臨床経絡
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脈 状

<はじめに>

 経絡治療家において脉診は欠かすことのできない診察手段であって毎回の診療においても繰り返し脉診をしながら診断、治療を行うのが必須です。従って患者の脉状の変化には他の誰よりも常に注意を払って診療を行うことになります。
 脉診には大きく分けて脉差診と脉状診があり経絡治療ではからだの状態の凡そ全てをこれで推し量ることができます。脉差診(六部定位脉診)では十二経絡の大過不及を橈骨動脈の拍動の強さを観察することによって主治経絡などを決定します。
 脉状診では鍼灸においては経絡の変動の確認や予後の判定の他、刺鍼法やドーゼを 決定すること、更に毎回の治療直後に治療の良否をはかるのに重要です。
 もし治療直後の脉状が治療家の思うところでなければ決して治療を終了してはなりません。

 また更に脉状診においての予後の判定については西洋医学的に言えばこれは橈骨動脈の観察をしていることに他ならないから延いては脉診は循環器疾患の予後予見に大いに役立つはずです。

 以下に代表的な脉状を列挙します。しかし実際には脉状診ほど主観的な診察法はなく文献を読み漁っても始まりません。実技研修を通してより客観的な領域に近づける必要があるので、そういう質の高い研修の場を捜し求められることをお勧めします。

脉状

性      状

陰陽

表裏

症 状 及 び 補 足

水にただよう木のごとし按ぜばかくれて指にあたらず

(陽)

浮にして力あるは風なきは虚。寸口浮は眩暈頭痛す。
関上浮は胃虚して腹はり筋痛み、身痛む。尺中浮は腰膝痛む。

コウ(*1)

うつろになりて中はなし小口を切りて葱を按ぜ

 

吐血、下血または血滞りてながれず、経絡にみたざるなり

なめらかにして丸く打つ球をつなぐにひとしかるべし

(陽)

血多く気少なきことを主る。手足くたびれ、小便赤く渋り痰気内熱を主る

按すも挙ぐるも力あり
遅速もなくて強く大きし

 

陰気隠れて内にあり、鬱熱脾胃を蒸して上食し、あるいは喘咳あるいは嘔吐し、手足つかれものうきこと主るなり

張りたる弦を按ず
きびしく急に浮きしずみなし

(陰)

力衰え、盗汗、手足痺れ疼み
皮毛枯れかじけたるを主る

肝部の本脉
他では血虚

よりのかかれる弦と見よ
ふぞろいにしてはやくかたきぞ

 

身痛み、腫物、癰疽に見わる
隠れたる風気陽邪上り侵して物にくるい驚き易きを主る

ふとく来りて長く去り
ひろく踊りてちからあるなり

 

脹満、頭痛、偏身疼痛、大便通ぜず
口中乾くことを主る

熱、風、気

かすかに打ちてやわらかに
小く細くかるくおぼゆる

(陽)

気血虚寒して臍下の冷積いたみをなし、瀉をなす
陽気衰え敗血休まず小腹虚し骨髄枯れ崩漏白帯を主る

按せばしずみて強く打ち
うかめてなきは浮の脉の裏

(陰)

邪裏にあり、気鬱疼痛を主り、臓腑冷えて三焦ふさがり、両脇の間、気ふくれ、手足共に冷えるなり

浮にやはらかに力なし
往くも来るもゆるやかとしれ

 

胃の気のある平脉
手足煩、悶え、息づかいはやし

四動の平脉より遅く
三動の遅脉よりはやし

ショク(*2)

細く動きて渋るなり
指を挙ぐれば無きように見ゆ

(陰)

腎の精汁尽きて身を潤すの血渇き少なくなる脉

極めておそく力あり
指を沈めてゆるく尋ねよ

 

腎虚して安からず、陽虚裏寒。
冷症をあらはす。

沈みかくれて骨につく
筋の下にてうかがうて見よ

 

毒気三関に塞がり、手足おもく寒なり陰陽潜伏して関格閉塞す

和らかにて力なし
手を転くしてさぐり求めよ

 

気血おとろえつかれ、陽虚自汗を主る。
五心熱し、丹田かわき、骨蒸労熱を主る

たをやかにして按せばたえ
軽くやわらか綿とおぼえよ

(陰)

精気虚極して骨髄空虚し、一身痺疼痛、寸口弱陽気虚し自汗、関上弱胃気上足、尺中弱陰気絶え骨肉痺れ肌いきる

竿のごとく長うして三部の間に余りこそすれ

(陽)

 

気血条理ありて乱れず緩を帯びる時は百病治し安し

按すも挙ぐるも数ありて短く去るは長の裏なり

(陰)

 

気滞り或いは胃の気おとろえて少し治しがたし。尺部にあるは死脉

力なくしてやわらかに広く大に遅く有りなし

 

 

気血虚搊す

せわしき中に一止まりまたまた来り又はつまづく

 

 

陽盛んにして陰上足す。熱を裏に蓄わうる事甚し

おそく緩くぞ往き来る
むすぼれては時に止まる

 

 

陰盛んにして陽相入れず。内外邪滞って積となる。血ながれ通ぜず、気めぐり散ぜず、脾間に積気あって手足痛み、もだゆる

何十動と極まりてぎょうぎ乱さず打を切れるなり

 

 

元気おとろえ極りて臓気絶ゆる。
痛み極りて代脉あらわす事あり。

沈みかくれて強く大きし
沈に似、伏に似たるは牢の位なり
実、大、弦、長の四脉を合するは牢の体なり

 

陰中の陽脉
牢にして長なるは肝の脉
牢堅牢固なるは寒ずるとき
失血陰虚の者牢なれば危うし

豆を転ばすごとくなり
踊らず動き関のみにあり

(陽)

 

四肢拘攣し、多くは疼痛す。
虚労栄衛虚し血利を主る。

来るも往くも遅くしていかにも細きいとすじとしれ

 

 

元気上足。精血乏しうして形痩せかじけ、足脛しびれ、毛髪かわき、力弱く、髄冷え、腎の精汁漏ることを主る

一息六至

 

風燥熱煩、陰虚陽盛

洪の盛んなる者なり

 

浮大〜陽の病
沈大〜陰の病

血虚気盛

至数斉しからず来り去る事定まりなし

 

 

心脉は浮大にして散じ
肺脉は短ショク(*2)にして散じるは平脉

気血ともに虚し
根本脱離の時

弦にしてコウ(*1)なり
鼓皮を按すがごとし

 

弦を寒とし、コウ(*1)を虚とす。
寒虚相搏つを革という

脉法手引草より抜粋 ( )は脉経より抜粋

コウ(*1) ショク(*2)