=== 旅立ち === 35min50sec

状況 :舞台奥から、スーツに眼鏡をかけた小柄な男があらわれる
    ガラガラガラと玄関を開けて
トシオ:ただいまぁ
状況 :ガラガラガラと閉めて、靴を脱ぎ入ってくる。舞台上手の袖から
リカ :おかえり〜。研究所から電話あったよ〜。中泉教授
トシオ:なんと言ってましたぁ?
リカ :なんか、急ぎの用だから、電話くれって。ある種のエキスがぁ
    どうしたとか、こうしたとか
トシオ:そうですか!
状況 :電話の所に歩いていくトシオ。電話台の横に鞄を立てかける
    舞台上手からリカが出てくる
リカ :おなかは?
トシオ:空腹です
リカ :あん
トシオ:チカは?
リカ :部屋
状況 :番号をプッシュするトシオ。電話がつながる
トシオ:もしもし、坂井です。お電話いただいたそうで
状況 :舞台上手から、チカが入ってきて
チカ :お兄ちゃん、ちょっといい?
状況 :チカに微笑みながら受話器を戻すトシオ
    トシオの後ろで目が点になるリカ
トシオ:なんだい?
チカ :日本で100万枚売れた曲って何かな?
トシオ:100万枚?
リカ :あんた、電話...
状況 :顔はチカに向けたまま、左手を広げ、リカの顔の方に向け
    何事もなかったかのように
トシオ:いいんです。100万枚はそうそうないよ。キャンディーズの
    最大ヒット曲「微笑みがえし」で82万9千枚だから
状況 :首を傾げながら、食事の用意をするリカ
チカ :じゃあ、50万枚以上
トシオ:昭和43年「恋の季節」ピンキーとキラーズ
    昭和44年「黒猫のタンゴ」皆川おさむ
    昭和45年「また逢う日まで」尾崎紀世彦
状況 :チカの後ろで、トシオを指さしてニヤニヤしながら
リカ :出た、人間コンピュータ、坂井トシオ
チカ :もうちょっと、新しい奴
状況 :トシオ、腕を組んで
トシオ:いつごろ?
チカ :今35歳で、大学生の時だから...
状況 :左手を広げ、右手人差し指で数字を書きながら計算するチカ
    リカがその手をのぞき込む
チカ :15年ぐらい前
トシオ:昭和54年かぁ
リカ :あなたが頭うった年よ
状況 :チカに向かって笑顔で
トシオ:第5回東京サミットの年だ
リカ :あなたが頭うった年よ
状況 :リカに向かって怒りながら
トシオ:第5回東京サミットの年です
リカ :あなたが頭うった年よ
状況 :チカの横を通ってリカの前に行くトシオ。向きを変えるチカ
トシオ:やめて下さいよ!
状況 :リカ、ニヤニヤ笑いながら、食事の支度を続ける
リカ :突然頭よくなっちゃうんだモン、あ〜んなだったのにねぇ
トシオ:やめて下さいってば、チカの前で
状況 :小声で、リカに文句を言うトシオ。ニヤニヤするリカ食事の支度をしながら
    テーブル後方に移動。トシオ、チカの方に向き直って
トシオ:「贈る言葉」海援隊
    「魅せられて」ジュディオング
    「関白宣言」
状況 ;トシオの方を指さして
チカ :さだまさし!
リカ :ダサイ!
状況 :食事の用意を中断して
リカ :もっと他にあったでしょう...「RYDEEN」とか...
    「YOU MAY DREAM」とか...あ、「TOKIO」とか
トシオ:「TOKIO」は翌年です
リカ :そうだっけぇ?
状況 :リカ、台所で作業をしながら
    そ〜らがとぶ♪ ま〜ちがとぶ♪ くも〜をつきぬけほしになる♪
トシオ:あなた気持ち悪いな!微妙に違いますよ、それ!
状況 :ちょっとずれたメロディにイライラして、指さしながら怒るトシオ
    テーブルの所にやってくるリカ
リカ :トシオねぇ、よくからかわれたの幼稚園で
    坂井ト〜シ〜オ〜♪
トシオ:かあさん!
リカ :ト〜シ〜オがうんこを抱いたまま♪
    坂井ト〜シ〜オ〜♪
トシオ:ト〜シ〜オがうんこする〜!最っ低の替え歌だよ
    これで先生まで大爆笑だ
状況 :正面を向き開き直って歌った後、うつむき加減で悔しさをかみしめるような
    感じで吐き捨てるトシオ。リカ、ニヤニヤしながら
リカ :「うんこ」ってところが幼稚園児よね
トシオ:何の脈絡もないですよ。やつら「うんこ」って単語を発してる自分が
    もう嬉しくてしょうがないんですよ
リカ :やつらって、幼稚園児だからさ
トシオ:どう思う?「うんこを抱いたままうんこする」って
チカ :うん
状況 :何も考えずに、生返事のチカ
リカ :「うん」って
チカ :ありがとう、お兄ちゃん
トシオ:ああ
状況 :舞台上手に向かって歩き出すチカ
リカ :メシできるよ
状況 :チカ、歩きながら
チカ :うん
トシオ:チカ?
状況 :立ち止まって振り返るチカ
トシオ:どうした?元気ないなぁ
チカ :あ、ううん、平気、なんでもない
状況 :再び歩き出すチカ
トシオ:そうか?
状況 :チカ、部屋を出ていく。トシオ、リカの顔を見る
    リカ、チカの出ていった方を見て、トシオの顔を見て
リカ :...平気平気、勝手にあの子の部屋に入ってぇ、ファックス盗んでぇ、
    燃やしたらなんか怒っちゃって
トシオ:そりゃ、怒りますよ!
状況 :平然と言うリカに怒鳴るトシオ。リカ、台所の方に歩きながら笑って
リカ :あったしが悪いのよぉ〜
トシオ:ひどいなぁ
状況 :突然電話のベルが鳴る
トシオ:はい、坂井です。あ、先ほどは突然切ってすいません。妹が呼んでたもので
    急用ってなんでしょう?
状況 :再びチカが入ってくる
チカ :ねぇ
トシオ:どうした?
状況 :チカに微笑みながら受話器を戻すトシオ
    トシオの後ろで目が点になるリカ。電話の方を指さして
    なにか言たげな表情
チカ :タイムマシンって、そこの押入になかったっけ?
トシオ:2階の物置だよ
チカ :ありがと、お兄ちゃん
トシオ:うん
状況 :また、出ていくチカ。再び電話の音
トシオ:はい、坂井です
状況 :心配そうにのぞき込んでるリカ
トシオ:あ、教授。なに怒ってるですか、大人げないなぁ
状況 :笑いながら話すトシオ
トシオ:そんなことより、急用ってなんですか?え?ええ
状況 :トシオは電話を続け、リカは食事の準備を続ける
    照明が落ちていき、幻想的な音楽が流れ出す。舞台右上のチカの部屋に
    幻想的な照明が当たり、どう見ても素焼きのつぼにしか見えないモノが
    あらわれる。高さ、直径ともに1mくらい。チカがそれを一生懸命
    押しながら入ってくる。部屋に運び終えると、つぼの後ろに回り
    踏み台に乗る。つぼの中に入り、しばらくして意を決したように
    ゆっくりと体を沈めていく。そして、音楽がフェードアウトし
    再び照明は舞台のトシオに
トシオ:ええ。はい。はい。それでは
状況 :重い表情で、電話を切るトシオ。ゆっくり振り向きながら
トシオ:かあさん
リカ :うん?
トシオ:かあさん、さっき電話に「もじゃもじゃ」って言って出ました?
状況 :怒ったような表情で言うトシオ
リカ :凍り付くリカ
トシオ:中泉教授、もう大喜びですよ。愉快なおかあさまだって
状況 :笑顔に変わっていくトシオ。けげんそうな表情で
リカ :あ、そう
トシオ:ありがとうございます
状況 :笑顔でおじぎするトシオ
リカ :いいえ。食べちゃいましょう
トシオ:ええ。チカ!食事だぞ!
状況 :テーブルの所で、料理を見ながら返事を待つトシオ。返事はない
トシオ:チカ〜!
状況 :振り返って、リカに
トシオ:呼んできます
リカ :あの子は
状況 :あきれたように言うリカ。走って呼びに行くトシオ
トシオ:チカ〜!
状況 :食事の準備を続けながら、まだけげんそうな表情のリカ
リカ :「もじゃもじゃ」で大喜びってのも...
状況 :首を傾げるリカ。突然、とり乱した声で
トシオ:かあさん!かあさん!
リカ :なにぃ?どうしたのぉ?
状況 :緊張した表情で、駆け込んでくるトシオ。舞台上手でピタッと止まる
トシオ:チカが...
状況 :リカと顔を見合わせて、静止状態。照明が落ちて、衝撃的なジングル
    上からスライドのスクリーンが落ちる。「いい日旅立ち」のアレンジ
    バージョン(サントラ収録の後半)が流れ、スライドが映し出される
    スライドとともにチカのナレーション
スライド:「いい日旅立ち」(山口百恵)シングルレコードジャケット
     「RYDEEN」(YMO)シングルレコードジャケット
     「UFO」(ピンクレディー)シングルレコードジャケット
     「関白宣言」(さだまさし)シングルレコードジャケット
     「恋のぼんちシート」(ザ・ぼんち)シングルレコードジャケット
     「ガンダーラ」(ゴダイゴ)シングルレコードジャケット
     竹の子族の集会(?)の写真
     宮崎美子のCFの1カット
     初代ウォークマンの写真
     シンセサイザーキーボードの写真
     インベーダーゲームの写真
     宇宙戦艦ヤマトのうしろ姿
     ゲームウォッチ(ファイヤー)の写真
     TSUBAKI HOUSEのチケット
     なめ猫の免許証
     文化屋雑貨店のロゴ
チカ  :ふと気がつくと、そこはなんだか不便なところ。94年の東京とは
     まるで違う東京。どこか懐かしくて、かっこわるい79年の東京
     ここでさっそく、私の運命を左右する大きな問題が持ち上がった
     わけなんだけど、私の物語はひとまずここでおいといて
     場面は1979年5月の羽田空港、到着ロビー

=== 1979年 羽田 ===  42min20sec

状況 :羽田空港到着ロビー。舞台下手に椅子が3つ。夫婦が座っている
    発着のアナウンスが流れている。上手の方を見ながら待っている
見城父:あ、あれじゃないか?あれだろう
状況 :立ち上がって言うマユミの父。マユミの母も立ち上がる
    手を振りながら
見城父:こっちこっち、こっち!
榊原母:あ、どうも!
状況 :大きなトランクを抱え、バイオリンケースを肩にかついだ和服の
    女性が出てくる
榊原母:ごぶさたしてます
見城父:お久しぶり
状況 :笑顔で挨拶を交わす
見城母:こんにちわぁ
榊原母:わざわざごめんなさいねぇ。兄さんも
見城父:いやいや、よかったよかった、無事ついて、なぁ
見城母:ええ
状況 :後ろを振り返って
榊原母:ほら!ミキ、早くいらっしゃい!
ミキ :だっせぇ〜!
状況 :出てきて、正面を向ききょろきょろしながら言うミキ
    右目に白い眼帯、頭にサングラス、ポシェットを首にかけ、右手に
    ”CISCO”の青いビニール袋
見城父:あれ?ミキちゃん、目どうしたの?ものもらい?
榊原母:なんだかファッションなんだって
状況 :あきれたように言うミキの母
見城父:ファッション?へぇ〜。福岡じゃ、ファッションでものもらいだってよ
    地域差だなぁ
状況 :ミキの方に歩いていくミキの母
榊原母:ほら、ミキみっともないよ。いくら東京だからって
状況 :ミキの右腕をつかんで引っ張っていく。きょろきょろしながら
    引きずられるように歩くミキ。歩きながら
ミキ :違うよ!だって、これが東京?
状況 :幻滅した口調のミキ
榊原母:ほら、今日からお世話になる、見城のおじさんとおばさん
見城*2:こんにちわ
ミキ :こんにちわぁ
状況 :表情をコロッっと変えて、笑顔で挨拶するミキ
見城母:おおきくなったねぇ
ミキ :おかげさまで、大きくなりました
榊原母:マユミちゃんは?
状況 :後ろを指さしながら
見城父:ああ、今そこの売店にタバコ買いに行かせてる。マユミも楽しみに
    してたんだよ。よかったよなぁ、同じクラスに編入できて
状況 :ミキ、うなづきながら
ミキ :よかったです
状況 :舞台下手から、タバコとお札を手に持ってマユミが歩いてくる
    ピンクのワンピースを着ていて、お嬢様っぽい雰囲気
マユミ:こんにちわ、たいへんご無沙汰しております
状況 :おじぎしながら、挨拶するマユミ
ミキ :げ
状況 :マユミの格好を見て、嫌そうな表情をするミキ
榊原母:こんにちわ
マユミ:こんにちわ
状況 :お互いにちょっと嫌そうな顔をするミキとマユミ
ミキ :こんにちわ
マユミ:こんにちわ
状況 :こわばった表情で会釈をする2人
榊原母:まあまあ、きれいになっちゃって
マユミ:とんでもありませんわ、おばさま
状況 :笑顔で応えるマユミ。タバコをさしだして
マユミ:おとうさま、タバコ
見城父:おう
マユミ:おつり
見城父:やるから。ミキちゃんと分けて、なんか遊べ
榊原母:だめよ、兄さん!
状況 :厳しい表情で言うミキの母。マユミの父、笑いながら
見城父:いいじゃないか
ミキ :どうもありがとうございます!
状況 :明るい声で、すかさず応えるミキ
見城父:いいえぇ
状況 :マユミの所に歩み寄り、マユミが持っているお金をのぞき込みながら
ミキ :4940円づつだよね
榊原母:早いわよ、計算が
状況 :軽く、ミキの頭をはたく
見城父:さあ、行こう。持つよ。ハイヤーどっちだ?
状況 :トランクを持って歩き出すマユミの父
榊原母:車じゃないの?
見城父:運転するのめんどくさいから
榊原母:そんな、ねぇ
見城母:    ねぇ
状況 :うなづきながら言う2人。下手の方に歩いていく
見城父:マユミ、早く来なさい!
マユミ:はーい!
ミキ :分けたら行きまーす!
状況 :声の方に顔を向けて応える2人。嬉しそうな顔で、ミキに向かって
マユミ:ミキちゃんのおかあさんって、ミッキー吉野に似てる
状況 :けげんそうに
ミキ :誰?
マユミ:ミッキー吉野。ゴダイゴのキーボード
状況 :5000円札をピラピラさせながら
ミキ :どうしよう。5000円、くずせないかなぁ
状況 :ミキの母が歩いていった方を振り返って見ながら
マユミ:似てるよぉ
状況 :一人で納得しているマユミ。ミキの方を見ると、5000円札を持って
    どうしようか悩んでいる
マユミ:あ、いいわよ、じゃあ5000円
ミキ :ホント!じゃあ、今度何かで
状況 :嬉しそうに言うミキ。下手に向かって歩き出すミキ
マユミ:ミキちゃん
状況 :止まって、振り向くミキ
マユミ:アリスの中で誰が一番好き?
状況 :笑顔で質問するマユミ
ミキ :アリス?
マユミ:うん
ミキ :アリスは......
状況 :ワクワクしながら答えを待つマユミ。困ったような表情のミキ
ミキ :それよりさぁ、田端と原宿って近いの?
マユミ:向かい側だよ
ミキ :ホント?
マユミ:ホントホント
状況 :再び、下手に向かって歩き出すミキ。マユミ、ミキを追いかけながら
マユミ:じゃあ、狩人は、お兄さんと弟どっちが好き?
状況 :笑顔で聞きながら、舞台下手に消えていく

=== 魅せられて青春 ===  45min00sec

状況 :「関白宣言」をポップにアレンジした音楽にのって、女性が
    舞台上手から、笑顔で弾むように入ってる
香山 :はい!今日から始まりましたこのコーナー、「魅せられて青春」
    レポーターは、私、今日もインベーダーゲームのチャンピオンを目指して
状況 :ガッツポーズをする香山
香山 :100円玉を使い果たし
状況 :右手親指と人差し指でで輪っかを作り、その後、手首をぷらぷらさせる
香山 :関白宣言ならぬ、金欠宣言の
状況 :幽霊みたいなポーズをする
香山 :香山今日子です
状況 :笑顔で言い終わるやいなや、真顔になり
香山 :すいません、ちょっといいですか?
AD :はい?
状況 :まぬけづらしたADが丸めた台本を持って、ドタドタと駆け込んでくる
香山 :言いたくありません、こんなこと
AD :はい?
香山 :こんなこと言いたくないんです
状況 :AD、あわてて
AD :あぁ〜、これはですね、アリスの「チャンピオン」と
    インベーダーゲームの「チャンピオン」をかけましてですね、
    さだまさしの「関白宣言」と「金欠宣言」をですね
香山 :わかってます!バカじゃないんですから
状況 :ムッとした表情の香山
AD :はい?
香山 :「こんにちわ、香山今日子です」でいいんじゃないんですか?
AD :はい
香山 :じゃ、そういうことで
AD :はい!それでは改めまして、カメリハまいりま〜す!!
香山 :いいですよ!本番で!!
状況 :まだ、ムッとしている香山
AD :え?
香山 :一度やっちゃうと、彼らのリアクションも新鮮味にかけるでしょう
AD :はい...
香山 :本番いきましょー
AD :はい!本番まいりまーす!!本番5秒前!4!3!
状況 :指を折りながらカウントダウン。2からは、指折りだけ
    キューを出した後「関白宣言」が流れる。ADは急いで
    下手に置いてある3つの椅子を中央に1m間隔くらいで並べ始める
香山 :こんにちわ、香山今日子です。今日から始まりましたこのコーナーでは
    ティーンエイジャーたちの様々な活動をレポートすることで
    彼らのリアルな表情を伝えることができればと思っています
状況 :舞台上手に3人の男が現れる。真ん中は、派手な格好のいかにも
    ロッカー。サングラスをかけ、髪をたたせ、ブーツに皮ジャン
    その下は、どくろのイラストのTシャツ。
    その右に、黄色いチェックのシャツを着た男。左に水色のシャツを着た男
    2人とも気が弱そうな感じ。真ん中の男が髪をつかんで、脅すように
    何か耳元でしゃべっている。派手な男が舞台に出ていこうとするが
    ADが押さえて止めている
香山 :それでは、さっそく今日の出演者の方々に来てもらいましょう。どうぞ
状況 :ADが、離れ、派手な男がゆっくり歩き出す。他の2人はADに後ろから
    押し出されるようにして歩き出す。舞台中央で、突然、派手な男が
    転ぶ。両手を床についている。じっと無言で見つめる香山
    10秒ほど、そのままの状態
派手男:オイショ!
状況 :突如、両手で床を押し、飛び上がるように前に進む派手な男
    再び、両手を床につく
派手男:オイショ!オイショ!
状況 :同じ事を3回ほど続けて、立ち上がり、手をはたきながらばか笑いをする
派手男:OK!
    変なモノを見るような表情の香山。なげやりな感じで
香山 :はい元気いっぱいです。座って頂戴
派手男:OK!
状況 :暗い表情で座る他の2人。黄色いシャツの男は舞台下手
    水色のシャツの男は舞台上手の椅子。派手な男は、中央の椅子に
    飛び乗る。無言で見ている他の3人。左上の方を見上げながら
    ゆっくりとサングラスをはずす。カッコをつけているつもりらしい
    しばらく、そのまま静止している
派手男:OKOK!OK!OK!
状況 :笑いながら、わめき、椅子から降りて、座って足を組む。
    香山、あきれたように
香山 :みさかいないって感じですが
状況 :黄色いシャツの男の向かって左に立っている香山
    黄色いシャツの男に向かって
香山 :あなたたちは、何をやってるんでしょう?
状況 :すかさず、右手を右前方に突き出し、なにかを示すような感じで
    (がちょ〜んの手が伸びたような状態を考えて下さい)
派手男:ハード!
状況 :右手をちょっと引き、ちょっと左にずらして、同様に突き出しながら
派手男:ロック!
状況 :同様に、手を正面で
派手男:バン〜ドュ!
状況 :黄色いシャツの男と、派手な男の間に歩いていき、
香山 :じゃあ真ん中のあなたから順番に、名前、学校名、担当楽器をどうぞ
派手男:え゛ぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!
状況 :体を右の方に曲げ、首をかしげる感じでわめく派手な男
    突如として、ばか笑いを始める。だるそうな感じで
派手男:ケンで〜す、ギターアンドボーカルたんと〜してま〜す。そんな感じ?
香山 :学校は?
派手男:早稲田で〜す
状況 :香山、上から睨みつけながら
香山 :ウソつきなさい!
状況 :口をポカンとあけ、香山を見つめる派手な男
派手男:亜細亜...
状況 :観念したように、ぼそっと言う派手な男。香山、黄色いシャツの男に
香山 :君は?
派手男:ああ、ドラムの山田、ベースの田中。そんな感じ?
香山 :学校は?
派手男:高校、バカ高校。名前言ってもなぁ、知らねえよなぁ。こいつら
    緊張してんすよ。テレビ初めて出るんで
状況 :香山振り返り
香山 :あんたに聞いてんじゃないよ!!!
状況 :固まる派手な男
香山 :バンド名はなんていうの?
状況 :うつむいたまま、無言の山田(黄色いシャツの男)
香山 :バンド名はなんていうのよ?
状況 :後ろから、香山の腰の当たりをポンポンとたたき、手を前に突き出して
    先ほどと同じように
派手男:ブラック!ブラック!ブラック!どくろ!
    俺がつけたんだ
状況 :自分の顔を指さしながら、説明しようとするが、無視するように
香山 :だったらそう言えばいいじゃないの
    「ブラック・ブラック・ブラック・どくろ」って。何で言わないの
状況 :無視されて、ちょっと寂しそうな派手な男
山田 :...だって...
状況 :うつむいたまま、話し出す山田
香山 :だって、何?
山田 :根岸先輩が...
香山 :え?
派手男:おい
状況 :ドスのきいた声で脅すように言う派手な男
山田 :...喋るなって言ったから...
香山 :根岸って?
状況 :見るからに、わざとらしく
派手男:あ、根岸がそんなこと言ったのか
田中 :言ったじゃないすかぁ!!!!!
状況 :突然、派手な男の方を向き、座ったまま全身に力を入れ
    両つまさきをたて、腕を開いて、叫ぶ
田中 :もし喋ったら、喋った単語の数だけぶっとばすって!!
状況 :そして、派手な男を指さしながら
田中 :根岸先輩、言ったじゃないすかぁ!!!!!
状況 :体を震わせながら立ち上がる田中
田中 :俺もう我慢の限界です!!!
状況 :立ち上がる根岸。後ろからしがみついて押さえる山田
根岸 :何やってんだよ!放せよ!!
状況 :もがく根岸。根岸を制するように
香山 :放しちゃダメ。撮って。それで?
田中 :うまいことばっか言って、デビューは決まってるとか!
    契約金がごまんと入るとか!
根岸 :ごまんとじゃねえよ!五万入るっつったんだよ
状況 :言い訳する根岸。田中に言い聞かせるように
根岸 :もうすぐ入るから、そしたらお前らと分けるから
香山 :おもしろいわ、どう思う?
田中 :ウソだぁ〜!!!!!
根岸 :ウソじゃねえよ
田中 :先輩、ギター歴19年4ヶ月で、生後8ヶ月からギターやってるだなんて
    言って
根岸 :ウソじゃないも〜ん
状況 :斜め上を向き、ふざけるように言う根岸
田中 :俺一緒にバンド2年間やってきて
状況 :右手で2を示す。そして、左手で1を示しながら
田中 :先輩がギター弾いてるとこ一度も見たことないっすよ!!!!!
状況 :血管が切れそうなほど怒鳴る田中。突然、しがみついたままで
山田 :俺もぉ〜!!!!!
根岸 :しょっちゅう弾いてんじゃねえか、Fシャープとか!
状況 :ひきつった顔で説得する根岸
根岸 :あ、ほら、お前、さっき楽屋で弾いてたの、お前見てただろう?な、な?
山田 :あんなのただじゃら〜んってやってるだけだ!!!!!
状況 :根岸を放し、左手でギターを持ち、右手でギターを弾くまねをしながら
    叫ぶ山田。すぐにまた、根岸にしがみつく
根岸 :あれ、お前、ドラマーだからわかんねえんだよ!な、な、放せ
状況 :ふたたび、もがき始める根岸
田中 :それに
香山 :それに?
田中 :先輩は下着泥棒だ
状況 :吐き捨てるように言う田中。呆然として、田中を見つめている根岸
    しばらく、固まっている
根岸 :...おま
田中 :見城マユミの下着を盗んだ
状況 :根岸、うろたえて、うわずった声で
根岸 :な、何言ってんだ、お前!
香山 :誰?見城マユミって?
根岸 :おい!あんた!おい!
香山 :黙ってて!誰なの、見城マユミって?
田中 :僕の同級生!
根岸 :おい!
田中 :先輩の好きな人!
根岸 :好きじゃねえよ!!
田中 :ウソだ!
根岸 :ウソじゃねえよ!!!!!
田中 :好きでもないのに下着を盗むなんて犯罪っすよ!
香山 :好きでも犯罪よ
状況 :冷静に言う香山。香山の顔を見る田中。ちょっとだけ冷静になる
田中 :...だから僕、バンドやめます!
根岸 :だからって、何だよ、おい。あ、お前プロになりてえんだろ、な?
田中 :黙れ、犯罪者!!!
状況 :吐き捨てて、回れ右をして走り去る田中
根岸 :おい!おい!!!
状況 :しばらく呆然とする根岸。正面を向き、テレビカメラに向かって笑いながら
    「あらやだよ」みたいな感じで右手を折りながら
根岸 :あいつ、妄想狂なんですよぉ。ほっとこう、なぁ
状況 :しがみついている山田の腕をぺちぺち叩きながら言う根岸
香山 :ちょっと
AD :はい?
状況 :香山に呼ばれADが走ってくる。ゼスチャーを交えて、何か指示する香山
    うなずくAD。笑いながら、根岸の方に走っていく。微笑みながら
    両手をあわせてADを拝む根岸。山田の腕をペチペチたたいて根岸から離す
    そして、おもむろに後ろから根岸にしがみつく。しばらく笑っているが
    突然、形相を変え
根岸 :何やってんだよ、おい!放せよ!
状況 :再びもがく根岸。山田、根岸の前に回り、うらめしそうに睨む
    根岸、その視線に気付き
根岸 :何だよ。あ?お前も言いたいことがあんのか?
    あるんだったら言ってみろ、おい!
香山 :言っちゃいなさい
状況 :香山を指さし、もがきながら、泣きそうな声で
根岸 :なんだよあんた、俺あんたになんかしたかよ!
香山 :「僕もやめます」って言っちゃいなさい
山田 :...僕も!
根岸 :僕も何だ?
香山 :そうよ偉いわ、「僕もやめます」でしょ
状況 :山田を睨み付ける根岸。全身に力を入れ、体を震わせながら
山田 :...僕も、や、や、や、やめ
状況 :どもる山田
香山 :がんばって、もうちょっとよ。「ます」、「ま」と「す」だけ
状況 :意を決したように、大きく息を吸い込み
山田 :...僕も!やめ
根岸 :お前!
状況 :さえぎるように言う根岸。なにか、得体のしれない自信をみなぎらせている
根岸 :......お前、ハムスター飼ってたよなぁ
状況 :不気味な笑いを浮かべながら言う根岸。山田の表情から力が抜けていく
根岸 :あれ、電子レンジでチーンてしてやろうか?......
    チ〜ン!...ほっかほかぁ
状況 :笑いながらつぶやく根岸。青ざめた表情で、無言の山田
根岸 :こいつ動物好きのいい奴なん
山田 :ま〜す!!!!!やめますぅ〜!!!!!僕もやめますぅ〜!!!!!
状況 :突然叫ぶ山田。叫ぶたびに根岸の目の前で手をパン!と叩く
        そして駆け出していく
    呆然とした表情で、ぴくりとも動かない根岸。根岸をゆすってみるAD
    冷静な香山、正面を向き
香山 :さて、いかがでしたか?今日の魅せられて青春
AD :気絶してま〜す
状況 :マネキンを抱えるように、根岸を抱えて下手へ持っていく
    根岸の右手がぷらぷらと揺れている。「関白宣言」のジングル
香山 :明日もまた、熱く青春を燃やす若者達をお送りします
    レポートは、日本テレビの香山今日子がお送りしました
    それではまた明日、ごきげんよう
状況 :照明が暗くなり、香山にスポット。香山下手の方を向き、うなだれる
香山 :はい、確かにやりすぎました。扇動する気はなかったんですけど
    はい、すいませんでした。ちょっと燃えてきちゃって
状況 :誰かに説教される香山。後ろではADが椅子をかたづけている
    突然、顔を上げ
香山 :いえ、憎かったわけでは。恨みの炎って、そういうんじゃなくて
    ただあの子たちのリアルな姿を
状況 :力説する香山、再びうなだれる
香山 :はい、そうですね。そうですね。はい、確かに番組の主旨とは違ったと
    思います。明日から気を付けます
状況 :顔を上げ、淡々とした口調で
香山 :クビですか?番組を?あ、局を?そうですか。ごめんなさい、ちょっと
    お茶よろしいですか?びしゃ、ハゲ頭をぺち、どんがらがっしゃーん
状況 :お茶を顔にかけ、頭を叩いて、テーブルをひっくり返すまねをしたあと
    正面を向き
香山 :こうして私はこの日から、フリーの芸能レポーターとなったのです
状況 :舞台上手に走って出ていく香山