雑記12:バブリーな時代のお話(1998.10.08)


これは私が大学生のころ、そう、世間でバブルがはじける前のバブリーな時代のお話である。

私はマイカーの助手席に1人の女性を乗せていた。いわゆる女子大生という種類の女性だ。
で、この女性もご多聞に漏れずバブリーな時代の女子大生だった。当然身につけているものはみんなどこぞのブランド品、デートで食事をするのは福沢さんでお釣がくるような店はダメといったように。

そんな彼女としばし歓談していると、の話題になった。その中で彼女は
「私、彼氏の車はBMとかポルシェじゃないといや。国産車なんてダサいじゃない。でもベンツはいや。××ザっぽいから。」
と言い放った。
当時私が乗っていた車は、新車なのに諸経費込みで福沢さん100人でお釣がくる車(もちろん国産の普通車)だった。その助手席に乗せてもらっている状況で、そんな事をぬけぬけと言い放ったのだ。

(まあ、確かにその彼女と私とは単なる知り合いで、月に1度会うか会わないかという関係だったが。)

私は「ふっ、親のすねかじってカッコ付けてるボンボンのどこがいいんだよっ」と思いながらも「そうだね。ポルシェとかBMとか乗ってみたいね。で、なんでポルシェやBMがいいの?
と聞いてみた。すると彼女
「だってカッコイイじゃない!」
と答えた。私が皮肉っぽく高いからじゃなくて、カッコイイから?」と聞き返すと
「そう、パッと見カッコイイでしょ。」
”見た目がカッコイイ”ことを繰り返し主張するのだ。

あまり深い付き合いではなかったが、私は彼女がポルシェやBMを見た目で区別できるような女ではないことは知っていた。どうにも怪しい。本当にポルシェやBMを知ってて”カッコイイ”と言っているのかなんとかして化けの皮を剥がすことができないものか。私は頭の中であれこれ化けの皮を剥すための質問を考えながら他愛も無いおしゃべりを続けた。

と、その時、まるで私の心の内を見透かしているかのように対向車線に緑色のポルシェ911カレラが現れた。しかも信号待ちでお互い先頭に停車していて、なおかつ対向車線はそのポルシェ1台のみ、まるで”ハイッ、私が噂のポルシェだよ〜。よく見てちょうだいね。”と言わんばかりである。

チャンス到来である。私はちょっと試してやろうと思い、隣の彼女に聞いた。
私:「あの前に止まってる緑の車、何か分かる
女:「知らない、あんな変な車
私:(心の中で)『変な車?ふん、やっぱり思ったとおりだな』
女:「ねえ、あの緑の変なやつなんて言う車?」
私:「あれはフロッグって言うんだよ。フロッグ、日本語にするとカエルだね」
女:「わーホントだー。カエルそっくり!カッコ悪〜い
私:カッコ悪い?あの車のことカッコ悪いと思うの?」
女:「うん、だってまんまカエルじゃない。あんな車乗る人の気が知れないよー」
私:「へ〜っ、でもあれがさっき話してたポルシェだよ」
女:えっ?ポルシェ?やっだー、さっきフロッグって言ったじゃないの」
私:「ああ、ちょっと試してみようと思ってね」

その後、私は彼女に会っていない。バブルが遠い昔となった今、彼女はどういう女になっているのだろう?
「車はやっぱりコンパクトでハイトなワゴンよね〜」(なんのこっちゃ)
とか言いながらCUBEを見て「やだー、ダッサ〜い、あのちっちゃなバンとか言ってるのかな

な〜んてことないよなー。彼女ももういい歳なんだしさ、案外どこかのお金持ちと結婚して本当にポルシェ乗ってたりして。

.......おしまい