臨床経絡
はじめに
十二の都市を持つ国の話
経穴ゲートスイッチ理論
気  論
十二正経と奇経と経穴の関係
ゲートスイッチ
代表的スイッチ
補 瀉 論
理論の実践
治療原則
刺 鍼 法
四  診
脈 状 診
比較脈診
症 例 集
役立つ古典理論
陰陽五経
生  理
脈  状
病  症
奇  経
子  午
附録;難経
臨床ひろば
異論な医論
経穴ゲートスイッチ理論(仮説-本論)

実は前述の件に関しては奇経に限らずそれぞれの十二経絡や臓腑や子午の関係に於いても同じようにゲート(交会している場所)の開閉によってその調和が成り立っていると考えて良いと思います。おそらく自動調整機能が働いている時はいくつかのゲートが自動的且つ適切に作動することで経絡や臓腑、奇経、子午などの調和を保つようになっていると考えられます。そして経穴はそれらのゲートを体外から作動させることの出来るスイッチの役割をしていると考えられます。
したがって体が何らかの理由によって自動調整機能が正常に働かず調和を失ったときは調和を取り戻すために必要なゲートを開閉させることのできる経穴に鍼をすると良いはずです。
ただし、どの様に弁証するかによって同じ病症においてでも必要なスイッチ(経穴)の種類や数に違いが出てくることがあります。例えば非常に緻密に弁証していけば場合によっては1箇所のスイッチ(経穴)によって寛解治癒することも可能性としてあります。実際、臨床現場では偶然であったとしてもそういう場面(唯ひとつの経穴に刺鍼しただけで症状が消失した)を経験している臨床家も多いはずです。しかしそれほどの結果をより高い確率で意図的に導き出せる臨床家となるとそれほど多くはないはずです。
 この様に経穴を「自動調整機能(生体恒常性)の稼働のためのスイッチ」だとすると治療はより高次のスイッチ(経穴)を選択することで「影響のより大きいゲート」や「数多くのゲート」をコントロールすることができます。つまり少数のスイッチ(経穴)で寛解治癒に導けるはずなのです。そしてそのスイッチ(治療穴)の選択法としてこれまで様々な弁証法や理論が考え出されてきました。特に様々な理論を包括している経絡治療や中医学などは現在最も高次のスイッチを選択する方法論(弁証法)としては優れていると思います。しかし自動調整機能はそれらの理論によって機能しているのではなくそれらの理論は自動調整機能を統計的に後付けで説明しているだけに過ぎませんから唯一絶対的な弁証法というものはありません。したがって臨床現場に立つ者は複数の弁証理論を組み合わせて最適な治療穴を見つけ出すことが大切です。
ここで私の考える経穴ゲートスイッチ理論(仮説)による経穴の特徴について列挙してみます。


1  ひとつのスイッチで稼働するゲートの数はスイッチそれぞれによって変わる、また状況が変われば同じスイッチでも稼動するゲートの数は変わる。
解説)それぞれ違う病症において同じ経穴を選択する場合があります。また同じ患者の同じ病症であっても日が違えば同じ経穴の組合わせで治療したとしても効果の程度に違いが出ることはよく経験することです。
2  治療に適切なスイッチには順位がある。順位が高次のスイッチは複数のスイッチが同時に働いたのと同等以上の効果が期待出来る。したがって適切な治療を行うにはより影響の大きいゲートのスイッチか、より多くのゲートを稼動することの出来るスイッチを選ぶべきである。
解説)まさにこの件について数多くの弁証法が存在するのです。
3  いくつかのの経穴を組み合わせることで単独で使った場合よりも効果がより大きくなることがある。
解説)難経六十九難による選穴法の解釈で「虚すればその母を刺す」の段を自経の原穴に加えその母経の原穴をも選択して治療効果を上げようと試みるのもこれにあたります。


補足)しかし既知のように刺鍼技術によって選穴の次元以上の効果を導くことができる術者も少なくありません。したがってどのような理論に則って治療したとしても、また選穴が同じであってもその効果に差が出ることはしばしばあります。この場合の刺鍼技術とは「如何に正確に経穴に鍼を進めることが出来るか」と言うことと「如何に気を大きく動かせるか」です。
また患者に根本的な気血の絶対量上足がある場合はゲートをコントロールするだけでは充分に自動調整機能が発揮できません。水の無い運河に船を浮かべても船は動きません。湯液や食事療法の併用によって絶対量上足を補う必要があります。もちろんこのとき鍼灸も食欲を促し上手に食べこなしが出来るように併用することができますがその治療量は必要最小限が良く効を焦ってやり過ぎないように注意します。継続的には鍼灸治療に加え食養生や運動が重要になります。
以下に代表的なスイッチを表にして挙げてみます。この中からどの経穴を選ぶかは既知の様々な弁証法に因って行うと良いと思いますが最終的な判断には術者個々のセンスと経験が大きな鍵になると思います。常に自分の行った選穴について術後の考察を怠ってはなりません。従って患者への問診は初診時に限らず毎回丁寧に行うべきです。その作業の継続によってどの経穴を選ぶべきかの直感が鋭く働くようになる筈です。


「六十九の難に曰く、経に言う、虚するものは之を補い、実するものは之を泄す。虚せず実せずんば、経をもって之を取るとは何の謂ぞや。しかるなり、虚するものはその母を補い、実するものはその子を瀉す。当に先づ之を補ってしかして後に之を瀉すべし。虚せず実せずんば経をもって之を取るとは是れ正経自ら病を生じて他邪に中らざればなり。当に自らその経を取る、故に言う、経をもって之を取ると。」