雑記27:ほんの冗談だったんです(1998.12.11)


突然だが三重県は伊勢の”赤福餅”というのをご存知だろうか?
東海地方の方にはお馴染みの
♪いっせ〜ぇのめいぶ〜つぅ〜、あっかふっくもちは・・・・・
というテレビCMまでやっているという、”浜名湖=夜のお菓子、ウナギパイ”に匹敵する”伊勢のお土産=赤福餅”というやつである。

ここ3年ほどはとある島国(と言っても国内ですよ)に転勤になった関係上行ってないが、以前は私は年に一度この赤福餅を食すためにお伊勢参りをしていた。

というのも、伊勢神宮の内宮からすぐ、徒歩で数分の所に赤福の本店があるからだ。で、何でお伊勢参りをするのかと言うと、いつも伊勢神宮の駐車場に車を止めているので一応足を運ぶからだ。だって、”参拝者専用駐車場”って書いてあるから。
ちなみに、いつも「駐車場のオッチャンに怒られませんよーに」ってお願いしていてまだ一度も怒られたことが無いから、お伊勢さんというのはとっても御利益がある神社であることが分かる。


脱線した。とにかく年1回赤福餅を食べに行くということが言いたかったのだ。

では、なぜわざわざ本店まで足を運ぶのか別に赤福餅を食べるためにわざわざ赤福本店へ足を運ばなくても、名古屋駅でも難波駅でも新大阪駅でも売っているのでそれを買って食べれば良いのであるが、なんとなくあの赤福本店の雰囲気が好きなのだ。

堂々とした構えの建物、時代を物語っているぞと主張しているかのような”名物赤福”という看板、2つ並んで土間に半分まで埋もれている大きな釜、赤い毛氈(といっても繊維だろうけど)の縁側、そしてその縁側に座って食べる一人前で3つ盛られた出来立ての赤福餅と美味しいお茶・・・・・

これら全てが一つにまとまっている、そんなところが好きなのである。お近くにお住まいでまだ行ったこと無いよという方、近々伊勢方面に行くことがあるよという方は是非立ち寄って欲しい。ちなみに今は一人前3つで280円だそうだ。
それから、言っておくが私は決して伊勢神宮(ただの”神宮”というのが本当の名称らしい)や赤福関係者ではない。ついでに名古屋の熱田神宮の関係者でもない。名古屋生まれで熱田という名字であるのは単なる偶然だと思う。ただ、愛知県内でも2,3軒しか無い姓ではあるが.....。


さて、お伊勢さんと言えば京都・奈良と同様、外国人の方々が多く訪れているスポットの一つである。突然何を言ってるのと思われるかもしれないが、本題は赤福本店でのとある外国人の方々と私とのちょっとしたやり取りなのである。


*****

店:「あら、いらっしゃーい。ご注文は
私:「えーっと、一人前、ここで食べます。で、お土産に12個入りと8個入り下さい。」
店:「はい。あっちで食券を買ってちょーだいね。お土産は後から買った方が荷物にならなくていいよ。」
私:「そうですね。そうします。」
店:「お兄さん、どちらから
さすがに平日の、しかも大雨が降っている日の昼間は観光名所と言えども空いている。で、赤副本店もご多聞に漏れず空いているので店番のオバチャンも暇なのである。だからちょうど良い話し相手が来たとばかりに客である私に話し掛けてきたのである。
私:「名古屋から。」
店:「へー、うちの息子も名古屋に勤めてるのよ。」
私:「あ、僕は勤めてるんじゃなくて学生だけど。」
店:「まあ、学生さんは暇でいいねぇ。今日はオバチャン達も暇だけど。フフ。」
私:「ホント、全然お客さんいないねぇ。」
店:「あっ、いらっしゃいませ。」
私には”あら、いらっしゃーい”なのに今度の客には”いらっしゃいませ”だ。オイ、どういうこった、オバチャンよぉ?と思って後から来た客を振り返って見た。

それは二人連れの外国人だった。なんとなくオバチャンの反応に納得した。オバチャンと言えども外国人の方々には身構えてしまうようである。
オ:「何になさいます」(いきなり丁寧モードON)
外:「ココ、タベル、トコロ
オ:「はい、ここで食べれますよ。」(でもら抜き言葉)
外:「アーン、ナニ、タベル
オ:「そこで作ってるお餅です。」
オバチャンは店の土間にある半分埋まった釜を指差した。それは見るからに旧そうな2つの大きな釜で、実際この中で餅が蒸されているようだ(中を見てないから分からないけど)。で、その2つの釜からは濛々と真っ白い湯気が出ていた。
外:「コレ、ナンデスカ
オ:「ええっと、おもちです。」(おいおい)
外:「オモチ
オ:「はい。お・も・ち。」
目茶苦茶である。日本人に対する回答なら分かるが、地面に半分埋まっている大きな釜をいきなり”オモチ”って言われたって外国の方にわかるはずも無い。きっと”オモチ”というものは知っているんだろうけど、それはあくまでも食べ物であって今目の前にある初めて見る得体の知れないものと”オモチ”とはどうやっても結びつかないのだ。

不思議そうな顔をしている外国人。なぜ分からないのかが分からなくて、これまた不思議そうな顔をしているオバチャン。両者ともぎこちなく固まってしまっていた


そこで、暇だった私はなんとか両者を和ませてやろうとほんの冗談のつもりで固まっている外国人達に近づいてジェスチャー入りでこう説明した。
「この煙を体の悪いところにこうして擦り付けると良くなるんですよ。」

甘かった。こんな冗談もやはり日本人にしか通用しないのである。私が釜から出ている湯気を頭や腕に擦り込むようにして言うや否や、2人の外国人は、
「オウッ!シッテマース!」
といきなり鞄を下ろし、一人は胸をはだけて、もう一人はズボンの裾を捲って赤福餅を蒸している釜から出ている湯気を擦り付け始めたのである。

しかも、タイミングの悪いことにそれまで全然客なんていなかったのに、ちょうどこのへんてこりんなパフォーマンスの最中に観光バスのご一行様がドドッと押し寄せてきたのだ。

店のオバチャンはゲラゲラ笑ってるし、観光バスの爺チャン婆チャンたちは珍しいものをみたとばかりカメラのフラッシュシャワーを浴びせまくっているし、当の外人さん達はゴキゲンで愛想を振り撒いている。

私は大急ぎで奥の縁側で一人前の赤福をたいらげると、お土産の折詰を買わずに裏から赤福本店を後にしたのだった。

*****


あの時の外人さん、あれはほんの冗談です。自分達でも写真を撮り合いしてたけど、決して国に帰って見せないで下さい。変な誤解を招いてしまいますので。
それから、まじめな日本人の皆様、私が悪うございました。こんな奴がいるから日本についての間違った情報が流れてしまうんです。
どこかで外国人に変なことを教えている奴を見かけたら注意してやって下さい。それはたぶん私です。だってこういうこと止められないんだもん。

おしまい。


P.S.
 私が学生のころはお土産用の箱入り赤福餅は12個入り+8個入りの方が20個入りより安かった。不思議だったので「なんでって聞いたら「あら、ホントだ」って言われた。
今はどうなっているんだろう