雑記29:止めの一言(1998.12.19)


これは大阪は梅田の阪急駅近くで人待ちをしている時にたまたま目撃した光景である。

そこは人通りの多いとあるブティックの前だった。実は人と待ち合わせをしていたのではなく、彼女がそのブティックで買い物をしている間外で待っていたのだ。

話しは外れるが、私はその時初めて女性が洋服を買うところに付き合ったのだが、なかなか時間のかかるものであると実感した。

まず始めはその店の中を一通り見回し、次に一着ずつ吊り下げられた洋服を順々に見ていく。私がよく利用するアウトドア系の男物を扱っている店などでは、仮に何着か吊るしてあっても同じ物が何着もあって(サイズ違いとか)、種類は数種類しかないので1種類ずつ順々に見ていってもそれほど時間はかからないのだが、女性物を扱っているブティックではどうやら全て違うものが吊るしてあるようで、何も考えずに見るだけでも時間がかかるのである。

そしてさんざん見て品定めを終えると、なんと何も買わずに店を出てくるのである。そうやって何軒もの店を回って、「やっぱりあれがいいなぁ。」と最初に入った店に戻ってくるのである。

しかもしかも、戻ってきて「じゃあこれくださいな。」と買うのかと思いきや、またまた何着か手にして今度は試着するのだ。そして鏡を見ながらああでもないこうでもないと言いながらやっと購入する1着が決まるのである。

まあ、パソコン好きが秋葉原をさんざん徘徊してあちこちの店を物色し、悩みに悩んだ挙げ句最初に入った店で最初に見たやつを買っていくのと同じなので理解できない話しでもないのだけど。おっと、こう書くと私がパソコン好きみたいに聞こえるがそうではないので勘違いしないで欲しい。別にパソコン好きと思われても構わないが、間違った情報を与えたくないので.....。

で、それだけ吟味して買ったお気に入りでもすぐに飽きてしまって着なくなってしまうのだから、ナンパされて気軽に「オッケーよ!」なんて付き合い始めた男にすぐ飽きてしまうのも肯けるのだ。

あっ、これはあくまでも一般論で私の彼女がそうであると言ってるわけではないので誤解しないで欲しい(と誰もが思ってるんだろうなぁ)。って、誰に言ってんだろう


長々と脱線していて申し訳ない。ここらで話しを本題に戻そう。

さて、そうやってブティックの前で彼女を待っている間に私はいつものように目の前を行き交う人々をじっくり観察していた。

面白いもので、前を通る若い女性の九割九分ぐらいがわざわざ立ち止まってショウウィンドウを覗いて行く。しかも、ほとんどが明らかにこの店のショウウィンドウを見るためにやってきているのではなく、たまたま通りかかっただけだよって感じの女性なのにだ。

で、その中で「あっ、この人のファッションはなんとなくこの店の雰囲気と同じだなぁ。」なんて思うと十中八九私の横をかすめて店の中へ入って行くのだ。

ショウウィンドウの効果について疑問を抱いている方はぜひ1、2時間ほどどこかのブティックのショウウィンドウの前で観察してみてはいかがであろうか。きっと「へぇ、ショウウィンドウってこんなに集客効果抜群なんだ。」と実感できるであろう。

と、そんなことを考えながら行き交う人々を観察していると、日本中のオバチャンと娘を並べて「どれが親子だと思うと聞かれても百発百中で当てられるというほどそっくりの親娘が私の横に立ち止まってショウウィンドウを覗き込み始めた。


*****

注:記憶に頼った関西弁なので、多々おかしな所があるかと思いますが大目に見てやって下さい。

娘:「見て見て、これかわいいわぁ。」
母:「そうやねぇ。」
娘:「このバーバリーみたいなチェックがええなぁ。」
母:「帽子もかわいいで。」
娘:「でもちょっとスカート短いんちゃうかなぁ。」
母:「この短いのがええんやろ、スラーっとした足が見えとったらカッコええで。」
娘:「でも、こんなんいつ着ればいいんやろ。」
母:「普段着るんとちゃうん?」

なんか話しが噛み合っていない。どうやら娘は自分が着ることを前提に話しをしていて、母親の方はスタイルの良いきれいな子(よその子)が着ることを前提に話しをしているようだ。

さすが母親、自分の娘のことはよく分かっている。というか、初めてこの娘を見る私ですら「あんたにはムリと分かるのだ。だってどう見たってその娘は私と同じぐらいの体重がありそうなんだから......。

でも娘は『この服が欲しい!』と思っているようだ。そんな娘の心のうちを読み取っていたのか、母親は「お前には無理だよ」ってことを娘に分からせようという攻撃に出た。

娘:「こんな派手なん、普段から着られへんわ。」(でも欲しい!)
母:「まぁ、スタイルが良くないと無理やわな。」(だからやめとき)
娘:「着ても行くとこないしなぁ。」(でもやっぱり欲しい!)
母:「カッコええ彼氏でも横におらんと、一人で着とっても変やわ。」(アンタにはムリ)
娘:「でも、別に友達と遊びに行く時着とってもええやん。」(だから欲しいの!)
母:「友達いうてもこんなんが似合う子おらへんやんか。」(だからやめときって)

なかなか娘も譲らない。私はこの母親がどうやって娘を納得させるのか期待してやり取りを見守っていた。

娘:「で、なんぼするん(絶対買ったる)
母:「うわー、高いわ。6万やて。」(これで諦めるやろ)
娘:「なら買えるわ。」(なんのこれしき)
母:「買えるってアンタ、これ着るつもりなんか(ムリやムリや)
娘:「だって、可愛いやんかー!」(私には似合うわよ)
母:やめとき!(なにいうてんの!)
娘:「ええやん、自分で買うんやから。」(ほっといて)
母:あかんて!(もっと自分をしっかり見いや)
娘:「なんでやの。ええやんか、たまには。」(いちいちうるさいなぁ)
母:「アンタには似合わへん。」(ああ、言ってもた)
娘:「そんなことない(おいおい ^^; by ken)
母:もっと痩せてからにしぃ!(で、出た〜止めの一言!)
娘:「.......せやな。」(ガクッ)


この勝負、母親の勝利に終わったのだった。


おしまい。