最終章:驟雨の浜辺


 西暦2039年3月30日午後3時35分。

 アスカを握り潰した時よりも、カヲルごとポジトロンライフルで使徒を打ち抜いた時よりも
大きな衝撃がシンジの身体を絡ませる。
 嘔吐めいた圧迫が喉元をせりあがり、息苦しさを感じせせ足許が重くなっていく。
 重力制御は少しなのに何故、歩くのが遅いのか、一歩を踏み出すのが辛いのか。
 硝煙の匂いとレーザーで焼き切られた金属独特の臭気が鼻をついてくる。
 薄暗い機関部制御室内に、人影は……?
 だが、何かが居そうだ。
 行きたくない、そこに行くと大変なことになる、まるで背中を引っ張られるように前に進めない。
 小さく微かに輝くものがある。なんだ?
 一歩、一歩そこへ近づいていく。
 人影は、何かに突き立てられている。
「綾波、レイ……?」
 否定を期待した。
 だが、直面したくない現実は今そこにあるではないか。
「…ぐぅ、るわわぁぁ、レイ、…独りに、一人にしないって、一緒にいるよって、誓ったのに……」
 必死で泣くまいと堪える、だが、
 肉体は感情を超越していた。
「レ、レイ…」
 太刀を引き抜き、血珠がLCRのように漂う中でそおっと両腕で抱き締める。
血糊でシンジのプラグスーツが次第に鮮血に染められていく。
 身体の震えが止まらない。
 手許に力が入らない。
 鈍く小さく煌いたもの、それは左手薬指の婚約指輪。
 子供のようにはしゃいで嵌めていたのに。
 ずっと離さないでいたなんて――。
 今日が本当は何の日かは知っている、知っているからこそシンジの嗚咽は止まらなかった。
 今はただ、手を握り続けることしか出来ないシンジ。
 ただ虚しく泣声だけが響き続ける。

     :
 スーツの共振で二人の日々が思い出されてくる。
    :
 綾波と初めて出会ったのは、もう10年以上も前の事。
 アスカの墓参りの帰り、紅茶を二人で飲んでいた時、柔らかな日差しの下でシンジを見詰めている綾波レイ。
「(あなたと出会えて本当に良かったと思っているわ)」
「これから始まるんだね」
「はい」
 そう、始めるの。
 二人で生きていく日々が。
 この先も今までも、楽しいことよりも辛いことのほうが多いし、悲しいことも。
 でも、私達は生きているのよ、生きていこうとしているの、二人で。
 死んでいった人達が大勢居る、でも、それでも、だからこそ私達はきちんと生きていく、
 それがその人達が生きていたことに対する礼
   :

「ジャン、大丈夫」
「はい、グランディスさん、僕は大丈夫です」
 破壊を終え、ジャンの元に集結する。
 低周波の震動が壁伝いに響いてくる。機関部の破壊は成功したようだ。
「レイちゃんは!?」
「先ほど碇さんが奥に」
「そう、じゃ大丈夫ね、二人なら」
 部隊を集め、点呼に入る。撤収の準備だ。
 コツン、と響く足音。
 薄暗い底から壁を蹴りながら、シンジが上ってくる。
 腕の中にはもう動くことの無い綾波レイを抱きかかえて。
 明滅する薄暗い照明に照らされた顔を見たグランディスが、
「シンジ君、みんな無事よ。
 作戦は成功……、え、ちょっと?」
 小さな照明に映し出された姿。
 唇を堅く閉めたシンジと、その腕の中で血の衣を纏ったレイ。
 何も応えないシンジとレイ。
 シンジは応える術を持たなかった。
 レイは応えることをもう持てなかった。
「なんで、なんでレイちゃんが死ななきゃならないの」
 何の為に闘ってきたのだ、何の為に。グランディスはやっとの思いの口を開く。
 指揮官が取り乱すわけにはいかないからだ。
 取り返しの出来ない悔いとは、この事を指すのだろうか、ジャンは自分の非力を呪うことしか出来ない。
 隊員達は誰も口を開く事が出来ない。
 腕の中から綾波レイの遺体を床に下ろそうとトウジが近づく。
「シンジ君」
 はっと、する。綾波が呼んだ?!
「まだや、未だ完全に死んだ訳でないで、脳波が微弱にやけどあるわ。
 最後にわいの身体が役に立つなあ」
 トウジが綾波の亡骸を走査し、蘇生の可能性を告げる。
「まだ終わらないよ」
「生きる意志が在る限り」
「続くんだ」
「心を感じて」
「まだ大丈夫よ」
「あきらめちゃ、駄目だ」
「君達には未来が在る」
「さあ、感じて」
「抱きしめて」
 次々と漂うLCRの煌きから死んでいった適格者達、
 ユウ、
 ジャミル、
 マナ、
 クラウド、
 ネピチア、
 ユラナ、
 アスカ、
 渚カヲルが現れてはシンジを励ましていく。
「生まれ来る命の為に…」
 オリジナルのナディアが確信の笑みを浮かべ諭す。
「綾波を初号機のプラグへ。最後の戦いだ」
 トウジの半身から外された生命維持装置を纏うレイ。
 二人を乗せた初号機が飛び立つ。
「大丈夫か?」
「なあに、あんさんが居るさかいにな、いけるわ」
 見送るジャン達。入れ違いにハンソン達も来る。

「インド洋上の遺跡船並びに月面,火星、ダイモスの遺棄船が異相ジャンプ、
 出現した10箇所の特異点の中心に集結。
「これが宇宙樹の発動?!」(ユイ)
「阻止部隊は?」
「間に合いません、光の巨人と闇の巨人が阻んでいます」
「別働隊から連絡。ゼロ・フィールドへの基幹供給は停止できたそうです。
 続いて叛乱部隊の鎮圧にも成功しました」
「首謀者は?」
「拘束に失敗。自決したそうです」
「そう、後はユイ長官の子供達に任せるだけね」
「心配要らないわ、二人なら」
 気丈に指揮を続ける碇ユイを仰ぎ見ながら終息した如く笑みを溢すノリコとミサト。

 零号機から渡された槍を手に持ち、眼前の光と闇の巨人と対峙する初号機。
 猛烈な勢いで初号機めがけて無数のライトニングスピアが降り注がれてくる。
返す刀でホーミングフェザーで応戦する。
 ぶつかり合い、対消滅し、局所的歪曲空間が宇宙樹の周囲に泡のように溢れていく。
 合わすように融合していく光と闇の巨人。
「うおおおおぉぉぉおっぉぉぉぉ」
 12枚の光の翼を最大限に展開し、十数倍に伸びた槍を巨人に突き立てる。
 ズプリ、と摂り込まれる初号機。
 混沌とした内部世界の深奥へと潜るように進んでいく。
 侵入した不純物を排斥するように触手が絡め捕ろうと撒き付いてくる。
 が、寸前でその全てを槍で断ち切っていく。
 押しては返す光と闇の奔流を抜けた先に構成核が淡く青く輝いていた。


(Bパート開始)
「待って、シンジ君」
 レイの声が心の中に響く。
 中心部、エネルギーの最も高い構成核部分に突き立てようとしたロンギヌスの槍を寸止めした。
 次々と構成核から触手が槍状になりながら初号機を絡めていく。
 プラグ内が暖かみを増し、空間も広がっていく。
 シンジの傍らにレイが立ち、左頬にキスをして、左腕を引きながら飛び上がっていく。
 追うようにふわりと飛び上がるシンジ。
 プラグスーツの実体が消え、透き通っていく。
 光の奔流が二人を包み、時間の観念も空間の概念すら融けていくようだ。
 子供の歌声が響いてくる。
 白い世界の中、一人の少女が立ち竦んでいる。
(オリジナル)ナディアだ。
「一緒に遊ぼうよ」
 もう一人の少女(の輪郭)が現れ、ナディアと遊びだす。
 どれ程の時間が過ぎたのか。
 少年(の輪郭)が一人が現れ、ナディア達と遊び出す。
 シンジとレイ(の輪郭)が迎えるように立っている。
 子供達3人と食事をするシンジとレイ。
 1枚の毛布の中でシンジとレイの間で眠る3人の子供。
 海や山や川や高原、様々な場所の様々な季節のイメージが怒涛の如く現れては消えて行く。
 ふっと一人になる(オリジナル)ナディア。
 周囲を見渡し、泣きそうになるが呼ぶ声が聞こえる。
 父と母(の輪郭)の元へ走り寄っていく。
 元居た場所を振り返るとシンジとレイ、少女が手を振り、見送っている。
 次々とナディアの周囲に子供や大人達(の輪郭)が現れていく。
  :
  :
「生きていた証が欲しかったのかい」
 融合した光と闇の巨人の中で構成核に据付けられているオリジナルナディアに問うシンジ。
「もう一度会いたかったのかい」
 ロンギヌスの槍を揮い核子結合を解いていく初号機。
 枯れていく宇宙樹。土人形のように崩れていく巨人。
 石化したナディアから涙が零れ、砂となり、霧となって蒸発していく。
 星星の如く煌く数億数兆のLCRの滴。
 どの位時間が経過したのだろうか。
 帰路を急ぐ初号機のプラグ内。
 生命維持装置が外れ、輪郭も失いLCRに熔けていく。
 全裸のレイが後ろからシンジに抱き付く。
 実体からLCRに熔けていくレイ。続いてシンジも。
 久遠の意識の紅い海。LCRの世界。
 全裸のシンジとレイが立っている。
 向かい合うように11歳のオリジナルナディアも全裸で立っている。
「もういいのかい?!」
 ゆっくりと頷くナディア。
 レイに融合したままでならシンジと初号機を支配下へとおき、光闇の巨人とシンクロ出来、
宇宙樹を恒星系単位に枝葉と根を梁り、再構築できたのに、敢えて絶命した筈のレイを蘇生させた。
「甘えたかったのね。二つに分かれた心と身体。
 私達はいいのよ」
「…」
 ゆっくりと頷くシンジ。
 オリジナルナディアとナディアが重なり合い実体化する。
 ナディアを抱擁する二人。泣きじゃくるナディア。
 父と母の名を繰り返す。
「あたたかいわ、お父さんとお母さんの匂いがする。
 これ、お返しします。
 二人の大切な、大切な、もの」
 両手を差し出し、光の粒が飛び出す。
 くるくるっと舞い上がるとレイの下腹部に入っていく。
 驚きと嬉しさを話すシンジ。言葉では聞こえない。
「じゃあ、さようなら」
 浮かび上がるように去っていくナディア。
「さよなら。でも、また一人なのかい」
「いいえ、独りじゃないわ、シンジ」(レイ)
 ナディアに纏わり着く様に光点が舞っている。
「好きな人と一緒か」
 咆哮を轟かせる初号機。
 胸のコアから二條の光が飛び出して地球へと向かっていく。
 輝きを増し、流星となって去っていく初号機。
 光速を超え、時空を超え、新たなる原始の星へ。

 一週間後。

 地球、旧第壱東京市、台場のホテル。

「それでは披露宴もたけなわですが、ここで新郎のシンジ君に、プロポーズの言葉を言ってもらいましょう」
「ミサトさんっ、飲み過ぎですよ」
「あらあ、シンジ君、そんな事云っていいのおん。
 私がぬああにも知らないと思ってるわけ?
 ほれ、これは何だ?!」
「いいっ!?」
 レイの健康診断書がそこにあり、産婦人科の朱印が濃く押されているではないか。
私に赤ちゃんが出来ました
 淡白にまるで他人事のように言い放つレイ。
 一瞬の静寂の後、大喝采に包まれる会場。
「あら、私、おばあちゃんになるのね」
 嘆息するが喜ぶユイ。
 ゲンドウの遺影が傍に在る。
 整備班の連中は馬鹿騒ぎを始め出す。
「あらあら、リョウタ、こぼさないで」
 子供の口を拭くノリコ。
 ミサトは酒盛りに余念がない。

「アスカ、カヲル君、僕達(私達)凄一杯、生きていくよ」
 ノンアルコールワインのグラスを傾け、見詰め合う二人。
 更にやんやの叫び声に熱が入る。

"GOD'S IN HIS HEAVEN.

 ALL'S RIHGT WITH THE WORLD!"

全ての出会いと人々と日々と万感の想いを込めて

 The skin which was wrapped up by the blue shadow is trembling quietly in the time.
 There were a sad thing, a salty thing, a lot of things to be glad about.
 You of fate who were clutched are the transient flower at all which blooms in the season.
 So It seems that it compares, too. Love me of loving you and then live together.

  I had met you and it was good truly.

- 完 -


Story : PasterKeaton
Editer : PasterKeaton

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