【その3】 歯の名前は呼び方が時代で異なるようです.
まずは現在の各歯の呼び方です.
切歯
一番前にある板状の歯,切歯は上下左右各2本ずつあり,それぞれ中切歯・側切歯といいます.
歯は左右同じ数だけありますので,歯式(歯の数)は片側だけを示して,2/2 と書きます.
分子が上顎の歯数,分母が下顎の歯数を表わし,切歯であることを表わすにはI(Incisalの頭文字)を付けI2/2と書きます.
人以外の哺乳類では切歯の数はI3/3が基本になりますが,少ないものもいますし,上下で歯数が違うものもいます.なお哺乳類の場合は学術用語集では門歯となっていますが,各歯を言う場合は第1切歯,第2切歯,第3切歯ともいうことがあるようです.それぞれはI1,I2,I3 となります.
|
犬歯
犬歯は上下左右各1本ずつあり,歯式はやはり片側だけを示して,1/1 と書きます.
犬歯であることを表わすにはC(Canineの頭文字)を付けC1/1で,切歯からあわせるとI2/2,C1/1となります.
人以外の哺乳類でも犬歯の数はC1/1が基本になりますが,ないものもいます. |
小臼歯
小臼歯は上下左右各2本ずつあり,歯式はやはり片側だけを示して,2/2 と書きます.
小臼歯であることを表わすにはP(Premolarの頭文字)を付けP2/2で,切歯からあわせるとI2/2,C1/1,P2/2となります.
人以外の哺乳類では,小臼歯は大臼歯より小さいとは言えないものもあるので,文字どおり前臼歯と言われます.歯の数はP4/4が基本になりますが,これより少ないものや,ないものもいます.また人の第1小臼歯,第2小臼歯はP3,P4(第3,第4前臼歯.)にあたります(相同). (単にP3と書くときは前臼歯が3本という歯式を表わす訳ではなく,3本目の前臼歯のことをいいます.) |
大臼歯
大臼歯は上下左右各2〜3本ずつあり,歯式はやはり片側だけを示して,2/2(3/3) と書きます.
大臼歯であることを表わすにはM(Molarの頭文字)を付けM3/3で,切歯からあわせるとI2/2,C1/1,P2/2,M3/3となり,全部をまとめて2,1,2,3/2,1,2,3のように書くこともあります.また人の場合M3(第3大臼歯)を智歯ともいう.(M3は臼歯が3本という歯式のことではなく,3本目の臼歯ということになります.歯式は常に分数の形になります.)
人以外の哺乳類でも,臼歯の数は3/3が基本になりますが,これより少ないものもいます.前臼歯,臼歯合わせて頬歯ともいわれます.
哺乳類の基本歯式はI3/3,C1/1,P4/4,M3/3となり,全部で44本ということになります. で,各々の歯を示すのは,I1,I2,I3,C,P1,P2,P3,P4,M1,M2,M3となり,これに上下左右があります.そして人の歯は哺乳類の基本のI1,I2,C,P3,P4,M1,M2,M3を持っているということになります.
では昔は人の歯,各歯をどの様に呼んでいたのか,少しまとめてみました. |
【切歯】
|
【犬歯】
|
【小臼歯】
|
【大臼歯】
|
発行年
|
出典
|
板歯
|
犬牙 (眼牙)
|
歯
|
歯,真牙*1
|
1774年
|
01解体新書
|
板歯
|
牙
|
歯
|
歯
|
1822年
|
02把翕湮 解剖図譜
|
歯
|
犬歯 (眼歯)
|
槽歯 (一名粉歯)
|
成歯
|
1826年
|
03重訂解体新書
|
門牙
|
牙
|
牙
|
大牙
|
1857年
|
04全體新論
|
切歯
|
角歯 (犬歯)
|
小臼歯
|
大臼歯, 慧歯*2
|
1871年
|
05解剖学新説
|
前歯
|
犬歯
|
小歯
|
大歯
|
1872年
|
06虞列伊氏解剖 訓蒙図
|
切歯
|
犬歯
|
小臼歯
|
大臼歯
|
1877年
|
07華氏解剖図
|
門歯 (切歯)
|
犬歯 (尖頭歯)
|
小臼歯 (二頭臼歯, 頬歯, 前臼歯)
|
大臼歯 (富頭臼歯, 後臼歯)
|
1877年
|
08解剖学概要
|
切歯 (内外)
|
角歯
|
小臼歯 (内外)
|
大臼歯 (内中外)
|
1880年
|
09海都満 歯解剖図譜
|
前歯 (切歯) 中前歯, 副前歯
|
犬歯 (尖歯) 上:眼歯, 下:胃歯
|
副犬歯
|
臼歯*3
|
1881年
|
10保歯新論
|
門歯
|
犬歯
|
小臼歯
|
大臼歯
|
1937年
|
11解剖学名集覧
|
切歯 (まえば)
|
犬歯 (いときり歯)
|
小臼歯
|
臼歯(おくば), 大臼歯
|
1943年
|
12医学用語集
|
門歯
|
犬歯
|
前うす歯
|
うす歯
|
1954年
|
13学術用語集
|
切歯
|
犬歯
|
小臼歯
|
大臼歯
|
1958年
|
14解剖学用語
|
前歯 (切歯)
|
犬歯
|
奥歯 (臼歯)
|
釘歯, 成歯*4
|
1968-69年
|
15動物誌
|
まへば, 切歯
|
いときりば, 犬歯
|
おくば, 臼歯
|
おくば, 臼歯 おやしらずば, 智歯
|
1930年
|
16よはひ草
|
真牙*1:智歯のこと
慧歯*2:智歯のこと
臼歯*3:M1を六歳臼歯,M2を十二歳臼歯,M3を智歯という
釘歯,成歯*4:原語がボルトで釘歯,おなじく原語が完成者という意味から成歯と翻訳したようです.
=人の下に小
=歯+乍
=真+弋
=歯+臼
=歯+真
出典
01:解体新書(杉田玄白)
02:把翕湮(パルヘイン)解剖図譜
03:重訂解体新書(大槻玄沢)
04:全體新論 ホブソンBenjamin Hobson 漢名 合新 著
05:解剖学新説(ミユルレル口授)
06:虞列伊氏解剖訓蒙図(松村矩明)
07:華氏解剖図(村上典表)
08:解剖学概要(田口和美)
09:海都満歯解剖図譜(山崎元修)
10:保歯新論(高山紀斎)
11:解剖学名集覧(高木,尾持)
12:医学用語集(日本医学会用語整理委員会)
13:学術用語集 動物学編(文部省)
14:解剖学用語(日本解剖学会)
15:動物誌(アリストテレス,島崎三郎訳)上
16:よはひ草第五輯(小林富次郎編)歯に関する各国語
備考:出典01〜14はいくつかは原典にあたりましたが,次の本に効率良くまとめられていました.
「日本人 永久歯解剖学」
上絛擁彦 著(正しくは擁の手へんの無い字です)
東京アナトーム社
昭和37年6月25日発行
昭和54年3月25日第9刷発行
円
|