福岡行くなら僕も福岡行くぅ!!!
チカ :え!?バンドはどうするのよぉ?
太川 :悪いけどやめる。もともとメンバーになるなんて約束してなかったし
    成り行きでギター弾かされてるだけだぁ!!!
状況 :再び3人とも、駆け足をやめて、太川の回想シーン。舞台下手から
    コンサートの衣装の根岸が歩いてくる
根岸 :この下手くそ!
状況 :根岸、太川を殴りながら怒鳴る
根岸 :俺が間違えたらすかさず俺に合わせろって言っただろ!
状況 :怒鳴りながら、また、太川を殴る根岸
根岸 :客にばれたらどうすんだ、バカ!
状況 :太川、うつむいて
太川 :もうばれてると思うな
状況 :根岸、目をひんむいて
根岸 :なにぃ?
状況 :上原、舞台下手の袖から顔だけ出して
上原 :太川...
状況 :根岸、上原の方をにらむ。あわてて顔を引っ込める上原
太川 :観客はそれを面白がって見に来てるんじゃないかな
    なんだかよくわからないあてぶりの口パク男
根岸 :ばれてっこねえよ、バカ
状況 :太川、後ろのマユミを振り返って
太川 :どう?
マユミ:もうばればれ
状況 :笑顔で言うマユミ。根岸、焦りながら
根岸 :いつからいた!
太川 :いいじゃないですか。人気はあるんですから。もっとも、印税は全部
    根岸さんの懐ですけど
根岸 :貴様ぁ
状況 :根岸、太川の胸ぐらをつかみ、殴ろうとする
太川 :次は間違えないように気をつけます
マユミ:あ、そうだケン坊、パンツ返してくれない?
根岸 :え?
状況 :根岸、きょとんとする
マユミ:パンツ。ほら半年前くらいに物干しから持ってったやつ
根岸 :なんのことだ?
マユミ:パンツのこと。あたし窓から手ぇ振ったのに、ケン坊、なんか
    ピョンピョン跳ねて行っちゃうんだもん
状況 :マユミ、余らせた服の袖をつかんで、おちゃめにピョンピョン跳びながら
マユミ:ピョーンピョーンピョーンって
状況 :根岸、焦りながら
根岸 :おれじゃねーよ、それ!
状況 :マユミ。ちょっとふくれながら
マユミ:ケン坊だよぉ。あれおばあさまのお気に入りだったんだからぁ
状況 :目を丸くして、青ざめた表情になる根岸。しばらくそのまま固まる
根岸 :......うっ
状況 :急に、両方の頬を膨らませ、口を手で押さえて下手へと走り去る
    じっと、見ていた太川、ぼそっと
太川 :かぶったな、あれは
状況 :回想シーン終了。再び駆け足を始める3人
    マユミ、駆け足しながら、チカの方に戻っていく
太川 :というわけで、榊原さんと僕は、心も1つ体は2つ
    マキシマムジョイなカップル!
チカ :あ、ちょっと待って!
状況 :足を止める3人。ゆっくりと、後ろを振り返るチカ
園児達:ト〜シ〜オ♪ ト〜シオがうんこを抱いたまま♪
トシオ:はい!
状況 :幼稚園児が4人がトシオを囲んで、歌いながら上手から入ってくる
    女の子2人、男の子2人(C,D)。トシオは、ピョンピョン跳ねながら
    歩いている
園児達:ト〜シ〜オ♪ トシオ〜がうんこする〜♪
トシオ:はいはいはい!パンパ〜ン!
状況 :手を叩きながら言うトシオ
園児C:...喜んでんじゃねぇか、こいつ
園児D:いじめがいないなぁ
状況 :園児C、トシオの頭を押さえて、下に、放り投げるような感じで突き放す
    複雑な表情で、黙ってみていたチカ、ゆっくりと園児達の方に歩いていく
    マユミ、左手首の手のひら側にある腕時計を見ながら、焦った口調で
マユミ:チカちゃん急がないと
状況 :チカ、園児Cの顔をにらみつけ、平手打ち
太川 :坂井さん!
状況 :驚く太川とマユミ。一瞬の沈黙のあと園児Cが泣き出す
    そのあと、他の園児も一斉に泣き出す。チカ、右手を振り上げる
    園児達は、泣きながら上手に逃げてゆく
チカ :もぉ〜!おにいちゃんいじめたらあたしが許さないからねぇ!!!!!
状況 :回りの状況には無関心な様子のトシオ。突然、なにかにつまずき
トシオ:わぁ〜
状況 :転ぶトシオ。
チカ :あぶな〜い!
状況 :チカ、倒れるトシオを抱き止め、トシオは、上手に置いてある石で
    頭をうつのをまぬがれる。トシオは両足を伸ばして地面に座って
    きょとんとした表情で、自分の両手を見ている。
チカ :危なぁい。もう、頭打つとこだったよぉ!おにいちゃぁん!
状況 :チカ、半泣き状態で、トシオのズボンの汚れを払っていたが
    突如、思い出したように、手を止めて
チカ :あ......
状況 :トシオの顔を見て、石の方を見る。表情が青ざめるチカ
チカ :あぁあ!......
状況 :決心したように、石のそばにしゃがみ込んで、両手で石をゆっくりと
    持ち上げる。声を漏らしながら立ち上がるチカ
    会場に背を向けているが、すごい形相であろう
    石を抱えて、ゆっくりと立ち上がり、体を反転させて、トシオの
    頭を石で殴る
トシオ	あぁ〜!!!!!
状況 :マユミ、顔を両手で覆いながら
マユミ:キャー!
太川 :ちょっと!坂井さん!
トシオ:あぁ〜!痛い!痛い!
状況 :チカ、石を頭上に振り上げ、これでもかというくらい、何度も何度も
    帽子の上に両手を乗せて、頭をかばっているトシオの頭を殴りつける
太川 :やめろ!やめろよ!坂井さん!
状況 :突如、帽子を頭から取って立ち上がるトシオ。チカをにらみながら
トシオ:痛いなぁ、何するんですか、としはも行かない幼児にむかって!
状況 :チカ、石を振りかぶったまま聞いている
トシオ:これは幼児虐待ですよ、刑法第204条の傷害罪に該当します
状況 :トシオ後頭部を押さえながら冷静に
トシオ:あぁ、たんこぶもできてますねぇ
状況 :チカ、石を下に置き、ほっとしたような表情で
チカ :よし
状況 :チカ、満足そうな笑顔を浮かべて
チカ :おにいちゃん、また
トシオ:ちょっと待ちなさい
チカ :行こう
状況 :舞台下手へ走り去るチカ。トシオ、走り去るチカにむかって
トシオ:ちょっと、女子高生!
状況 :トシオ、マユミと太川に
トシオ:君たち友人だね?
状況 :マユミ、顔をしかめながら、太川に
マユミ:行こう!
トシオ:どこの学校ですか?
状況 :下手へ走ってゆくマユミと太川
トシオ:いや、ちょっと、君たち
状況 :右手を前に出し、おいでおいでをしながら
トシオ:待ちなさい、待ちなさい、君たち〜!
状況 :マユミ達を追いかけるが、引き離されてゆくトシオ
    というのを表現しながら舞台上手へと引っ張られるように消えてゆく