=== 翌朝 ===  61min00sec

状況 :舞台下手から、白いブラウスにスカート、三つ編みで、でこ全開の
    マユミが出てくる。手には黒い通学鞄。銀のステッカーが貼ってある
マユミ:おはようございます
状況 :一心不乱にバイオリンを弾くミキの母。マユミ、近づきながら
マユミ:おばさま
状況 :一心不乱にバイオリンを弾くミキの母。マユミ、近づきながら
マユミ:おばさま
状況 :一心不乱にバイオリンを弾くミキの母。マユミ、近づいて、耳元で
マユミ:おばさま!
状況 :やっとマユミに気付き、手を止めるミキの母
マユミ:おはようございます
榊原母:おはよう
マユミ:朝からバイオリンですかぁ
榊原母:メシのタネだからね。いちお毎朝。ごめんなさい、うるさかった?
マユミ:いいえ
状況 :首を横に振るマユミ
榊原母:そう。マユミちゃん意外と鞄ぺちゃんこなんだね
状況 :マユミの鞄を見ながら
榊原母:あ、松山千春
状況 :鞄に貼ってある「松山千春」のステッカーを見つけるミキの母
マユミ:ミキちゃんは?
榊原母:一緒だったんでしょ?
マユミ:ええ、朝食は
榊原母:そのあとは
マユミ:さあ
状況 :首を傾げるマユミ。ミキの母、あたりを見回しながら
榊原母:変ねぇ、あたしずっとここで狂ったようにバイオリン弾いてたから
状況 :マユミ、左手にはめた腕時計(文字盤は手のひらの方)を見て
マユミ:もうそろそろ行かないと、遅刻しちゃうんですけど
榊原母:トイレじゃない?
マユミ:いえ、8カ所とも見たんですけど
榊原母:変ねぇ
状況 :あたりをキョロキョロと見るミキの母。マユミ、ミキの母を
    頭から爪先までまじまじと見る。無邪気な笑顔で
マユミ:おばさま?
榊原母:ん?
マユミ:キーボードは弾かないんですか?
状況 :ミキの母、きょとんとして
榊原母:あたしが?...キーボード?...どうして?
マユミ:いえ。それじゃあ先に行かせていただきます
状況 :回れ右をして、舞台下手に走って行くマユミ。けげんそうな表情で
榊原母:なによ......どこ行っちゃったのかしら!
状況 :舞台上手に歩いていくミキの母

状況 :舞台下手からリカ、上手からトシオが歩いてくる。2人とも
    紺地に白い縦ストライプのパジャマの上下に首から赤いタオル
    右手に歯ブラシ、左手にカップを持っている。舞台中央で
    歯を磨き始める。歯ブラシを口に入れて歯を磨きながら
トシオ:おはようございます
リカ :おはよう
トシオ:一睡もしてませんね
リカ :あなたもでしょ
トシオ:考えたんですけど
状況 :トシオ、歯ブラシを口から出して
トシオ:一般家庭にタイムマシンが普及したのは、1982年の事です
    非常に高価なモノでしたけど、チカならなんとか手に入れるでしょう
状況 :リカ、歯ブラシを口に入れたまま
リカ :何それ、待てってこと?
状況 :トシオ、再び歯を磨き始める
トシオ:それが最前の策です
リカ :やだ。秋葉原で新しいの買ってくる
状況 :駄々をこねるリカ
トシオ:誰かが行ったって帰ってこれなくなるだけなんですよ
リカ :や〜だ!
トシオ:かあさん、子供じゃないんだから
リカ :やだ!秋葉原で新しいの買ってくるぅ!
状況 :リカ、駄々をこね、トシオの頭上で、見せつけるように腕を動かして
    シャカシャカと歯を磨く。しばらく黙っているトシオ。突然、リカの
    腕をつかみ
トシオ:僕だって辛いんです!
リカ :だって...
状況 :しゅんとするリカ
リカ :やじゃん!
トシオ:僕だって、やですよ。だけど、チカを信じるしかないでしょう
状況 :リカ、寂しそうにコクリとうなずく。ちょっと怒りながら
リカ :あの子、79年なんかに何しに行ったのよ
トシオ:わかりません。わかりませんけどヒット曲に関係あることは
    まず間違いないでしょう
リカ :ヒット曲?
状況 :2人とも歯ブラシを口から出し、カップの水を口に含み、上を向いて
    うがいをし、吐き出す
トシオ:50万枚以上のヒット曲です
状況 :再び、2人とも正面を向いて歯を磨き出す。シャカシャカという音が響く
    「ハイスクールララバイ」のアレンジバージョンが流れ始め、照明が落ちる
    2人は出てきた方向にはけていく

=== 渋谷、ハチ公前 ===  63min40sec

状況:音楽がフェードアウトし、照明が明るくなる。人混みのざわめきが聞こえる
   渋谷、ハチ公前。待ち合わせの人たちが椅子に座っている
   チカ、舞台上手から駆け込んでくる
チカ:何で109がないのぉ?ハチ公はあるのに
   まいったぁ
状況:チカ、途方に暮れた表情で椅子に座る。隣の椅子にはアロハシャツの男
   チカ、突然立ち上がって
チカ:交番!...怪しまれるかぁ...
状況:チカ、再び座る。隣の男がチカを見ている。チカ、ゆっくりと、その男の方に
   向きを変えていく。目が合いそうになったところで、男は顔をそらす
   チカ、決心した様子で男に話しかける
チカ:あの、すいません
状況:男、待ってましたとばかりに
男 :何?かわいいねぇ
チカ:どうも。変なことお聞きしますけど、変に思わないでいただけます?
男 :わかった。いくつ?
チカ:17です。あの
男 :高校生?
チカ:はい。あの
男 :あれ、学校は?
状況:チカ、キレて、こぶしを握り立ち上がって、怒鳴る
チカ:こっちが聞いてんですよぉ!!!!!
男 :...そうだった
状況:それまでニヤニヤしてたが、ひきつった表情でちょっとうつむく男
   上から睨み付けながら
チカ:変なこと聞きますよ!!!
男 :ok...
チカ:次の3つの中から、今はまだないモノを選べ!!
男 :変なこと聞くねぇ
チカ:いいから!!
状況:上から睨み付けながらすごむチカ
チカ:1...タイムマシーン。2...
男 :1じゃないかな?...
状況:ひきつったまま応える男。チカ、途方に暮れた表情で、椅子に座り込んで
チカ:まだないか。タイムマシーン...
男 :ん。これからもないんじゃないかな
チカ:...バカだった
状況:男、立ち上がり、舞台上手へ立ち去ろうとしながら、
男 :うん。それじゃ
チカ:帰れないや...どうしよう
状況:男、立ち止まり、振り返ってのーてんきな声で、
男 :送っていこうか?...おれんち来る?ホテルもいっぱいあるし。
状況:チカ、けだるそうに男の方を向き
チカ:詳しいんですか、渋谷
男 :う、うーん。いちおホームグラウンド?ははは。
状況:チカ、見下したような表情で、
チカ:それで、本当の渋谷を知ってると思ったら大間違いですよ!
男 :なに?どういうこと?
状況:舞台上手からぴあを読みながらミキが歩いてくる。
チカ:109もない、プライムもない。パルコはパート2まで
   HMVもシネタワーもクアトロもない。新玉川線すら走ってない!
   こんな、まるで奥尻島のような渋谷を、渋谷だと思い込んでやがて
   死んでいくのねぇ。かわいそう
状況:バカにするように吐き捨てるチカ
男 :君、高校生だったらちゃんと学校行きなさい。
状況:男はうろたえながら、舞台上手へ去っていく
   ミキは男が座っていた椅子に座ってチカの顔をのぞき込みながら、
ミキ:あなたも、バックレたの?学校。
状況:チカ、うっとうしそうな顔で
チカ:まあね
ミキ:あたしも。なにあれ?ナンパ?
状況:チカ、うつむいたままはき捨てるように、
チカ:かっぺ。109もプライムも知らないかっぺ。
状況:ミキ、足を組みながら、田舎モノだと悟られないように後ろにぴあを隠す
   ひきつった表情。ちょっとうわずった声で
ミキ:へ〜。109もプライムもぉ。信じらんないねぇ。
状況:チカ、驚いたようにミキの方を見る
チカ:あなた知ってるの?プライム!
ミキ:もちろん、プライムでしょう?
チカ:109も!?
ミキ:え、109よく行く
チカ:本当に!?
状況:座ったまま、チカの方に向きを変えるミキ
ミキ:文化屋とか、原宿プラザもよく行くし
チカ:それは知らないけど、じゃあ、あなたもあっちから!?
ミキ:...あっち?...
状況:見つめあうチカとミキ。ミキ、チカの顔を指さしながら
ミキ:それじゃあ、あなたも来たばっか?
チカ:うん!!
2人:なあんだぁ!!!
状況:肩をたたきあって、笑い合う2人。
ミキ:じゃあ気取ってもしょうがないやぁ
チカ:うん。
ミキ:あのさぁ、屋根裏ってどこ?
状況:チカ、きょとんとして、
チカ:はい?
ミキ:屋根裏!
状況:ちょっと考えて、
チカ:屋根裏は...
状況:手で、家と屋根の形を目の前に書きながら、
チカ:家があって、こう屋根があると、ここらへんじゃない?
状況:屋根裏の部分を丸く示すチカ。ミキ、立ち上がってむっとした表情で
ミキ:バカにしてんの?
チカ:何がさぁ?
状況:立ち上がるチカ
チカ:ねぇ、どっからきたの?あたし、15年後。
ミキ:何ぃ?
状況:怒った表情で応えるミキ
チカ:15年後から来たの。
状況:ミキ、あきれたように
ミキ:あ、そう。へぇ〜、そーですかぁ〜
チカ:でもあんまり言わない方がいいよ。パーだと思われるから。今思われたもん
   それにしても失敗したよねぇ。どこさがしても売ってないはずだよ
   できてないんだも〜ん。あたし、109必死に探して損しちゃったぁ
   タイムマシーンがあっちに残っちゃうって知ってればねぇ、来なかったのに
   いや、でも来たかな?来たかも。うん、来たかもしんない、わかんない!
ミキ:何言ってるのあんた?
チカ:いやいや、しゃべりすぎ?あたし?なんか途方に暮れてたら同じ境遇の
   人がいてくれて、突然心強くなっちゃった。あはは、
状況:チカ、ミキの両手をつかむ。ミキは迷惑そうにふりほどく。
   チカ、笑いながら
チカ:ごめんねなれなれしい?でもたとえば、山で遭難してね
状況:チカ正面を向いて、両手を末広がりに広げながらしゃべり出す
   そのすきに立ち去ろうとするミキ
チカ:だーれもいない、って待ってよ!...うるさいか?あたし
状況:チカ、ミキにかけりながら、
チカ:ごめんね、ごめんね。坂井チカ。よろしく
状況:ミキはチカに背中を向けたまま
チカ:あなたの名前は?いつの時代から来たの?
状況:ミキ、ちょっと考えて、振り向く。チカの顔をのぞき込んで
ミキ:絶対誰にも言わない?
チカ:え、言わない言わない
ミキ:実はね、
チカ:うん
ミキ:あたし、ジンバンバ星からやって来た、ジンバンバ星人なの
   ピンキキ星人に故郷の星を破壊されてね、地球に逃げてきたってわけ
   それじゃあ、あたし、頭にガソリン入れなきゃならないから
状況:ミキ、「じゃあ」という感じで右手をチカの顔の前に広げて立ち去ろうとする
   チカ、怒りながら、
チカ:ちょぉっと待ちなさいよぉ!あんた、人バカにしてんのぉ!?
ミキ:それは、あんたの方でしょう!?
チカ:なにがぁ、あんたじゃなぁい!!
ミキ:あんたでしょう!!
チカ:あんたよぉ!!
ミキ:あんたよぉ!!
状況:舞台下手の方から、男の声
男 :あんた達!!高校生だろう?
ミキ:あ、いえ
状況:チカ、180度向きを変え、2人とも上手の方へ立ち去ろうとする
男 :あ、待ちなさい。
状況:2人とも立ち止まる
男 :来なさい。....来なさい!!
状況:仕方なく、振り向き、うつむいて声のする方に歩いていく2人

=== マユミの教室 ===  70min10sec

状況 :2人が舞台下手に去った後、舞台両袖から椅子を持って
    生徒たちが登場。田中、頭に包帯。右目の回りに大きなあざ。
男生徒:それで、バンドを抜けられたはいいけど、結局ボコボコだってよ。
田中 :ほっといてくれよ。
状況 :男生徒、立ち上がり、田中の方に歩いていく
男生徒:ほっとくよ。ほっとくけどな。いいのか、ほっといて。
    まあ、ほっとくしかないけど
状況 :ひとりでしゃべり続ける男生徒。席の方に戻りながら
    普通やるか?ギターもほとんど弾けねーのに。ほとんどじゃねーか
    全然か。全然弾けねーのに、バンドやってさ。リーダーだろ?
    リーダーだってさ。威張り放題で、抜けるって言ったら、ボコボコだぜ
上原 :ひでーな
状況 :席に座る男生徒
男生徒:ひでーよ。ドラムやってた、山田なんかさ、B組の。かわいがってた
    ねずみ、オーブンで、オーブンじゃねーや、トースター...レンジか
    レンジで大虐殺だって。大虐殺って言わねーか。大殺戮
    いーや、なんでも。で、それだけならまだしも
状況 :再び立ち上がり、田中の方に歩いていき
    な。田中殴った奴、パンティー泥棒なんだよな!な!な!
田中 :いいよ
女生徒:え〜
男生徒:見たんだって、こいつ。ジョギングかなんかして
女生徒:どこでぇ?
男生徒:言わねーんだよこいつ
状況 :男生徒、田中にヘッドパット。マユミ、教室の後ろのドアから駆け込む
    マユミ、息をはずませながら
マユミ:おはよう!間にあった!
上原 :転校生は?
マユミ:えぇ?
上原 :あれ?一緒じゃないの?
女生徒:普通は職員室でしょ?まず
マユミ:なんか、どっかに行ってしまったのだ!
状況 :「ヨッコラショ」という感じで鞄から教科書を取り出しながら
    明るい声で応えるマユミ
上原 :え?
マユミ:田中君、おはよ
状況 :前を向いたまま無言の田中
マユミ:おはよ!
状況 :田中、前を向いたままで
田中 :まあな。
男生徒:なんだよ、まあなって。見城
マユミ:ん?
男生徒:お前聞かないの?
マユミ:何が?
男生徒:包帯。どうしたのって?
状況 :マユミ、立ち上がって、前の席の田中の頭を見ながら
マユミ:あぁ、これ包帯かぁ。帽子かと思った、バッカみたい
状況 :笑いながら座るマユミ
男生徒:だれがだよぉ
状況 :再び立ち上がり
マユミ:ねぇ、手術したの?
状況 :マユミ、田中の包帯の所で、なにか機械を操作するまねをしながら
マユミ:カチッ。ウィーン
田中 :やめろよ
状況 :いやがる田中。それでも、楽しそうに
マユミ:ガガガガガガガガ
状況 :教室の前のドアから、中谷先生がガラガラとドアを開けて入ってくる
中谷 :おい、見城。手術中すまんが、転校生どうした?
状況 :マユミ、ふてくされた表情で、席に座って
マユミ:だから、どっかに行ってしまいました!
中谷 :だからって何だ?
状況 :田中を見て、嬉しそうに笑いながら
中谷 :お、田中、ひどい目にあったんだってぇ
状況 :田中の頭をぐしゃぐしゃにする中谷
中谷 :それから、上原
状況 :なにごとかと、中谷を見る上原
中谷 :おはよう!
    それじゃあ、先生、転校生探してくるから。自習!!
状況 :教室を出ていこうとする中谷に
上原 :先生!
中谷 :なんだ?上原
上原 :いつも思ってたんですがぁ、先生は、どうしていつも俺にしか
    おはようって言わないんですか?
中谷 :馬鹿野郎!
状況 :照れたようにそう言って、中谷先生は、教室を出ていく
    上原は、口を開けてぽかーんとした表情。
上原 :どっちがだよ。
状況 :上原、突然立ち上がり、ニヤニヤしながらマユミの所へ行き、肩をポンと
    叩きながら
上原 :なぁ、見城
マユミ:ん?
上原 :転校生さ
男生徒:お前、やけにこだわるねぇ
上原 :だって、バイオリニストの娘だぜぇ
男生徒:だから?
上原 :きれいにきまってんじゃん。なぁ
状況 :マユミに同意を求める上原
マユミ:娘が?バイオリニストが?ちなみにバイオリニストは
状況 :マユミ、上原の耳元でなにかささやく。上原、ショックを受けて
上原 :ガーン!ダーラ、ガンダーラ they say it was in India...
状況 :マユミ一緒にガンダーラを歌い始める。上原、ショックを受けた様子で
    フラフラと歩いて自分の席に戻る。楽しそうに立ち上がる男生徒
男生徒:お、なんだ!?上原に、キャンディーズ解散以来の
状況 :ためる、男生徒。教室中をピョンピョン飛び回りながら、
男生徒:ショック〜〜!!!!!
状況 :ヘッドバンキングしながら叫ぶ男生徒。疲れた様子で席に座る
上原 :そっか〜、ミッキーかぁ
状況 :かみしめるようにつぶやく上原。教室の一番後ろにいる太川がぽつりと
太川 :くだらない。でも楽しそうだ...
    キャンディーズ、ガンダーラ、パンティー泥棒、ミッキー吉野
    低俗すぎる。でも楽しそうだぁ...

=== 続・渋谷、ハチ公前 ===  73min30sec

状況:教室の生徒たちは、そのままステージ上に残ったまま。
   舞台上手からチカとミキの口論の声
   舞台下手の方から、根岸が歩いてくる
チカ:ちょぉっと待ちなさいよぉ!あんた、人バカにしてんのぉ!?
ミキ:それは、あんたの方でしょう!?
チカ:なにがぁ、あんたじゃなぁい!!
ミキ:あんたでしょう!!
チカ:あんたよぉ!!
ミキ:あんたよぉ!!
根岸:あんた達!!高校生だろう?
ミキ:あ、いえ。
根岸:あ、待ちなさい。
状況:根岸、皮ジャンの懐に手を入れて、その手を出してすぐ、また懐に戻し
   警察手帳を見せるまねをする
根岸:来なさい....来なさい!!
状況:おいでおいでをしながら、2人を呼ぶ根岸
   舞台上手から2人が歩いてくる。根岸、ミキ、チカの順に舞台の上手に並ぶ
根岸:ん、ん!じゃあ、ちょっと回ってみて。グルリと。
状況:けげんそうな顔で根岸を見る2人。
根岸:早く!!
状況:ももを両手でたたいて、せかす根岸。仕方なくグルリと回る2人
根岸:違う!!もっと、こう、感じを出して。
状況:見本を見せる根岸。だるそうに回ってみせる。
根岸:こんな風に。早く!!
状況:ももを両手でたたいて、せかす根岸
   仕方なく、なげやりな態度ながらも言うとおりにする2人
根岸:はい。それじゃぁ、スリーサイズ
ミキ:はい?
根岸:スリーサイズ!!!
状況:ももを両手でたたいて、せかす根岸。めんどくさそうに
ミキ:100、100、100
状況:息をのんで大げさに驚く根岸
根岸:電信柱か、君は!
状況:根岸、突然バカ笑いをはじめる。笑いながら
根岸:いつ気付くかと思ってさぁ。これ、あまり気付かないもんだねぇ
   こんなかっこした警官、普通いないでしょう。ね、お茶のみ行かない?
状況:むっとした表情で、チカの腕をつかんで、上手に去ろうとする
ミキ:行こう!
チカ:ちょっと待って
ミキ:どうしたの?
状況:根岸の顔を見つめながら、ゆっくり歩み寄るチカ
チカ:根岸......ケンタロウさん?
状況:きょとんとした表情で
根岸:うん....あれ、そうだけど...
ミキ:知り合い?
根岸:あれ?君誰だっけ?

 > 雨音はショパンの調べ <

状況 :チカ、根岸に抱きついて、泣き崩れる
    「雨音はショパンの調べ」のイントロが流れる
    舞台右上では、望遠鏡でミキを探している中谷先生
    チカ、根岸に抱きついたままナレーションが流れる
チカ :来たばっかりだっていうのに、なんだかとっても長い旅の後みたいな気分
    あえてよかった。ケンタロウさん、今のあなたはまだ私のこと
    知らないだろうけど、私はあなたのためにやってきたのよ
    あなたを、チャゲアスにするために
状況 :ミキ、正面を向き、遠くを見つめる表情で静止したまま
    ナレーションが流れる
ミキ :福岡のみんなぁ、東京は厳しくてつらいよぉ
    ちっともナウじゃないよぉ。みんなにあいたいよぉ...
状況 :突然、鞄からマイクを取り出し、立ち上がって歌い始めるマユミ
    他の生徒は、驚きの表情

 レイニィデイ たちきれず 窓を叩かないで
 レイニィデイ 気休めは 麻薬 ah

状況 :舞台右上に中谷先生が出てくる。望遠鏡でミキを探している
    舞台左上に香山今日子が出てくる。傘をさしている
    太川にスポットライト。正面を向く。太川のナレーション
太川 :人間はどうして、どうせ死ぬのに生まれてくるのだろう?
    生きることなんかに意味なんかあるのだろうか?
    20世紀の終わり、この小さな星で
    僕はもはや絶望することすらできない
    こんなくだらない奴等に囲まれて、ただ死ぬために生きてるって事だ
状況 :マユミにスポットライト。正面を向く。足を組み、顎に手を当てて
    マユミのナレーション
マユミ:鼻の手術って
    うわくちびるをべろ〜んってめくるのよね。
    でも、手術の途中で地震がおきて、みんな逃げちゃったら、
    べろ〜んってしたままかな?
状況 :中谷先生が舞台上手から出てくる
    マユミ、メインパート。ミキ、チカは低音パートを歌い出す
    驚きの表情の、根岸と中谷
    
 レイニィデイ 特別の人で なくなるまで
 レイニィデイ 暗号のピアノ ah

 レイニィデイ 特別の人は 胸に生きて
 レイニィデイ 合い鍵を回す ショパン

状況 :舞台左上に山田がハムスターの写真を抱いて登場。右腕に黒い腕章
    山田に傘をさしてあげている香山今日子
    舞台右上にパジャマ姿のリカとトシオ。タオルを首にかけ歯を磨いている
    音楽が終わり、出ていく山田、香山、坂井親子
    根岸、チカの肩を抱いて舞台上手へ。中谷とミキはそのまま
    マユミ、マイクを鞄にしまう

=== 第1問 ===  77min50sec

状況 :中谷とミキが教室の黒板の前に立っている
中谷 :というわけで、学校へ来たくなかったんで、
    渋谷をウロウロしてたそ〜です。
    転校生の、榊原ミ〜キ
状況 :腰に両手を当て、体をふらふらさせながらふざけるような感じで
    力強くミキを紹介する中谷
男生徒:かわいーじゃん
上原 :あぁ、かわいい
状況 :突然、3歩ほど前に出て、ちょっとムッとした感じで
中谷 :上原!
状況 :ぽかんとした表情の上原
中谷 :はい、自己紹介して
マユミ:イェーイ
状況 :ミキにピースをするマユミ
中谷 :はい、イェーイ
状況 :なぜか、ピースを返す中谷
ミキ :榊原ミキ、17歳。趣味は音楽と買い物。あと、ビックリハウスに
    投稿すること
太川 :え?
状況 :驚いて顔を上げる太川
ミキ :福岡では、ニューウェーブのミニコミを作ってました
太川 :ええ?
状況 :驚いて身を乗り出す太川
ミキ :7月のトーキング・ヘッズと8月のXTCのチケットを
    持ってる人がいたら譲って下さい
太川 :えええ!?
状況 :驚いて立ち上がる太川
中谷 :なんか、そういうことらしい。じゃあ、榊原の席は、
状況 :空いてる席を指さすと見せかけて、
中谷 :ここ
田中 :えぇ?
状況 :驚く田中。指示されたとおり、すなおに田中の上に座るミキ
中谷 :教科書45ページ開いて。
    体重60kgの、健康な遣唐使2人を同時に50mの高さから落とした時
    沸騰させた蒸留水を見つめるメロスの気持ちを、次の中から300字以内で
    耕せ!
太川 :榊原さん!あなたは僕のアーバンプリミティブエンジェルだ!
    僕は君のためなら...死ねる
マユミ:ミキちゃん、ミキちゃん
状況 :ミキ、振り向いて
ミキ :なに?
マユミ:渋谷楽しかった?
ミキ :あんまり。夢と大違いだった
状況 :不機嫌な表情で言うミキ
マユミ:夢?
ミキ :なんか、街が味方してくれないっていうか...
マユミ:へぇ
状況 :突然立ち上がる太川
太川 :あぁ〜!でも僕のこの感情は榊原さん自身には無関係なことだし
    もし...もし僕のこの思いが、彼女にとって負担になることを考えると
    あぁ〜!ディスコミュニケーション!!
状況 :落胆した表情で、椅子に腰を落とす太川
    照明が落ちていき、照明は舞台右上に

=== ホテルの中 ===  79min40sec

状況 :舞台上は教室のシーンのまま。中谷が黒板になにか書いている
    マユミはノートをとっている。ミキは田中に座ったまま、ぴあを
    広げて読んでいる。他の生徒たちは、ノートを取ったり、マンガを
    読んだり。そのうち、マユミは隣や後ろの生徒と雑談を始める
    舞台右上に根岸とチカ。ラブホテルの一室。ピンクのあやしい照明。
    向かって左に根岸2人とも座っている。根岸はきょろきょろしながら
    なにかスイッチをいじって楽しんでいる。
根岸 :えぇ?ブラック・ブラック・ブラック・どくろのぉ
チカ :はい!
状況 :正座の姿勢で、中腰になって、前に両手をつき、根岸を見つめているチカ
    根岸、スイッチをいじって、きょろきょろしながら
根岸 :作詞と作曲を
チカ :はい!
根岸 :ミカちゃんに
チカ :...チカです
根岸 :あ、そかそか。ごめんごめ〜ん
状況 :やっと手を止めてチカの方を向く根岸
チカ :いえ。...やらせてもらえませんか!?
根岸 :...お、お、う〜ん。あ、じゃぁ、シャワー浴びてからね
チカ :あ、必ず売れますから!それは間違えありません
    50万枚以上は売れます。それが15年間続くんです
状況 :根岸、笑いながら
根岸 :どっからみなぎってくるの、その自信、しかも具体的な
チカ :売れる曲なんです
根岸 :う〜ん、誰もがね、み〜んなそう思って発売してんだよ〜、ほほほ
    ね、さぁ、シャワー浴びな
状況 :真顔で力説するチカ。全く信用しない根岸。ふざけるように応える。
チカ :あ、著作権登録の名義は、せんせ、あ、根岸さんでかまいませんから
状況 :先生と言いかけて、あわてて言い直す
チカ :そうすれば、印税たくさん入って、ガバガバ入って、ずっと
    日本で活動できます
状況 :笑顔で必死に説得するチカ。
根岸 :どんな曲があるの?
チカ :え?
状況 :急に聞かれて困った表情のチカ。テレビのスイッチを消す根岸
    チカの方に体を向け、向かい合って座っている。根岸、チカの方に体を
    乗りだして、真顔で
根岸 :歌ってみてよ、代表作。すっごい売れるの
チカ :......例えば
根岸 :うん
チカ :...すっごい売れるのは
根岸 :うん
状況 :考え込んでいるチカ
チカ :......ウン(咳払い)...はぁ(息を吸い込む)
    アップテンポがいいですか、バラードがいいですか?
状況 :根岸の方に体を乗り出してたずねるチカ
    根岸、歌うかと思っていたら、タイミングをハズされてしまう
根岸 :あ、じゃあアップテンポ
状況 :ちょっと考えて、体を乗り出したまま、真顔で根岸を見つめて
チカ :ピーヒャラピーヒャラ パッパパラパー ピーヒャラピーヒャラ
    踊るポンポコリン ピーヒャラピー お〜なかがへったよぉ〜♪
根岸 :...
チカ :これはかなり売れます
状況 :熱い視線で見つめるチカ
根岸 :いや、そうは思えないんだけど
チカ :私だって思いません!そうは思えないモノが売れるんです
    特に79年から2、3年間は。母が言ってました
状況 :うれしそうに喋るチカ。根岸、笑いながら
根岸 :あぁ、そうかそか、ミカちゃんのおかあさん占い師か
状況 :再びテレビをつける根岸
チカ :...チカです
根岸 :あぁ、そうかそか、ごめんごめん
状況 :テレビから女のあえぎ声
根岸 :あららららら
状況 :にやける根岸。うつむくチカ
根岸 :う〜ん、あ、でもこういうの、あれか、別料金か
チカ :うん、別料金ですよきっと。もったいない
状況 :もじもじしながら、チャンネルを変えるチカ
根岸 :でもなぁ、今のナンバーはなぁ...なんだっけ
    ピーヒャラピーヒャラ ドンドコドンドコ なんか食わせろ〜♪ だっけ?
チカ :あの、かっこいい曲もたくさんあるんです。だから、お願いします!
根岸 :...よし、わかった
チカ :え?...ほんとうですかぁ!?
状況 :喜ぶチカ
根岸 :ああ、本当
状況 :嬉しそうに笑うチカ。立ち上がって
チカ :じゃあ...すぐ始めませんか?
状況 :根岸も立ち上がる。チカに抱きつきながら
根岸 :ああ?シャワー省略で、オッケー、いいよぉ
状況 :チカ、両手で根岸の体を押して離そうとしながら
チカ :あ、ああ、そうじゃなくって、バンドのリハーサル。プロ活動に向けて
    ねぇ、うん
根岸 :オッケーオッケーオッケー
状況 :なかなか離れないがしばらくして、ようやく離れる
TV :.............
チカ :出ましょう
根岸 :......バンド、解散しちゃったんだ
チカ :え?
TV :.............
根岸 :もうないんだよ、バンド
状況 :床に座る根岸。チカうつむいて
チカ :しまった...計算ミスった...
状況 :座って根岸の方を向き
チカ :じゃあ、もう一回作りましょう!ね!
根岸 :無理言うなよ、メンバーもういないんだよ〜
TV :.............
状況 :チカの首に手を回す根岸。しだいに押し倒されていく
    チカ、根岸から顔をそらす
チカ :あぁ!
状況 :テレビを見て、起きあがるチカ
TV :みさかいないって感じですが
根岸 :...あ!!!
状況 :あわてて、リモコンでテレビのスイッチを消す根岸
    チカ、根岸の顔を見て、テレビを指さして
チカ :あ、あ、今のぉ!!!
根岸 :あ、ああ..あれ
チカ :見ましょうよぉ!!!
状況 :ばつが悪そうな根岸。喜ぶチカ。リモコンでテレビのスイッチを入れる
根岸 :いや、今のは
TV :ブラック!ブラック!ブラック!どくろ!
状況 :チカからリモコンをひったくってスイッチを消す根岸。チカに背を向け
    おなかの所にリモコンをかかえこんで、取られないように守っている
チカ :どうして消しちゃうのぉ!
状況 :戸棚をあけ、リモコンを取り出し、スイッチを入れるチカ
TV :放しちゃダメ。撮って。それで?
    うまいことばっか言って......
状況 :目を丸くして、根岸、自分のリモコンを見る。チカの方を向くと
    得意げな顔をして笑いながら、根岸にリモコンを見せびらかしている
    根岸、再びチカからリモコンをひったくって、スイッチを切る
根岸 :いいんだって!!!
チカ :よくないよ!
根岸 :あ!は!は!は!は!は!は!は!は!は! あ!は!は!は!は!は!
    は!は!は!は! あ!は!は!は!は!は!は!は!は!は!
状況 :チカに後ろから、脇をくすぐられ、リモコンを放り出してもだえる根岸
    チカ、リモコンを奪ってスイッチを入れる
根岸 : あ!は!は!は!は!は!は!は!は!は! う、それ
状況 :チカ、根岸の方を向き、片膝をたてて、くすぐりのポーズ
根岸 :あ!は!は!は!は!は!は!は!は!は! あ!は!は!は!は!は!
    は!は!は!は! あ!は!は!は!は!は!は!は!は!は!
状況 :後ろにすっとびながら、わらい転げる根岸
根岸 :あ!は!は!は!は!は!は!は!は!は! あ!は!は!は!は!は!
    は!は!は!は! あ!は!は!は!は!は!は!は!は!は!
    あ!は!は!は!は!は!は!は!は!は! あ!は!は!は!は!は!
    は!は!は!は!あ.め に、でよ..
チカ :なにぃ?
状況 :立ち上がって、チカに何か言おうとしている根岸
    言葉にならない。唾を飲み込んんで、ちょっとおちついて、しかし
    とぎれとぎれに
根岸 :メンバー...メンバー集めるから、出よう。ね
チカ :あ、はい!
TV :俺もぉ!
状況 :チカも立ち上がる。チカからリモコンを奪ってスイッチを切る
    やっとおちつく根岸。根岸、部屋を出る。チカも根岸について出る。
    と思ったら、部屋に飛び込んできて、床に座り、置いてあるリモコンで
    スイッチを入れる。
TV :先輩は下着泥棒だ
状況 :根岸、入ってくる。チカ、振り向いてくすぐりのポーズ
根岸 :あ!は!は!は!は!は!は!は!は!は! あ!は!は!は!は!は!
    は!は!は!は! あ!は!は!は!は!は!は!は!は!は!
    あ!は!は!は!は!は!は!は!は!は! あ!は!は!は!は!は!
    は!は!は!は! あ!は!かんべん..して..くれ あ!は!は!は!
状況 :座ってるチカの手を引っ張って、立ち上がらせる根岸
根岸 :あ!は!は!は!は!は!は!は!は!は! あ!は!は!は!は!は!
    は!は!は!は! あ!は!は!は!は!は!は!は!は!は!
状況 :笑いながら、チカを引っ張っていく
チカ :もうちょっと見ようよ!ねぇ、もうちょっとぉ!
状況 :抵抗するチカ。根岸に引きずられるようにして部屋を出ていく

=== 第2問 ===  84min30sec

状況 :教室の方の照明が明るくなる。チョークを黒板に置いて、振り向きながら
中谷 :と!なるわけだ!どうだ、わかったか。わかったようなわかんないような
    感じだろう。そこが、いいんだぁ!
状況 :力強く断言する中谷先生
男生徒:何言ってんだ、あいつ
上原 :先生!
中谷 :何だ?上原
上原 :いつも思ってたんですがぁ、これ、何の授業なんですか?
男生徒:そうだよ、あんた、何の教師なんだよ?
状況 :中谷、一歩上原の方に出て
中谷 :上原!
状況 :中谷の方を見て、きょとんとしている
中谷 :それは言いっこなしの約束だろ!?
状況 :「え?」という表情の上原
男生徒:したのか?約束!
状況 :あわてて、手を左右に振る上原
上原 :してねえよ!してねえよ
中谷 :はい次!第2問!黒板消しをパンパンやれ!
状況 :黒板の所に行き、黒板消しを4つ抱えて戻ってくる
中谷 :見城!手伝ってくれ
マユミ:はい
状況 :マユミ、席から立って、中谷から黒板消しを2つ受け取る
    中谷と顔を見合わせ
二人 :せーの、パンパンパンパン
状況 :二人で黒板消しをパンパンやる。マユミは、教室後ろの方に
    歩きながらパンパンやる。
生徒 :ごほ、おっほ、うぉっほ
状況 :咳こむ生徒たち。咳こみながら
上原 :先生!こんな問題載ってませんよ!
男生徒:なんの意味あるんだよぉ、これ
状況 :咳こみながら、パンパンやるマユミと中谷。黒板消しをふぅ〜っと
    吹くマユミ
太川 :よし、今ならチョークの粉で何も見えない
状況 :立ち上がる太川
男生徒:上原、出よう!
上原 :おう!
状況 :立ち上がる男生徒と上原。チョークの粉で視界が悪い
    男生徒と上原は、手探りで後ろのドアにむかう。太川は、上原に
    ぶつかりながら、手探りでミキが座っている田中の席の方へ
    咳こみっぱなしの生徒たち。上原たちが出ていったのとほぼ時を
    同じくして、三つ編みで、眼鏡をかけた暗そうな女生徒が
    入ってくる。太川の席に座り、大事そうに太川の教科書を
    胸に抱いている。太川、田中の後ろのマユミの席に座る
太川 :榊原さん
状況 :田中に座っているミキ、後ろを向く。田中も後ろを向く
太川 :あのぉ、僕、後ろの席からやってきた、太川ハジメといいます
状況 :会釈する太川。けげんそうに会釈するミキ
田中 :どうも
状況 :笑顔で会釈する田中。太川、ミキの正面にまわって
太川 :どうも、あの
状況 :ガラガラと、前のドアを開けてよもだせんせいが入ってくる
よもだ:うえっふ、うっふ、なに、これ!
状況 :咳こむよもだ。あわてて、田中の隣の女生徒の膝に座る太川
よもだ:なにやってんですか、中谷先生。見城さんも!
状況 :中谷とマユミから黒板消しを取り上げるよもだ
    中谷チョークの粉にむせながら
中谷 :よもだ先生、さすがにこたえますよ
よもだ:だったらやめなさい!どういうつもり!?私のクラスの生徒を
    全員結核にするつもり!?
状況 :怒りながら聞くよもだ
中谷 :どうなんだ?見城
よもだ:あなたよ!!
状況 :間髪いれずにつっこむよもだ。無言で、スカートをはたいたりしながら
    中谷を睨むマユミ。頬を膨らませて、ふてくされている中谷
よもだ:保健体育の授業なのにどうしていつもいつも教室の中に
    いるのかと思ったら。出てって
状況 :ドアの方を指さして言うよもだ。生徒に向かって
よもだ:窓開けなさぁい。開けたらすぐ席に着く
中谷 :はい、てきぱきやるぅ!
よもだ:出てってってば!
太川 :残念だけど、また
状況 :女生徒から立ち上がって、自分の席に向かう太川。しかたなく前のドアから
    出ていく中谷
牛添 :ハジメさぁん
状況 :太川の教科書を胸に抱えて、自分のももをぱんぱん叩きながら
    不気味に微笑みかける牛添
太川 :......牛添マチコ
よもだ:あなた!隣のクラスでしょ、戻りなさい。
状況 :しぶしぶ立ち上がる牛添。しかし、教室からは出ていかず、マユミの
    斜め後ろの空いてる席に座る
よもだ:なに人の上座ってんの!!!
状況 :やっと気付いて驚くよもだ。ミキ、中谷が出ていったドアを指さして
ミキ :だってミルク、あの先生が
よもだ:ミルクってだれよぉ。早く空いてる席座んなさい。なんてかっこう
    してんの
状況 :納得いかない顔で立ち上がり、後ろに歩いていくミキ。牛添、ミキを
    睨みながら
牛添 :どういうつもり?
ミキ :え?
よもだ:あなた!
牛添 :覚えてなさいよ!
ミキ :なにを
状況 :席を立ち、ミキにそう言い残して、後ろのドアから走って出ていく
    ミキ、マユミの後ろの席に座る
よもだ:まったく、どいつもこいつもぉ。いいですか、今後中谷先生の授業は
    絶対に受けないように。
状況 :教室の前のドアから、重そうに何かを両手でつかんで中谷が入ってくる
    よもだ、自分の頭を指さしながら
よもだ:あの人、ちょっとおかしいんです
中谷 :じゃぼっじゃぼっじゃぼっ
状況 :黒板の前で持っていたモノから、なにかまき散らしている中谷
    よもだ、鼻をならして
よもだ:なんか、ガソリン臭いわね
状況 :中谷、ズボンの右ポケットに手をつっこみ、何か取り出し目の前にかざす
中谷 :シュッ
状況 :手に持っていたマッチを擦る
よもだ:なに?
中谷 :よしっと。ぶぅおっ
状況 :手に持っていたマッチを床に落とす
みんな:うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!
    きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!
中谷 :うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!!!
状況 :席を立ち、教室の後ろへ悲鳴を上げながら逃げる。しかし、マユミは
    しばらく立ち上がらず、中谷を観察している。立ち上がって、ゆっくり
    教室後ろへ
中谷 :びゅ〜ん
状況 :中谷、ぱっと後ろに跳びすさり、ちょっと腰を落として何かを持って構える
中谷 :ごわ、かしゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
状況 :消火する中谷
中谷 :消えたぁ
状況 :右手で、額の汗をぬぐう中谷。ホッとした表情。みんなの方を向き
    ニッコリ(でも、不気味)笑いながら
中谷 :だいじょうぶ
状況 :ズボンの右ポケットに手を入れ、取り出したモノをみんなに見せながら
中谷 :マッチまだあるから
状況 :おびえたような表情で中谷を見ているみんな
中谷 :さてと!次はやはりぃ
状況 :またも、ズボンの右ポケットからなにか取り出して、みんなの方を向き
    ニヤリと笑いながら
中谷 :ソースでもまいてみますか
    タポッ、うふいひひ。タポッ、うぉほうっふ、うほぅふぅ
状況 :ソースを垂らしては、そこを指さして、うっとりした感じで嬉しそうに
    笑う中谷。舞台左上に、何か箱のようなモノを持って出てくるマユミの父
中谷 :タポタポタポタポタポタポタポタポタポタポタポタポタポタポ
    タポタポタポタポタポタポタポタポタポ
見城父:カチッ
状況 :箱のスイッチを操作するマユミの父
中谷 :...あれ?...なにやってんだ、俺?
状況 :正気に戻る中谷。くびをかしげている
中谷 :あぁ〜!あぁ〜!あぁ〜!誰だ!誰だ!誰だぁ!
状況 :床を見て、驚く中谷。教室の後ろの方を見て
中谷 :田中ぁ!
状況 :うろたえる田中。中谷、重く厳しい口調で
中谷 :よもだ先生、あなたも担任ならこれはちょっとま
状況 :床を右手で指さそうとして、自分の右手に持っているモノに気付き
    口を開けたまま呆然とする中谷
中谷 :田中ぁ!
状況 :ゆっくりと、田中の方を向いて怒鳴る中谷。ソースを田中のほうに
    向けて
中谷 :没収!卒業するときに返してやる!
状況 :そういって、足早に教室を出ていく中谷。マユミ、スカートの
    左ポケットからトランシーバーを取り出し、ロッドアンテナを伸ばす
マユミ:おとうさま、応答せよ、おとうさま
見城父:はい
状況 :不思議なモノを見るような目で見つめるクラスメート達
マユミ:午後12時39分、正常に戻りました。どうぞ
見城父:よーし。行動記録をどうぞ
マユミ:黒板消しをパンパン
    教室、燃やして、消して
    ソースをタポタポ
    田中君のせいにしました。どうぞ
見城父:それはずいぶんと迷惑をかけちゃったねぇ。よくあやまっときなさい
マユミ:はい。
見城父:あとで、学校と田中君には5〜6000万ずつ送っとくから。どうぞ
マユミ:は〜い
状況 :無邪気な笑顔で応えるマユミ
見城父:あ、ミキちゃん、ちゃんとやってるかぁ?
マユミ:ミキちゃん、ちゃんとやってるかって
状況 :不思議そうな表情で、トランシーバーの方に顔を突き出して
ミキ :...やってまーす
見城父:そうか、よかったよかった
(チャイム)
マユミ:あ、それじゃおとうさま、昼休みだから
見城父:はいはい、はい
マユミ:ミキちゃん、学食行こう
状況 :ミキの手を引っ張ってマユミが舞台の後ろの方へ去っていく
    しばらく間をおいて、むっとしたような口調で
よもだ:...休憩
状況 :それぞれ、舞台から去っていく

=== 見城夫妻 ===  88min40sec

状況 :舞台左上で、あぐらをかいて座っているマユミの父
    マユミの母が出てきて正座し、両手をついて、マユミの父の方に
    身をのりだしている
見城母:どうですか?
見城父:ああ、できたよ。十中八九、成功だ
状況 :コントローラーを見ながら、満足そうに言うマユミの父
見城父:これだ
状況 :右手の親指と人差し指でなにかをつかんで目の前にかかげる
    マユミの母、それを見つめながら
見城母:なんです?
見城父:このカプセルを飲んだ人間の脳波は、24時間自由にコントロールできる
状況 :カプセルを置くマユミの父。マユミの母、微笑みながら
見城母:ごくろうさま
見城父:ああ
状況 :マユミの母、カプセルをつまんで
見城母:これも発表しないんですか?
見城父:当たり前だ
状況 :マユミの母、ちょっとふくれて
見城母:せっかく作ったのにぃ
見城父:悪用されるだろう
状況 :やさしく、言い聞かせるように言うマユミの父
見城父:...俺が作ったモンなんか、ぜ〜んぶ悪魔の発明だよ
状況 :正面に向き直って、吐き捨てるように言うマユミの父
    指折り数えながら
見城父:手をぬらさずに頭が洗えるマシーン...
    高速苺ヘタ取り器...
    森進一のお面...
    どれもこれも悪用されたら、地球を破滅に導きかねない
見城母:導くかしらぁ?
見城父:導くよ
状況 :大きくうなずきながら言うマユミの父。不満そうなマユミの母
    その気配を察したマユミの父、マユミの母の方に向き直り
見城父:導くよ
見城母:高速苺ヘタ取り器で、どうやって悪用します?
見城父:だから、こう...高速苺ヘタ取り器で......
状況 :考えるマユミの父、高速苺ヘタ取り器を両手で持つかっこうをし
    床の所から、持ち上げて、前に突き出す
見城父:ガーンって殴る。
状況 :そっちをゆびさしながら
見城父:いい人を。ガーンって殴る
見城母:あぁ〜...
状況 :納得はしてないマユミの母。マユミの父、笑いながら
見城父:いいんだよ、趣味で。うちはぶら下がり健康器の特許で、曾孫の代まで
    食えるんだから
見城母:でも、ぶら下がり健康器で、誰かがいい人を、ガーンって殴ったら
    どうしますか?
状況 :ぶら下がり健康器をつかんでガーンとぶつけるまねをするマユミの母
    立ち上がって、出ていく。マユミの父、あわてた口調で
見城父:バカ言うな!屁理屈だろう、それは?...
状況 :マユミの父、立ち上がり
見城父:屁理屈だろう、なあ!?
状況 :マユミの母を追って出ていく

=== 3人の男 ===  90min10sec

状況 :舞台右上に、エプロン姿でコードレス電話を持ったリカが出てくる
リカ :あのぉ、先生?なんかの間違えじゃありませんかぁ?
担任 :間違えも何も、クラス中の生徒が見とるんです
状況 :Yシャツにネクタイの男が右手をポケットにつっこみ
    苦い表情で、舞台左上に出てくる
リカ :チカが、一人で3人の男を?
担任 :ええ。一人は柔道部で全国大会まで行った男です
リカ :へぇ〜
状況 :舞台左袖から、右足にギプスをして、包帯を巻いたがっしりした
    生徒が松葉杖をつきながら歩いてくる
担任 :もう一人は写真部で、自然を取らせるとなかなかセンスのいい男
状況 :舞台左袖から、首にコルセットをして、首からカメラをぶら下げて
    眼鏡をかけた生徒が歩いてくる
担任 :そしてもう一人は、なんの取り柄もない男です
状況 :舞台左袖から、左腕にギプスをして三角巾でつった生徒が
    ヘラヘラしながら歩いてくる。舞台下手に取り柄のない男
    中央に写真部、上手に柔道部の生徒が立って、正面を向いている
リカ :...それがなに?
状況 :担任、ちょっとムッとしながら
担任 :それが、3人の男です。坂井チカに暴行を受けた3人の男
リカ :暴行?...あぁ、そっか。だからあのこ学校からの電話を
    あ、そう、あはははは
状況 :一人で納得して笑い出すリカ。担任、かなりムッとしながら
担任 :なにがおかしいんですか!?
リカ :いやいやいや
担任 :月曜日には、ご両親と一緒に謝罪すると約束して帰ったのに
    本人まで、学校を無断欠席
リカ :あぁ〜...ねぇ
状況 :言葉が見つからず、とりあえず言うリカ
担任 :ねぇじゃありませんよ!今すぐ病院にいらして下さい。学校側としても
    訴訟問題なんかにしたくないんです
状況 :あせったような口調の担任
リカ :病院?謝りにぃ?
担任 :そうです。謝罪して下さい、本人達と親御さんに
状況 :厳しい口調の担任。リカ、不満そうな口調で
リカ :親御さんって、柔道部と写真部の?
担任 :なんの取り柄もない男もです!
リカ :え〜〜〜〜〜?
担任 :え〜って何ですか!
状況 :完全に怒っている担任。リカ、だだをこねるように
リカ :だってぇ、何の取り柄もないのにぃ?
担任 :親御さんにはあるかもしれないじゃないですかぁ!
状況 :ちょっと、冷静さを取り戻し
担任 :あ、いや、たとえなくても、この場合は謝りましょうよ
    娘さんと一緒に、今すぐいらして下さい
リカ :あ...娘は、今ちょっと...
状況 :宙を見つめながら、ちょっと気が抜けたような声で言うリカ
担任 :なんですか?娘さん嫌がってるんですか
状況 :イヤミっぽく言う担任
リカ :いや
担任 :じゃあ、なんですか。娘さんに来てもらわないと
状況 :さらに、イヤミっぽく言う担任
リカ :ええ...
担任 :どうしたんです?娘さん
リカ :あ〜〜
状況 :困った表情で声を漏らしているリカ
担任 :娘さんといらして下さいよ
リカ :い〜〜
担任 :いいですか!!!!!娘さんといらしてくだ
リカ :私だって会いたいよ!!!!!バカ!
状況 :突然怒鳴るリカに驚くいて、呆然とする担任。リカ、通話ボタンを
    叩くように押して電話を切る。受話器を胸に当て、泣きながら
リカ :バカ...チカぁ〜
状況 :「いい日旅立ち」が流れ、照明が落ちていく

第1幕・完  92min30sec