『一瞬の微睡み』


【前の頁に戻る】



 ぼんやりと目をさました。
 目の前に、碧い目があった。にっこり笑うのを見て、嬉しくなる。
「おはよ」小さな声。「起きてる?」
 こっくりとうなずく。だれだっけ。碧い目。
「おなか、すいてない?」
 ぼんやりと考える。おなか。おなかって......。
 碧い目が動いた。たんぽぽみたいな髪の色。
「まっててね、かあさま、よんでくるね」
 とん、とたとたとた、と木の扉を開けて、姿が消える。
 扉の向こうから、誰かが来て枕元に座る。金の髪、碧い目。きれいなひと。
「気がついたのね」
 柔らかい、優しい声。手が額の前髪をかきあげてくれる。
「ずうっと眠っていたのよ。さぁ、ちょっと起きてスープを飲みましょうね」
 首のうしろから抱き起こされて、その人の顔を見上げた。
「ぼく、どうしたの?」
 優しい笑顔だった。「坊やはずっと病気だったのよ。おなかが空いたでしょ
う。スープを飲んで、元気になりましょうね」
 木のスプーンから、温かいスープをゆっくりと飲む。
 ふわりといい匂いがする。お母さんの匂いとおんなじだ。
「お母さん、どこ?」急に胸が痛くなって、涙が出てくる。「お母さんは?」
 その人は悲しそうな顔をした。「まあ、坊やの一族のかたは亡くなってしま
ったのに」
「お母さんは?」涙が止らない。ここはどこ?
「泣かないで」さっきの子が涙を拭いてくれる。「ボク一緒にいたげるよ。一
人ぼっちじゃないよ」
「いっしょ?」「うん、だから元気になって、いっしょに遊ぼ」
 こっくりと頷く。「元気になる」差し出されたスープを飲む。だんだん、体
がぽかぽかしてきて、眠くなる。抱いてくれる腕に体を預けて目を擦る。
「よぉくお休みなさい、坊や」お母さんの声がする。「早く元気になるように」




【次の頁へ】【前の頁へ】 
【小説目次へ】【トップページへ】