初代ポケモン 技辞典

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概要

初代ポケモンに登場する165種類の技。その名称と効果は、ポケモン以前のRPGにおいてはどのように扱われてきたのか。具体的には「技」を題材にすることで初代ポケモンから過去のRPGを振り返る、RPGの歴史と雑学の博物学的なコンテンツを目指す。自分が持つサブカル系知識の総動員とも言える。

僕自身もそれほど多くの、あるいは広範囲の知識を持っているわけではないので、的はずれなことや間違いの指摘は歓迎。また他の元ネタ・考察などを思いついたらぜひご意見を。

URLの後に「#番号」を付けると、その技へジャンプ可能。他所で紹介する場合などに。
例:http://www2u.biglobe.ne.jp/~kakeru/pokemon/movedex.htm#013
上記URLの場合、技番号013である「かまいたち」へジャンプする。

略語・用語解説

作品名は『』入りで表記。例えば『ポケモン』の場合はポケモンのゲームを意味し、単にポケモンと書いた場合は種族・キャラクターを意味する。

DQ

エニックスのドラゴンクエストの略。当時のRPGとしては絶対的な知名度と人気を誇った。むしろテレビゲーム、あるいは「ゲームの中の世界」の代名詞的な存在ですらあった。直接的な影響は少ないものの、ポケモンを振り返る上で絶対に避けては通れない存在。当時は6作目まで発売されている。

FF

スクウェアのファイナルファンタジーの略。DQシリーズと並ぶ双璧であり、万人・大衆向けのあちらに対してコアなイメージがあった。属性やアビリティ(技能コマンド)を駆使したシステマチックな戦闘が特徴。当時は6作目まで発売されている。

サガ

スクウェアが誇るもう一つのRPGブランド。FFシリーズを更に尖らせた実験的な作風が特徴。より人を選ぶが熱狂的なファンが多い。ポケモンとの関係で言えば、GBにおける初期3作は直接的な影響が大きい。「ゲームボーイでRPGができる」という自信を田尻智に与えたシリーズでもある。

SFC以降の「ロマンシング・サガ(ロマサガ)」も広義ではこのシリーズに属する。こちらはGBシリーズほどではないがいくつかの技効果に影響が見られる。

AD&D

アドバンスド・ダンジョンズ&ドラゴンズ。世界最古のRPG(まだコンピュータではなくテーブルトークしかなかった)であるダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)の発展形であり、後の全てのCRPGの祖と言える存在。ポケモンに対する直接の影響は希薄だが、元ネタをたどっていくうちに行き着く可能性もあるので念の為ここで触れておく。

なお80年代くらいの日本における「D&D」とは、上記のAD&Dから分岐した「クラシック・ダンジョンズ&ドラゴンズ」という後発の簡易バージョンを意味することが多い。またAD&Dも第三版以降は頭の「アドバンスド」が取れたので、単に「D&D」という表記する場合は混乱を招く場合が多いので注意。当時の書籍などでも混同や誤解されているものが多いらしい。

主な参考サイト

各技解説

番号は内部データ上のもの(10進数表記)。

『ポケモン』以前のゲームやフィクションあるいは伝承などにおける同名の技(事象)の扱いや雑学などを前半に、『ポケモン』のゲーム中での扱いを後半にまとめているが、特にこれといったフォーマットのようなものは意識せず、思いついたことをひたすら書いていく。

001 はたく

おそらく「基本攻撃」的なものとして作られた技の一つ。「通常攻撃」というものが存在しない(これは上記のサガシリーズという前例がある)戦闘システムにおいて、使用回数が多くリスクの少ない基本的な技を、各ポケモンのイメージに合わせていくつか作る必要があり、これがその筆頭ということだろう。

ゲームではピッピやプリンの技として最初に登場するために、タイプ一致補正も相まって体感的にはかなり強力な技である。それ以外でも「たいあたり」の完全上位互換であり、使い勝手は良い。

002 からてチョップ

「空手」とあるが、この場合の「空手チョップ」とはプロレス技(空手としては「手刀」と呼ぶのが正しいはず)。特に力道山の代名詞とも言える技である。ゲームに限らず、フィクションの技としては(プロレス自体をモチーフにしているのでも無い限り)徒手空拳の技として「チョップ」という名称が用いられることは少ない。よって、明確にプロレス文化の影響下にある名称と言える。『ポケモン』発売当時ですら既にプロレスは下火だったはずだが、それ以前も含めてオタク文化との関わりは深いようだ(僕はよく知らないのだが「プロレス オタク」等でぐぐると片鱗が伺える)。

ゲームでの効果は「急所に当たりやすい」、すなわちクリティカルヒットが出やすい(具体的には発生率4倍、実際はマンキー系統はほぼ必ず、ワンリキー系統でも5〜8割超)効果である。既存RPGで似たような効果は意外と少ない。まずRPGにおけるクリティカルは大きく分けて2通りあり、「稀な確率か特定の条件下で発動する、(計算上の理由は様々だが)通常の数倍の大ダメージあるいは即死攻撃」か「比較的高確率で発生する、ダメージに多少のボーナスが付いた攻撃」であり、前者は任意で出せないか出せるとしても相応のペナルティ(例えばMPの割合消費、『桃太郎伝説』の「ろっかくの術」や、『騎士ガンダム物語3』の「きあい」コマンド等)が設定され、後者は技というよりは武器の効果として設定されている場合が多い。武器という概念の存在しない『ポケモン』ならではの効果かも知れない。

全くの余談だが、『ウィザードリィ』のどのバージョンかは忘れたが、直接攻撃時のメッセージで「(敵)をチョップした」というのが出る場合がある。この場合の「chop」は剣や斧で「叩き切る」意味であり、(少なくとも武器を装備したキャラで攻撃した限りにおいては)素手でチョップ攻撃をしているわけではないはずである。明らかに日本語訳が悪い。

003 おうふくビンタ

「ビンタ」という攻撃手段は女性的なニュアンスが強い。『FF』シリーズでは4以降「ひらてうち」が女性型モンスターの定番の技である(なぜか麻痺や沈黙の効果が付く)。一方で「往復ビンタ」に関しては少し毛色が異なる。例えばフィクション上の表現としては、水木しげるの漫画で「ビビビビビ」の擬音とともに繰り出されるものが有名。ネズミ男が鬼太郎に使ったり(逆に使われることもあるが)、戦記ものの上官の懲罰手段としての出番が多い。

ゲーム上の効果としては連続攻撃だが、本作において同系統の技も含めて極めて扱いが悪い。RPG一般において多段攻撃は(味方の技としても敵の技としても)非常に強力であることが多いのにも関わらずだ。この技は上記「はたく」と覚えるポケモンがほぼ共通しているのだが、習得が遅い上にPPが低いにも関わらず期待値で劣っている(37.5。命中率も考慮すると32未満)。明らかに調整ミスである。おそらく開発中にダメージ計算を試行錯誤しているうちに、旧仕様を前提とした威力値に据え置かれたのではないだろうか。例えば技のダメージ計算のベースが「攻撃力+技威力」だったり、あるいは敵の防御力の影響が除算ではなく減算式であったのなら、場面は選ぶかも知れないが強力な性能を発揮したはずである(後のシリーズで言えば『ポケモン不思議のダンジョン』シリーズの連続攻撃が非常に強力なものとして記憶に残っている人も多いだろう)。

本作において、単純に「弱い」だけの技なら捕獲時に弱らせるためにまだ出番があるのだが、弱い上にダメージ幅が不安定という技に存在価値は無い。連続攻撃の調整ミスの問題は後のシリーズまで引き継がれ(むしろ敵を手加減させるために敢えて据え置かれたのかも知れないが)、特性「スキルリンク」が登場するまでは、いかなる目的であっても活用が極めて困難な技であった。

004 れんぞくパンチ

『FF』シリーズにおけるモンクの多段ヒットはビジュアル的には連続でパンチを繰り出す。初期のシリーズにおいては最強クラスの物理攻撃手段でもある。『DQ6』でも「ばくれつけん」が武闘家のマスター特技として華麗に登場した。世代的には、往年のジャンプ漫画でも「北斗百裂拳」や「ペガサス流星拳」として、無数のパンチを叩き込む強力な必殺技が馴染み深いはずだ。『ポケモン』においてもカイリキーの図鑑説明で超高速の連続パンチ攻撃に触れている(ただしカイリキー自身はこの技を覚えない)。

しかしながら、ゲームでの扱いは「おうふくビンタ」同様である。実はあちらの完全上位互換(威力とPPが高い)なのだが、だからといって利用価値は皆無。全段ヒットしてようやく「メガトンパンチ」に並ぶ。前項で述べたような既存作品のロマンのかけらすら感じられない、極めて残念な効果である。

005 メガトンパンチ

「メガトン(100万トン)」という形容は誇大広告にも程があり、たまに空想科学読本的ないじられ方をすることもあるのだが、「メガトンパンチ」という用語自体はプロレスや格闘技の文脈で使用される既存の用語であり、技名としては「からてチョップ」の同類と言える。ゲームでは『キングコング2 怒りのメガトンパンチ』のように副題で使われたりするが、『ポケモン』以前で技として採用された例は不明。

ゲーム上の効果は、多少命中に難があるもののシンプルに強力な効果で使いやすい。技マシン(記念すべき01番だ!)を早期に入手可能で、中盤はいくらでも購入可能になるので、様々なポケモンにとって物理系の必殺技のようなテイストで使用可能。ただ、自力習得できるポケモンを見るとそれなりに高位の技として設定されているようで、そこから本作における技マシンの位置付けを伺うことができる。

006 ネコにこばん

「猫に小判」ということわざを「敵に小判をぶつける」技名にするセンスが光る。効果としては(敵味方問わず)使用すると戦闘後にお金が獲得できる技というのは、『ポケモン』以前ではちょっと思いつかない。『ポケモン』以降としては『FF7』の敵専用技「金山」などがあるが、いずれにせよ少数派だと思われる。むしろ、逆に「お金を消費して大ダメージを与える」技というのが自然な発想だろう(『FF5』以降の「銭投げ」等)。

『ポケモン』においては、通常戦闘でお金を獲得できないので、技として任意のタイミングでお金を稼げるという効果は印象に残る。攻略上は微々たる額に過ぎなくとも、能動的に稼げるというだけで心理的な安心感は得られる。

なお、技マシンの番号は技自体の内部コード順に忠実なのだが、例外としてこの技だけは番号順で2番目なのに技マシンでは16が割り当てられている。開発途中で技自体かマシン、あるいはその両方が後付でねじ込まれた可能性が高い。

007 ほのおのパンチ

「炎をまとったパンチ(物理攻撃)」というのはビジュアル的にはありふれているものの、RPGでは意外と見かけないのは、パンチによる物理ダメージと火属性ダメージをどのように表現するか、あるいは武器自体の属性とどちらを優先させるか(あるいは共存させるのか)という様々な問題があり、意外と登場例は少ない。

属性付き物理攻撃について。『FF』シリーズでは1(ただしオリジナル版ではバグで機能せず)と2では弱点にのみ反応するプレイヤー有利な効果だったが、3以降は物理ダメージの属性も耐性の影響を受けるようになり、特に4以降では無効化や吸収の対象になってしまうことも多々あるので、特にゲーム後半の頃になると使い勝手が悪くなる。『DQ』シリーズでは5以降から登場し「本来の物理ダメージに加え、属性ダメージが上乗せされる」という効果で、属性吸収という概念の無い同シリーズにおいて使い勝手が良い(ただしこれは武器自体の属性の場合で、「かえんぎり」等の特技の場合は耐性により通常攻撃より低ダメージになる場合もある)。『ロマンシング・サガ2』では、例えば「ダイアモンドダスト」という術は殴打と冷気の属性を併せ持ち、対象の敵の耐性のうちどちらか低いほうでダメージ計算がなされるといういいとこ取りである。

『ポケモン』における「ほのおのパンチ」、及び以下のパンチ系に関しては早期に作られた痕跡があるものの、ダメージ計算上の扱いをどうするか考えあぐねたまま放置されたのか、結果としてブーバーにとっては「かえんほうしゃ」の完全下位互換、エビワラーにとっては能力の関係でほとんど使い物にならない技になってしまった。第二世代以降は「パンチ」というフレーバーを生かして技マシン等による汎用習得手段で差別化、第四世代でようやく物理攻撃になることができた。

008 かみなりパンチ

「ほのおのパンチ」「れいとうパンチ」と並ぶ3属性パンチシリーズ。本シリーズにおいて鼎立する属性と言えば「草・炎・水」が連想される場合が多いだろうが、初代においてはこれらのパンチや伝説の鳥のように「炎・雷・氷」というサイクルも見られる。この3属性は『FF1』においてプレイヤーが使えるダメージ魔法の属性であり、起源としては『D&D』まで辿れるはずである。ついでに、いわゆる四大元素としては氷が水に、雷が空気(風)に、毒が土に対応するようだ。

『ポケモン』での扱いは「ほのおのパンチ」同様。ただし上位互換の「10まんボルト」をエレブーが自力習得できない関係で、まだ日の目を見る機会が多いかも知れない。

009 れいとうパンチ

RPGにおいて古典的には、熱や炎よりも冷気を扱う魔法のほうが上位とされる例が多かったという件についてはどぐち屋さんの解説が詳しい。初代『ポケモン』において氷タイプが希少価値も含めてやたら優遇されているのも、タイプ間バランスよりもそのような歴史を踏まえての調整である可能性は否定できない。

3色パンチ系では唯一、上位互換の技が存在しない。「れいとうビーム」にはPPで勝るので、通信対戦はまだしも通常攻略であればこちらのほうが使いやすい場合が多い。エビワラーにとっても弱点を効果的に突ける相手が多いので有用な部類。

010 ひっかく

爪のあるポケモンの基本攻撃的な位置づけ。性能は「はたく」と同様。最初にもらえる3匹のうち、ヒトカゲのみがこれを使えるという点で、攻撃面で恵まれたポケモンだということがわかる(もっともゲーム開始直後に自力で気づくのは困難だろうが)。

余談だが、初代の攻略本ではPPが30となっており、最後期の本でも修正されていなかった。公式も勘違いしたままだったのか、『ポケモンスタジアム金銀』のゲーム内のポケモン講座において「金銀でPPが35に増えた」ということになっている。このような誤解は他の技には見られず、なぜ生じたのかは不明。

011 はさむ

ハサミを持つポケモン(と言っても、クラブ系統とカイロスしかいないが)の基本攻撃。威力55、PP30というかなりの効率を誇る。『サガ』においても「はさみ」という技があるが、「つめ」や「パンチ」より強力な位置づけである。

012 ハサミギロチン

ハサミを使った一撃必殺技としては、『サガ』の「のこぎり」が有名。アイテムの「チェーンソー」と同効果だと言えばもっとわかりやすいかも知れない。本来は「使用者の攻撃力>対象の防御力」が成功条件のはずだったが、不等号を逆向きにしてしまったために、本来は効かないはずのボス等を軽々と葬り去ることができる凶悪な技としてファンには知られる(しかも、成功条件さえパスすれば必中だったはず)。ただし技としての「のこぎり」を最終決戦まで持ち込むには、モンスターを下位のままで連れ回す必要があるので、特殊なやりこみでも無い限りラスボスに当てる機会はないだろう。

「切断による即死」というイメージは、やはり『ウィザードリィ』におけるクリティカルヒット(この場合は、物理攻撃の追加効果による即死判定)が「decapitated(首を刎ねられた)」と表現されていたことのイメージが強い(元ネタであるAD&Dでは必ずしも首を刎ねる攻撃ではなかったようだが)。『FF』シリーズの召喚獣「オーディン」による「ざんてつけん」では、グラフィックが実際にバラバラになる演出が入る(ただし、判定としてはあくまでも魔法扱いである)。

『ポケモン』では、基本的に戦いで死んだりはしないマイルドな世界観にも関わらず物騒な技名であり、現在に至るまでやや浮いた印象を受ける。なお内部判定的なことを言えば、初代において一撃必殺の成功条件は「素早さが相手より低くない」ことである。固有の即死耐性などが存在せず、汎用パラメータのみに依存する成功判定は、前述の「のこぎり」同様にRPGではやや珍しい部類かも知れない。

013 かまいたち

初代『ポケモン』が出た当時、少なくとも漫画やゲームで育った世代にとって「かまいたち」とは「風によって起こされた真空によって服や皮膚が切り裂かれる」自然現象だと信じられていた(現在では否定的な意見が多いようだが)。「かまいたち」あるいは「真空波」のような技が、上記のような自然現象を発生させる攻撃手段として採用された例はいくらでもあるだろう。ただし多くの場合は物理攻撃とは異なる属性を持ち、『ポケモン』のように単なるノーマルタイプ(体当たりとかと同様)として扱われる例は稀。『FF5』の「しんくうは」(単なる強化物理攻撃)くらいだろうか。

フレーバーとしては、大きく分けて「聖職者の使う魔法」であるパターンと「武術家による技能」であるパターンがあり、さらに後者についても「剣士」と「格闘家」で、恐らく異なる由来を持つ。このあたりはかなり込み入っているので順番に解説する。

まずは聖職者の魔法について。『DQ』『FF』両作において、「回復」や「解呪」と並ぶ聖職者の得意呪文として「風の魔法」が存在するのは、おそらく『AD&D』のクレリック呪文の「ブレードバリアー」が『ウィザードリィ』の「ロルト」となり(参考:どぐち屋)、それを日本人がかまいたち現象だと解釈して『DQ2』等に採用したのが由来だと考えられる。さらに『FF3』では風の魔法「エアロ」となった。以降は単なる真空波に留まらず、それも含めた広範な「風・大気」の魔法としてバリエーションが発展していくことになる(聖職者のバリエーションであるAD&Dの「ドルイド」の影響もあると思われるのだが、風術以外のドルイド能力が取り込まれた例はあまり思いつかない。むしろドルイド自体が和製RPGではマイナーな感がある)。

次に剣士の技としての由来だが、恐らく漫画『赤胴鈴之助』の「真空切り」だと思われる。作中でもはっきりと「かまいたち」だとされている。千葉周作から伝授されたことになっているようだが、古来「かまいたち」は鎌を持ったイタチによる妖怪の仕業とされたので、技そのものは言うまでもなく真空現象としての解釈自体が創作だろう。同じく斬撃である剣術と相性が良いためか、同様のモチーフは模倣を繰り返された(ただし、赤胴鈴之助の真空切りは、最終的には素手で出せるようになるようだが)。RPGにおいては前述のように属性付き物理攻撃自体の問題もあってかやや遅いが、例えば『FF5』における「かぜきりのやいば」の追加効果や、「ギルガメッシュ」の特技としてのかまいたちは剣技のイメージが強い。

最後に格闘家の技として。上記の赤胴鈴之助の影響もあるだろうが、直接的にはおそらく格闘ゲーム『ストリートファイター2』の「ガイル」が使う「ソニックブーム」に由来するのではないだろうか。『DQ6』で武闘家が覚える「かまいたち」、『FF6』の「マッシュ」が使う「しんくうは」も、いずれも『スト2』の後で、その影響は無視できないだろう(そもそも、マッシュはアビリティ「ひっさつわざ」からして格闘ゲームというジャンル自体のパロディのような存在である)。ついでに、ソニックブーム現象をかまいたち伝承と結びつけた有名な例としては漫画『ブラックジャック』があり、ミサイル発射によるソニックブーム現象をかまいたちの正体としていた(「通り魔」)。ミサイルや戦闘機でソニックブームと縁のある(背景も空軍基地である)アメリカ軍人のガイルが、徒手空拳でソニックブームを繰り出すというトンデモっぷりが実に面白い。

『DQ6』のパラディンのように、上記の各パターンが複雑に混在している例もある。「かまいたち」は武闘家(体術で戦う)の覚える特技だが、その上位版である「しんくうは」はパラディンが覚える特技となっているのだ。本来のパラディンは聖騎士のようなものだが、『DQ6』では僧侶と武闘家の複合上級職なのである。基本的には体術としてのイメージなのだろうが、装備品については職業に関係なくキャラ自体に依存するので、剣を装備させれば剣術としての真空波も再現可能だ(武器の効果は乗らないので、あくまでイメージ上の話だが)。また『伝説のオウガバトル』においても、サムライが「ソニックブーム」という技を使うが、明らかにかまいたちとの混同であろう。

このように、フィクションにおける「かまいたち」とは、「風」「真空」「妖術(妖怪の仕業)」「武術(剣技や格闘技)」「神の奇跡」「ソニックブーム(ミサイルや戦闘機といった現代兵器と関連)」などのモチーフが多重に重なり、おそらくクリエイターとしても無意識にイメージが混在してしまう技なのではないかと思う。どぐち屋さんの「飛飯綱」の項目も参考のこと。

習得可能なポケモンを見る限り翼や翅による風でかまいたちを起こしているイメージが強いのだが、唯一カブトプスのみは翼を持たず、両手の鎌による剣技として発動している雰囲気がある(意外なことに、鎌も翅も持っているストライクは初代では覚えられない)。過去の例からすると、RPGに登場した場合は強力な技である場合が多い(特に、敵の技としては範囲攻撃の上に耐性を付けにくかったりするので驚異)のだが、『ポケモン』においては大して強くもないのに溜め技、かつ命中率も低いという、何を間違えたのか恐ろしく弱い技で、どう考えても実用的に使いこなせる場面が思いつかない。「たいあたり」を忘れさせてしまったバタフリーに覚えさせる(「とっしん」の反動を嫌い、「スピードスター」の技マシンを他に使ってしまった場合)というケースを考えたことがあるが、あくまで大喜利ネタである。技マシンでしか覚えられないこともあり、実際に使ってみてがっかりするパターンである。

日本人がフィクションの中で積み重ねてきた「かまいたち」のイメージは、当然本作のクリエイター達も共有していたはずなのだが、なぜ恵まれたバックボーンからどうしようもない効果の技が生まれてしまったのだろうか。なお後発作では「エアカッター」や「しんくうは」が、「かまいたち」とは全く異なるタイプの技として共存しているが、これもRPGでは珍しい、というか大変紛らわしい。

014 つるぎのまい

ハチャトゥリアン作曲のクラシック曲として有名。言葉の響きとしても美しいので必殺技として登場したり、あるいは華麗な剣技をこのように呼称することが多い。ただし、『ポケモン』のような能力アップ技というよりは、それ自体が強力な攻撃技として扱われることが多いだろう(『FF5』の「おどる」でランダム発動する効果など)。

名前ではなく効果に着目すると、物理攻撃の強化手段というのは多くのRPGにおいて非常に重要なバフ(ステータス強化)手段となる。まして1回の使用で2倍となり重ねがけも可能というのは極めて強力。ただしパーティプレイではないので連携(素早い補助役が攻撃役を強化し、そのターンに大ダメージを与えるなど)ができず、クリティカルの仕様(あらゆる能力変化が無効になる)もあり、なんとも惜しい感じになっている。

015 いあいぎり

「居合」というのは剣術の達人による卓越した戦闘技能、平たく言えば拳銃の「早撃ち」の刀版みたいなもの(相手が刀を抜いてから、自分の刀を抜いて切り伏せる)である。例によってどぐち屋さんで非常にためになる説明があるので丸投げする。本来はカウンター技、後の『ポケモン』シリーズのゲーム上での挙動で言えば「ふいうち」のような攻撃と言えるだろうか。

本来の性質を考えるとゲームには出しにくい技だが、名称としては『FF5』のアビリティ「いあいぬき」というものがある。こちらは武器にかかわらず使用可能、溜め技で敵全体を切り伏せて即死させるという、なんだかよくわからない効果となっている。どぐち屋さんが言うところの「大道芸としての居合抜き」のほうがモチーフかも知れない。

時代を考えると漫画『るろうに剣心』の連載が始まっており、それによって「抜刀術」を知った子供も多かったはず。しかし1994年に連載開始なので、『ポケモン』に影響を与えたかと言われると微妙(読切のパイロット版も含めると1992年まで遡れるのだが)。

『ポケモン』においては「ひっかく」と大して変わらない(挙げ句「はさむ」の完全下位互換)上に、忘れさせることすらできない迷惑な技としてプレイヤーには嫌われがちである。もともと上記の「居合」という言葉を知っていると、これを習得できるアイテムである「秘伝」マシンという言葉の響きから期待できる性能とのギャップに大いに落胆する。実際のところはナゾノクサやマダツボミに覚えさせると手頃なノーマル技として普通に使えるのだが(特に前者は進化しても「のしかかり」を覚えない)、明らかにこの技に頼る必要のない(すなわち自力で覚える技が充実している)ポケモンも多数習得対象になっているのである。

016 かぜおこし

RPGにおける「風」にまつわる攻撃手段については、「かまいたち」においても語ったのでそちらも参照。ただ、物理的に風を起こす攻撃は巨大な鳥やドラゴンが用いることが多く、序盤から小技として出てくるような例はあまり思いつかない。

翼を持つポケモンの基本技のような位置づけだろうが、これを覚えるのはポッポの系統のみである。初期の攻略本では飛行タイプ扱いだが、もしそのまま実装されていたらフシギダネが食らうダメージが倍増し、序盤の難易度が大幅に上がってしまうので妥当な変更。おそらくテストプレイですぐ気づいて修正したのだと考えられる。一方、前述の「かまいたち」は攻略本でも一貫してノーマルであり、どのような意図で設定したのかよくわからない。

017 つばさでうつ

そもそも翼は飛行の手段であるため、これを叩きつけて攻撃するのはやや不自然である。『サガ』などでも、鳥系モンスターの基本攻撃は「くちばし」であり、わざわざ翼で攻撃するような例は聞いたことがない。

翼を持つポケモンの基本攻撃手段、しかし上記のポッポ系の他にはズバット系とプテラしか覚えられない。ポッポはともかく、くちばしがない(「つつく」が使えない)2種のために用意されたのだろうか。攻略本では威力60、PP35という驚異的なコストパフォーマンスとなっているが、実際の威力は35で「つつく」と変わらない。比較的高レベルで使えるようになる技なので60でもよかった気がするが(金銀にて旧攻略本表記通りに変更)。

018 ふきとばし

敵を吹き飛ばして戦闘から離脱させる効果としては『DQ』シリーズ(3から)の「バシルーラ」が有名。『FF』シリーズでは次元の狭間に消しさる類の攻撃が複数ある(フレーバーとしては1作目から登場するが、実際に死亡と離脱が区別されたのはFF5から)。経験値などが得られないというペナルティがある場合が多いが、強敵を他の手段よりも手軽に除去できる場合があるので慣れたプレイヤーはよく使う。いずれも魔法的な力であり、物理的な風力で吹き飛ばすような例はあまり聞かない。『DQ』シリーズでは「風神の盾」の使用効果がそれに近いかも知れないが、携行できる物体から巨体を吹き飛ばすほどの風を巻き起こすのは多分に魔法的である。

この手の効果は基本的に対象が単体で、味方に対しては戦闘から除外してパーティからも一時離脱する場合があるのでしばしばバグの温床になったりする。『ポケモン』の場合は即座に戦闘が終わるのであまり問題にはならない?

『ポケモン』は1対1の戦闘、なおかつ素早さで上回れば確実に逃げられる仕様のために、あまり役に立つ技ではない。どちらかといえば敵に使わせることで、捕獲を妨害させるような意図で用意された技だと思われる。

019 そらをとぶ

一時的に上空に退避してから攻撃を加えるというのは、モチーフも含めて『FF』シリーズ(3から)の「ジャンプ」に直接的に由来すると思われる。一方で移動中に空を飛んで特定の拠点に瞬間移動する手段は、演出はともかく設定としてはワープ系の魔法で片付けられるのが普通。空を飛んでいるのならば任意の地点に着地できるのが当然(ゆえに、乗り物などの移動手段の存在理由を否定してしまう)というわけで、『ポケモン』のやり方はやや強引と言える。

初代『ポケモン』においては、覚えるのは鳥系のポケモンに限定されていた。フィールド上のエフェクトが鳥アイコンで固定されていることに対する整合性を保つためだと思われるが、後に『ピカチュウ』版でリザードンが、『金銀』以降でカイリューがそれぞれ解禁されている。

020 しめつける

単発の攻撃として、蛇の体やムチなどを巻きつけることで対象の行動を封じるような例は多い。『サガ』シリーズではムチによる先制スタンが非常に強力であった。しかし『ポケモン』のようにお互いが「拘束している状態」「拘束されている状態」になり、複数ターンに渡って効果を及ぼすような例は不明。パーティ戦闘だと処理がややこしくなったり、一方的な搦め手になりやすいためだろう。

初代では覚えるポケモンがイワークとモンジャラしかいない。威力は同じだがより命中率の高い「まきつく」の完全下位互換だが、効果としてもフレーバーとしても差別化する必要性を感じない。ニビジム(イワーク)の難易度調整のために命中率を下げたバージョンとして設定したように思いがちだが、実際は(ピカ版を除き)タケシのイワークはしめつけるを覚えていない(Lv14なのでぎりぎり覚えない、仮にLv15以上でも仕様上「がまん」で上書きされる)。この技と習得者の仕様がこのようになった経緯を深読みしたブログ記事「モンジャラと「しめつける」と没ジムリーダーに関する考察」も参照。

021 たたきつける

技の名前だけではどのような攻撃なのかいまいち分かりづらい。故に、このような技名を他のゲームで見た記憶がない。しいて言えば『サガ』シリーズでおなじみの「しょくしゅ」あたりがイメージに近そうだが、イワークやミニリュウの場合は全身による攻撃なのだろう。

『ポケモン』においては、技としても大して強くない上に命中が低すぎて、多段攻撃で恐るべきダメージを叩き出す「しょくしゅ」の面影は全く無い。とはいえ、ウツボットとモンジャラにとっては、「のしかかり」を技マシンで覚えさせるのでも無い限りは消去法的に使わざるを得ない技である。

22 つるのムチ

威力はさておき、前述の「たたきつける」と比較すると、モチーフ上はこちらのほうがより「しょくしゅ」のイメージに近いかも知れない技。ただ「しょくしゅ」が頭足類や植物など様々なモンスターの攻撃技の名前に使えるのに対して「ツル」だと植物系に限られる。『ポケモン』において「くさ」を基本属性として設定したのは過去に前例が無かった(より正確には、種族としての植物フラグだけならまだしも、他の属性それぞれと相互に相性関係を持つ攻撃属性としての設定が無かったという意味)ので、改めて『ポケモン』をどういうゲームにするのかという決意が伺える。

余談ながら、『ポケモン』開発と前後して「様々な植物やキノコが登場するRPG」を企画していたが没になったという話が、雑誌『コンティニュー Vol.32』における田尻智と中川翔子の対談において触れられている。従来のRPGでは雑魚モンスターの1系統程度に留まることが多かった植物(草タイプ)が炎や水と並ぶ主要タイプになっていること、図鑑ナンバーのトップがフシギダネであること等から、密かに『ポケモン』への影響は大きかったのではないかと睨んでいる。

さて、この技のゲーム内での扱いだが、威力の割にPPが低すぎて設定ミスを疑われることが多い。実際、何も知らずにフシギダネを使っている限りはPP10でも十分戦えたりするのだが、ヒトカゲやゼニガメが各タイプの同威力の技をPP25で使えることを知ってしまうと物足りなさを感じざるを得ない。ただ、これも発売前の雑誌記事などからの推測だが、フシギダネは他の2匹よりも間接的な力で戦うポケモンというコンセプトがあったようで、明らかに主力技で見劣りさせてみたのは狙い通りだった可能性もある。

23 ふみつけ

あまりにもシンプルな名前ゆえに、敢えて技として設定されているケースは少ないかも知れない。ぱっと思いつくのは『ロマサガ2』、特に七英雄の一人であるタンダーグの技くらいである(味方としてはシティシーフ女の固有技だが、こちらはヒールで踏みつけるイメージで、同じ技でありながらフレーバーが大きく異なる)。

覚えるのは有蹄類や、重量級っぽいが自力でジャンプして相手を踏み潰せそうな連中が多い。タイプ一致かつ素早い(怯み効果を活かしやすい)ケンタロスの技としては実はかなり強力で、個人的にはVC版発売以降のヒストリアカップという対戦オフで一定の使用実績がある。

024 にどげり

「二度蹴り」という名称自体をポケモン以外で見たことはない。名称に限らず、ワンツーパンチのような技はあっても2連キックはあまり聞かない(百裂キックのような技のほうがまだ多いかも知れない)。個人的に知っているのはナムコの格闘アクションRPGである『ケルナグール』の「れんきゃく(連脚)」くらいだが、前進しながらの2連キック(キャンセル不能)なので外れると隙にしかならないため「覚えさせてはいけない技」とまで言われる。なお同作の「ひえんきゃく(飛燕脚、いわゆるライダーキック的な飛び蹴り)」と名前やモーションを合体させた「飛燕連脚」が、同社の『テイルズ・オブ・ファンタジア』に登場し、後のシリーズの定番技にもなって有名だが、初出の時点で1995年12月なので『ポケモン』への影響はないだろう。

覚えるポケモンの基準がよくわからない。ニドラン達が覚えるのは「ニド」の語呂合わせとしても、格闘タイプではサワムラー、そのほかではサンダースのみが覚えられる。初代の格闘タイプの通常攻撃技としては唯一の命中100、威力もPPも十分あり、普段遣いの技としては使い勝手が極めて優秀。もっと多くのポケモンで使いたかった。

025 メガトンキック

メガトンパンチ」に対する「キック」というわけだが、あちらと異なり『ポケモン』以外での用例を耳にしたことが無い。もっとも、シンプルでわかりやすい名称なので自然に受け入れられるだろう。

「メガトンパンチ」と比較すると、威力は高いが命中は低く、さらにPPは非常に低いので普段使いは難しい。多くのアクションゲームでは、リーチの長いキックのほうがパンチよりも当てやすいのだが、こちらはよりRPG的な文脈というか、ゲームバランスありきで設定された値のように思える。一応『サガ』シリーズではパンチよりキックのほうが高威力低命中だったりするのでその影響かも知れないが、使用回数に「メガトンキック」ほどの制限があるわけではない。

026 とびげり

やはり技名がシンプル過ぎる故に名称としてはあまり見かけない。「とびひざげり」のほうが登場頻度が高いのではないだろうか。そもそも『ポケモン』においても、両方ともサワムラーの専用技でもあるために、効果を含めて別の技として用意する意図がわからない。

前述のようにサワムラーの専用技だが、命中率が悪い上にペナルティ(実は設定ミスで1ダメージに固定されているのだが)があり、「にどげり」のほうが遥かに優秀な技である。

027 まわしげり

現実の格闘技では派手な大技なのだが、シンプル故にそのままの名前ではゲームには使いづらそうな技。『DQ6』においては、なぜか1グループに対する範囲攻撃として登場している(どうやって回し蹴りで複数の敵を攻撃しているのかを冷静に想像すると、コマのように回転しながら移動して敵をなぎ倒すような滑稽な図が思い浮かぶ)。

こちらもサワムラーの専用技。怯み効果があるが命中率が低い。実質威力は「にどげり」と同じで、やはりこちらも使い勝手は悪い。

028 すなかけ

砂で敵の目を潰すというとてもわかりやすい効果。あまりにも単純かつ卑近なためか、RPGではあまり見られない。『DQ4』のトルネコの特殊行動であり、以降のシリーズにも主に敵の技として「すなけむり」が登場してはいるが、同シリーズにおいては同効果を持つ幻惑呪文の「マヌーサ」の出番のほうが遥かに多い。

『ポケモン』において命中率変化の効果はかなり強力で、なおかつ場を離れるまで持続する。特に序盤ではライバルの使うポッポに苦しめられることが多い。味方として使う場合にはあまり役に立たない(捕獲狙いの長丁場で被弾を減らすために使う程度だろうか)ので忘れさせられがちな技であるが、通信対戦では回避率上昇と一長一短で使い出がある。

029 ずつき

やはり極めてシンプルな名前なので技名としては扱われにくい。『サガ』には登場するが、回数の少ない大技の割に大して強くないので印象に残りにくい。『FF5』『FF6』にも登場するようだがそれぞれ使い手は1体のみで調べるまで完全に忘れていた。

『ポケモン』においては怯みの効果がかなり強力なのだが、覚えるポケモンが全体的に鈍足なので効果を実感しづらい。

030 つのでつく

モンスターの部位を利用した基本攻撃シリーズ。やはり『サガ』に「つの」というモンスター技が存在。『FF5』『DQ6』などにも角を使った強化攻撃が存在するが、やはり敢えて技名にするまでもない場合が多いと思われる。

『ポケモン』においては中程度の威力の通常攻撃。ニドラン♂だけは非常に早い段階で使用できるので相対的に強力。

031 みだれづき

『サガ』には「3ぼんのつの」という強力な多段攻撃技が存在。また技名はなくとも、槍やレイピアなどによる連続攻撃はまさに乱れ突きのイメージだろう。既に「れんぞくパンチ」等で述べたように、連続攻撃技は当時のRPGの華であった。

「つのでつく」を覚えるポケモンはほぼ覚えられるが、何で突くかは特定していないので、クチバシを持つ鳥ポケモンなども覚えられる。本作における連続攻撃系の例に漏れず極めて弱く、使い勝手も最悪な技である。特にスピアーについては、同Lvでバタフリーが覚える「ねんりき」と比較してあまりにも情けない技として印象に残る。

032 つのドリル

角がドリル状に回転するというのモチーフがかなり異様だが、直接的にはウルトラ怪獣の「グビラ」がモチーフだと思われる。どういう構造かは不明だが、回転するドリル状の角を持っているのだ。

ゲーム上の効果として「貫かれて即死」というモチーフは限られている(ダメージの結果として死ぬならともかく、即死ありきの貫通攻撃が少ないという意味である)。とりあえず思いついた例は『ヘラクレスの栄光2』において、即死攻撃が「胸をえぐった」と表現されていたくらいである。その点では、同じ一撃必殺技である「ハサミギロチン(切断)」や「じわれ(落下)」と比べると独自色が強いと言える。

『ポケモン』においては、技マシンとして存在するので1本角を持つポケモンは大抵覚えられる。技マシンが早期入手可能かつ購入可能なので使いやすい。無策だと使い勝手は極めて悪いが、一撃必殺の成功判定と「ヨクアタール」の仕様さえ知っているのであれば非常に優秀な技である。

033 たいあたり

意外かも知れないが、『ポケモン』以外のRPGでは強力な技として扱われることが多い。『DQ』シリーズでは強烈な割合ダメージ(『DQ4』ではノーリスクだが敵専用かつ使用される状況が限定され、『DQ5』以降は自身も即死するか同等のダメージを受けるようになった)であり、『サガ』『FF』でも強力な物理攻撃とされている。

『ポケモン』においては最も基本的な攻撃手段として設定されているようで、主に爪や腕などを持たない形状の多くのポケモンが最初に使う技となっている。攻撃技としては最も多くのポケモンが習得可能。「はたく」や「ひっかく」に比べると単純に命中率で劣るだけで、褒めるところのない技である。むしろ手(前足)を器用に使いこなせるポケモンを優遇していると見るべきだろうか。

034 のしかかり

RPGの技としてはシンプルすぎるためかほぼ見ない。思いつく例としては『DQ5』に「ぷくーっと ふくれあがって のしかかった!」攻撃があるが、固有の効果はなく単なる強化攻撃である(通常攻撃の1.25倍の物理攻撃)。

『ポケモン』においては、地味な名前とは裏腹に非常に優秀。威力・命中・追加効果ともに隙がなく、単純に命中100かつデメリットの無いノーマル技としては最強である。特にタイプ一致で使えるノーマルタイプのポケモンが使うと強力で、攻略本等では初期から優秀な技としておすすめされてきた。技マシンが落ちているのが期間限定ダンジョンであるサントアンヌ号というのがポイントで、取り逃したことに後で気づいて悔しい思いをしたプレイヤーもいるのではないだろうか。

035 まきつく

しめつける」の命中率が向上した上位互換。詳細な説明はそちらに譲る。なぜ別の技として設定されているのかがよくわからない技である。番号が前後の技と名前を比較すると「しめつける」が触手による拘束で、「まきつく」が自身の体を使った拘束のような雰囲気だが、実際に使用者を見比べるとそのような差別化は見られない。開発中に名前の入れ替えなどが行われた可能性はある。

036 とっしん

強化物理攻撃として『DQ5』『FF5』などで見られるのだが、シンプル過ぎる故に印象に残りづらい。主に角があったり、四足歩行の獣系モンスターがよく使用する技である。

『ポケモン』においては、敵に与えたダメージの一定割合を自分が受ける。実はこのような「与ダメージに対する割合反動ダメージ」という例は意外に少なく、有名なのは『DQ』シリーズの武器「もろはのつるぎ」や、それを再現した特技「もろはぎり」くらいである。多くのRPGでは味方より敵のほうがHPが高く設定され、それゆえに「相手に与えるダメージ量」は味方側のほうが高くなりがちなので、ダメージに比例して反動を受けるのは割に合わなかったり爽快感を損なったりするのだ。いずれもペナルティが重く、あまり有用な攻撃手段とは見做されていない。『ポケモン』においては対等な条件で戦う機会が多いとは言え、威力が中途半端な上に戦闘のたびにダメージを受けるのはかなり煩わしく、よほど技に恵まれないポケモンでも無い限りはあまり使う気にならない技である。

037 あばれる

具体的な攻撃手段が想像しにくいので技の名前にはなりにくい。一応『FF6』において敵側の強化攻撃として存在しているようだが、同作においてはそれ以上に、パーティメンバーの一員である野生児ガウの固有アビリティの名前となっていることに触れるべきだろう。「モンスターになりきって戦う(行動テーブルや耐性データがそのモンスターのものになる)」という極めて個性的な効果。習得には収集要素があり、ポケモン(あるいはその後の類似RPG)に与えた影響も小さくないと思われる。以前ブログで書いた「RPGにおける仲間モンスターシステムの系譜」という記事も参照して欲しい。

『ポケモン』における「数ターン強攻撃を繰り返した後に混乱する」という効果は他のRPGでは思いつかない。単独の技というよりはモンスターの行動パターンとして似たような例が無いと言えなくもない(特に『FF4』以降における、アクティブタイムバトル(ATB)のチュートリアルを兼ねた序盤のボス戦が似ている)が、本作ではそれほど強いわけでもない上に目立つ敵が使うわけでもないので影響はなさそうである。味方が使う場合はPP1回分で複数回攻撃できる(かつこの技のPP自体もかなり多い)のは攻略上の強みで、攻略本でも評価されていたことがある。

038 すてみタックル

『すてみ』のほうは『DQ6』に同名の特技がある。通常の2倍の物理ダメージを与えるが、そのターンに受けるあらゆるダメージが倍増するというもの。しかしダメージを受けなければ(攻撃の対象にならない、あるいはこの一撃で戦闘が終わる)無視できるリスクなので、強化倍率も相まって優秀な特技とされる。一方で『タックル』というのはあまり例がない。ラグビーやレスリングの印象が強く、RPGの雰囲気に馴染みにくいのである。一応『FF5』において強化攻撃として存在しているのだが。

『ポケモン』においては「とっしん」の上位技として登場。シナリオ攻略では使いづらいが、通信対戦においては採用に値する性能である。とはいえ威力100程度ではあまり魅力もなく、実際に積極的に採用されていたという話はあまり聞かない。

039 しっぽをふる

攻撃手段として「尻尾」を使うことはあっても、「尻尾を振ることで相手を弱体化させる」という発想はちょっと思いつかない。そもそも『ポケモン』においても「尻尾を振ると防御力が下がる」というのがどういう原理なのか説明不足である。後のシリーズでは「尻尾を振って油断させる」という説明がついているが、直近のターンはともかく相手が場を離れるまでずっと継続する効果の理由付けとしてはかなり強引である。結局の所、「超常的な力に依らない能力低下」というフレーバーとして、多くのポケモンが使用できる技を苦し紛れに思いついたのではないだろうか。

『ポケモン』においては名前からイメージしにくい効果である上に、効果自体も極めて地味であり、恐らく真っ先に忘れさせられる候補だと思われる。

040 どくばり

蜂を始めとする毒虫の攻撃手段として連想できる、最も基本的な毒属性の攻撃手段。国産RPGとしては『DQ3』以降に登場する武器の「どくばり」の「必中の1ダメージを与え、稀に即死させる」という効果が非常に有名(カプコンのAC版『D&D』のスライシングダガーのように、類似効果を指して毒針と呼んだりする→どぐち屋による参考情報)だが、それとは無関係に単純な毒攻撃としても頻出する。一般的には毒属性のダメージだったり、対象を毒状態にしたり、あるいはその複合のいずれかである。

『ポケモン』においても、毒タイプのダメージかつ高確率で毒に冒すというイメージ通りの効果となっている。序盤においてはビードルとキャタピーの違い、フシギダネが毒タイプを持つことの優位といったように、タイプの影響を真っ先に体感できるギミックとして用いられている。味方が使う技としては「少しずつ弱らせる」「毒状態にする」という点を以て「捕獲に便利な技」という位置付けであり、地味ながらも本作のゲームシステムの味付けに貢献している、縁の下の力持ちのような技である。

041 ダブルニードル

前後の技を見る限り針系攻撃の中間的な存在だが、なぜかスピアー限定である。逆にスピアーのデザインに合わせて名称や効果を調整したのかも知れない。ポケモン以前に「ダブルニードル」という名称を見た覚えは無いが、「ダブル〇〇」という名称についてはダブルハーケンやダブルトマホーク(両者ともダイナミックプロのロボット漫画及びアニメに由来し、『FF3』の斧の名前にも借用されている)あたりをイメージしたのかも知れない。とはいえ、ダブルという接頭語自体が極めて一般的なので特に意識はしていない可能性も高い。

初代においては唯一まともに使える虫タイプの技として知られる。金銀以降と異なり毒タイプにも抜群になるため技の通りがよく、スピアーが中盤以降で意外と活躍できてしまう理由である。技性能や習得者に問題があるだけで、初代における攻撃属性としての虫タイプは非常に優秀なのだ。それだけに、後のシザークロス相当の汎用技が存在しないことが惜しまれる。

042 ミサイルばり

日本人の感覚では「ミサイル」とは誘導兵器を指すが、本来は単に「飛び道具」の意味である。ファンタジーRPGでも当たり前のように兵器としてのミサイルを飛ばすこともあれば(『FF5』等)、本来の意味どおりに投擲物一般を指す場合もある(『ロマサガ2』の「ミサイルガード」等)。『ポケモン』においても命中率の低さから後者の意味かも知れない。余談ながら「ノストラダムスの大予言」においても「ミサイル(を意味するフランス語?)」という単語が登場するらしく、解説本において「ノストラダムスは当時からミサイルという現代兵器を知っていた!」という噴飯ものの記述を読んだ覚えがある。

RPGにおいて「多数の針を飛ばす攻撃」としては、伝承のマンティコアを再現(例によって『AD&D』からの孫引きなのだろうが)した『FF1』の「どくばり」等の例がある。こちらは直接ダメージを与えずに相手全体を毒状態にする技である。ファミコン版だと尻尾の毒針を振り回す攻撃とも解釈できるが、ワンダースワンにおけるリメイク以降は「無数の針を飛ばす技」として描写されている。

『ポケモン』における連続攻撃系の例に漏れずダブルニードルと比較して著しく使い勝手が悪い技だが、サンダースにとっては唯一の虫タイプ技であり、弱点を二重に突きやすい対草のサブウェポンとしてシナリオ攻略・通信対戦ともに実用的な性能である。

043 にらみつける

数々の神話や伝承には対象を「にらむ」ことによって動きを封じたり死に至らしめる存在が語られている。そもそも古来から「見る」という行為そのものに呪術的な力があると信じられ、世界的には今なお「邪視」が恐れられている地域があったり、現代日本においても神社の御神体を見ることは禁忌とされている。RPGにおいても石化や即死といった重篤な効果を引き起こす能力として「にらみ」は頻出する。『FF1』においては『AD&D』のビホルダーを再現するために、石化・麻痺・ダメージ・即死・次元追放(挙動は即死だが属性が異なる)という5種類ものにらみが用意され、以降のシリーズでも頻出する(「せきかにらみ」のように名称で区別できる場合もある)。

『ポケモン』における効果については、おそらく「しっぽをふる」と同じように、超常的な力によらない能力低下の小技としてのネーミングだと思われる。ただし初代におけるこの技の扱いについては不審な点が多く見られる。別途「初代ポケモン「にらみつける」の謎」としてまとめているので参考までに。

044 かみつく

獣などによる口を使った攻撃手段としてはごく自然な発想で、『DQ』『FF』の各作において強化物理攻撃の名称として用いられる。『ポケモン』のようなスタン(怯み)効果がある技としての例は未見。変わったところでは『FF6』に「がんめんかみつき」という技があり、ダメージは与えずに視力を奪う。一方で人間の技としてはプロレスにおける典型的な反則技、すなわち悪役(ヒール)のための技として知られる(金銀で悪タイプに変更された理由の一つだと考えられる)。このようなフレーバーはRPGで再現されることは少ないものの、『ライブ・ア・ライブ』においてルチャ・リブレのレスラーであるグレート・エイジャが嫌というほど使ってくる(技のラーニングや隠しイベント発生のために耐え続けなければならない)ので印象に残りやすい。こちらは毒や能力低下をもたらす。

『ポケモン』においては使い勝手のいい中堅技。「のしかかり」などのより強力な技を覚えさせない限り、最後まで残していた人も多いだろう。なお、本作の時点では怯みの確率は1割なので追加効果の存在感はほとんどない。

045 なきごえ

既に「しっぽをふる」で述べたように「魔法的な手段によらない汎用デバフ」として用意されたと思われる技の一つ。使用者社によってかわいい鳴き声にも恐ろしい咆哮にもなりうる。ゲーム上の演出としては、実際に使ったポケモンの鳴き声が効果音として流れるのが特徴的で、全種族に固有の鳴き声を設定したこだわりとも合わせて非常に『ポケモン』らしい技と言える。

046 ほえる

上記の「なきごえ」に対して、より恐ろしい咆哮で恐怖心を抱かせる技。強制逃走の効果自体はありふれているが、風などによる物理的な追放が多く、恐怖心に訴えるような例は割と少ない(『FF』の魔法「フィアー」など、ないわけではない)。効果の由来が心理効果であると明言してしまうと、耐性データとモンスターの性質との整合性などがややこしくなるためだろうか。

ゲームでは積極的にこれを使用する理由はあまりない。素早さが相手以上ならば必ず逃げられるというシステムがある上に、この技自体が確実に成功するわけではない(確か命中判定にレベルが絡む特殊なものだったはず)ので、相手が強かろうが弱かろうが普通に「にげる」ほうが手っ取り早い。どちらかといえば敵が使用することで「捕獲を邪魔する」効果として用意されたものだと思われる。なお金銀以降で技マシンとして定番化するが、本作においてはガーディとロコンの系統が自力で覚えるのみである。

047 うたう

「子守唄」のイメージから、歌によって眠らせるというのは自然な発想。『FF4』等でも「うたう」アビリティで発動する効果として子守唄が登場している。ただし厳密なフレーバー的な観点(例えば呪文と一緒に沈黙で封じられるのかとか、精神を持たない類の敵にも有効なのか等)を突かれるとやや微妙なためか、具体的に「歌で眠らせる」例はさほど多くない。

『ポケモン』においては、プリンを始めとする経験値80万グループやラプラスが使う。数ある眠らせ技の中でも命中率が最低なのだが、イベント(ニビのポケセン)・戦闘のそれぞれに専用MEが用意されていたりして妙に優遇されている。

048 ちょうおんぱ

本来は人間の耳では聞こえない音のことなので、その存在が認知されたのは近代以降のはずであり、ファンタジーRPGではあまり見かけない。どちらかといえば特撮における怪獣の得意技としてのイメージだと思われる。例えばバタフリーが覚えるのは「モスラ」に直接由来するだろう。

怪獣の場合は破壊手段である場合が多いが、ポケモンでは混乱させるだけという大人しい効果。命中率の低さもあり、専ら敵CPに使わせる前提の調整であるように思える。

049 ソニックブーム

既に述べたように、フィクションにおいてはかまいたちと混同されることも多いので、詳しいことはそちらを参照。

『ポケモン』においては申し訳程度の音波系エフェクトが付いていたり、覚えるのが機械っぽいコイルやビリリダマに限られていたり、肝心の効果が固定ダメージだったりと個性的な部分が目立つ(余談だが、音波属性が定義された第三世代以降においても、なぜか音波技としては見做されない)。固定ダメージというのは本作において捕獲に有用なのだが、ダメージ数値が直接見られないシステムのため気づきにくく、単に弱くて命中率も低い技として早々に忘れさせてしまいやすい。かといって仕様を知っているならば、より効率的に弱らせる手段も当然知っているわけで、結局ソニックブーム自体は使われないのが惜しい。

050 かなしばり

一般的には「脳は起きているが体が眠っている」ために「意識があるのに動けない」という状態を意味する。多くの人にとって身近な神秘(風)体験であるため、心霊現象やら呪術的な要因が想像されることも多かった。技としては「不動金縛り」として法術や忍術として登場することもあるが、実例は思ったより少ない模様。FF4でエッジの忍術にあるのはよく似た名前の「かげしばり」である。

『ポケモン』においては単純に動きを縛るわけではなく、「技のうち1つを使用不可能にする」という独特な効果。最初に敵から食らったときは面食らった人も多いと思われる。ただし命中率は低い上に封じる技を指定できるわけでもない(ちなみに初代において対象は完全ランダムである)。使い勝手は極めて悪く、早々に忘れさせることになるであろう技。

全くの余談だが、「いかり」状態の相手に使用すると、なぜかダメージ技を受けた時と同じリアクション(怒りのボルテージ上昇)が発生する。開発中は別の効果を当てはめていた名残なのかも知れない。

051 ようかいえき

フレーバーとしては『サガ』シリーズの「とかす」に近いが、あちらはスライムの基本攻撃で「相手を溶かしてHPを吸収する」という効果である。『ポケモン』における防御ダウンの追加効果のように、「装甲を溶かして防御力を下げる」という効果は多そうであまり見かけない。D&Dには「ラストモンスター(サビの怪物)」という、装備品などの金属製品を錆びさせて破壊するモンスターがいるが、間接的な能力低下よりもアイテム破壊自体が強烈な効果である。

『ポケモン』においては毒タイプの基本攻撃のような扱いだが、覚えるポケモンが少なく、相性的にも有効範囲も狭いことからことからゲーム内ではあまり使う機会がない。ナゾノクサやマダツボミは草タイプの技で格上を狩ったほうが手っ取り早く、アーボは覚えるタイミングが遅すぎるのでハナダの洞窟でパラセクトを狩る時くらいしか使わないような気がする。

052 ひのこ

「火の粉」という名前を攻撃技にするという発想はポケモン以前では見たことがない。イメージ的には最下位の炎技といったところだろうが、初プレイ時に新鮮な印象を覚えた技の一つである。

ゲーム内においては炎タイプの基本攻撃のような扱いで、習得も早いことから使う機会も多い。というか次の技までが長すぎたり、ポニータ系統に至っては自力で覚える唯一のタイプ一致技であることもあり、長期間にわたって使わざるを得ない技である。

053 かえんほうしゃ

「火炎放射」という名称は兵器(火炎放射器)、あるいは怪獣映画のイメージが強すぎるので、正統派のファンタジーではあまり見かけない名称ではある。『FF5』においては青魔法として登場しているが、同じ青魔法である「ミサイル」のように、主に機械系モンスターから覚える色物的な技という扱いである。

『ポケモン』においては極めて使い勝手の良い技である。威力と命中率が同じ「なみのり」「10まんボルト」と比較すると、自力でしか覚えられないために炎タイプでないポケモンは誰も覚えられない上、当の炎タイプですら覚えられない例もある(ポニータ系統、ファイヤー)。通信対戦では追加効果の発動率が高い「だいもんじ」のほうが有用な場面が多いのだが、通常プレイの範疇ではこれを覚えられないというだけで不遇な印象を抱くのも無理はない。

054 しろいきり

「白い霧」という名称も、「能力変化を防ぐ」という効果も、当時の他のRPGでは見慣れない。対義語(?)である「黒い霧」のように他で使われることもない(というか普通の霧は白いので、わざわざ「白い霧」なんて呼ばない)ので、割と独自性の強い語感かも知れない。

ゲーム内では、ただでさえニッチな効果に加え、攻撃技の追加効果による能力低下は防げないという欠陥により非常に使い勝手が悪い。しかしゲーム内のメッセージでは「白い霧に包まれた!」とだけ表示され、具体的な効果が一切わからないものの、フリーザーやミュウツーが覚えるレアな技なので、よくわからないが覚えさせたままにしていたプレイヤーは多いかも知れない。

055 みずでっぽう

「水鉄砲」という用語は子供向けの玩具のイメージが強い(実際、『DQ3』では玩具として登場する)のだが、『サガ』のようにRPGにおいて攻撃技の名称として使われた例がないわけでもない。イメージがわかりやすいので妥当なネーミングだろう。

『ポケモン』においては水タイプの基本攻撃のような扱い。「なみのり」の秘伝マシンを手に入れるまでは使用する機会も多い。技マシンにもなっていることを後世代から始めたプレイヤーから突っ込まれることもあるが、拾えるオツキミ山はもちろん以降にも頻出する岩・地面タイプに対する必殺技になったり、PP不足のポケモン(フリーザーやミュウツー等)にとっては雑魚狩り用の技になったり、意外と技マシンの利用価値は高い。「なみのり」を覚えられなくてもこちらなら覚えられるポケモンもいるのだ。

056 ハイドロポンプ

初見でモダンな印象を受けた技名である。ギリシャ語で水を意味する「hydor」は、同じ語源である「ヒドラ(ハイドラ/ヒュドラ)」というモンスター名としてはRPGで頻出するものの、「水」そのものを意味する単語として登場する例はあまり見たことがなかった。似たような名前は『メタルマックス』におけるアイテム「ハイドロポット(雨を降らせる効果)」くらいしか思いつかない。

『ポケモン』では水タイプの最強技なのだが、追加効果がない上にPPも命中率も低い。「なみのり」と比べると敢えてこちらを残すような価値も見出しにくい(一応、通信対戦では一撃の威力が重視される場面も少なくないのだが)。そのため、攻略本を読んだプレイヤーのほとんどは他の技を優先したと思われる。ただしシードラのように、技の選択肢が極端に少ない場合は採用されやすい。

057 なみのり

津波など、波を起こして攻撃するという発想は一般的だが、「なみのり」という名称は他に例がない。もちろん、秘伝技として「水上を移動する」という手段を兼ねている故のネーミングなのだろうが、波を操る技を攻撃にも移動にも活用するという発想は非常にセンスが溢れている。

ゲームにおいては、秘伝マシンさえ入手してしまえばいくらでも覚えられるにも関わらず、威力・命中・PPのバランスが極めて優れた優秀な技である。これを覚えられるだけで即戦力になり、パワーレベリングも可能になるという、ゲーム中盤以降における水タイプの強さを印象づける技である。当時行われていたカジュアルな通信対戦(周回プレイなどを前提としない)において、炎や地面タイプが過小評価されたのはこの技の存在に他ならない。

086 でんじは

電磁波に限らず電気による力で麻痺させるという技は、実はあまり思いつかない。麻痺は精神や神経的な作用としてのフレーバーが与えられている事がほとんどである。ただし『ポケモン』における麻痺の効果の一つである「素早さ低下」に着目すると、『サガ』の「でんげき」の効果(ダメージを与えずに素早さだけを下げる)が『ポケモン』の「でんじは」に近く、直接の発想元かも知れない。

『ポケモン』において、地面タイプで無効化されるという変化技としては他に例のない無効化条件を持つものの、命中率が高いので信頼性のある技。行動を完全に抑制できるわけではないが永続するので、捕獲においても眠りよりこちらを愛用する人もいるだろう。戦闘においても、麻痺による行動制限のみならず素早さの激減(1/4)は通信対戦でも有用である。麻痺の効果自体が一般的なRPG(完全に行動を封じる場合が多い)と比べて弱めなので期待外れに感じた人も少なくないだろうが、効果自体は様々な場面で有用な技である。

104 かげぶんしん

忍者の使う「分身の術」。今でこそ古典的な趣だが、起源としては意外に新しく、白土三平の漫画であるらしい。本来は高速で移動と静止を繰り返すことで分身しているように見せかける技のようだが、後年のフィクションでは幻術だったり自律型の分身だったりと様々な描かれ方をする。なお「影分身は通常の分身とは異なり、実体のある分身を作り出す」という設定は、おそらく漫画『NARUTO』独自のもので『ポケモン』以後のイメージである。『サガ』においては「かげぶんしん」が自身の素早さを上昇させる技として登場。この場合は単に行動速度を高めるだけでなく、一部の武器の命中率やダメージを増幅するので重ねがけが強力。

ついでに説明するが、『FF』シリーズにおいては4以降に特殊状態としての「分身」が登場。ブリンクの魔法や、忍術の分身によって生み出す。分身が出ている場合、物理攻撃を確実に無効化できる(分身が身代わりになって消える)という効果であり、ポケモンの「みがわり」に近い。余談ながら元々『FF1』における「ブリンク」は『AD&D』からの借用で、本来は分身と言うよりも「実体化と非実体化を繰り返すことで攻撃に当たりにくくなる」的なフレーバーである。

『ポケモン』においては単純に回避率を高める技だが、ほとんどのポケモンが覚えられる上に重ねがけも可能、回避率を無視する手段も非常に限られる(「がまん」「カウンター」程度)ことから強力な補助技である。さらに通信対戦以外では、使用するたびにバッジの効果が累積発動するというバグとも仕様とも判別しづらい効果があるために余計に凶悪になっており、これがあるだけで相当のゴリ押しも可能にしてしまう。


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